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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第七章 サムニウムの後始末
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発現

マノクの集落の南側に広がる荒れ地、右手はサカエの里へと続く丘陵へと連なる。荒れ地から続く土質のせいか木は生えておらず、短い草や花々が点々としているその丘の上から、コンコードの兵士達は雄たけびを上げて駆け下りた。


そのあと、潜伏スキルを纏いバンドー・ユメ・アンの3人はあきれ顔でその様子を眺めている。


「何なの、あいつら? 」


「あそこまで猪突するとはな。脳筋はマノクの方じゃなかったのか? 」


「ええやんか、手間が省けて~ 」

 

今回の3人の役目は後方に位置し、コンコードが戦場から離脱しようとする際には押しとどめ、場合によっては捕虜にしてしまうつもりだったのだが。


木々が無いせいで、丘陵のてっぺん辺りは風通しがよく、ここが戦場でさえなければ膝を抱えて景色を眺めながらくつろぎたいところ。


不意に、銀色の妖精が現れると、潜伏スキルを纏う3人の頭にキスをして回る。一体、何処から現れたのか小柄なエルフの少女が目の前にいて、右手の人差し指を唇に当てている。


「敵?! 」


刀を抜きかけたアンを手で制し、バンドーが少女に歩み寄った。


「これを…… 」


少女は古びた丸い鏡を手にしていた。染み入るような裏面の青、楔形の文様が見て取れる。それを躊躇なくバンドーに手渡すと、人懐っこい笑みを浮かべる。


「あなたがバンドー様なのね? お父様の言っていた、腰抜けバンドー様?! 」


「なっ? 」


「バンドー様、今から起こる事をよく見ていてくださいね? そして、今までの腰抜けぶりを悔いてください! ……と、お父様が申しておりました」


それでは、と少女は駆けて行く。バンドーの口はいつもの半開きである。


「なんだあいつは? 」


風に乗るように、少女は丘陵を駆け下りていく。コンコードの軍も、もはや集落の中に突入している。


「あっ? 」


しばらく呆気に取られていたバンドーだったが、不意にヘルミットの言葉を思い出す。


『タウリの里は深い森に囲まれていて、そこにも妖精が、あれは恐らく、エターナル・ハイエルフの固有魔法、つい気を許して…… 』


「くっ…… 」


不意にバンドーは走り出す。潜伏スキルは使わない。どころか、飛足を発動させる事すら忘れていた。その後を追って、ユメもアンも走り出す。


タンタンタンタンダンダンダンッ!


銃声が、谷に木霊するように聞こえる。イルミダの銃隊だ。沸き上がる兵士達の悲鳴と怒号。


「くっそ、何処だ? 」


先程のエルフを探して、バンドーの視線は目まぐるしく動く。柵の中にいるのか、周囲の建物に隠れているのか、見つける事が出来ない。


「ケインにい? 」


もはや戦況など見ていない。言うまでもない、この戦闘は圧勝だ。本当にそうか? 


「あっ……いた? 」


ようやく見つけた青磁色の髪をもつ小柄なエルフ。その後ろ姿はしかし、瞬くように何度か、ぶれると別の者へと形を変えていく。


青磁色の腰まであった髪の毛が短くなり、肩までの亜麻色の髪の毛に。

現れた長耳は見る間に短く、それは13歳の少女そのものであった。


「イルミダお姉さま、来てくれたのですね? 」


「マ、キホ…… 」


イルミダとマキホは周囲を気にする風もなく抱き合い、頬をくっつけあって再会を喜んでいる。その二人の姿に、バンドーもアンもユメも手を出すことなどできなかった。


(どういうことだ、あれがマキホなのか?! )


一体何が起こっているのか判らない。だがその先の展開は、バンドーの予想を更に越えていた。


一発の銃声が響き渡り、イルミダの右手に握られていたツインズパイソンが、抱きしめていたマキホの後頭部を撃ち抜いた。一瞬の静寂、そしてマキホはその場に崩れ落ちる。マキホは薄れゆく意識の中で、懸命に保っていた。


『よくやったな、ラケシスよ! 』


お父様の声が聞こえる。


(ああ……でももう駄目。イルミダお姉さま、早く…… )


マキホの輪郭が、ぶれつつある。だが、それ以上にイルミダの輪郭も、ぶれていた。


(……早く私を()()()()()()()! )


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ?! 」


数瞬の間をおいてイルミダの悲鳴が響き渡る。彼女の身体を基点に、銀色の光が明滅している。


ネクストステージ・イルミタニアからサードステージ・シャンドラに至る道程、その為に得なければならないスキルを卒業リンカースキルと言い、『魔力分解』『魔力組成』『魔力融合』の3つが密かに知られている。そして、それぞれのスキルを得るためには、各々別々の習得条件が設定されていた。


『魔力分解』そのスキルの発現条件は、規定の魔力を保持しているか、あるいは高位の魔力スキルを複数所持している事。そして今一つは、近しく親しい肉親を自らの手で殺める事。


「あっあっああああああああ?! 」


自分のしたことが信じられない。何故、私はマキホをこの手で撃ったのだ?


「何故? どうして?! 」


イルミダが所持する高位の魔力スキルのいくつかが溶け、やがて彼女の身体に『魔力分解』スキルが宿る。それはバンドーが持つ『魔力分解』の更に上をいく。


バンドーのそれは()()()なのだ。


本来、望みさえすれば、イルミタニアに存在する全てのものを分解可能。だが、発現した事すら自覚していないイルミダにとって、今は感情が全てに優先される。


「……どうして……? 」


ヴヴヴヴヴ


イルミダの腕の中で、その生を終えようとしていたマキホ。


だが、無意識に発動したイルミダの『魔力分解』が、その身体を砂のように消し去る。唯一、マキホの左手薬指に嵌められていた漆黒の指輪だけをその場に残して。


腕の中の重さが消えた。


「えっ、えっ……? 」


イルミダは、理解できない事の連続に慟哭する。


「あ、あっ、あああぁぁああああ?! 」


この場にいる誰もが理解できていない。いや、唯一バンドーだけがイルミダの身体から発する光に反応していた。


「同じ……? 」


イルミダに一体何が起こったのかは理解できないが、彼女の発する光をバンドーは見た事がある。言うまでもなく、自分が使うスキルの光であった。


「マキホ、何処? 私は一体何をしたの? 誰か答えて! 」


膝を付いていたイルミダはふらつきながら立ち上がり、近くの家屋に寄り掛かる。


「答えて?! 」


感情の激発と共にスキルが再発動し、彼女が寄りかかっていたものが崩れる。


「何よ、これは?! 」


周囲にいた者達が一斉に退く。皆、悲鳴をあげて逃げ出している。


「ちっ! 」


何が起こっているかは理解できない。だが、恐らくあれは魔力の光なのだろう。咄嗟に、バンドーは魔力分解を発動させると、イルミダに組み付いた。


「触らないで! 」


イルミダのスキルが発動する。バンドーの身体中の細胞が震える。意識が飛びそうになる。一瞬、視界が暗転する。


「なっ、あああ?! 」


二人が触れ合い、イルミダの身体が光ると同時にスキル同士の共振が起こるとバンドーは5メートルほども吹き飛ばされ、転がされる。


(魔力分解が効かねぇ? くそっ)


いけない、このままでは手の付けようがない。どころか、集落が人が無秩序に分解されてしまう。バンドーは、叩きつけられて意識が飛びそうになりながら頭を振るい、考えを巡らす。


『指輪を使え』


バンドーの頭の中で不意に声が聞こえた。


「えっ? あっ」


膝のポケットにいつも入れている『スキル封じの指輪』、だが果たしてこれをどうやって渡す? 迷っても仕方が無い、手段は限られている。 


「イルミダぁ! こっちを向け! 」


バンドーは声を限りに叫ぶとイルミダの側に寄る。


「俺はお前を助けてやると言った、守ってやると。だから…… 」


その先は何も言わず、バンドーはイルミダに指輪を差し出す。



嵐はようやくおさまった。







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