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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第七章 サムニウムの後始末
100/134

どういうことだよ?!

数えてみれば100話目でした。

もしもここまで読んでくださった方がいましたら。

ありがとうございます。正直、ここまで自分の書きたい話ばかり書いてきました。

本当に好きに書いてきました。そんな文章におつきあいして頂ける人がいたとしたら、うれしい限りです。

バンドーは戦士クラスである、公式には。レイ教授との約束で月に一度、魔法ギルドで能力鑑定を行っているが、魔法ギルドのギルドマスターであるリーインシャ・コーネリアスの目の前で吐き出される魔法紙にはいつもクラス戦士と表示される。これに関しては、バンドーも失敗したなと思っていた。


戦士クラスで習得して、実際に役に立っているのは補助スキルの気配感知と低レベルの潜伏ハイドくらいであったし、素手の戦闘を常とするゼノ式であるが故に剣術も剣技も取らなかった。もしもカタリナに騎士として任命される事を知っていたのなら、また違った対応もあったろうが。


スキルの魔力分解が、魔法で攻撃してくるデスパレスの魔物にフィットし過ぎていてゼノ式と合わせれば取る必要が無かったというべきかもしれない。それより何より、今思っている事は


「俺も盗賊スキル取っとけばよかったな~」


という事であった。


「ご主人様、アン様から以心伝心テレメトリメッセージです。40人と1人だそうです」


「1人ってなんだよ? 」


「恐らく指揮官クラスかと…… 」


「ふーん、そいつは欲しいな」


「方針に変更はありませんね? 」


「指揮官クラスは捕えたい。イルミダの妹の情報がそろそろ、欲しいからな。それと後方のユメに伝言頼む。この戦いが終わったら、撤収する敵の後をつけて偵察に出てくれと」


「了解しました」


昨夜の話しぶりだと、ヘルミットは100人程度までなら相手にできるらしい。なので問題は無いと思うが、敵の兵士の質にもよるだろう。


「危なくなったら、アンを呼ぶんだぞ? アンの位置からだと敵の後ろをとれる。まあ、俺も状況次第で出るが」


バンドーが直接戦わない理由は、一度とは言えサムニウム族が周知の中でオンゴロと戦っているからだった。顔ばれすれば、王国の介入を疑われる可能性もあるので、できるだけ遅らせたい。


「お心遣い、ありがとうございます」


ヘルミットは優雅に礼をする。それを見て、バンドーは左腕に装着している『双頭蛇ケーリュケイオン』のアンカーを伸ばすと石造りのアインの家の屋根に飛び上がり伏せた。


今日のヘルミットは、ゲートでここに現れた時と変わらず、黒と白の袴姿。袖は黒い編み紐で上に吊り上げられていて、腕を振るいやすくしている。下半身はと言うと、これも膝小僧が出る位に、編み紐で捲り上げられていて、すらりと長い両脚があらわになっていた。両手のひじにはいくつもの銀色の腕輪が嵌められているのがちらりと見える。得物である両端に両刃を持つ槍、通称名”ブリオナ”は、両端がしまい込まれて背中に装着されていた。そして、昨日アンがそうだったように、それらの装備は薄茶色のマントで隠されている。


程なくヘルミットの眼前に現れた2個中隊40名の兵士達であったが、昨日の事もありさすがに警戒しているようだ。荒れ地に立っているヘルミットを認めるや否や、距離をとって様子をうかがっている。やがて、後方から白い肩当てをつけた指揮官らしき男が前に出てきた。


「この私が、隠れる事もなく堂々と敵の前に姿をさらすとは、あれ以来の屈辱だな。まあ、ご主人様を恨むのは筋違いだが」


あれとは初めてバンドーと対戦した時の事である。アルシャンドラに魅了チャームを受けていたものの、あの戦闘は実は覚えている。


「失礼、わたしは『前世回帰パーシィルメイ』の若衆がひとり、名前をセノと言う。あなたのお名前をうかがいたい! 」


そう言いながら、セノに真意は無い。きっかけは何でもいいのだ、会話さえ続けば。昨日出た兵士の一人を連れて来ていたのだが、昨日とは違う女だと言う。


「何故、名乗らなければならないのかしら? 」


そう言いながら、すでにヘルミットは歩み始めている。ゆっくりと、確実に白い肩当てをしている男に近づく。


「君の雇い主、もしくは主人と交渉をしたい! ここに来た理由、そして行方不明になっている我々の徴税官の行方を知りたいのだ! 」


ヘルミットは歩みを止めた。眉を寄せ、比較的大声で繰り返す。


「私のご主人様と、交渉をしたいのですか?! 」


ヘルミットが声をあげたのは、バンドーに聞かせるため。方針の変更があった時の為である。


「……ないようですね? それでは 」


少しの間をおいて、彼女は小さくつぶやくと両手のひじに嵌めているいくつもの銀色の輪から二つを抜き取ると、両手の人差し指でひとつずつくるくると回す。


「『円刃殺エメラッシャ』 」


言うなり、ヘルミットは腕を交差する。放たれた二つの銀色の輪は右回りと左回りの軌道を描いて、セノと名乗る男の側面から皮鎧の隙間をついて両膝を穿った。


似たような武器をアンも使うが、こちらは投擲武器である。インドのチャクラムに似ているが、もっと薄くて小さい。


「 あああっ?! 」


セノが声にならない悲鳴を上げている。これでこの戦闘中は立ち上がる事すらできないだろう。


ヘルミットは走っている。40人の兵士達は一塊になっていて、ようやく事態に気付いて展開しようとしている。


「少数を相手に、囲みもしないとは」


ヘルミットは、兵士達の一群の側面へ側面へと走ると背中のブリオナに手を掛ける。


盾兵が横隊を取って広がりながら展開するが、盾が重くて鈍重だ。それのさらに外側に、槍兵が広がっていき、ヘルミットを囲もうとしている。そして更に奥に、昨日は見なかった10名ほどの射手がいた。


「少しやっかいでしょうか? 」


両端両刃のブリオナを展開して刃を出すと、また片腕から銀の輪を何枚か抜き、今度は上空に投げ上げると、ブリオナの先に引っ掛けてくるくる回す。


「 お行きなさい! 」


地面すれすれから、上空に向かってブリオナが振られる。その先から、光の反射を受けながら銀色の輪が複数、飛び出して行き、上空で急角度でUターンすると後方の射手達に殺到した。その戦果を確認もせずに、自分の前に立ちふさがりつつある槍兵達を見るとくるりとその場でターンし、ブリオナを器用に操り、片足を上げては下ろし、袴の袖を振るっては1回転し、華麗に舞い踊った。


「な、……なにを? 」


呆気にとられたサムニウムの兵士達。槍で突く事も忘れたが、一瞬の事である。


やがてヘルミットはブリオナを胸にそえ、一礼して頭を上げる。


「前座は終わりました。さて、『来世シャンドラに祝福を、前世パーシィをお望みかしら?』」


ヘルミットの口元には奇妙な笑みが張り付いている。うれしくてたまらないという風に。


「始めましょう」


その言葉と共に、ブリオナの両端両刃がさらに伸びる。恐怖にかられた槍兵達が繰り出した槍は、何故かことごとくヘルミットの横を抜けた。


殺戮が始まった。ヘルミットがブリオナを振るう度に腕や脚がちぎれ飛ぶ。おかしな事に悲鳴は無い。最初の内だけは。


辺りには、伽羅に似たよい香りが漂っている。


ヘルミットが側面に回り込むように見えたのは、実は風上に立つためだった。もちろん、タウリの秘香を有効的に使うためである。舞を舞いながら、更に袖から秘香をばらまいてもいた。気付かず、サムニウム兵達は痛覚と距離感を麻痺させられている。


「あっ? あああああ? 」


「な、なんでー?! 」


最初は切られた事を自覚してなかったが故に、あがらなかった悲鳴が各所であがる。必死で振るう槍も何故かヘルミットには当たらない。彼女は敵兵士の中で舞いながら戦闘を続け、さらに麻痺香なども交えていく。


盾兵と槍兵の集団の中央を割り、何人か健在だった射手達に一直線に向かうと、彼らは弓を放り出して遁走し始めた。それを確認し、先程駆け抜けた兵士達を振り返る。


「まあ、こんなものでしょう」


既に兵士達は麻痺香にかかり、手足を痙攣させて戦うどころではない。それを確認すると、最初に銀の輪で両脚の膝を切った指揮官らしき男の元に向かう。


バンドーもアインの石造りの家の屋根から降りてきていた。


「姿を見せてもよろしいのですか? 」


「こいつは、返すつもりはない。いろいろと聞きたい事があるからな」


バンドーの口は既に半開きになっている。アンに続き、ヘルミットもやり過ぎ感もりもりである。


(かぁっ、……まあいいか)


バンドーは地面に倒れている指揮官らしき男の横に膝をつくと、おもむろに尋ねた。


「よお、お前。イルミダの妹がどうなっているか、知ってるか? 」


「……? 」


「イルミダの妹のマキホだよ。お前も指揮官クラスなら、知ってるだろ? 」


「……イルミダ様に妹などいないぞ? 」


(どういうことだ? )


瞬間、バンドーは殺気を感じて上空を見上げる。最初何も見えなかった上空に、やがて銀色のものが現れ、それは虹色に光り出すと殺到してくる。

 

(あれは、魔法の光か? なんで? やべぇ! )


一瞬の事であった。バンドーは戦闘が終わって呆けたように立っていたヘルミットの肩に手をやって引き倒すと自分の身体の下に置く。


瞬間、閃光が光り、轟音が辺りに轟く。地面が揺れ、バンドー達を中心に炎が揺らめくと火柱が上がった。それは円状に広がり、近くのアインの石造りの家も揺らす。


炎の後に生じた煙が晴れ、咄嗟に魔力分解を張ってしのいだバンドーはすぐさまヘルミットの様子を確かめる。


「おい?! 」


覆い隠し損ねたヘルミットの右足が大火傷を負っていた。


「くっそ、何だこりゃ?! おい、ヘルミットしっかりしろ」


叫びながらヘルミットを両腕で抱え上げると、走る。アインの家の中に入るべきか一瞬ためらい、辺りをうかがうが敵の気配はない。


「くっそ、おいヘルミット? 」


「……ご主人様、私は大丈夫だ。それにそもそも私に痛覚は無い。もちろん、血を失えば死ぬが…… 」


こいつは一体何を言ってるんだ。とにかく止血だ、バンドーはゼノ式の手当てを発動させ、ヘルミットの形を失った右足に気を送る。


「くそ! 」


思い出したようにスキル封じの指輪を嵌め、魔力を呼び戻すと手当てで止血した。ゼノ式の手当てを本来、魔力と気の両方を使うのだ。


「ヘルミット、アンを呼べるか? 」


「ここにいる 」


背後で声がした。


「アン、ゲートを呼べるか? 」


「それは無理だ。以心伝心テレメトリメッセージはデスパレスまでは届かないし、これでしのぐしかない」


アンは懐から傷薬と布を取り出すと、ヘルミットの応急処置を始める。暗殺者は逆に人間の身体をよく知ってもいる。


「ケインにい、後は私がやろう。ヘルミットの身体も拭きたいし、他の所も確認する必要があるだろう。すまないが、外に出ていて警戒してくれると助かる」


「……判った」


反論することなく、バンドーは立ち上がる。スキル封じの指輪を抜くと、少し身体を揺らし、戸外に出る。


(判らねぇ。あれは魔法攻撃だった。あれがサムニウム族の仕業として、仲間を巻き込むか? 第一、魔法嫌いのくせに何故、あんな攻撃が飛んで来たんだ? それに…… )


何かが、おかしかった。





































修正4/16 訪ねた→尋ねた

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