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O・HA・NA・SI(鬼威圧)そして帰還

 それからはトントン拍子だった。


 彼女の力が十分だと知った王は魔王討伐の旗頭として軍を進める。そして魔族領に入り破竹の勢いで軍を進めていく。


 彼女は軍の浮かれ具合を見ながら浮かない顔をしている。それは兵士達がいく先々で略奪を行っているせいだ。軍部のお偉いさんにはお嬢様の鬼威圧で言い聞かせたはずだけどな。


「これでよし」


 言う事を聞かないクズ兵士を十字架にかけて朝になるまでそうしとく。命令違反のためこいつらは一兵卒からやり直しだ。


「終わった?」

「あたるちゃん終わったよ」


 様子を見に来た腰脇にそう答える。


「魔族の方は?」

「御木月達が頑張ってる」


 彼女達の進路上の拠点に先行してある程度削っていく。そうすれば彼女が傷付く確率が下がるだろ?


「それで……」


 腰脇の太った体越しにそれを見る。


「お嬢様の前で正座させられてるの……誰?」


 柳田華子の鬼威圧を受け青ざめたまま正座している面々を見る。顔どころか体まで青いんですけど?


「戦いに負けて村に逃げ込んでは略奪をしていた魔族」

「捕らえてO・HA・NA・SI中と」

「大半が『生まれてきてすいません』しか言えなくなってる」

「可哀想に。でもあいつらどうするの?」

「彼女の所にいかせるらしいよ」

「えっ? それは殺されんじゃないの?」

「彼女は優しいからそんな事はさせないよ。それに……」

「軍のお偉いさんともO・HA・NA・SIしてたもんな」

「だから大丈夫だと思うよ」


 そして彼女は規律を守るO・HA・NA・SIされた兵士と投降してきたO・HA・NA・SIされた魔族の捕虜を連れて魔王と対峙する。


「ふははは! よく来たな愚かな人間どもよ……ヒィッ、嘘です。よく来てくださいました。勇者様」


 最初は偉そうにふんぞり返って出てきたが、一瞬にして土下座しそうに様子が変わった魔王を見て、


 彼女が目を点にして思考停止している。


 兵士達も目を点にして思考停止している。


 僕達も目を点にして思考停止している。


 それを見て、お嬢様がそっと目を反らした。


「お嬢様、どういう事でしょう?」

「ちょっと偉そうにしてたからO・HA・NA・SIしただけよ」

「やりすぎだ! 魔王、下手すると靴でも舐めそうだぞ!」

「舐めるなんてそんな大きな態度とらせないわ」

「どんだけ魔王の心折っちゃてんの!?」


 こうして終始卑屈な魔王は全面降伏した。


 そしてーー


「どうだ? 魔王にもとの世界に戻る方法を聞いたか?」

「帰る方法は魔王も知らないそうだ。お嬢様連れて鬼威圧しながら聞いたから確実だ」

「なら、やっぱり王様の所にあるのか?」


 今、僕達は彼女を見守りながら帰る方法を探している。魔王を降した勇者として彼女は貴族の間で引っ張りだこだ。あわよくば嫁にという奴もいるがそこはO・HA・NA・SIされて中には一夜にして白髪になってしまった者もいる。


「時々、星空見上げて寂しそうにしてるよな」

「みんなに会いたいよって寝言で言ってたって聞いたぞ」

「よし、俺が行ってベッドの中で慰めてやる」


 最後の奴はO・HA・NA・SIされて虚ろに笑ってよだれ垂らしていた。南無ーー。


「大丈夫よ。2、3日すれば戻るわ」


 ーーお嬢様談。


 そうしてある一報が僕達にもたらされた。


「前の魔王に攻め込まれた時に城を建て替えたってよ!」

「その元の城は?」

「土台の一部だけ城の端っこにあるらしい」


 僕達はそこに行ってみた。草も生えるままにしてあるその場所は城に住むものならば一度は聞くお化けが出る空白地帯だった。


「ちょっと早いわよ」


 僕の袖を引きながら後ろから着いてくるお嬢様。


「華ちゃん、怖いなら来なければいいのに……」

「こ、怖く何かないわよ……」


 奥に行くと元建物だった一部が残されていた。城の記憶が見れる奴にそれから記憶を見てもらう。


「当たりだ! この下に魔方陣の描かれた地下室がある」

「よし、掘り出せ!」


 地下室へ続く階段を見つけて御木月を先頭に降りていく。降りたそこには魔力を失った汚れた魔方陣が見つかった。魔方陣解析組が不眠不休で頑張りそれが帰還の魔方陣だとわかった。そして使用法も。


「後は魔方陣の修復と魔力を貯めるだけだな」

「そうね」

「時期が来たらみんなで彼女を迎えにいこうぜ!」

「それまでみんな、気合い入れろよ!」

「「おおーー!」」


 それから一ヶ月。


「華ちゃん本当に帰れるの?」

「そうよ。みんな頑張ってくれたんだから」

「みんなも無事なのね。良かったー」


 彼女はお嬢様と手を繋ぎ、ニコニコしながら僕の前を歩いている。それを見ながらやっぱり僕はこのポジションが落ち着くなと思った。


「何やッてんのよ。横を歩きなさいよ」


 気が付くとお嬢様が怒ったような顔でこっちを見ている。僕はそれでも一歩だけ彼女達の後ろを歩く。


 空白地帯の入口には腰脇が待っていた。


「遅いよ! 早く早く」

「どうしたの?」

「魔方陣が勝手に起動して急がないと魔力が切れちゃう」

「えっ! 何で?」

「言ってないで、急ぐぞ!」


 みんなで地下室のへの階段を転がるように駆けていく。地下室には魔方陣からの光が溢れていた。


「来たぞ! 早くのれ!」


 魔方陣の上で御木月が叫ぶ。僕達は止まらずに魔方陣の上に飛び乗った。


「いいか? いくぞ」


 魔方陣解析組が聞いたことのない言葉で呪文を唱える。呪文が終わった瞬間、魔方陣の光で前が見えなくなった。


 気が付くと夕暮れの光が入ってくる教室にいた。いつの間にか服装も制服に戻っている。みんなも気がついて抱き合うようにしてはしゃいでいる。


「お前ら、いつまで教室にいる気だ! 明日から夏休みだぞ! さっさと帰れ!」


 担任の声に僕達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。




 

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