好きな彼女を見守る為のスキル
前に思いつきでメモった設定を使った話です。
6話完結です。
よければ読んでください。
〇月□日 今日も彼女は可愛かった。どう可愛いかと言うと天使がそばにいても俺の目が彼女から外せないレベル。もし、天使でも彼女を視界から隠そうものならグーで殴れる。いや、殴る!
その彼女が『明日から夏休みだね』と言って顔を曇らせた。校長に直談判して夏休みを取り消して貰おう! 多分お嬢様がそれをしに行ったはずだが顔を赤らめて帰って来たので多分彼女との二人だけの時間を作ると言われて引き下がったのだろうな。……羨ましい! お嬢様が立ち上げた料理クラブか! そこで二人っきりで互いに『あーん』何かして%@¢£§&#◇$(字が滲んで分かりません)
明日、お嬢様にお願いして僕も入れて貰おう五体投地してでも彼女の作った料理を一口でも貰うんだ! そうしよう。
明日また彼女の笑顔が見れますように……お休みなさい。
〇月◇日 教室に入ると彼女がいた。やっぱり可愛い。そのまま彼女に見とれていたら、教室じゃなくなっていた。彼女に見とれていると場所だけ移動することがよくある。いつもの事だ今日は体育館か? 実験室か? そう思ったがそこは白い雲の中みたいな所だった。『あなた方はこれから異世界に行きます。世界を救ってください』? 魔王がいる? 知らんがな! 『あなた方にスキルという特別な力を与えましょう』いらん。『好きなスキルも一つだけあげます』……考えさせて貰おう。そして僕が選んだのは……。
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魔方陣の真ん中で彼女が目を覚ますと辺りを見渡した。そこには魔法使いと兵士が彼女の目覚めを待っていた。
「ここは何処ですか?」
「おお、勇者が召喚されたぞ!」
「……他の人達は何処ですか? クラスのみんなは何処ですか!」
状況がわからないからか心細いからか、泣き出した彼女をの回りでいい大人がオロオロしている。それを見てイライラしながら叫んだ。
「何でお前らここにいるんだよ!」
ここは彼女のすぐ側にある空間。だがここは彼女から見えない。聞こえない。臭いさえしない。そこに僕を含めクラスメイト全員がいた。
「何でって彼女を見守る為に決まってるでしょ」
腕を胸元で組んでこちらを見下ろす縦ロールのお嬢様で名前を柳田華子という一般庶民とはかけ離れたブルジョアだ。その他者を押し潰すような威圧的な目線に気圧されながらもそれを面に出さないようにして見返す。
「やめるのだ。喧嘩はダメなのだ!」
その視線の間に太めの男子がでかい声を張上げて割り込んでくる。腰脇中という男子で汗っかきの姿から想像できないがクラスの潤滑油の存在の奴だ。僕は少しほっとしながら目線をそいつに向ける。
「あたるちゃん、うっさいよ」
「黙ってなさい!」
「うっ。でもクラスで喧嘩すると……泣いちゃうよ?」
その言葉にお嬢様は息を飲む。そうだよな。優しい彼女はこんなの見たら泣いちゃうよな。
「よし、ここは華子が負けって事で終わりにしよう!」
「なに勝手に決めてんのよ! あんたの負けに決まってるでしょ!」
「ふっ、そういう事にしとこう。それで気がすむのならな」
「ハイハイ、そこで終わり!」
そう言ってあたるちゃんが僕とお嬢様を止める。その中の肩に手をのせてこの学校一のイケメンが顔を出す。
「そこで止めとけ。彼女を見守ろう」
「……どうしてここにいるんだよ、御木月」
彼は御木月優也。スポーツ万能、成績優秀の奴だ。早くジャニーズにでも行っちまえ! そんな彼が口元に笑みを浮かべて言った。
「彼女を守るにはここが一番だと気がついたのさ」
「お前は側で守ってやれよ! どうせ勇者とか光魔法とか聖剣使いとか持ってんだろ?」
「そうだが?」
「おいぃぃぃっ! お前が矢面に立てよ! そうすりゃ、彼女を守れんだろ!」
「なにを言ってるんだ。それじゃ彼女を『見守れない』だろ?」
「何言ってんだこのイケメンは……」
「そうね。あなたが出てちゃちゃっと解決してきなさいよ」
「大丈夫。彼女は私が見守っとくから」
「そうだぜ! 見守るのは俺達に任せな!」
そう言って出てきたのはポニーテールの凛とした少女、竜胆寺百合花とニコニコしたショートカットの少女、雲野雫。それと体格のいい野性的なイケメン、哲河辺斗米留だった。この御木月とよくいる仲間達だ。
「……ちなみにお前らは何貰った?」
「私は剣聖と剣闘術」
「聖女と神聖治療術」
「俺は聖騎士と盾術」
「お前らも行けぇぇぇ!」
「「彼女を見守れないでしょう?」」
「そうだぜ」
「うおぉぉぉー! こいつら殴りてえぇぇぇー!」
頭を抱えて転げ回る僕をお嬢様が踏みつけて止める。
「それで、お前は?」
「人を踏みつけといて……」
「顔を踏まれたいの?」
「ぜっ全能力カンストです」
「あ、ん、た、が、い、け!」
「イデデデデデッ! 顔、顔!」
「まったく、何考えてんのよ! どいつもこいつも」
「ところで、華ちゃんはどうなの?」
「誰が華ちゃんよ!」
「痛い痛い。ギブギブ!」
「庶民のチートは知らないけど、絶対支配領域と鬼威圧ね」
「こいつ支配者じゃん! 異世界に覇を唱えられるじゃん!」
「みんなひれ伏せ! この者に逆らってはいかんのじゃ!」
「「はは~!」」
踏みつけられた僕とイケメン達4人を除きお嬢様の前にひれ伏した。それにお嬢様は頬をひくつかせる。ヤバい!
「ハイハイ、みんな冗談はそこまで。立ってたって!」
「あんまりやると華ちゃん泣いちゃうわよ」
御木月と雲野が手を叩いて止めさせる。ぞろぞろ立ち上がるクラスメイトに僕も声をかけとこう。
「立て! 立つんだ! 下克上だ!」
「あんたは黙ってなさい!」
「……はい」
僕は踏みつけられたまま鬼威圧を受ける。魂まで屈服しそうな……いや、押し潰されそうな威圧を受けて顔が青ざめるのがわかる。
「おい、彼女が行っちまうぞ」
その声に鬼威圧が解けていた。ヨロヨロ立ち上がった僕に雲野が近寄って来て神聖治療術をかける。白く淡い光が体に染み込み心が軽くなる。
「さっさといくわよ」
立ち上がるのを待っていた華子について僕も彼女を追いかけた。魔法使いと兵士に連れられて行く彼女の後をぞろぞろと着いていく僕達。……正直鬱陶しい。
「委員長ー!」
「どうした?」
「皆さんを整列させてくれ」
「よし、みんな、並べ! 男女別、二列」
委員長こと五月司だ。メガネにきっちりした髪型で規律に厳しくその癖、人当たりもいいのでみんなが進んで従う。
こうして僕達は整列して彼女の後に続いた。彼女に気づかれないまま。
「あ、そういや聞き忘れてた。それでお前らも取ったんだなあのストーカースキル」
「「お前もな」」
神に一つだけ好きなスキルを貰えると聞いて思い浮かべたのが彼女の側にいて、彼女に気づかれずに何時でも助けられるスキルその名も、
『何時もあなたの側に……』