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Chapter.8 ㅤ死



1


ㅤ「……We die. But feelings will remain……。」


ㅤカーラジオから流れている洋楽を助手席に座っている西沢先輩は口ずさんでいる。

ㅤ俺はそんな彼を横目で見ながら吉永さんが指定した場所へと運転をして──吉永さんは、自分の銃をじっと見つめていた。


ㅤ「……俺たちだけだな。恐らく……日本に来れたのは。」


ㅤふと、吉永さんはそう小さな声で呟く。


ㅤ「……まあ、日本に来る事自体が至難の技ッスよ。むしろ来れなかった奴ら……本田や岸田、彼らの分まで頑張りましょう。」


ㅤそう西沢先輩は言い、胸ポケットから煙草とライターを取り出す。すると吉永さんは顔をしかめ、


ㅤ「よく煙草……吸えるな。あの臭い……。」


ㅤと言う。すると彼は一度取り出した煙草とライターを取り出しながら苦笑し、


ㅤ「……ま、臭いキツ過ぎて辞めてたんスけどね。やっぱり何ていうか……吸うと落ち着くんですよ。だからですかね。」


ㅤと言った。


ㅤ「……そういえば。」


ㅤ俺は2人に向かって言葉を発する。


ㅤ「……なんだ?ㅤ佐藤。」


ㅤ吉永さんはそう俺に言ってくる。


ㅤ「思ったんですけど……これから言われた通りS県に向かってるんですけど……どうするんですか?ㅤ」


ㅤと問いかける。すると吉永さんは、


ㅤ「……そこには第参次世界大戦記念館があってな……そこで、中津元基地長に会う。」


ㅤと……言った。




2


ㅤ「……あいつと会うんスか?ㅤ俺は反対です。」


ㅤ西沢先輩は眉間に皺を寄せ、そう言う。それに対し吉永さんは、


ㅤ「……だが基地長を味方にすれば心強いし……何より、あの人が悪い奴だとは俺は……思えないんだ。」


ㅤと言うと──先輩は声のトーンを落として言う。


ㅤ「……なら……悪く無いのなら、何故あいつは俺たちを撃とうとしたんですか?ㅤ殺そうとしたんですか!?ㅤ」


ㅤ「それは……何か理由が……。」


ㅤ「理由?ㅤそんなの秘密兵器だった俺たちを処分しようとしただけだろ!?ㅤ……あんな奴。今会ったら……殺してやりたい。俺は……俺たちはッ……!ㅤ」


ㅤ吉永さんは彼を落ち着かせようとするが……寧ろ彼は怒りの表情で叫ぶ様に言う。


ㅤ「ま、まあ落ち着いて……落ち着いて下さい。」


ㅤ俺はそう先輩に言うと……彼はハッ、とした表情をして──それから、


ㅤ「すみません、隊長。……ごめん、疲れているみたいだ……休まない?ㅤ」


ㅤ前半は吉永さん、後半は俺に向けて言う。時計を見るともう午後10時……。


ㅤ「……もう少し先に道の駅あるみたいなんで、そこで休みましょう。いいですよね吉永さん?ㅤ」


ㅤそう俺は吉永さんに聞くと、彼は黙って頷く。


ㅤ「……。」


ㅤそれから5分もしないうちに道の駅は見えてくる。……とは言っても、広い駐車場には車は殆ど停まっておらず、店舗も明かりが消えており──まるで廃墟の様であった。







3


ㅤ「……ん。」


ㅤ──ふと、目が覚めた。

ㅤ時刻は深夜2時、後ろでは吉永さんが寝息を立てており、助手席では先輩が──いなかった。


ㅤ「!?ㅤ」


ㅤ居ない……まさか、何処かへ行ってしまったんじゃ!?


ㅤそう思い俺は周りを見渡し……彼を見つけた。


ㅤ──ガタリッ。


ㅤ吉永さんを起こさない様慎重にドアを開き、俺は彼の元へと向かった。







ㅤ──西沢先輩は、トイレの近くに設置された灰皿の近くで煙草を吸っていた。


ㅤ「……どうした?ㅤ眠れないのか?ㅤ」


ㅤ煙を吐き──優しそうな表情で彼は言う。それに対し俺は、


ㅤ「……いや、目が覚めちゃって……それより、先輩こそ眠れないんですか?ㅤ」


ㅤと聞くと、彼は笑って、


ㅤ「いやいや、俺もさっき目が覚めた所さ……。」


ㅤと言ったが……その手には吸っていたのであろう空の煙草の箱が2つ握られていて……更に半分程中身の無い煙草がその手には存在していた。


ㅤ「……ん。一本吸うか?ㅤ」


ㅤそう言って彼は煙草の箱とライターを差し出してくる。


ㅤ「いや、俺は……。」


ㅤ「遠慮すんなって。……隊長の前じゃ吸えないしな。」


ㅤニシシ、と遠慮した俺に対して彼は笑いながら言う。


ㅤ「なら……ありがたく。」


ㅤ確かに長い事吸っていなかったな……そんな事を考え、俺は煙草を一本貰い、ライターで火を付ける。


ㅤ──……にしてもこのオイルライター。傷だらけだな……。

ㅤ俺はそんな事を考えながらライターを返す。すると彼は笑って。


ㅤ「これ、ボロボロだろ?ㅤ……昔、出兵する前に彼女に貰ったんだ。」


ㅤと言いながら大切そうにポケットにしまう。


ㅤ「彼女……。」


ㅤ──悪い事、思い出させたかな。


ㅤそんな事を考えながら煙草を吸う。……そう言えば。


ㅤ「……そう言えば、なんで吉永さん煙草吸わないんですか?ㅤまあ……昔から吸ってなかったんですか「昔は吸っていたよ。」」


ㅤ俺の言葉に被せるように、彼は言う。


ㅤ「昔は吸ってた……まあ、こんな身体になってさ、鼻が良すぎるから……吸えなくなっちゃったんだけどね。」


ㅤ苦笑しながら先輩は言った。


ㅤ「なら……なんで先輩は吸ってるんですか?ㅤ」


ㅤ──よくわからないが、吉永さんが鼻が良くなったのなら、先輩も鼻が良くなった筈……なのに、何で……?


ㅤ「……俺は、人として……死んだ。けどまだ人として生きてるって思いたいからかな。」


ㅤ先輩は真面目な顔をして言う。


ㅤ「……まだ自分が"人間"だって思えれば、まだ……救われている気がするんだ。……ま、今は依存症だからってのもあるんだけど。」


ㅤニシシ、と笑いながら彼は言う。


ㅤ「人間ですよ。先輩も……吉永さんも。」


ㅤ俺は咥えていた煙草を指で掴みながら煙を吐き、言う。すると彼は笑って、


ㅤ「……ありがとね。」


ㅤと言い、それから、


ㅤ「……俺、中津に会うよ。どうなるかは分からないけど、今のままじゃ……ずっと、ダメだと思うし、隊長の言う通り、何かが変わるかもしれないし……。」


ㅤと言って、「それに、かわいい佐藤君もいるしね。」と俺をからかってくる。


ㅤ「かっ、からかわないで下さいよ!?ㅤ」


ㅤそう俺が言うと、彼はニヤニヤ笑いながら、


ㅤ「やっぱからかい甲斐があるよ。……さて、俺ももうすぐ戻るし……そろそろ寝よう。」


ㅤと言って、俺の頭をポンポン、と叩いた。





4

ㅤ──S県、国立第参次世界大戦記念館。

ㅤ山の中腹にあるものの中々立派な……近代的な建物で、正面玄関の前には"日本戦没者慰霊碑"という文字とおびただしい名前が記された石の巨大な板が設置されていた。


ㅤ「……俺の名前もあるな。」


ㅤそれを見ていた吉永さんは、自嘲気味に笑う。


ㅤ「さっさと入らないッスか?ㅤ」


ㅤ先輩は少し呆れた顔で吉永さんに言う。それを見た吉永さんは頷き──俺たちは中へと……入った。






──────


ㅤ中には、実際に使われていた武器や、隊員達の手記、写真などが展示されていた……が、当然の如く、吉永さん達についての事は一切無かった。


ㅤ「しかし……誰もいないですね。」


ㅤ「だな……。」


ㅤとゆうか、建物の中で会った人は……受付に居たおばさんしか居ない。


ㅤ「……ま、ブームは去ったって事だろう。」


ㅤそう哀しそうに吉永さんは言う。

ㅤ──その時、俺はある展示物を見つけた。……二人は、行ってしまったが。


ㅤ──それは軍人達の集合写真で……吉永さん達が写っていたのだ。


ㅤ"第弐前線基地所属第4部隊集合写真(全員死亡)"


ㅤプレートにはそんな文字と一人一人の名前が刻まれており……写真に写っている人達は全員、笑っていた。

ㅤプレートによると、吉永さんは右の一番奥に立っていた。

ㅤ……少し困った顔で笑っているその顔は精悍そうで、なんていうか今も……面影もある。そしてその横で彼の肩に手を回し笑っているのは、稲葉……周平さん、吉永さんが話してくれた人だ。


ㅤ「その写真がどうかしましたか?ㅤ」


ㅤ「うわぁっ!?ㅤ」


ㅤ唐突に背後から声を掛けられ、俺は素っ頓狂な声を上げる。

ㅤ慌てて振り返ると、そこには70歳位の白髪が多い頭をした皺の多い……そしてなんていうか、貫禄のあるお爺さんが立っていた。


ㅤ「……驚かせてすみません。」


ㅤ少し困った顔でお爺さんは俺に言う。それに対し俺は、


ㅤ「え、あ、こちらこそすみません。」


ㅤと言いながら、お爺さんの事をまじまじと見た。


ㅤ──服装はズボンにシャツと言う結構ラフな格好。もしかして説明とかしてくれる人?


ㅤそんな事を思っているとお爺さんはじっと俺がさっきまで見ていた写真を見つめながらこう言う。


ㅤ「……私は、彼等の上司をしていて。彼らは、全員死んでしまったか……行方不明になりました。」


ㅤ「……え?ㅤ」


ㅤだって……プレートには全員死亡って書いてあるのに……この人、なんで……。


ㅤ「佐藤、離れろ。」


ㅤいきなり背後から吉永さんは言う。


ㅤ「ちょ、よ、吉永さん?ㅤ」


ㅤそう言いながら俺が振り返ると、先輩も吉永さんも……お爺さんの事を睨み付けているようだった。

ㅤそして──唐突に吉永さんは、顔を隠していたスカーフと帽子を外したのだ。


ㅤ「久し振りですね。……基地長。」


ㅤお爺さんを睨み付けながら、強弱の無い声で吉永さんは言う。

ㅤ──それから、少し沈黙があり。


ㅤ「……ああ。久しぶりだな……吉永。生きていてくれて何よりだ。」


ㅤそう少し頬を緩め──中津元日本防衛軍前線基地長は言ったのだ。







5


ㅤ「……とりあえず、座ってくれ。」


ㅤ──"館長室"、と言うプレートの取り付けられた部屋に俺たちは今、居た。

ㅤ部屋には、落ち着いた質感の応接セットなどが置かれ、俺たちはソファに座り──中津は俺たちと向かい合う様に座った。


ㅤ「改めて、よく生きていてくれた。」


ㅤそう彼が言うと、先輩は


ㅤ「……よくそんな事言えるな。俺たちを殺そうとした癖に。」


ㅤと言って睨みつける。それに対し中津はこう言う。


ㅤ「確かに……そう思われても、仕方の無い事でしょう。」


ㅤ「思われてもじゃなくて、事実だろう!?ㅤ」


ㅤ苛立った様な声で先輩は言う。


ㅤ「……基地長。」


ㅤふと、伊月さんは呟く様に言う。


ㅤ「基地長、なんで貴方はあの時……どうして俺たちに真実を伝えたんですか?ㅤただ殺すだけなら、頑丈な檻に閉じ込めてガスを充満させれば逃さずに簡単に殺せるし……それ以外にも安全に殺す方法はたくさんあった筈です。」


ㅤ──中津はじっと……伊月さんを見ている。


ㅤ「……貴方はもしかして、俺たちを逃がそうとしていたんじゃ?ㅤ」


ㅤそう伊月さんは言った。

ㅤそれから──長い沈黙。


ㅤ誰も何も喋らない、聴こえるのは時計の音と……呼吸の音のみ。





ㅤ──チクタクチクタクチクタクチクタク……。





ㅤ──ハァ……。



ㅤ誰かの、深く息を吐く音が聴こえた。


ㅤ「……その通りだ。」


ㅤ長い沈黙の後に、中津はそう言い……真実を、語り始めた。










6


ㅤ「……これが、真実って訳かよ。」


ㅤ クソッ、そんな言葉を吐きながら吉永さんは頭を抱える。

ㅤ──今は車の中、真っ暗な中で街灯が窓の外で流れて行く。


ㅤ──今日、中津元基地長から聴いた話、そして渡された……資料。それが全ての──真実であった。




ㅤ──真実はあまりにも──残酷だった。




ㅤ「……真の黒幕は。」


ㅤ憔悴した表情を浮かべた先輩、無言で俺は運転をしていて……バックミラーから見える吉永さんはゆっくりと……顔を上げる。


ㅤ「……真の黒幕は──。」


ㅤ──ブゥォォォォンッ。


ㅤ彼の言葉は……追い越して行った車に、掻き消された。




──────


ㅤ「こちらNB01、作戦を開始。内部へと侵入した。どうぞ。」


ㅤ『こちら本部、了解。』


ㅤ私には疾風号、と言う名前がある──しかし今は、NB01、と言う名前で新たな主人達の命令に従っていた。

ㅤ今回は、戦争の資料を展示している施設へと行き、そこの館長を殺すのが命令だ。


ㅤ──殺しは、したくない。しかしそれをしなければ私が死ぬのだ。……仕方ないのだ。


ㅤそう思い自らの行為を正当化しなければ、何もかも……嫌になる。

ㅤ死ぬ訳には行かないのだ。しかし……こんな汚れ、変わり果てた姿となった私を見た彼女は……どう思うだろうか?


ㅤ鍵の開いている窓から侵入し、進む。鋭い嗅覚と感覚と……所々に設置された非常口等の明かりのおかげで、迷う事は無い。


ㅤやがて、"館長室"と言うプレートの貼られた扉の前に辿り着いた。


ㅤ──駐車場には館長以外の車が停まっていなかったのは確認済み。

ㅤ俺は音を立てないように扉を開き……一気に銃を構えながら中に入る。


ㅤ──そして俺は、無線で本部に連絡を取る。


ㅤ「こちらNB01、目標ですが……既に、死んでいます。」


ㅤ『こちら本部。誰かに殺されたのか?ㅤ』


ㅤそう問いかけてくる本部に対して、俺は目の前の光景を見つめながら伝える。


ㅤ「いえ……首を吊って……います。」


ㅤ──元日本防衛軍陸軍大尉であり、第参次世界大戦第弐前線基地の基地長を務め上げ……現在は国立第参次世界大戦記念館の館長を務めている、といった人生を歩んだ男……中津総一郎は、最期は自ら首を吊り──その命を、絶った。


ㅤ「……。」


ㅤ首を吊っている中津の表情は穏やかで……まるで、全ての重しから解放され、安堵の表情を浮かべている様に──見えたのだった。



Chapter.8 end



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