Chapter.5ㅤアメリカ編・上
ㅤアメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク市にあるニューヨーク市警察本部庁舎。
ㅤそこでは、ESU(Emergency Service Unit)という特殊部隊の精鋭達を集め、会議が行われていた。
ㅤ「……今回、ICPOから通告があり、2人の人物を確保する事になった。生死は問わない。」
ㅤESU隊長の男は、そう部下を前にして告げる。
ㅤ「相手は凶悪なテロリストであり、銃器の所持も確認されているそうだ。……民間人の被害者は出さない様にしつつ、確実に確保せよ。早急に、だ。」
ㅤそう言って言葉を切った隊長に対し、部下の一人である男は、
ㅤ「隊長、質問なのですが……相手はどの様な顔なのでしょうか?ㅤ……先程渡された資料にも、その点については全く記されていません。」
ㅤと疑問をぶつける。すると隊長は、
ㅤ「……信じられない様な話だが、相手の名前や顔については、一切の情報が無い。分かっているのは、相手は信じられない程のスピードで動き、そして……。」
ㅤそこで一度言葉を切り、持っていたファイルから一枚の防犯カメラ映像の写真を取り出し、見せる。
ㅤ「……彼らの姿はジャーマン・シェパードと鹿の被り物をしており、イギリス警察30人を全滅させた……まあ、死者は居なかったが。」
ㅤ写真は、コンテナが並ぶ港の一角を写したもので──地面には倒れている警官達と、武器を持ち、鹿とシェパードの被り物をした2人が、写っていた。
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ㅤ「ったくよう、折角の休日だったってのに……動物頭のクソッタレの所為で休日返上で働かされてるぜ……クソッ!ㅤ」
ㅤ市街地のとある通り、道路脇に停められた白と青でグラデーションされた、『NYPD』の文字が印象的なニューヨーク市警のパトカーの中で、俺はそんな独り言を言いつづけていた。
ㅤ「……しかもジョンはタバコ買いに行っちまったし……クソッ。」
ㅤ俺がパトカーを道路脇に停めている理由はただ一つだ。一緒に乗っていたジョン、というクソッタレの同僚が煙草を買いに行ってしまったから。
ㅤ俺は煙草の臭いがとにかく嫌いであり、それで更に苛ついていた。
ㅤ「……ああクソッ。クソッタレ。煙草なんてなくなりゃあいいんだよ。」
ㅤ苛立ちは頂点に達しかけていた。
ㅤ──その時。
ㅤ「……ん?ㅤ」
ㅤ人混みの中に、変な人物を見つけたのだ。
ㅤスーツ姿の男女達は大体それぞれの会社に向かう会社員たち、『I love NY』と書かれたTシャツを着ているのはバカな観光客。私服姿の奴らは……まあ普通だ。
ㅤ──……では、あれはなんだ?
ㅤそれの隣で歩いている奴は夏だってのに上下長袖にマスクにサングラスに帽子に手袋……ってのも犯罪者の臭いがプンプンするが、まあ……置いておく。
ㅤ問題はその隣だ、そいつは顔をマスクとサングラスで隠し……メキシコのあのクソでけえ麦わら帽子にマントを羽織ってやがった。
ㅤ──明らかに浮いていた。てゆうか怪しい、てか怪しい以外の言葉が見つからねえ。
ㅤ(とりあえず、呑気に煙草を買いに行っているクソッタレはほっといて、職質かけてみるか……。)
ㅤそう俺は心の中で考え、パトカーを降りた。
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ㅤ「やあ、おはよう。」
ㅤパトカーから降りた俺は、歩いている二人に話しかける。すると二人は少し固まり……次の瞬間、走り出した。
ㅤ
ㅤ「なっ!?ㅤおい待て!ㅤ」
ㅤそのとにかく早い二人組を、俺は追いかける。
ㅤ一応、凶悪犯の可能性もあるのでいつでも銃を撃てるようにはしてある。
ㅤ……だが、ここは人が多い。
ㅤ「流石に撃てねえな……クソッ!ㅤ」
ㅤそんな愚痴をこぼしながら、俺は追いかける。
ㅤそんな時、いきなり二人は細い裏路地へと入った。
ㅤ──チャンス!
ㅤそう思いながら俺は一気に銃を構えながら裏路地へと入……あれ?
ㅤ──裏路地は、行き止まりであった。更に……二人の姿は無い。
ㅤ「なっ……ど、どういう……。」
ㅤ狼狽しながらふと上を見上げると、その瞬間──ガゴッ、と言う音と顔面に激しい痛みを感じながら……俺の視界は真っ黒になった。
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ㅤ「……。」
ㅤ「……。」
ㅤ──なにやら、変な言葉が聞こえる。……なんだってこれ、意味までは分からないけど……確か、日本語だっけ?
ㅤ……てか俺、誰だっけ?ㅤてかなんで……ん?
ㅤ……確か、蹴られて……蹴られて?
ㅤ「はっ!?ㅤ」
ㅤ俺は目を開く、すると目の前には……あのブラジル野郎と長袖野郎が立っていたのだ。そして……両手を手錠で拘束されていた。
ㅤ「おいこの野郎!ㅤなんのつもりだ!?ㅤ」
ㅤそう俺は二人に向かって叫ぶ。すると長袖野郎は肩をすくめ、
ㅤ「……まあ、手荒な事をした事は悪かったよ。」
ㅤと英語で言うと、帽子とマスクと……カツラを取る。
ㅤその顔は警察犬としてよく署内に居たシェパードそっくり……間違いない、あの写真の奴だ。
ㅤ「おいおい……変装の下に覆面かよ。だからそんなに分厚くなって目立つんじゃないか?ㅤ」
ㅤそう俺が苦笑混じりに言うと、シェパード男は俺の目の前にその犬顔を近づけ、口を開いて言ったのだ。
ㅤ「残念ながらこれ、脱げないんだよね。覆面じゃないから。」
ㅤ……え、ちょ、ちょっと待て。
ㅤ近くでじっくりと見て、気がついた。
ㅤ──……これ、"本物"だ。
ㅤ「Oh my god……。」
ㅤその言葉と共に俺の目の前は再び真っ黒になった。
ㅤ──"……い、おい!"
ㅤ「んん……?ㅤ」
ㅤ耳障りな程に煩い声に、俺は起きた。
ㅤ目の前には、あの煙草好きのクソッタレ同僚のジョンがいて……。確か俺は、ブラジル男達を追いかけて、あのクソッタレシェパード男に会って……ッ!?
ㅤ「お、おい!?ㅤブラジル男は!?ㅤ」
そう叫びながら俺はジョンの肩を掴み揺さぶる。するとジョンは、
ㅤ「ぶ、ブラジル?ㅤ……何言ってんだ。転んで頭打って幻覚でも見ていたのかよ?ㅤ」
ㅤと苦笑しながら言う……が、さっきのは間違いなく……。
ㅤ「さっ。帰るぞ。」
ㅤそんな俺の考えをよそに、ジョンはそう言って俺をパトカーへと連れて行った。
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ㅤ「ラッキーだったな。早退なんて。」
ㅤ署に戻ると、俺は何故かよく分からないが早退となった。しかも明日からなんと一週間も休暇だ。
ㅤ理由を部長に聞くと、『お前暫く働き過ぎだからな。ゆっくり休んでくれ。』という事であった。
ㅤ……まあ、たまには良いだろう。
ㅤそんな事を思いながら帰り道を歩いていると……。
ㅤ「すみません。あなたニューヨーク市警のジャック・コナーですよね?ㅤ」
ㅤいきなり、そう黒服の人相が悪い男に呼び止められた。
ㅤ……おっと、そういえば言っていなかったが、俺の名前はジャック・コナーだ。よろしくな。
ㅤ……まあ、それはさておき。
ㅤ「ああ、そうだが……誰だ?ㅤ」
ㅤそう俺が聞くと、その悪人面のクソッタレは、
ㅤ「FBIの者です。……お話をお聞きしたいので、御同行願います。」
ㅤと言って身分証を見せる。
ㅤ──一見した限りでは、本物だ。
ㅤ「……分かりました。」
ㅤ「では、こちらへ。」
ㅤそんな会話をしながら、俺は路肩に止められた黒塗りの普通車の後部座席に乗せられる。
ㅤ俺を連れて来た男が助手席に座り、俺の両脇に二人の男が座ると……そのまま車は発進し、次の瞬間。
ㅤ「アレに会ったんだろ?ㅤ全て話せ。」
ㅤ俺は両手に手錠を掛けられ、銃を突きつけられる。
ㅤ「なっ……あ、あんたら……!?ㅤ」
ㅤ唐突の事に頭が上手く整理出来ない。
ㅤ「……命令でな。あいつらを見つけたら殺す事になっている。……知り過ぎた奴も……な?ㅤ」
ㅤ──恐怖で、声が出なかった。
ㅤ車はいつの間にか森の中の道路を走っている様だった。
ㅤ「さあ、早く言え……でなきゃ、殺すぞ?ㅤ」
ㅤ(言っても殺されるんだろ!?ㅤクソッタレ!ㅤ)
ㅤそんな事を心の中で叫ぶ。
ㅤ「さあ!ㅤ早──。」
ㅤ奴らの言葉は途切れる。
ㅤガゴンッ、と言う鈍い音。
ㅤ激しい振動と、キキキッ、と言う鉄と地面が激しく擦れ合う音。
ㅤ「あいつらっ……!ㅤ早く車を止めろッ!ㅤ」
ㅤその言葉を隣の男が発した直後、轟音と共に──俺は激しく運転席の後ろの部分に叩きつけられた。
6
ㅤ「……まさかFBIの精鋭揃いでも、取り逃がすとはな。」
ㅤ初老の男はそう言いながら、目の前の惨状を見る。
ㅤそこには、黒塗りの普通車……だったものがあった。
ㅤしかし、車体は大きくひしゃげており、全面は見る影も無い程に潰れていた。
ㅤそして……ヒビで真っ白になったガラスに写る、紅い色。
ㅤ──車両は、ガードレールを突き破りそのままかなりの速度で木に激突したらしい。
ㅤ運転手は頭を強く打ち即死。助手席と後ろに座っていた二人は重症。
ㅤ……そして、"やつら"の手がかりであったジャックは、こつぜんと姿を消した。
ㅤ「……。」
ㅤ老人は黙って前輪のタイヤを見る。
ㅤ……タイヤはかなりホイールがひしゃげていたが、そのタイヤには……弾痕が残されていた。
ㅤ「ジャック・コナーを緊急指名手配。必ず捕まえろ。」
ㅤそう彼は背後に居た部下に命令をすると、再び弾痕を凝視した。
ㅤ──その頃、そこから少し離れた場所に停められた軽自動車の車内では。
ㅤ「いてェっ……!ㅤ」
ㅤ「あっ……ご、ごめんなさい。」
ㅤ俺は後部座席であのシェパード男に怪我の手当てをされていた。
ㅤ「……これでよし。その……ごめんなさい。巻き込んで……しまって。」
ㅤシェパード男は包帯を巻き終わると、本当に申し訳無さそうな表情で謝ってくる。
ㅤ「……いやいや。俺もさっき助けてもらったわけだし……その、撃たれそうになってたからなぁ。」
ㅤ俺はそう苦笑しながら言い……それから、ある事を思い出した。
ㅤ「いやいやいやいや。逮捕する指名手配犯ッ!ㅤ」
ㅤそう言いながら俺は手錠を掛けようとすると、シェパード男はあたふたしながら、
ㅤ「ちょっ、ちょっと待ってください!?ㅤお、落ち着いて!ㅤ話を聞いて!ㅤ」
ㅤそんな風に言い合っている俺たちを、ブラジル姿の鹿野郎は前の座席からアホを見るような目で見ていた。
7
ㅤ「……にしても君達さ。すごいよねぇ。」
ㅤ俺は車を運転しているシェパード男に向かってそう言う。
ㅤ──彼は、拳銃二丁を使い、猛スピードのあの車両のタイヤを打ち抜き停めたのだ。
ㅤ……まあ、引火したりしたらどうするんだ!ㅤ……とも思ったが。
ㅤ更に、鹿野郎の方は持っていたショットガンで意識があったFBIのクソっタレを殴って気絶させたのだ……とにかく早かった、すごく。
ㅤシェパード男は苦笑しながら。
ㅤ「いやいや。全然いいんだよ。……それよりごめんなさい。まさか貴方まで指名手配になるなんて……。」
ㅤ「あはは……。」
ㅤ……逃げた後、俺も汚職警官として……ラジオで指名手配されたと言っていた。言っとくけど、俺はそんな事はしていないぜ?
ㅤと、言う訳で……俺はこのシェパード男達と一緒に逃げる事になったのだ。
ㅤちなみに鹿野郎は日本語とスペイン語しか話せないらしい。……ブラジルの格好をしている理由は、あのデカイ帽子なら角を隠せるから、だそうだ。
ㅤちなみに、名前だが、シェパード男は本田雪路、鹿野郎は岸田崖、と言うらしい。
ㅤてゆうか……気になったんだが。
ㅤ「あんたら、何なんだ。……人間なのか、動物なのか……分からないんだけど……。」
ㅤずっとそれが……本物の犬と人、鹿と人が混ざった謎生物だと理解した時から、気になっていたのだ。
ㅤ「……まあ、その。僕らは……自分の事、人間だと思いたい……かな?ㅤ」
ㅤ何処か哀しそうな顔で……本田は言った。
ㅤそれから少しして、とあるファーストフード店の前に車は停まる。
ㅤ「とりあえずまずはまあ……腹ごしらえしましょう。」
ㅤそう彼は明るめの声で言うと、車のキーを回した。
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ㅤ「クソッ!ㅤなんてこった!ㅤ」
ㅤバンッ、とその男は目の前にある黒塗りの机を叩いた。男の名前はジェイムズ・ケネディ。現米国大統領である。
ㅤ「……大統領。大丈夫ですか?ㅤ」
ㅤそう秘書の女は問いかける。するとジェイムズは、
ㅤ「……大丈夫じゃない訳が無いだろう。……考えてもみろ。彼らの様な残虐な生物兵器の実験の証拠が今の生きている、という事は……アメリカ、いや……国際連合そのものの信頼を失墜させる事になるのだ……だが。」
ㅤそこで彼は一度言葉を切る。そしてこう言った。
ㅤ「……だが、彼らは……被害者でもある。出来れば、彼らと話し合いをしたいものだ。彼らを殺さず、我々の元で生かす。」
ㅤと……。
ㅤ──そして、その頃、
ㅤ「ふぅ。久々にお腹いっぱいになりました。」
ㅤ「俺の金、だがな。」
ㅤ走っている車の中で、俺は少し薄くなった財布を触り、はぁ、と溜息を吐く。
ㅤ「ジャックさんて……口悪いけどいい人なんですね。」
ㅤそう笑いながら本田は言う。(犬の表情は分かりやすい。)
ㅤ「口悪い、は余計だよクソッタレ。」
ㅤ俺はそう言った。
ㅤ……にしても、どこに向かってるんだ?
ㅤそう本田に聞くと、彼は、
ㅤ「……まあ、当てはないです。とりあえず今日泊まれそうな所ですかね。」
ㅤと俺に言い、それから岸田と話をしていた。……正直日本語だから何話しているかなんて分からない。
ㅤ「……あ。」
ㅤふと、岸田はそんな声を上げる。(あ、くらいは分かる。)
ㅤ見ると、前方にはパトカー二台と警官たちで構成された……検問所があった。
ㅤ「歯を食いしばって……舌噛まないようにしててください。」
ㅤそう本田は言う。
ㅤ「えっ、ちょっ。」
ㅤ俺はそんな声を上げるのとほぼ同時に──車は速度を上げ。
ㅤ──ドガアンッ!
ㅤそんな派手な音を立てながら、車は検問所のバリケードを突破した。
9
ㅤ「……サンフランシスコ?ㅤ」
ㅤ俺はトップスピードで運転している本田にそう聞き返す。すると彼は、
ㅤ「ええ。そこで日本行きの貨物船に乗ります……到着は深夜で警備も薄いですし。金も掴ませてあるので。」
ㅤと言いながらハンドルを切り、思いっきりドリフトする。
ㅤ「成る程。サンフランシスコに行くのか……じゃあまずこのレースに勝って振り切れェッ!ㅤ」
ㅤそう叫びながら真後ろから迫ってくるパトカーのタイヤを撃った。
ㅤ……しかしまあ、拳銃と言うのは威力が弱い。どちらかと言うと一緒に撃っている岸田のショットガンの威力が凄すぎる。
ㅤ──ババババババ……。
ㅤそんな音を立てながら側面に『POLICE』と書かれたヘリが頭上を飛び始める。
ㅤ「突っ込むぞおおおおおお!ㅤ」
ㅤ本田のそんな叫び声と共に……車は森の中へと突っ込んだ。
ㅤ──『こちら、ニューヨーク市警ヘリ552、対象を見失った。これより暫く捜索し、見つからなければ地上部隊に任せて帰還する。』『了解。』
ㅤ「あららあ……。」
ㅤ木の陰の為にちょうど上空から見えない所、そこに俺たちは居た。
ㅤ「にしてもすごいなぁ……無線傍受も出来るなんて。」
ㅤ俺は本田にそう言う。すると本田は前の座席に乗せたスーツケース大の無線機を操作しながら、
ㅤ「いやぁ……て、照れます。」
ㅤと言って頭を掻いた。そしてそれを聞いた俺はこう更に言う。
ㅤ「……しかし運転。俺代わろうか?ㅤ」
ㅤ銃撃戦によって穴ボコだらけになった上に、木に激突しながら走ってボコボコになって停止した車を見て、俺はそう言う。
ㅤ「……。」
ㅤすると車の修理をしていた岸田は立ち上がり、首を横に振る。
ㅤ──日本語が分からなくても、これは分かる。
ㅤ「どうやらこれからは徒歩だな。……サンフランシスコまで……か?ㅤ」
ㅤ俺がそう言うと、本田はバツの悪そうな顔で、
ㅤ「ご……ごめんなさい……。」
ㅤと言った。
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ㅤ「サンフランシスコまでは流石に送れねえなあ。ま、ここからまたヒッチハイク頑張れや。」
ㅤイリノイ州クリーブランド、俺たちは今そこに居る。
ㅤ……あの後、俺たちは山を抜け、道路を歩きながらヒッチハイクをして、サンフランシスコまで向かう事にした。
ㅤ──それで、トラックに乗せてもらい、ここまで来たという訳だ。
ㅤ「……。」
ㅤ降りた後俺たちは裏路地に入り、この先の事について少し話す事にした。
ㅤ「とりあえず、船の出航は一ヶ月後だよな?ㅤだから……まあ、ゆっくり行っても到着は出来るはずだ。十分に隠れられる。」
ㅤ俺はそう言う。
ㅤ本田は、
ㅤ「成る程。」
ㅤと言う。
ㅤその時ふと、岸田は何かを本田に言った。それを聞いた本田は驚いた顔をして、声を荒げて何かを言った。
ㅤ「……どうした?ㅤ」
ㅤ俺は本田にそう問いかける。すると彼は困惑した顔でこう言った。
ㅤ「……いや、彼が……あなたは帰れって。」
ㅤ「……何?ㅤ」
ㅤ──どう言う、事だ?
ㅤ「……俺は、君達の為に……。」
ㅤそう俺が言うと、本田はそれを岸田に伝える。すると岸田は冷めた目をして、何かを言い──それを本田は訳した。
ㅤ「……"お前は警察、俺たちの敵だ。……売る気だろう?ㅤ俺たちを。"。」
ㅤ「……は?ㅤ」
ㅤ俺は、その言葉に……怒りを覚えた。
ㅤ「そもそも俺がこうなったのはお前達の責任だろう!?ㅤそれにそんな言葉か!ㅤクソッタレ!ㅤ」
ㅤ俺はそう叫ぶ。
ㅤ──それを聞いた本田は、
ㅤ「お、落ち着いて……。」
ㅤと言いながら俺を宥めようとする。
ㅤそれに対し俺は、
ㅤ「このクソッタレッ!ㅤ」
ㅤそう叫び──俺は拳を握り締め、岸田の胸倉を掴み、殴りかかろうとする。
ㅤ──鹿の目は、酷く冷静で。
ㅤ「クソッ!ㅤ」
ㅤ俺はそう叫び、胸倉を掴んでいた手を離し、駆け出す。
ㅤ──本田は何かを叫んでいた様だったが……そんな事を気には出来なかった。
ㅤ──その日の夜。
ㅤ摩天楼の灯りが灯り、大通りは色とりどりの灯りに彩られていた。
ㅤ「フー……。」
ㅤそんな大通りが見える場所にある裏路地の隅に座り込み、ぼんやりとその光景を眺めていた。
ㅤそう考えると短い気もしてくる。
ㅤ「……まあ確かに、岸田がそう思うのも無理は無いかもな。」
ㅤ──あいつらはずっと、追われていたのだ。警戒心、と言うか人間不信になるのも無理は無いだろう。
ㅤ「……俺が、悪かったのか?ㅤ」
ㅤそんな独り言を呟く。
ㅤ──その時、
ㅤ「元ニューヨーク市警のジャック・コナーだな?ㅤ」
ㅤ4人程の男達が、俺を取り囲む。
ㅤ「……捕まえろ。」
ㅤそう男の一人が言うのと、俺が逃げ出すのは──ほぼ同時だった。
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ㅤ「くそッ!ㅤクソッタレ!ㅤ」
ㅤそう叫びながら、俺は逃げ続ける。
ㅤ「止まれッ!ㅤ止まらないと撃つぞ!ㅤ」
ㅤそう叫びながら追いかけてくる警察官。
ㅤ「くそッ……仕方ないか。」
ㅤ俺は腰のホルスターに入れられた拳銃に手をかけ、セーフティを解除しながら後ろを向き、引き金を引く。
ㅤ──ガチンッ。
ㅤそんな軽い音を立て、銃弾は──発射されなかった。
ㅤ「たっ、弾切れ……!?ㅤ」
ㅤ弾は──ゼロになっていた。そして次の瞬間。
ㅤ──ドキューンッ!
ㅤ「あああああああっ!?ㅤ」
ㅤ大きく鋭い──銃弾が発射される音、そして俺の右足に鋭い痛みが走った。
ㅤ「あっがあああっ!ㅤ」
ㅤあまりの痛みに俺は意味の無い叫び声を上げながら倒れる。
ㅤ「取り押さえろ!ㅤ」
ㅤ俺はこめかみに銃口を押し付けられ、捕まえられる。
ㅤカチャリ、と言う手錠を掛けられる音。
ㅤ足の痛みは激しく、口からは呻き声、そして気絶しそうに成る程の痛み。
ㅤ「さあ、連行するぞ。」
ㅤ男の一人がそう言った──その時だった。
ㅤ「なんだお前は?ㅤ」
ㅤ途切れ途切れの意識の中、俺はそんな言葉を聞いた。
ㅤ俺はなんとか周りの様子を見る。
ㅤ「……。」
ㅤ男達が周りに立っていて、少し離れた所からゆっくりと近寄ってくる人物に銃口を向けている。その人物の服装は顔を隠すようにメキシコの帽子と、民族衣装を着ており、その人物は──岸田だった。
ㅤ岸田は、俺と──全員を見渡すように、首を動かすと、帽子と着ていた服を脱ぎ、投げ捨てる。
ㅤ──そこから出てきたのは、鹿の精悍そうな顔立ちと手に持っているナイフ付きショットガン、そして──特殊部隊が着るような黒のヒートテックに迷彩のスボン、そして腰から下げたホルスター二つと弾倉と……ウェストポーチであった。
ㅤ「全員、戦闘配置。構えろ!ㅤ」
ㅤチャキッ、と言う音を立て、男達は一斉に拳銃を岸田に向ける。
ㅤ「大人しくしろ、そうすれば……撃たない。」
ㅤそう男の一人が言うと、彼はハァ、と溜息を吐き、
ㅤ「……生憎だが、俺は捕まりたいとは思わないし、何より──。」
ㅤそう片言の英語で言って男達を睨めつけ、
ㅤ「──仲間を撃った代償は、払って貰うぞ?ㅤ」
ㅤと、言ってショットガンの引き金を──引いた。
13
ㅤ勝負は、一瞬だった。
ㅤまず、ショットガンで一人の足を貫通させる、そして男の手を踏みつけ、拳銃を蹴る。
ㅤ二人同時に岸田を撃つ。岸田は肩に一発食らいながら片方の男の頬を蹴り、もう片方の男はショットガンの先端に取り付けられたナイフでもう一人の足を斬りつけ、一瞬の隙を突き、肘で頭を殴りつけ、ノックダウンさせた。
ㅤ「……勝ったな。」
ㅤいつの間にか後ろにあの指揮をしていた男が回り込み、銃口を向ける。
ㅤ男は勝利を確信したのか、笑みを浮かべている──その時。
ㅤ岸田は急に頭を思いっきり振った。
ㅤそしてその角は──背後の男の頭を直撃し。
ㅤ「ぐへぇっ!?ㅤ」
ㅤそんな叫び声を上げながら男は吹き飛ばされ、壁に激突し倒れる。
ㅤ「……勝ったな。」
ㅤそう岸田は呻き声を上げる男に言うと、俺に近づいてきた。
ㅤそして──その辺りで俺の意識はブラックアウトした。
14
ㅤ「ぅ……。」
ㅤ「あ、気がつきました!?ㅤ」
ㅤ気がつくと俺は、車の後部座席に寝かされていた。
ㅤとゆうか……この声は。
ㅤ「本田……?ㅤ」
ㅤ「はい!ㅤ」
ㅤそう言って前の座席から顔を出したのは、人懐っこそうな笑顔を浮かべた犬の顔──本田だ。
ㅤ「うっ……っ。」
ㅤ俺は起き上がろうとして、足に走った激痛に顔をしかめる。
ㅤ──ズボンは履いておらず、撃たれた場所には包帯が巻かれていた。
ㅤ「一応、応急手当てと、痛み止めも塗っておいたんですが……。すみません病院……連れて行けなくて。」
ㅤそう言ってシュン、とした表情を彼は浮かべる。それに対して俺は慌てて、
ㅤ「いや!ㅤ元はと言えば離れた俺が悪いんだし……その、ありがとう。手当てしてくれて……。」
ㅤそう俺は言いながら、助手席に座っている岸田の事を見る。
ㅤ彼は眠っており、いつもと同じ様にブラジルの格好をしていたが……あの時撃たれた腕を露出させており、そこには包帯が巻かれていた。
ㅤ「ビックリしましたよ。……二人とも結構な怪我してましたから。」
ㅤそう本田は言う。
ㅤ「……後で彼にも礼を言わなくちゃな……。あ、そういえば……。」
ㅤ「なんですか?ㅤ」
ㅤ漫画だったらクエスチョンマークが出ている、そんな感じの表情をしている本田に俺は、
ㅤ「これ……本田が手当てしてくれたのか?ㅤ……素人のやり方じゃないぞこれ。」
ㅤ包帯は完璧に……まるで医者がやったかの様に巻かれていた。素人じゃこんな事は……出来ない。
ㅤ「ああ……昔衛生兵をやっていたので。上手いんですよ応急手当てとか……。」
ㅤハハ、と苦笑しながら彼は言う。
ㅤ「……へえ、軍隊に居たのか。」
ㅤ──初耳……と言うか俺、この二人の事殆ど知らないよな……。
ㅤそんな事を俺が考えていると、本田は、
ㅤ「……言った方がいいですよね。僕達がなんで追われてるか。」
ㅤそう顔を少し伏せながら言う。それに対し俺は、
ㅤ「まあ確かに……聞きたいな。」
ㅤと言うと……彼は、
ㅤ「……わかりました。」
ㅤと言い、話を始めた。
Chapter.5ㅤend