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4/15

Chapter.4ㅤ決意

遅れてすみません!




1

ㅤ「以上だ。」


ㅤふぅ……と深く、暗い顔で話し終えた吉永さんは息を吐いた。


ㅤ「……その後は、どうなって……どうやって、日本に?ㅤ」


ㅤ俺がそう訊くと、彼はこう言う。


ㅤ「その後は、しばらくは仲間とは一緒に居たが、十年後に日本で再開しようと言って別れた。……一人は、向こうの田舎村で暮らすと言っていたがな。……日本には漁船に乗って領海近くまで行って……そこから泳いできた。」


ㅤ「……。」


ㅤただ……言葉が──見つからなかった。


ㅤ「……俺は、俺達は少し過激な方法を取るが……その、俺達の様な存在がいる事を、公にするつもりだ。」


ㅤ暗く……しかし、はっきりとした声で、彼は言う。


ㅤ「……恐らく、ただ俺の話を記事にしただけでは却下されて記事にもならないだろう。……俺本人が表舞台に出たら、出る前に……殺される筈だ。」


ㅤ「……じゃあ、どうするんですか?ㅤ」


ㅤ俺がそう訊ねると、彼は、


ㅤ「……とりあえず中津元基地長に会う。そして……この国のお偉いさんの口から真実を吐かせる。……その後の俺達がどうなるかは大体検討は付くが……それしか、無い。」


ㅤと言った。










2ㅤその頃のお狐


ㅤ「あれはぁ、田んぼの稲ば収穫して、お稲荷様にありがとうさ言いに行こうとした時だっぺぇ。」


ㅤ──あぁ、面倒くせえ。なんで警察の公安部になったのに……こんなクソババアの話聞かなくちゃなんねえんだ。


ㅤ俺は内心そう思いながらそのババアの話を……聞いていた。







ㅤ──「お稲荷様お稲荷様、今年は豊作で、本当にありがとうございましぁ。」


ㅤそう喋りながら佐伯美子、という農家の現役おばあちゃんは稲荷神社で神様にお礼を言っていたそうだ。

ㅤそして、おばあちゃんは帰ろうとした時に、"それ"を見つけたそうだ。


ㅤ「さてぇ、帰ろうかねえ。」


ㅤよっこいしょ、とおばあちゃんが立ち上がった時、ふと……変な物を見つけた。


ㅤ金色の毛で覆われ、先端が白いその尻尾の様な物は……紛れもなく狐の尻尾で、しかし、普通の狐の三倍はあろうかという大きさであっだと言う。


ㅤ──グルルルル……。


そんな唸り声の様な声が聞こえ、おばあちゃんは、


ㅤ「まっ、まさか……!?ㅤお狐様!?ㅤ怒ってらっしゃる!?ㅤ」


ㅤと思い、慌てて近づいて見ると、そこには……、


ㅤ──グルルルル……。


ㅤと、お腹を鳴らした一人の狐と人を合わせたようなヒトが、倒れていて。


ㅤ「お腹……空いたよう……。」


ㅤ──グルルルル……。


ㅤぽかんとするおばあちゃんを他所に……また、お腹が鳴った。







3


ㅤ「これ、どうぞ。」


ㅤコンビニで買い物を終え、俺は吉永さんにおにぎりを手渡す。


ㅤ「ああ……悪いな。」


ㅤそう言いながら彼は包装を剥がし、噛り付いた。


ㅤ──なんて言うか……微妙な、距離感。


ㅤあの話の後から俺は吉永さんに密着していた。

ㅤ……一度、編集長に休暇を取りたい、連絡をした……ら。


ㅤ『ごめんね。……君がそんな事する筈はないと思うんだけどね。』


ㅤ俺はいつの間にか指名手配犯となっていた。理由はでっち上げられた殺人事件だ。


ㅤ……結果俺は、休職扱いとなった。


ㅤそれからは、吉永さんと各地を転々としながら暮らしている。

ㅤ顔はマスクとメガネで隠している。……意外と見つからない。


ㅤ『本当に悪かった。……なんとしてでも、お前の事は守る。』


ㅤそう吉永さんは言った。

ㅤ自分も追いかけられる身で、大変なのに……それに、ずっと辛い思いをしていて……俺の事は彼にとって更に重荷になってるんじゃないか。そう思うととても……辛い。


ㅤ「……ごめんなさい。」


ㅤ先に歩いて行く吉永さんの後ろ姿に、そう小さく……呟いた。




4ㅤその頃の狐ㅤ


ㅤ「おばあさんこれ美味しいよ!ㅤこれも美味しい!ㅤ」


ㅤ「あんれまぁ、良かったねぇお稲荷様。」


ㅤクチャクチャムシャムシャ、と稲荷寿司と味噌汁をご馳走になりながらパタパタと尻尾を振っている狐の獣人と、それをニコニコしながら拝んでいるおばあちゃん。

ㅤあの後、おばあちゃんは行き倒れていた狐獣人を家まで連れて行き、家で稲荷寿司を食べさせていた。


ㅤ「にしても、最近のお稲荷様はとってもはいからなんだねぇ……。ありがたやありがたや。」


ㅤそんな事を言いながらジーンズに袖の無いTシャツに……首には半分に割れたドックタブを掛け、ショルダーバックを持っている……そんな格好のの狐を拝み続けるおばあちゃん。それに対し彼は稲荷寿司を咥えながら、


ㅤ「えっ?ㅤ……俺お稲荷様じゃないよ?ㅤ」


ㅤとキョトンとした顔で言う。


ㅤ「えっ?ㅤ」


ㅤ「えっ?ㅤ」


ㅤ二人は同時にそんな声を出し、見つめ合っていた。






5


ㅤ「……国際禁戦宣言会?ㅤ」


ㅤ──ある日の夜、吉永さんは俺にある事を教えてくれた。


ㅤ「……ああ、その活動は世界各国で行われ、1日ずつ第参次世界大戦の国連側で戦った国がもう戦わない、と言う宣言を立て……その後、全ての国が禁戦を誓ったのち、国際連合で会議を開くそうだ。……そして、宣言の様子は全世界に生中継される。」


ㅤそう冷めて固くなったパンを食べながら、吉永さんは言う。


ㅤ「でも、それがどう「そこで俺たちはテロを起こす。」」


ㅤ俺の言葉に重ね──吉永さんはそう言った。


ㅤ──て、テロ!?


ㅤ驚いている俺を他所に、


ㅤ「……そこで俺たちは俺たちの存在を世界に訴える。……まあ、何も変わらないかもしれないが、それでも……俺たちは真実を伝える。……せめて二度と、こんな悲劇を起こさない為に。」


ㅤ──吉永さんはそこまで言うと、黙った。彼の表情は……窓から射し込む光によって、見る事は出来ない……。


ㅤ「……そんな。」


ㅤ俺は……言う。


ㅤ「……吉永さんは、その、すごい……ずっと、辛い思いして……もうこれ以上、頑張らなくても俺は……いいと思います。」


ㅤただ、続ける。


ㅤ「その、吉永さんは、もう……その、もう……。」


ㅤうまく、言えない。


ㅤ「……ありがとうな。」


ㅤ吉永さんはそう言った。そして……


ㅤ「……でも俺は、もうしばらく戦わなくちゃいけない。……未来を手に入れる為にも、な。」


ㅤそう言った彼は……微笑んでいる様な、泣いているような感じに……見えた。






6ㅤその頃の狐


ㅤ「……ばあちゃん。俺そろそろ行くよ。」


ㅤおばあちゃんがお稲荷様(勘違い)と出会ってから一ヶ月後、狐獣人は夕食を食べながらそう言った。


ㅤ「な、なんでだい?ㅤ」


ㅤ唐突の事にポカンとしながらおばあちゃんはそう彼に問いかける。すると、


ㅤ「……俺さ、やらなきゃならない事があってさ。その為に……行かなきゃいけないんだ。何処かは……言えないけど。」


ㅤそう……少し哀しそうな表情で言う。


ㅤ「……あたしゃ、子供も……夫も、もう居なくて……折角出来た家族同然のお稲荷様も……居なくなってしまうのかい?ㅤ」


ㅤそう彼女は言い、顔を伏せた。

ㅤそれを聞いた狐は少し哀しそうな顔をして、


ㅤ「……俺も、ばあちゃんとは別れたくないよ……。けど、やらなきゃ……いけないんだ。」


ㅤそう言って、顔を伏せた。

ㅤそれを聞いたおばあちゃんは、


ㅤ「なら、約束しないかい?ㅤ……やる事が済んだら、帰ってくるってね。」


ㅤと言って、狐に笑顔を見せた。







ㅤ──「まあ、昼飯盗られて逃げられただぁ。」


ㅤそう言ってクソバアアはカカッ、と笑う。


ㅤ……どうやら、このクソバアア、"奴"が逃げた場所も分からないらしい。


ㅤ「……ご協力感謝します。」


ㅤそんな社交辞令の言葉を言って、俺は部下に帰るぞ、と言いながら、車に乗り込む。


ㅤ「しっかりやりなさい。悠里……。」


ㅤババアはそんな独り言を呟く。

ㅤ悠里……まあ、多分太平洋戦争で戦死したって言うこいつの息子の名前だろう。……ボケてんだな。生きてると思ってんだろ。


ㅤ俺は笑いを堪えながら、車を出させた。




7


ㅤ「……少なくとも、今の俺は追われる身だ。それに恐らく報道規制とかもあるだろうから、俺たちの存在をマスコミによって世間に知らしめる事も出来ない。」


ㅤ吉永さんはそう独り言の様な声で言う。そして、


ㅤ「……だから、世界の注目が集まっているあの会議で事を起こせば……少なくとも、俺みたいな存在がいるって事は世間に知らしめる事が出来る。……それで俺は、もしかしたら……太陽の下で、暮らせるように……なる……かもしれない。」


ㅤそう言った。そして、それからゆっくりと俺の方を見て、


ㅤ「……お前の命は俺の命に代えてでも護る。だから……だから頼む。俺たちがこれから行う事をすべて記録して欲しい。そしてそれを……もし、俺たちに何かあったら……世間に公開して……くれないか?ㅤ」


ㅤと、ハッキリした口調で言った。それに対して、俺は言った。


ㅤ「わかりました。絶対に……絶対に、付いていきます。」


ㅤと。俺は……見届けたくなったのだ、彼──吉永さんが、未来を掴み取る様を。


ㅤ「……ありがとう。」


ㅤそう言って彼は、笑った。





8ㅤその頃の狐


ㅤ「あーあっ。疲れたなぁ……よしっ、こらからキャバクラでも行くか?ㅤ」


ㅤ「おおっ、いいっすねぇ。」


ㅤぎゃはは、と全員笑う。

ㅤ──山道を走っている車内で思う。全く、ババアの相手は疲れるぜ、と。


ㅤ「全く……あんなクソバアア、死んじまえばいいのになぁ。」


ㅤぎゃはは、とまた全員で笑った……その時。


ㅤ──ドゴンッ。


ㅤそんな鈍い音が頭上から響く。


ㅤ「おい、なんか落ちたみたいだぞ。車停めろ。」


ㅤ全く、車に傷つけたら弁償しなきゃなんねぇってのに……。


ㅤそんな事を考えていると、車は路肩に停車し、運転をしていた部下が車の外に出た──瞬間。


ㅤ「……ぅっ。」


ㅤそんな呻き声と共に、倒れたのだ。


ㅤ「なっ!?ㅤ」


ㅤ俺はそんな声を上げながら、助手席に座っているもう一人の部下と共に外に出た──そして、次の瞬間。


ㅤ「ごふぅっ……!?ㅤ」


ㅤいきなり腹に鈍い痛み。

ㅤ痛みと、遠ざかる意識の中──俺が最後に見たのは、狐と人を足したような謎の……生物だった。



ㅤ──ちなみにその後、目を覚ました彼らは服と拳銃と覆面パトカーを奪われ、懲戒免職になった……と言う事は、また別の話である。





Chapter.4 end


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