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Chapter.3ㅤㅤ過去

第3話です。


1ㅤ


ㅤ『こちら第四部隊所属第三分隊!ㅤ至急救援求むッ、至急救援求む!ㅤ』


ㅤ──感じるのは、硝煙と土埃と……微かな血の匂い。

ㅤ向こうから感じる焼けた肉の匂いの元は、先程無人ヘリが投下した火炎弾が直撃し、ぐちゃぐちゃに焼かれた遺体だ。……最も、もはや人間だった事すら怪しい程に、焼かれているが。


ㅤ無線機からはひっきりなしに救援を求める悲痛な声が聴こえる。

ㅤ……この地域のゲリラ部隊は、とにかく──強い。


ㅤ……それに、ここに居る日本兵は500名程、イギリスなどの味方国を合わせても2500名程で……逆に敵の数は、3000人程。


ㅤ──しかも、敵の戦闘方法は2、3人で部隊へと突っ込み、敵兵ごと自爆する作戦や、大人数で敵兵を囲み、全方向から射撃する作戦等……とにかく、そう言った戦い方が主だった。


ㅤとにかく……キツイ戦いだ。



ㅤ──俺は、この戦争を早く終わらせて……平和になる事を、願っていた。

ㅤだから、軍に入ったのだ。


ㅤ……少し、離れた所に敵国の兵士が見える。


ㅤアジア系の顔立ちをした彼ら兵士は、貧困により、家族を食わせる為にこうして兵士になったのだと聞いた。


ㅤ「……すまない。」


ㅤそう俺はスコープから見える男へと呟き──ライフルの引き金を引き、次の瞬間には──荒野を血に染めていた。




2ㅤ


ㅤ「どうした?ㅤ元気ねえけど?ㅤ」


ㅤ所属している第弐前線基地へと戻り……食事を食べていると稲葉周平、と言う男が声をかけてきた。

ㅤ──こいつは、この基地に最初から居たメンバーの一人で、戦闘以外では、いつも笑顔でおちゃらけた奴だ。


ㅤ「……別に。」


ㅤそう素っ気なく俺は返す。

ㅤこいつの事は嫌いでは無い。しかし……最近は、嫌になってきていた。

ㅤ……何もかも、が。


ㅤ「……あんま気にすんな。ここの中津基地長も言ってただろ?ㅤ『君達は正しい事をやっている。だから……気にするな。』ってさ。」


ㅤ少し心配そうな顔で稲田は言う。


ㅤ「……。」


ㅤそんなのは無理だ、と思う。


ㅤ……少なくとも俺は……こうして罪悪感を抱えてしまっている。

ㅤだが、平和の為にも、人々の安全の為にも……こうして俺は、この手を紅に染めるしか──無いのだから。








ㅤ──そして、翌日。


ㅤ「これより、敵基地へと突入する。」


ㅤ俺達はついに……敵の基地として使われている施設を発見したのだ。

ㅤそしてこれからここに──突入する。


ㅤ「……やっと、終わるんだ。」


ㅤ敵の基地を潰せば──大分戦況は、変わる筈だ。


ㅤ『隊長、行けます。』


ㅤそう部下の一人がサインで伝えてきた。

ㅤ俺は頷くと、銃を片手にドアノブに手をかけ──次の瞬間、轟音と共に、視界は真っ白になった。





3


ㅤ『酷いな……これでよく生きているな。』



ㅤ『これより術式を開始する。』



ㅤ『適合するのはDタイプ細胞か……。』



ㅤ『成功か?ㅤ』



ㅤ『やりましたね。……まあ後は、こいつ次第ですかね。』



ㅤ『9番目の成功だな。』



ㅤ『……すまない、な。』






ㅤ──暖かい、液体の中に居た。


ㅤ……とにかく、心地良くて……ふと、"自分"は誰だ?ㅤと思うが、思い出せず………結局、忘れて、再び眠ってしまう。


ㅤ──名前も、昔の事も、何も思い出せない。

ㅤ目を開いても、黄色く濁った視界で……難しい事は、考えられ無かった。


ㅤコンコン。


ㅤ何かが、何かを叩いた。よく聞こえる。

ㅤ急に、俺を包む液体が動き出し、どんどん、どんどん消えていって……。


ㅤ「ぅ……ゲホッゲホッ!ㅤ」


ㅤ体の中にある液体を吐き出す。

ㅤそれから少しして、俺は辺りを見渡して……透明な筒の中に居た事を知った。


ㅤ「大丈夫かい?ㅤ……くん?ㅤ」


ㅤ筒の一部が開いて、一人の人が俺にそう聞いてくる。


ㅤ──?ㅤその名前……誰だ?


ㅤ「……あ、ぁー。」


ㅤ声が上手く出ない。

ㅤそれを見た男は少し笑うと、俺の体をタオルで拭き始めた。

ㅤその時初めて俺は……自分の身体を見た。


ㅤその腕は……黒く濡れた毛皮に、覆われていたのだ。







4ㅤ


ㅤ一つ、敵兵を殲滅しろ。

ㅤ二つ、姿を見られた場合、味方、民間人問わず殲滅せよ。

ㅤ三つ、命令には絶対服従。





ㅤ──それが、俺に与えられた命令。

ㅤ"コード09"と言う名前の俺は、過去の事を何も憶えてはいない。

ㅤ仲間はいた。仲間達は自分を元人間、だと言い、戦いが終わったら元に戻してくれるんだ。と言っていた。

ㅤ……みんな、過去の事を憶えていて、志願したり負傷したりして、獣と人の混じり合った様な姿になった……と言っていた。


ㅤ俺の姿は灰色と白の毛を全身に覆われて、狼の様な頭に、耳と尻尾がある……狼男の様な姿だ。


ㅤ「……。」


ㅤ仲間と共に俺は敵兵を殺していく。

ㅤ血の匂いを全身から漂わせる。しかしその臭いは敵兵を引き千切ったり撃ったり、切ったりした返り血だ。

ㅤこの身体は……人間より遥かに強い。

ㅤそして、俺達はどんどん敵を殺していく。


ㅤ時々、味方の人間の兵士に会ったが、止む終えず殺していた、命令だからだ。

ㅤ人を殺す事に、躊躇は無かった。

ㅤ戦う理由なんて、何も無かった。

ㅤ──何故俺はこうして殺しているのか、分からなかった。


ㅤ──ただ、それが命令だった。そこに疑問は……持たなかった。





ㅤ──そして、"あいつ"と出会った。


ㅤ「……な、何だお前は……ッ!?ㅤ」


ㅤ目の前に、一人の味方の兵士が居た。

ㅤ彼の顔は恐怖で引きつっており、手には銃弾が無くなり、空っぽになった銃が握られていた。

ㅤ……右肩の辺りが痛む。こいつが撃った弾が貫通したのだ。


ㅤ「……任務だ。殺す。」


ㅤ男に銃を突きつける。男は、急に不思議そうな顔になる、そして……言った。


ㅤ「……その声。お前……何処かで会った事ないか?ㅤ」


ㅤそれを聞いた俺は溜息を吐く、そしてこう言った。


ㅤ「……戯言は止めろ。死ぬんだからな。」


ㅤ……と。すると男は早口でこう言った。


ㅤ「……まさか、……か?ㅤお、俺だよ、稲葉周平!ㅤお、お前……爆発で死んだんじゃ……ってか何でそんな姿になってるんだ……!?ㅤ」


ㅤ「……稲……葉?ㅤ」


ㅤ頭の中で何かが引っかかる。イナバシュウヘイ、バクハツ、イナダシュウヘイ……?


ㅤ──パァンッ!


ㅤ銃声が響く。次の瞬間には、その……イナダシュウヘイは……頭から脳と血を飛ばした屍と成り果てていて──。


ㅤ「09、大丈夫か?ㅤ」


ㅤそう背後から仲間の猫獣人が言いながらやってくる……。


ㅤ「ああ……あ……。」


ㅤ何故かガクガクと全身が震える。死体を見つめる、イナダ……。


ㅤ「俺は……。」


ㅤ──俺は、この戦争を早く終わらせて……平和になる事を、願っていて、だから兵士になった。


ㅤ「俺は……。」


ㅤ──俺の、名前は。


ㅤ「吉永……伊月……?ㅤ」


ㅤ全て……思い出した。

ㅤ──そしてその日……戦争は、終わった。


ㅤ──最も、俺にとってある意味では……記憶を取り戻したのは良かったのかは、分からないが。







5


ㅤ「……君達は本当によく、やってくれた。」


ㅤ俺達は基地長である中津に召集され、そう言う言葉をかけられていた。

ㅤあの時の猫獣人は一足先に日本に帰ってしまって、俺たちはこれから帰国する……そうだ。


ㅤ仲間はかつては十人も居たのだが……死んでしまい、今此処に居るのは……たったの五人だけだ。


ㅤ「……さて、君達の事について、話さないとな。」


ㅤふと、基地長はそう言い、こんな話を始める。


ㅤ「……我々先進国は、極秘である兵器を開発した。人間としての知能と能力、そして獣の力……それら全てを備え付けた生物兵器をだ。君達は……その、兵器なんだ。」


ㅤ「……。」


ㅤ全員それは薄々気が付いていて、特に動揺は無かった。


ㅤ「……国連は戦争終結を期に、一部のサンプルを残し、その兵器を極秘に処分しろ、と言った。」


ㅤ「……えっ?ㅤ」


ㅤ突然の事に、俺は驚いた。


ㅤ「……君達を殺したのち、この施設ごと君達を焼却、隠蔽する。……何、今の姿になった時点で戦死として処理している……。」


ㅤ──心の奥底から、モヤモヤとした感情が沸き起こる。


ㅤ「ちょ、ちょっと待ってください!ㅤ人に戻れる、と言う約束は……!ㅤ」


ㅤふと、五人の中の一人である狐の若い兵士はそう言って抗議をする。すると、


ㅤ「君達の様な"兵器"は他国でも造られていてね。……もう全て、処分されたよ。」


ㅤそう言って狐に、銃口を突きつけ──。





ㅤ「がはっ……。」


ㅤ気が付いた時には、基地長の腹に拳をねじ込んでいた。

ㅤ基地長はそのまま倒れる。


ㅤ俺はまだ状況が理解できず唖然としている仲間へ叫ぶ。


ㅤ「逃げるぞ!ㅤ」


ㅤ……と。



ㅤそして俺達は……基地から脱走し、ひたすら逃げた。







Chapter.3ㅤEND

次回は明日公開予定。お楽しみに!

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