Chapter.2ㅤㅤ謎
1
ㅤ「これと、これと……。」
ㅤとりあえず、吉永さんに渡すリンゴジュースを買った俺は……電車の中で荷物の確認をしていた。
ㅤ──ボイスレコーダーにカメラに手帳にペン……あと財布とスマホ。
ㅤ(……必要な物は全部、あるな。)
ㅤ俺はそう心の中で呟く。
ㅤ……俺の初めての大仕事だ。頑張ろう!
ㅤそんな事を考えていると、列車はアナウンスと共に目的地近くの駅へと停まる。
ㅤ俺は電車を降り、そのまま改札へと向かう。
ㅤ──……そんな俺を、少し離れた所で二人の男が見ていたなんて知らずに。
ㅤ──その頃。
ㅤ「……。」
ㅤごみ捨て場から拾ってきた腐りかけた生肉を食べる。
ㅤ獣と人の中間となったこの身体は、そんなものでも……問題なく食す事が出来る。臭いは我慢出来ない物があるが、まあ……仕方がないのだ。
ㅤ「……。」
ㅤ思えば……人間が食べる様な"普通の飯"なんて……もう何年も食っていない気がする。
ㅤ──あのリンゴジュースは……まあ別として、だが。
ㅤ(……あいつ。)
ㅤふと、戦友だった"あいつ"の顔が浮かぶ。
ㅤあいつは……復讐をしようとする俺とは違い、山奥で一人で生きると言っていた。
ㅤあいつには……恋人がいた。
ㅤ『彼女はどうするんだ!?ㅤ』
ㅤそう問いかけた俺に対し、あいつは何処か哀しそうな顔で、
ㅤ『僕は……死んだんだ。それに、こんな姿じゃ彼女を悲しませるし……彼女を危険に晒してしまうかもしれないでしょ?ㅤ』
ㅤそう……言っていた。
ㅤ──あれで、良かったのだろうか?
ㅤあの時……俺は彼女に真実を伝えた、しかし……それはあいつらの為に……なるのだろうか、と──考えてしまう。
ㅤ……自分が何をしたいのか、分からなくなってしまう。
ㅤだが……俺はあの記者にも、"真実"を伝えるつもりだ。……彼が来たら、の話だが。
ㅤ……ニチャリッ。
ㅤそんな音と共に生肉を齧る。
ㅤ──やはり、不味い。
2
ㅤ「ええっと……地図によると……?ㅤ」
ㅤとりあえず俺は迷いながらもなんとか進んでいた。
ㅤ「……ここか。」
ㅤそして辿り着いた。
ㅤそこは、古い病院らしき廃墟で、入り口はガラスが割れ、正に誰でもウェルカムな状態であった。
ㅤ「……本当にこんな所にいるのかよ?ㅤ」
ㅤこんな警備体制甘々な所に……って、だから居るのか?ㅤそんな事を思いながら頭を掻き……俺は中に入る。
ㅤ「おーい、吉永さん!ㅤ」
ㅤとりあえず埃や砂が積もっている廊下を歩きながら俺はそう呼びかける。
ㅤ「吉永さ……むぐうっ!?ㅤ」
ㅤ俺はいきなり口を押さえつけられ、無理やり何処かへ連れて行かれる。
ㅤ連れて行かれた場所は、診察室らしき所。
ㅤ「まったく、来てくれたのは感謝するが……あまり大きい声で叫ぶな。耳が痛くなる。」
ㅤそう呆れた様な口調で言いながら狼……吉永は頭を掻き毟る。
ㅤ「あ、ごめんなさい……。けど、なんでいきなりこんな風に連れてきたんですか?ㅤ」
ㅤそう俺が聞くと、吉永さんは深く溜息を吐き、そして、
ㅤ「……気が付いていなかったのかよ。お前は……変なものを連れてきたろ?ㅤ」
ㅤそう言い、それから俺に、
ㅤ「とりあえずベッドの下に隠れてろ、んで……出てくるな。」
ㅤと言って、俺の事をベッドに押し込んだ。
ㅤ「なっ、なにっ……。」
ㅤ埃だらけのその場所に入れられ、俺は抗議の声を上げながら出ようとして……固まる。
ㅤ──……ドアが、ギィィと言う音を立て──ゆっくりと開いたのだ。
3ㅤ
ㅤ「……暑くないか?ㅤそんな格好して。」
ㅤ部屋に入って来た二人の男に、吉永さんはそう言った。
ㅤ二人は、顔は見えなかったが黒いスーツを着ており……手には、拳銃を……持っていた……のだ。
ㅤ「……ッ!?ㅤ」
ㅤ──あ、あれ……本物か!?
ㅤ(ま、まさかな。)
ㅤ俺はそう思う。
ㅤ日本なんかで拳銃を持ってる奴なんて、軍か警察しか居ない筈だ。
ㅤ「お前には関係無い事だろう。コード09。」
ㅤそう二人の内の一人は言う。それから男は続けて、
ㅤ「どうして、帰ってくる事が出来た。……それと、他に国内に潜入した奴はいるのか?」
ㅤそう、冷たい声で吉永さんに問う。
ㅤ──帰ってくる?ㅤコード09?ㅤ何の事なのか……意味が分からない。
ㅤそれに対し吉永さんは、
ㅤ「……泳いで帰って来た、俺一人だ。……どうして俺の居場所が分かった?ㅤ」
そう問いかけると、男は、
ㅤ「お前がコンタクトを取っていた新聞記者を尾行した。……何、心配しなくてもお前を"処分"した後に、ゆっくり探して……殺すさ。」
ㅤ(……!?ㅤ)
ㅤ──ち、ちょ、こ、ころっ……!?
ㅤ「……ほう。ところで、"殺す"と、"処分"の違いは?ㅤ」
ㅤ半分パニックに陥っている俺とは違い、冷静な口調で彼は拳銃を持った奴らに問いかける。すると、カチャリ、と金属音がして……。
ㅤ「……彼は人間、お前はただの……馬鹿で汚れた獣だろう?ㅤ」
ㅤそう男が言い……パァン、と言う音と悲鳴が、廃墟に響いた。
4
ㅤ「……ほう。所で、"殺す"と、"処分"の違いは?ㅤ」
ㅤ……表面では冷静を繕い、そう喋っていたが……内心、かなり焦っていた。
ㅤ──相手は拳銃を所持、俺は……一応持っているが……急いで出てきて、銃は三階にある。……そしてここは、一階。
ㅤ──いわゆる、"丸腰"って奴だ。
ㅤカチャリ、と男は拳銃の安全装置を解除する。
ㅤとりあえず、奴らを倒す方法を考える。
ㅤ「……彼は人間、お前はただの……馬鹿で汚れた獣だろう?ㅤ」
ㅤそう言って、男は引き鉄に当てた指に力を込め──その瞬間、俺は動いていた。
ㅤまず、下に伏せ弾丸を避け……そのまま、平手で銃を叩き落としつつ……顔面を殴りつける!
ㅤ「ぐはッ!?ㅤ」
ㅤそして、殴った男を盾にし、もう一人の男を撃たせないよにし……男を投げつけ、その瞬間……蹴り上げる……!
ㅤドゴッ!
ㅤそんな鈍い音を立て、二人の男は壁と床に叩きつけられ、呻いている。
ㅤ俺は素早く壁に叩きつけた方の男を殴って気絶させ……床の男へ、彼らが持っていた銃を突きつけた。
ㅤ「……どうだ?ㅤ"ただの馬鹿で汚れた獣"にこうして殺されそうになっている気分は?ㅤ」
ㅤ男は呻き声を上げる事しか出来ない。……少し、愉快だった。
ㅤ──そしてそれから、少し後。
ㅤ「……大丈夫か?ㅤ」
ㅤとりあえず、あの廃病院から少し離れた廃工場へと移動した。
ㅤ吉永さんは優しそうにそう聞いてくるが……ベルトには、あの二人から奪ってきた拳銃を引っ掛けている。
ㅤ──……アレは、現実だった事を……改めて実感する。
ㅤ「……大丈夫、です。」
ㅤ俺は何とか平静を装いながらそう言う。すると彼は少し困った顔をして、
ㅤ「……まあ、無理もないか。殺していないとはいえ、あそこまで痛めつける所は……初めて見ただろうしな。」
ㅤそう言うと。そしてそれから少し言葉を切り、
ㅤ「俺が怖いか?ㅤ……嫌なら、まだ逃げてもいいんだぞ?ㅤ」
ㅤと言う。
ㅤ──正直、少し怖い、とは思っていた。しかし……、
ㅤ「……いえ、多分俺ももうターゲットになってるでしょうし……知りたいんです。貴方がどうしてそんな姿なのか、どうして……あんな奴らに、襲われたのか。」
ㅤ俺は、彼の金色の瞳をしっかりと見つめながらそう言う。
ㅤ「……。」
ㅤ「……。」
ㅤ──少しの沈黙。そして……その沈黙を破り、吉永さんは、
ㅤ「……分かった、話そう。」
ㅤと言って重い口を開き──彼、吉永伊月は……話し始めた。
Chapter.2ㅤEND




