おまけその弐ㅤもう一人の終わり方
ㅤ『サザッ……日本国は全責任を認め、公式に謝罪しました。国連からの声明では……ガー。』
ㅤアジア南部のとある山奥にある村。鬱蒼としたジャングルに囲まれた村の中でのとあるあばら家。
ㅤ──そこで一人の男が、ボロボロのラジオを聴いていた。
ㅤ薄汚れた白いシャツに、汚れている青色のズボン。
ㅤそんな服装の男は、ただの人間では無い。全身を覆う茶色と白の獣毛に、柴犬の様な顔と耳、そしてくるり、と回った尻尾。
ㅤ──彼は、柴犬の獣人であった。
ㅤ彼の名前は西川優希、かつて吉永達と同じ様に獣人に改造され──戦争終結後に殺されそうになり、逃げた一人だ。
ㅤしかし彼は吉永達とは違い、戦う事を選ばなかった……怖かったのだ。本土に居る彼女に……変わり果てた自らの姿を、見せるのが。
ㅤそして吉永達と別れ、一人で彷徨い歩き──彼は、行き倒れた。そしてそんな彼を助けてくれたのが……今彼が暮らしている村の人々である。
ㅤ──『どんな人でも死にそうならば助けてあげるのが当然でしょう?ㅤ』
ㅤ意識を取り戻した彼が何故自分を助けたのか、と聞いた時、そんな返事が返ってきたという。
ㅤ……それから彼はずっとこの村で農業を手伝いながら生活をしている。
ㅤ「……。」
ㅤ彼は伸びをしながら鍬を持ち、空を見ながら農地へと向かう。
ㅤ──空は、蒼い。
ㅤ「元気……かなぁ。」
ㅤ……彼女も同じ空を、見ているのだろうか?
ㅤ──今も昔も変わらず愛している。けど僕の事は忘れて、幸せになって欲しい。……笑顔の彼女の隣にいるのは自分では無い光景──とても、嫌だとはとは思うが……仕方が無いのだ。
ㅤ……と、その時。
ㅤ「ユウキ!ㅤ」
ㅤ背後から聞こえる声、振り返るとそこには……ずっと想い続けた彼女が立っていた。
ㅤ──始めはこれは夢だ、と思った。
ㅤだが、いくら待っても夢が覚める事は無く……彼女は彼に抱き着いてきた。
ㅤ──暖かい感触……それは紛れもなく"本物"だった。
ㅤ「……探してた。吉永さんって言う……狼みたいな人から貴方が生きている事を聴いてずっと……探してたの。」
ㅤそう彼に抱きつきながら、彼女──姫野美雪は言う。
ㅤ「……俺は、こんな……姿だぞ?ㅤ」
ㅤすると彼は消え入りそうな声でそう言う──すると、
ㅤ「……それでも貴方は、貴方だから。」
ㅤと言って、泣きながら微笑む、彼女。
ㅤ「……!ㅤ」
ㅤそれを聞いた彼は、彼女にキスをする。
ㅤ──十年以上の時を超えたキス。
ㅤ二人の空が繋がった……瞬間。
ㅤ「……こりゃあ、みんなでお祝いしないとなぁ。」
ㅤそう言ってその光景を見つめながらニヤニヤ笑い、村人達は言う。
ㅤ……それに二人は気がつくのは、5秒後である。
紅狼白夢ㅤ本当におわり