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Chapter.12ㅤThe Epilogues


1


ㅤ吉永さんが撃たれた後……彼は病院に搬送され、俺は拘束された……そして、一時的に留置所に収監されたが──俺は釈放された。

ㅤなんでも、政府が事実を全て認め……俺達を釈放する事が、認められたらしいのだ。


ㅤ──だが、彼等と会う事は出来なかった。……全員が身体を元に戻せないか、と言う研究や傷付いた身体を療養させる為、病院に入院、取材陣を避ける目的もあって……面会する事は、出来なかった。


ㅤ彼等と再会出来たのは──その二年後にアメリカで開かれた、勲章授与式。



ㅤそこで亡くなったクリストファー・モラレス氏に名誉勲章が授与される、という事で俺は呼ばれ……そこで彼等と再会した。

ㅤ彼等は一年も前に退院して居たが……大量の取材を避ける為にその事実は伏せられ、彼等の方も俺と連絡を取ろうとしたが……連絡先が、分からなかったらしい。


ㅤ──これから話すのは、彼等があの戦いを終え、その後どうなったかの……記録である。







2ㅤ本田雪路のその後


ㅤ──とあるのどかな田舎町、その小さな町の一角に建てられた昭和の雰囲気を持った交番……そこに、彼は居た。


ㅤ「……ふぁぁ。」


ㅤぼんやりと椅子に座り、生ぬるいペットボトルのお茶を飲む。


ㅤそんな眠そうな警察官は……ジャーマンシェパードの獣人、本田雪路であった。

ㅤ人間で言う眉の辺りには、皮膚が露出した……あの時受けた傷跡が、今も残っている。だが──かつて戦争や……あの戦いを経験したとは信じられない程、彼はゆっくりとしていた。


ㅤ──しかし幸せに微睡んでいる彼に、小さな魔の手が忍び寄る。



ㅤ「ふおおおおおお起きろおおおおおッ!ㅤ」


ㅤ──ピィイィィーッ!


ㅤ「おわちゃっ!?ㅤ」


ㅤ──ガターンッ!


ㅤ唐突に耳元で鳴らされた笛、そのあまりの大きな音に驚き、本田は椅子ごとひっくり返る。


ㅤ「へへぇーん。ダメだぞ犬の兄ちゃん、おまわりの仕事してるんだから……って、え……大丈夫?ㅤ」


ㅤ笛を鳴らした坊主頭の少年は得意げに言い……それから心配そうに本田の事を見た。


ㅤ「……この。」


ㅤ彼は耳を押さえながらゆっくりと……立ち上がる。そして……。


ㅤ「この野郎うぅぅぅっ!ㅤ」


ㅤ「ごめんなさいぃぃぃッ!ㅤ」


ㅤ逃げる少年に、それを全力で追いかける片耳を押さえたシェパード警察官。


ㅤ道行く人々は笑いながら言った。


ㅤ「二人とも頑張れぇ。」


ㅤと。





ㅤ──本田雪路さん。警察官となりとある田舎町で駐在として勤務している。







3ㅤ岸田崖のその後


ㅤ──アメリカ合衆国、とある田舎町。


ㅤそこの商店が並ぶ通りで、一人の男が……ある変わった物を売っていた。


ㅤ「安いよーっ!ㅤ鹿の角だー!ㅤ」


ㅤ大量の鹿の角を脇に積み、一本たったの1ドルで売っているのは……ジャック・コナー、元ニューヨーク市警警察官であり……今はこの田舎で、暮らして居る。


ㅤ「おいあんた。営業許可は?ㅤ……とゆうかそれ、密猟品だろ。」


ㅤそんな事をしていたジャックは、警察官にあっさりと捕まる。


ㅤ「え、営業許可は……っ、で、でも、これ密猟品じゃっ……!ㅤ」


ㅤそう言っておろおろする彼、それを呆れた顔で、


ㅤ「話は署で聴いてやるから……さっさと来るんだ。いいな?ㅤ」


ㅤと言いながら、署へと連れて行こうとした……その時。


ㅤ「あの……彼、俺の連れです。」


ㅤそんな少し片言の英語が聴こえ、大柄の警官は後ろを振り向く……と。


ㅤそんな警官よりも大きな、鹿の獣人が立っていた……手に買い物袋を持って。


ㅤ「……えっと……これ、貴方の?ㅤ」


ㅤポカンとした顔で、警官はジャックが売っていた大量の角と角が切られている頭を見る。すると鹿男は溜息を吐き、


ㅤ「……はい。そうです……けど、勝手に物は売って様なので……お手数ですが彼の事、よろしくお願いします。」


ㅤと言って、頭を下げる。


ㅤ「ちょぉ!?ㅤ助けてえぇぇぇ。」


ㅤ「……もうジャックには角の処理は頼まないよ。」


ㅤ警官に引きづられながら助けを求めるジャックと、苦笑いをしながらそう遠ざかるジャックに言葉を投げる鹿男──岸田崖。





ㅤ──岸田崖さんは、現在アメリカの田舎町で、ジャックと共に牧場で働きながら生きている。






4ㅤ西阪悠里のその後


ㅤ「……お茶、美味しいねぇ。」


ㅤぼんやりと……お婆ちゃんは空を見上げながら、お茶を飲んでいた。

ㅤ──西阪悠里が捕まったのは、ニュースで見た。その後彼がどうなったのかは、一切分からない。でもきっと……。


ㅤ「……生きてるよねぇ。」


ㅤお婆ちゃんは……信じていた。彼が──生きていると。



ㅤそうして、待ち続けていた……そして、ある日。


ㅤ一台の4WDが、お婆ちゃんの家の前に停まる。

ㅤそして運転席から一人の女が降りてきた。


ㅤ「何の用だい?ㅤ……警察にも話したけど、あの狐……は……。」


ㅤ話しながら車の方を見ていて……言葉を、失った。


ㅤジャリっ、と音を立て、一人の人物が助手席から降りる。そして──。


ㅤ「ばあちゃん、狐がどうしたって?ㅤ」


ㅤニシシ、と笑った彼。それは──紛れも無い狐の獣人、西阪悠里であった。


ㅤ──実はあの時、銃弾は心臓へと向かっていた……が。

ㅤ胸ポケットに入れていたオイルライター、それ奇跡的に当たり、少し軌道を──逸らしたのだ。

ㅤその結果肺を貫通する結果となったものの……心臓や重要な血管を傷つける事は無く、またすぐに手当てが行われた事もあり……彼は、助かったのである。





ㅤ「さて、紹介するねばあちゃん。俺のフィアンセ、霧里凛だよ!ㅤ」


ㅤニヤニヤと西阪は笑い、彼女──霧里を紹介すると、彼女は顔を真っ赤にして言う。


ㅤ「ちっ、ちが……っ、じゃ、じゃなくて……。」


ㅤそんなオロオロしている彼女を笑いながら抱き締める彼、そしてそのまま──。















ㅤ──キスをした、のだ。


ㅤ「あららあハイカラだねえ。」


ㅤそう言って笑うお婆ちゃん、少し照れた様子で頭を掻く悠里、そしてあまりの恥ずかしさに怒りながら彼の頬っぺたをつねる凛。


ㅤそんな彼等を暖かな日差しが包み込む……二人の首に掛けられたあのドックタグは、光っていた。





ㅤ──その後、二人は結婚、今もとても仲が良く──霧里さんのお腹の中には先輩との子供──新たな命が、いるそうだ。










5ㅤ新たな旅立ちに


ㅤ──国営の墓地。巨大な敷地内に沢山のお墓が延々と……並べられている。


ㅤその一つの前に、俺──佐藤充は立っていた。

ㅤ花束を供え、手を合わせる。そして墓石を見つめ……言った。


ㅤ「……吉永さん。俺は貴方のお陰で……沢山の事を学びましたし、色々な事を……教えてもらいました。」


ㅤさあぁ、と柔らかな風が吹く。


ㅤ「……これから、俺は海外に……ルポライターとして、取材に行きます。どうか……見守ってください。」


ㅤそう……言った。すると──。



ㅤ「俺は……生きてるぞ。」


ㅤハァ……と傍で深い溜息を吐く──服は昔とは違いジーンズにパーカーと言うラフな格好になった──吉永さん。そんな彼に対して俺は言う。


ㅤ「え?ㅤ知ってますけど……?ㅤ」


ㅤするとそれを聞いた吉永さんは更に深い溜息を吐いて、


ㅤ「……墓石見ながら言ったら、死んだ奴に言うみたいだろ……。」


ㅤと言って……頭を抱えた。



ㅤ──あの日、撃たれてすぐ、彼は病院へと搬送された。出血多量で、危険な状態。

ㅤしかし……応急処置が早かった事などが重なり──奇跡的に、吉永さんは助かったのだ。まあ……あの時受けた傷は今も弾痕として彼のお腹に無数に──残っているが。


ㅤだが──彼は、助かったのだ。


ㅤそして今は、俺と同じルポライター、と言う仕事を始め──俺と共に行く事になった。

ㅤこのお墓は、吉永さんの親友、稲葉周平さんのお墓だ。中津さんのお墓参りは、もう済ませてある。






ㅤ「……稲葉、あの時は助けられなくて悪かった。あと……ありがとうな。……お前のお父さんは今、国際裁判所で裁判を受けてる。多分有罪だが……ちゃんと罪を償うそうだ。」


ㅤそう……元防衛大臣の稲葉さんの事を話す。そして……こう言った。


ㅤ「……俺は生きる、未来をな。だから……見守っていてくれ。」


ㅤそれから墓石を二、三回ほど撫で、歩き出す。


ㅤ「ちょっと待って下さいよッ!ㅤ」


ㅤそう言いながら追いかける俺に向かって、優しげな表情を浮かべた狼は言う、


ㅤ「未来は待ってくれないぞぉっ。」


ㅤと。




ㅤ──これが、彼らの新たな人生であり……俺にとっては新たな旅立ち。




ㅤかつてその身体を紅色に染めて戦った狼は、平和に……自由に生きるという、白い夢を叶えたのだ。

ㅤそれを考え、俺は本作品を、"紅狼白夢"と、名づけた。



ㅤ──これからも、俺たちには沢山の苦難があると思う。けど少なくとも俺達は……前を向いて、歩いて行こうと思う。






Chapter.12ㅤend








紅狼白夢ㅤFin





ここから、おまけ編です。

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