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Chapter.11ㅤ戦ㅤ下




1ㅤ黒幕の心情


ㅤ──全ては、"彼"を助けたかっただけなのだ。


ㅤしかし……それだけを考えて私は、周りを全くと言って良い程、見ていなかった。

ㅤ……そして、この結果がこれだ。"彼"を助ける事も……叶わなかった。


ㅤ私は……間違っていたのだろうか?









2


ㅤ「うぉりゃああああッ!ㅤ」


ㅤバン!バン!、と言う銃声が……廊下に鳴り響く。やがて、会議場入り口で警護していた奴らは、全員……片付いた。


ㅤ「……後は、入るだけですね、隊長。」


ㅤそう本田は言う。……あまりにも長い、道のりだった。


ㅤ「……ああ。」


ㅤ俺はそう言いながら……あの日、中津元基地長から聴いた黒幕の話を、思い出していた。





ㅤ──昔は、黒幕を殺してでも真実を伝えるつもりだった……が、真実を知った今、彼を責める気持ちと、責められない気持ちが複雑に混ざり合っていた。この件の黒幕は……だが、罪は償って貰わなければならないと、同時に思う。


ㅤだから──。


ㅤ「……だから、行こう。」


ㅤ俺はそう言ってノブを持つ手に力を込める。そして……扉を、開いた。




──────────


ㅤ「岸田さぁん?ㅤもう終わりですか?ㅤ」


ㅤ──高橋は、あまりにも強い。

ㅤまず、動きが常人ではあり得ないほど素早く、なにより身体が柔らかいのである。そのしなやかで早すぎる動きに、俺は苦戦していた。


ㅤ……不幸中の幸いは、NB01、と呼ばれている獣人が俺が逃げない限り撃ってこない様に命令されている点だ。つまり……一応、高橋に集中出来る。


ㅤ「いやいや、まだ序の口だ。」


ㅤ全身の毛を湿らせながら……虚勢を張る。

ㅤ高橋は満足げに笑い、斬りかかってくる。


ㅤ──慌てて避けるが、避けきれず頬から血が流れ、奴の軍刀と自らを汚す。


ㅤ俺はぎゅっ、と銃剣を握り締める。……もはや弾切れで、短い槍の様な役割しか果たしていない。


ㅤだが……それでも勝ってやる。


ㅤ──不可能にも思える挑戦に笑ってしまうのは、心の奥底からの諦めの所為なのか、いや、違う。


ㅤこの戦いを……強い奴と戦う事を、楽しんでいるのだ。


ㅤ──そう言う考えに行き着き俺は、自嘲気味に微笑んだ。









3


ㅤ「Shit!ㅤ(くそっ!ㅤ)」


ㅤそうジャックは叫びながら、西阪悠里を担ぎ、走っていた。


ㅤその隣で悠里に声掛けをしながら手伝っているのは、凛。


ㅤ「A nephew!ㅤDo not die!(おい!ㅤ死ぬなよ!ㅤ)」


ㅤそうジャックは呼びかけながら、出口へと向かい、走る──その時。


ㅤ「動くなァ!ㅤ」


ㅤジャキジャキシャキッという金属が擦れる音と共に、黒い特殊部隊用戦闘服──日本防衛軍の部隊がジャック達に向かい、銃を突き付ける。


ㅤ「……流石です、霧里少尉。彼等を捕まえるとは……。」


ㅤそう言いながら敬礼をする男に、凛は掴みかかり、言った。


ㅤ「早く衛生部隊を呼んでッ!ㅤ」


ㅤ……と。



ㅤそれからすぐ、ジャック・コナーは確保、西阪悠里は病院に緊急搬送された。


ㅤ──そして、日本防衛軍は建物内に本格的に突入。


ㅤ「……。」


ㅤそんな光景を──放心状態の凛は、見つめていた。








4ㅤ岸田視点


ㅤ「ぐぎゃあぁっ……!ㅤ」


ㅤ慌てて俺は避ける。

ㅤ肩から血が流れる。……クソッ、痛い……。


ㅤ「避けるのに精一杯って感じですかぁ?ㅤ」


ㅤそうニヤニヤしながら、高橋は聞いてくる。それに対し俺は、


ㅤ「いやぁ……まだ本気出してないだけに決まっているだろ?ㅤ」


ㅤと言い、笑う。


ㅤ「クク……まあ、楽しいからいいでしょう。でも……捨て駒をこんなに倒すとは……強いですよねえ。」


ㅤククク、と笑いながら高橋は笑う。


ㅤ──どうやら、こいつは……。


ㅤ「……自分の部下を、捨て駒だと思っているのか?ㅤ」


ㅤそう、問いかけると──高橋は笑って言った。


ㅤ「ええ、そうですよ。僕一人いれば勝てますし……こいつらは、貴方達に少し傷を与えれればなぁ、位にしか思ってませ……ッ!?ㅤ」


ㅤ「……油断したな、高橋。」


ㅤ俺は……高橋の話している隙に、その腹を刺した。

ㅤそしてそのまま奴の軍刀を掴み、奪い取る。


ㅤ「クソがっ……!ㅤ」


ㅤそう叫びながら高橋は俺の事を蹴り刺さっている刀身を抜く。


ㅤ──ドボボボボ……。


ㅤ次の瞬間、奴の腹から大量の血が流れ出した。







5

ㅤ平成会議場国際禁戦会日本会場。

ㅤ現在、この場所が襲撃されている事を知っている人々は少ない。──これは、防衛大臣が「混乱を招く為大臣達には伝えず、警備をより強固にして対応せよ。」と言う指示の結果だ。


ㅤ「では、これより宣言を行います。」


ㅤそう、総理大臣が言い、手元にある紙を持ち、話そうとした──その時であった。


ㅤバァン。そんな音と共にドアが開き、中に2人の男が入ってくる。

ㅤそして次の瞬間、扉の前に居た2人の警備員が銃を向く前に殴り、倒し……次は銃で、周りの警備員を倒していった。


ㅤ「キャーッ!ㅤ」


ㅤ報道関係者席にいた記者らしき女はそう叫び、頭を抱え──続きで、様々な言葉が飛び交う。


ㅤ「静かに……してください。」


ㅤしかし、その言葉と……一発の銃声によって、全ては……静かになった。

ㅤ武装した男は、1人は狼、もう一人はシェパードそっくりな顔をしていた。


ㅤ「……我々は、国家の指示によりこの姿にされ、その後……抹殺されたのである。」


ㅤそしてそう……カメラや報道関係者、そして突然の事で固まっている政府関係者に向けて、言ったのだ。






6


ㅤ「ぁ……!?ㅤ」


ㅤ信じられない、と言う顔で高橋は両手で胸の傷を押さえていた……しかし、血は止まらない。


ㅤ「僕は……最強なのに……なんで……死ぬ訳ない、死ぬ訳無いんだ……ッ。」


ㅤそう叫びながら、高橋はよろよろと岸田に近づく。


ㅤ「お前は……負けたんだ。そして……死ぬ。」


ㅤそうゆっくりと……岸田は言う、すると高橋は血を吐き、血走った目で叫んだ。


ㅤ「死なないッ!ㅤお前を……殺すんだぁッ……!ㅤ」


ㅤそう言って岸田に手を伸ばし……もう少しで、彼に手が届く──その時。


ㅤ「ぁぇ……?ㅤ」


ㅤ何かに引っ張られ、血塗れの黒猫は倒れる。そしてその口に拳銃の銃口を入れられた。


ㅤ──最期に見たのは、自分が"捨て駒"と言った味方の一人の顔。


ㅤそいつはたった一言。


ㅤ「……死ね。」


ㅤと言うと──引き金を引く。その瞬間、一瞬の痛みと共に、高橋の意識は、深い闇の底に……消えた。





ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。

ㅤそしてその更に16分後頃、伊月達はある程度施設内を制圧、そして伊月グループの一人である西沢悠里は、日本防衛軍軍人である霧里凛との戦闘を開始。そして同時刻である11:26頃、米軍中尉クリストファー・モラレスは敵の弾丸を受け、戦死した。

ㅤそして11:38頃、吉永達のグループと日本側の高橋率いる獣人部隊が、交戦状態に突入した。

ㅤそして11:45頃、西沢悠里はジャック・コナーが撃った弾に霧里凛を守る為に被弾し、重傷を負った。

ㅤそして11:50頃、アメリカ合衆国大統領ジェイムズ・ケネディは演説を行った。

ㅤそして12:05頃、吉永と本田は議場へと突入しほぼ同時刻、高橋斬は死亡した。






7ㅤ吉永伊月視点


ㅤ「……さて、これが我々が知る限りの情報、全てである。……今頃、アメリカ合衆国でも、これが事実であると言う声明も発表されて居る頃だろうし……少し前に自殺した中津総一郎氏から得た証拠となる文書も公開したので、これは……真実である。」


ㅤそこまで俺は言い、言葉を止める。


ㅤ「……!?ㅤ」


ㅤざわめきが……起こっていた。

ㅤ当たり前だろう、自分の国でそんな事が行われているなんて、本気で考える奴なんて殆ど居ない。


ㅤ「……そういえば、黒幕は誰なんですか?ㅤ」


ㅤ……そう尋ねてきた1人の記者、そういえばまだ……黒幕が誰なのか、言って居なかった。


ㅤ──あの日、基地長から聴いた全てを指揮した黒幕の名前。


ㅤ「……それは。」


ㅤ深く、息を吸う。そして……言った。


ㅤ「全てを指揮したのは、貴方ですよね。防衛大臣、稲葉総一郎さん。」


ㅤそれが……真実であった。


ㅤ「クッ……!ㅤ」


ㅤそして急に稲葉大臣は立ち上がり、懐から拳銃を出し、俺へ向ける。

ㅤ隣に座っていた大臣や、俺の周りにいた報道関係者は……ざわざわしながら一瞬で離れた。


ㅤ──そして続いたのは、永い沈黙……であった。






8ㅤ岸田視点


ㅤ「……良かったのか?ㅤ」


ㅤ頭を撃ち抜かれ、後頭部から脳漿と血で派手に床を汚し……目を見開いたまま死んでいる──高橋斬。

ㅤその表情は驚きに満ちたまま固待っている──おそらく、自分が負ける事……死ぬ事が、信じられなかったのだろう、最期まで。


ㅤ「ええ、良かったんです。」


ㅤ立ち上がったジャーマンシェパードの青年は言う。


ㅤ「こんな奴……これで、良かったんです。こいつは……僕が殺した、唯一の相手ですよ。」


ㅤ彼の拳銃を持つ手は……震えていた。


ㅤ「君の手を汚させてしまって……すまない。」


ㅤ俺はそう言って、彼の手を握った。……と、その時。


ㅤ「ぅ……。」


ㅤ先程まで気絶していた佐藤が、呻き声を上げながら腕を動かした。


ㅤ「……目が、覚めたか。」


ㅤ「は……はい。」


ㅤそう俺が駆け寄り言うと、こいつは半分ポカンとした顔で言う。


ㅤ「さて……行くぞ。吉永達を助けなきゃな……こいつらも、伸びているだけだし。」


ㅤ俺は倒れている獣人達を見ながら言う。高橋は死んでいると思った様だが……実際は西沢特製のスタンガンで気絶しただけだ。怪我も……致命傷では無い。


ㅤ「あ、はい。そ、そうですね……。」


ㅤそう言いつつ佐藤は立ち上がる……が。

ㅤ俺はある音を聞きとり、彼に言った。


ㅤ「……先に行け、足止めする。」


ㅤ「え……?ㅤ」


ㅤポカンとする彼に俺は言う。


ㅤ「いいから行け!ㅤ走れ!ㅤ」


ㅤと言うと……佐藤は頷き、よろよろと走り出す。


ㅤ俺はそれを見送る事無く今まで来た道の方を見つめる──傍には、例の青年。


ㅤ「……行ったら、どうだ?ㅤ」


ㅤ俺がそう問いかけると、シェパードの彼は笑って言った。


ㅤ「いえ……こっちの方がいいです。それに……沢山居るみたいですし、多いほうがいいでしょ?ㅤ」


ㅤそれを聴いた俺は笑って言った。


ㅤ「ああ、そうだな。……よろしく頼むぞ?ㅤ」


ㅤ「そっちも、頑張って下さい。」


ㅤそう言うと、俺たちは一言も喋らず、武器を構える。

ㅤやがて、重武装をした奴ら──日本防衛軍の軍人達がやって来て、俺たちに向けマシンガンの銃口を向ける。


ㅤ「さぁ……行くぞォッ!ㅤ」


ㅤそう俺は叫び……銃剣を振りかぶった。







ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。

ㅤそしてその更に16分後頃、伊月達はある程度施設内を制圧、そして伊月グループの一人である西沢悠里は、日本防衛軍軍人である霧里凛との戦闘を開始。そして同時刻である11:26頃、米軍中尉クリストファー・モラレスは敵の弾丸を受け、戦死した。

ㅤそして11:38頃、吉永達のグループと日本側の高橋率いる獣人部隊が、交戦状態に突入した。

ㅤそして11:45頃、西沢悠里はジャック・コナーが撃った弾に霧里凛を守る為に被弾し、重傷を負った。

ㅤそして11:50頃、アメリカ合衆国大統領ジェイムズ・ケネディは演説を行った。

ㅤそして12:05頃、吉永と本田は議場へと突入しほぼ同時刻、高橋斬は死亡した。

ㅤそして12:25頃、岸田とNB01こと疾風号は日本防衛軍を迎え撃ち交戦、生死不明である。






9ㅤ佐藤視点


ㅤ走った、走って走って……走った。


ㅤやがて……議場前に辿り着いた時、扉は開いていた。


ㅤ──慌てて中に入ろうとすると、銃を突きつけられた。


ㅤ「何だ。……ごめんね?ㅤ」


ㅤ──本田さんだ。本田さんはふぅ、と溜息を吐くと、


ㅤ「今は……いよいよ終わりって感じ。さ……取材、頑張って。」


ㅤそう言って本田さんは言う。俺は頷くと、扉から入って一番端に行き、カメラを構えた。



ㅤ……報道者として……真実全てを、記録する。



ㅤ──吉永さんは、銃を抜く事は無かった。

ㅤ対して防衛大臣は、少しづつ銃を向けつつ……吉永さんに近づく。


ㅤ「……何故、私がやったと言えるのかね?ㅤ君が行っているのは、テロだ。……ここで沢山の人が死ぬ可能性を考え……君の事を殺す。"防衛"の為にな。」


ㅤそう言いながら銃を構える稲葉大臣、そんな彼に対して彼は言った。


ㅤ「……そんな事して、罪を重ねて……貴方が護ろうとした息子さんは……喜びませんよ?ㅤ」


ㅤ……と。


ㅤそして訪れる、まるで……音が消えてしまったのかの様な、沈黙。そして……動いたのは。


ㅤ「……稲葉周平、貴方は……戦争を早く終わらせて、息子さんを戦地から早く帰還させたかったんですよね?ㅤ」


ㅤゆっくりと……はっきりとした声で、吉永さんは言う。


ㅤ「……。」


ㅤそしてそれに対する大臣の答えは……。


ㅤ「……そうだ……。」


ㅤイエス、だった──。







10


ㅤ「……何故、だ。」


ㅤ銃を向けながら大臣は問い掛ける。


ㅤ「確かに……私の息子は、戦地に行った、そして戦死した……しかし、未婚の女との間いの子だから、隠していた筈だ。それに……息子が行っていた、と言うだけで理由になるとは、思えんな。」


ㅤすると吉永さんは、


ㅤ「貴方は、戦争を早く終わらせる為、より強力な兵器を模索していた……そこで見つけたのは、B兵器……そして貴方はそれを、研究したが……満足な結果は得られず。やがて……人間を、傷ついた人間を獣人に改造して使うという案を研究者たちは思いついた。例えば大火傷を負っていても……獣人化の過程で新たな身体として……皮膚も再生しますからね。」


ㅤと言いながら……まっすぐ、大臣の事を見据える。男は……何も、言わなかった。


ㅤ「……結果として、志願した1人……高橋斬と、重傷を負った俺達を獣人とした──戻す方法は無い為、研究用に本土に連れて行く高橋斬以外は全て、処分──殺す事を、命じていた。そして、獣人達は戦いに出ると次々と戦果を上げていった……が、ここで予想外の事が起きたんですよね?ㅤ」


ㅤ最後は……そう、吉永さんは大臣は尋ねる。それに対し大臣は──答えた。


ㅤ「……ああ、その通りだ。」


ㅤ……と。


ㅤ「獣人達は自分を見た一般兵……つまり、B計画について一切聞かされて居ない人々を殺す様命じられて居ました。しかし……稲葉周平は、見てしまったんです。だから……殺された。」


ㅤ──そこまで吉永さんは言うと言葉を切った、すると……。


ㅤ「……そうだ。本当なら息子をすぐに帰還させたかったが、あいつはそれを拒んだんだ。『この国を助ける為に、戦いたい。』……とな。だから早く戦いを終わらせる為にB兵器を導入したのに……結果、息子は……周平は、死んだ。」


ㅤハハ、と乾いた笑いを浮かべる稲葉……総一郎。


ㅤ「本末転倒だ……それに、私はB計画を指揮したと言う事で研究者から脅しを掛けられたんだ。『研究を続けさせなければ、公表する。』とな……結果、周平を助ける為に行った事が、息子を死なせ……私の首を、締めた。」


ㅤその表情は、絶望と疲れに満ちていた、やがて……大臣は、吉永さんの眉間に銃口を突きつけた。


ㅤ「……お前達の責任だ、お前達の。」


ㅤ俺は思わず吉永さんを助けようと走りかけたが──吉永さんの一言によって、足を止めた。


ㅤ「……復讐を、息子さんが……稲葉が望むと思いますか!?ㅤ」


ㅤそう強い口調で、訴え掛ける口調で言う、吉永さん。


ㅤ「お前に息子の何が分かるッ?ㅤ」


ㅤそう強い口調で言う稲葉総一郎をしっかりと見据え、彼は言った。


ㅤ「稲葉とは親友でした。そして俺は……あいつを、目の前で……死なせた。あいつをよく知っているから分かります、あいつはこんな事……絶対に、望まない……ッ!ㅤ」






ㅤ「……。」


ㅤカラン、と銃が床に落ちる。そしてそれと同時に総一郎はポカン、とした顔で言った。


ㅤ「……そうか……ああ……。」


ㅤぼんやりと呟き続ける男、やがて……。


ㅤ「一つ……教えてくれ。息子は……最期、どんな感じだった?ㅤ」


ㅤそう、か細い声で問い掛けた。

ㅤそれに対し、吉永さんは……即答した。


ㅤ「あいつは、最期まで仲間を思っていました。多分……貴方の事を恨んではいませんよ。」


ㅤ──と。




ㅤ──その光景を、全ての人がじっと見ていた。やがて……。


ㅤ「私を……殺せ。」


ㅤそう稲葉は……言う。それに対して吉永さんは優しげな表情で──言った。


ㅤ「殺しませんよ。……貴方は生きて、罪を償って下さい。きっとそれをあいつは……望んでます。」


ㅤその言葉を聞いた稲葉はゆっくりと……だが、深く頷く。




ㅤ──ハッピーエンドだと、思った。

ㅤ全ての事……とはいかない、沢山の犠牲はあった……が。


ㅤハッピーエンドになったと、俺は思ったのだ。



ㅤしかし……。




ㅤ「なっ……!?ㅤ」


ㅤタタタッ、と言う足音、廊下に行った本田さんの声、そして……。


ㅤ「目標、発見!ㅤ」


ㅤ廊下から軍人が──日本防衛軍の軍人が入ってきて、そして……。













ㅤ──ドドドドドッ!












ㅤ「……!ㅤ」


ㅤゴフッ、と言う咳と共に血を吐き──吉永伊月は胸から血を流し、倒れる。


ㅤ「吉永さんッッッ!ㅤ」


ㅤ一斉にあちらこちらへ逃げ回る人々を避け、吉永さんの所へ行くと──稲葉は、吉永さんの返り血を浴びて……固まっていた。


ㅤ「俺は……死ぬのか……。」


ㅤゲホッゲホッ、と血を吐きながら彼は言う。


ㅤ「死ぬ訳無いじゃないですかッ……絶対ッ!ㅤ」


ㅤ俺は叫ぶ様に言うと……彼は目を細め、俺の事を見た。そして……、


ㅤ「……佐藤、ありがとうな。」


ㅤそれが……彼の最後の言葉、胸に空いた弾丸の通った傷から流れ出す血の海に彼は沈み……開かれた瞼は開かず、体温は徐々に──失われて、行く。


ㅤ「死ぬなァァァ……ッ!ㅤ」


ㅤ──俺は、叫んだ。








Chapter.11ㅤend

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