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10/15

Chapter.10ㅤ戦ㅤ上


1


ㅤ「えー。こちら、国際禁戦宣言会会場の国立日本平成会議場前です。会場では炎天下の中警察官や日防により警備が行われており、かなり大変そうですね……。開会する11:00迄は残り1時間を切りました!ㅤ」


ㅤ中日TV、と言う全国放送のテレビ局タスキを掛けたキャスターがテレビカメラに向かい話をしていた。


ㅤ──そんな人々をよそに、彼女……霧里凛は部下を二人引き連れ、施設の外を歩いていた。


ㅤ「こちら第12班霧里。異常無しです。」


ㅤ『こちら仮設本部、第12班、了解、監視を続けてくれ。』


ㅤ「こちら第12班霧里、了解。」


ㅤ定期的に本部に通信を行いながら警備を行う。


ㅤ……奴らは、来るだろうか?


ㅤ私は……確信していた、奴らは、来ると。






ㅤ──その頃、国立日本平成会議場内。

ㅤ普段は国際的な会議の場としてや……講義や集会等も行われているその場、そこには現在、内閣関係者や報道関係者などの……沢山の人達が集まっていた。

ㅤやがて……発言台に1人の老人……内閣総理副大臣が立つ。そして……。


ㅤ「これより。第1回日本国際禁戦宣言会を開会する。」


ㅤそう宣言をすると、深々と礼をする。

ㅤ──それから、副大臣は自分の席へと戻り、司会を務めている男が、


ㅤ「では始めに、前のアジア・太平洋戦争における我が国の兵士、及び世界各国の兵士とこの戦いにより巻き込まれ、亡くなった全ての方々に対し、哀悼の意を表すと共に、黙祷を捧げたいと思います。黙祷──。」


ㅤと言い……全員が黙祷を始める。

ㅤそんな中……少し不安そうな表情で辺りを見渡している男が居た。


ㅤ──防衛大臣、稲葉総一郎である。


ㅤ「……。」


ㅤ彼は暫く辺りを見ていたが……やがて、安堵の表情をすると、黙祷を始める。


ㅤ「……ありがとうございます。」


ㅤそれから数十秒後……司会の男が言い、全員黙祷を終えた。





ㅤ──国際禁戦宣言会……長い1日は、始まったばかりである。







2


ㅤ──宣言会が開幕した直後、5台程のワゴン車が会場の敷地内へと入ろうとしていた。


ㅤ「すみません、今日は許可証の無い車両は入れるなという決まりでして……。」


ㅤそう仮設の検問所で先頭の車を停車させた警察官は言う。……と言うより、この車……全ての窓がスモークになっており、中が見えないのだ。……法律違反である。


ㅤ「ちょっと運転手さん?ㅤ降りてくだ……!?ㅤ」


ㅤ警察官が運転席の窓に近づき、言うと車の窓が少し開き……唐突に、銃を突き付けられたのだ。

ㅤそれから、警察官に向かって車内の男は言った。


ㅤ「……通せ。」


ㅤそれから数分後、ワゴン車隊は検問所を突破し……非常事態警報が発令された。


ㅤしかし、まるでそんな事を気にしない、と言うばかりに次々と車両がやって来た。

ㅤ次にやってきたのは……軍隊の軽装甲車、しかしそれは日本防衛軍の物ではない、アメリカの国旗が描かれた車体……アメリカ軍の物であった。




ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。









3ㅤ佐藤視点


ㅤ「いいか。俺はこれから外の奴らと共に戦わなくちゃいけない。だから君たちには付いては行けない……それから、一応何人か一緒に内部に突入させるが……自分の身は極力、自分で守ってくれ。」


ㅤ──アメリカ軍のワゴン車の中で、モラレス少尉は言った。


ㅤ「ああ、そのつもりだ。それより……良かったのか?ㅤこんな事までして貰って……。」


ㅤ吉永さんはものすごく申し訳無さそうに言う、すると彼は笑って、


ㅤ「いいんだ。大統領令だからな。……それより、健闘を祈る。君達三人も……本田と、岸田と……以上だな。」


ㅤ「I also go.」


ㅤそうムカついた様な顔で言ったのは、吉永さんの仲間の犬の本田さんと鹿の岸田さんの仲間の、アメリカ人の……ジャック・コナーさん。


ㅤ「まあとにかく、頑張ろう。皆!ㅤ」


ㅤそういつもと同じ様な調子で言うのは先輩、それを聞いた本田さんは笑って、


ㅤ「西沢は変わらないなぁ。そう言う楽天的なトコ、と言って笑った。」


ㅤ……和やかな雰囲気、しかし全員防弾チョッキ等の戦闘服を着て、武器を持っている……そんな日常の非日常。

ㅤやがて……車は停止する。


ㅤ「……じゃあ、必ずまた生きて会おう。健闘を祈る。」


ㅤそんなモラレス少尉の言葉に全員が頷く。……確かに、この中に居る人達も……俺を含め、死んでしまっても、おかしくないのだ。


ㅤ「……お前は俺についてこい。そのビデオカメラ、絶対に壊すなよ?ㅤ」


ㅤ小声で吉永さんは笑いながら俺に言う。


ㅤ少尉は扉に手を掛ける。全員武器を構え、俺はビデオカメラを構える。……全てを、記録する為に。


ㅤそして──扉は開かれ、全てが始まった。




4


ㅤ「防衛大臣……。」


ㅤ大臣の演説中、唐突に彼の秘書が小さな声で話しかけて来た。稲葉は、


ㅤ「……どうした?ㅤ」


ㅤと小声で聞く。すると秘書は、


ㅤ「……米軍がこの施設に攻め込んで来ました。何人か侵入し、その中には例の"彼ら"も……。」


ㅤと言う、そしてそれを聞いた彼は小さく息を吐くと、


ㅤ「……内部に居る奴らはなんとしても抹殺しろ。かれらの遺体は絶対に見つからないよう処分だ。……あいつらを使え、それからこの部屋には絶対入れるな。」


ㅤと言う、すると秘書は頷き、議場を出た。





──────


ㅤ──その頃、


ㅤ「……施設内部に侵入。敵兵は発見次第倒します。」


ㅤ『こちら本部、了解。』


ㅤそんな報告を終え、凛は部下2人と地下駐車場から施設内へと上がる階段を歩いていた。

ㅤ──サイレンサー付きの銃はセーフティが外してあり、何時でも発泡可能である。


ㅤ「……中の警備を行っていた人達とは連絡が取れていないわ。……行くわよ。」


ㅤそう言って"フロア1"と言う文字の書かれた扉に手を掛け、開く。


ㅤ──そこは、施設の従業員用廊下。そこにはとりあえず誰も……居ないようだった。


ㅤ「……。」


ㅤ彼女が無言で後ろの2人にサインを送ると、二人は中に入り、安全確認を行う。


ㅤ──殺してやる。


ㅤそんな様子を見ながら彼女は、心の中で呟いた。



──────


ㅤ6階、多目的室。

ㅤその部屋に、彼らは居た。


ㅤ軍隊並みの武装をし、日本国旗のマークが描かれた──まるでSWATの様な服装をしている彼らは、人間ではない。

ㅤ伊月達と同じく、獣人……最も、彼らは警察犬などの犬を改造して獣人となったのだが。

ㅤ6人くらいの彼らの中には複雑そうな表情を浮かべたNB01……疾風号の姿もある。

ㅤそして、そんな彼らの前に立つ、フードの男……。


ㅤ「……これは、戦争だ。必ず勝つぞ……いいな。」


ㅤそう言って彼は上着を脱ぎ捨てる。

ㅤその中に着ていたのは……ボロボロになった、日本防衛軍の軍服。そして……軍刀。


ㅤ「必ず殺すぞ。」


ㅤそう言った彼は……黒猫の獣人である。名前は高橋斬。……第参次世界大戦において伊月達と戦い、彼らとは別に帰国した男である。


ㅤ──獣人達は、頷いた。




5


ㅤ「んー!ㅤんんっー!ㅤ」


ㅤ「すみませんねえ……大人しくしてて下さい。」


ㅤそう言ってガムテープでぐるぐる巻きに拘束した警備員や軍人達を一部屋に押し込み、鍵をかけ、ドアの前に物を置いて開けられないようにする……それで大丈夫だと、吉永さん達は言っていた。


ㅤ「……さて、これから行くか?ㅤ会議場に。」


ㅤそう吉永さんは言う。……みんな、臨戦態勢で……いつでも戦える。準備は、万端だった。


ㅤ「さ、行くか!ㅤ」


ㅤそう、先輩が言った……その時。


ㅤ「……それは無理ね。」


ㅤ唐突にそんな声が背後から聴こえたのだ。

ㅤ──そして、背後には……あの女が、俺たちを襲ったあの女が、銃を構えた軍人二人と共に、立っていた。


ㅤ「お前はッ……!?ㅤ」


ㅤ驚愕の表情で女の事を見る吉永さん達、ただ一人……西沢先輩だけは、口を噛み締め、じっと女を……見つめていた。


ㅤ「……貴方達は重罪を犯した、射殺命令が出ているの。それに……。」


ㅤそう言って女は、不釣り合いな大きさの拳銃の安全装置を外し、俺たちに向ける。そして……。


ㅤ貴方達は、私の彼を殺した。だから……仇を討つ。」


ㅤ憎しみがこもった視線。それに対し本田さんは、


ㅤ「ち、違います!ㅤ貴方の彼は……ッ!ㅤ」


ㅤ──何かを言おうとしていた本田さんを手で制し、彼……西沢先輩は言う。


ㅤ「……相手になってやるよ。……行け!ㅤ」


ㅤ後半は……俺たちに対しての言葉だった。俺は、


ㅤ「だ、だめです!ㅤ先輩がいないとっ……!ㅤ」


ㅤと叫ぶ、すると先輩は、


ㅤ「これは俺一人で片付ける!ㅤ行けッ!ㅤ」


ㅤと……声を荒げたのだ。そして次の瞬間──。


ㅤ「おわっ!?ㅤよ、吉永さん!?ㅤ」


ㅤ俺は、吉永さんに抱きかかえられていた。そしてそのまま彼らは……奥へと進む。


ㅤ「は、放してください!ㅤ助けないとっ、先輩がっ!ㅤ」


ㅤ向こうから激しい発砲音が聞こえる中、俺はそう叫びながら暴れる。すると──。


ㅤ「多分、問題は無いよ。……だって、あの二人は……恋人同士、だったからね。」


ㅤそう、本田さんは……言ったのだ。


ㅤ……それから少しして、階段を登っている最中……二人が居た方から聴こえていた銃声は唐突に──止んだ。






──────


ㅤアメリカ軍少尉クリストファー・モラレスは、必死に戦っていた。


ㅤ装甲車の陰に隠れ、軽機関銃を撃つ。少し撃っては隠れるの、繰り返し。


ㅤ……状況はとにかく、芳しくは無い。


ㅤだが、戦わなければならないのだ。我が国の為、正義の為、"彼ら"の為、そして……本国に居る家族が、安心して暮らせる為に。


ㅤ「よし!ㅤいいか……絶対に奴らを中に入れるな!ㅤこれ以上なッ!ㅤ」


ㅤそう叫び、部下たちに指示を出す。

ㅤしかしそれは……唐突に訪れた。


ㅤ「いいか!ㅤ頑張……れぇっ……!?ㅤ」


ㅤ背に感じた、鈍い痛み、内臓に何かが入る、激痛。

ㅤ──唐突に感じた、息が苦しい、背から生温い液体……血液が流れていくのが、よく分かった。


ㅤ「ァッ……。」


ㅤ急速に薄れる意識、倒れる肉体。


ㅤ「隊長ォッ!ㅤ」


ㅤそう言って駈け寄って来る部下に向かい、俺は言う。


ㅤ「いいかっ……最後の命令だっ……ここを守り……生きろ……ッ!ㅤ」


ㅤ必死に伝えると、部下は頷き、持ち場に戻る。

ㅤ──それから、薄れ行く景色の中、俺は空を見た。

ㅤ見えたのは……雲一つない美しい青空と、日本平成会議場の建物。

ㅤ──気のせいだろうか?ㅤ全身が黒い猫と人を混ぜた様な奴が、一瞬窓から俺たちを見た気がする。……しかし、薄れ行く意識の中、そんな事はどうでも良く。


ㅤ俺はただ、深い眠りに……身を委ねた。




ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。

ㅤそしてその更に16分後頃、伊月達はある程度施設内を制圧、そして伊月グループの一人である西沢悠里は、日本防衛軍軍人である霧里凛との戦闘を開始。そして同時刻である11:26頃、米軍中尉クリストファー・モラレスは敵の弾丸を受け、戦死した。






6


ㅤ「……流石、と褒めるべきかしら?ㅤ」


ㅤそう言って微笑む霧里凛、しかしその目は、憎しみに満ちていた。

ㅤそれに対し、西沢悠里は、先程気絶させた霧里の部下を横目で見ながら、


ㅤ「……別に、褒めたいなら褒めればいいんじゃないか?ㅤ」


ㅤ……と、笑みを浮かべながら言った。その目には特に敵意は無い。


ㅤ「……一つだけ、聴いていい?ㅤ……何故、西沢悠里達……貴方と同じ防衛軍の軍人を殺したの?ㅤ」


ㅤ無表情で、彼女は銃を向ける。

ㅤすると西沢は何処か哀しそうに言った。


ㅤ「……命令だった。俺たちを見た者はすべて殺せ、とな。」


ㅤ「そんな事はあり得ない。」


ㅤそう霧里は即座に否定する。それを聞いた彼は、


ㅤ「何故否定する?ㅤ」


ㅤと優しく問いかける。すると彼女はこう返した。


ㅤ「防衛大臣に聞いたのよ。そんな事実は無かった。」


ㅤ「……それが真実だと思うか?ㅤ」


ㅤ彼女の返事に返し、彼はそう訊ねた、そしてそのまま続けて、


ㅤ「……話を鵜呑みにするな。それが真実とは限らないぞ?ㅤ」


ㅤと言った。すると彼女は銃の引き金に力を込め、言った。


ㅤ「……貴方の話なんて、信じないわ。」


ㅤそして……引き金を引く。銃弾は発射されるが、霧里はそれを素早く避け、こう言う。


ㅤ「やれやれ……君にも気絶して貰うしかないか。」


ㅤすると彼女は容赦無く引き金を引きながら、


ㅤ「……また、でしょ?ㅤ」


ㅤと言った。








7


ㅤ「……大統領。そろそろ……お時間です。」


ㅤ──アメリカ合衆国ワシントンD.C.、ホワイトハウス。


ㅤ「そうか……。」


ㅤ大統領執務室には、二人の人間……大統領補佐官と、アメリカ合衆国第50代大統領、ジェイムズ・ケネディで居た。


ㅤ「……私は、正しい事をしていると思うかね、君は?ㅤ」


ㅤジェイムズは少し不安そうな顔で、補佐官の顔を見る。すると、


ㅤ「……私は、補佐官なので……。ですが、これだけは言えると思います。

……貴方は、これを行う事を決断した。なら、自らが思う風に、行動してみては?ㅤ」


ㅤ……そう、補佐官は言った。

ㅤすると彼はフッ、と笑うと、


ㅤ「……そうだな。なら、自らを信じるとしよう……では、行こうか。」


ㅤと言い、補佐官と共に……執務室を出た。





──────────


ㅤ──場所は変わり、日本。

ㅤ平成会議場、国際禁戦会議が行われている場所へと向かい、俺達は走っていた。


ㅤ「……もうすぐだな。」


ㅤそう言ったのは、吉永さん。

ㅤそう……もうすぐ、全てが終わるのだ。

ㅤ──それが、ハッピーエンドかバッドエンドかは、分からないが。


ㅤ「……気を引き締めましょう。皆さん……西阪さんは、きっと追いついて来ます。」


ㅤそう本田さんは言うが──先輩……大丈夫だろうか?

ㅤ心配……だった。


ㅤ「……心配しなくてもいい。あいつはあの戦いを生き延びた。必ず……生き残るさ。」


ㅤそう言って岸田さんは明るい声で言う。……でも。

ㅤ──まだ、不安そうな顔をしている俺を見た岸田さんは、ジャックさんに英語で何かを言う。

ㅤすると、ジャックさんは何か怒ったりしていた様だったが……やがて、引き返していった。


ㅤ「え……?ㅤな、なんでですか?ㅤ」


ㅤ俺が岸田さんに聞くと、


ㅤ「……見に行って貰った。大丈夫、あいつは警察だし……死にはしない。」


ㅤと答えてくれた。


ㅤ──と、その時だった。


ㅤカラン、と言う音と共に進行方向の廊下から一つの黒い塊が転がってきたのだ。そして……次の瞬間。


ㅤ「逃げろッ!ㅤ」


ㅤそう吉永さんが叫ぶのと、俺の身体が何かに叩きつけられるのは、ほぼ同時であった。

ㅤ腹の辺りに鈍い感触、そのまま俺の意識は、闇に堕ちた。









8


ㅤ「いいか。奴らはほぼ確実に死んでいない。見つけたら殺せ。」


ㅤ──とある廊下、そこに立つ黒猫の獣人……高橋斬は部下の獣人達にそんな指示を飛ばしていた。

ㅤ今回は手榴弾を使い、吉永達を慌てさせ、その隙に殺す、と言う作戦であった。……会が行われている会場が完全防音だった為に出来た芸当である。問題は入り口に立っている警備員であるが……作戦主要は説明してある為、問題は無い。


ㅤ──しかし、高橋にとって、一つ誤算があった。

ㅤ建物に使われていた素材が、爆発によって粉砕され、見えなくなる程の粉塵を上げていたのだ。


ㅤ──これでは、どうなっているのか分からない。

ㅤそこで彼は部下四人を煙の中に行かせる事にしたのだ。

ㅤ催涙ガスが使われた事を想定して持って来ていた防護マスクを付け、四人は煙の中へと入っていき……見えなくなった。


ㅤ「おい、どうだ?ㅤ」


ㅤそう高橋が聞くと、粉塵の中からは……応答が無い。


ㅤ「どうした、さっさと報告をッ!?ㅤ」


ㅤ──バララララララララッ!


ㅤ唐突にマシンガンが粉塵の中から発射される。慌てて高橋ともう一人……NB01は陰に隠れ、避けるが……。


ㅤ「ギャアウゥッ!?ㅤ」


ㅤそんな獣の様な悲痛な声を上げ、一人足を撃たれ、倒れる。そして……次の瞬間。


ㅤ粉塵の中から一人の防護マスクを付けたシェパードと獣人が飛び出してきたのだ──その防護マスクは高橋の部下の物だが……それを付けている獣人は、全くの別人であった。


ㅤ「ウオォォォォッ!ㅤ」


ㅤそう叫び声を上げながらその獣人へと向かい、足を撃たれた獣人は床に寝そべったままサブマシンガンを乱射する……が。


ㅤ弾は少し掠った程度で、彼はあっさりと顎を殴られ、そのまま動かなくなった。


ㅤそして粉塵の中から遅れて、マシンガンを持った狼の獣人と銃剣を持った鹿の獣人が現れる。


ㅤシェパードの獣人……本田は素早く後ろに下がり、狼と鹿……吉永と岸田と合流する。


ㅤ「……10年ぶりですね。」


ㅤそれを見た高橋はそう……言った。




ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。

ㅤそしてその更に16分後頃、伊月達はある程度施設内を制圧、そして伊月グループの一人である西沢悠里は、日本防衛軍軍人である霧里凛との戦闘を開始。そして同時刻である11:26頃、米軍中尉クリストファー・モラレスは敵の弾丸を受け、戦死した。

ㅤそして11:38分頃、吉永達のグループと日本側の高橋率いる獣人部隊が、交戦状態に突入した。




9ㅤ西阪視点


ㅤ「ゼェ……ゼェ……。」


ㅤ間を……取り続けていた。ハンドガンの弾は尽きた。

ㅤ一応、肩に掛けているサブマシンガンはあるが……彼女を傷つけてしまうかもしれない、と思うと……どうしても出来なかった。


ㅤ「どうしたの狐さん、もうスタミナ切れかしら?ㅤ」


ㅤそう言って挑発してくる彼女の額からは汗が滴っている。……かなり、大量は消耗しているらしい。


ㅤ「いやいや、お嬢さんこそ……。」


ㅤそんな言葉を返しながら、俺は彼女を如何に傷つけずに倒せるか、考えていた。


ㅤ──先ほど、隊長や佐藤君達が行った方で、爆発が起こった……彼らは大丈夫か……心配だ。


ㅤと……その時、


ㅤ「ッ!?ㅤ」


ㅤ俺は──壁に叩きつけられた。

ㅤそのまま、拳銃を眉間に突きつけられた。


ㅤ「……。」


ㅤ目の前に見えるのは、復讐に燃える目を持った……彼女、凛の顔。


ㅤ「……最期に教えて。どうして……西阪悠里……彼を、殺したの?ㅤ」


ㅤ──"西阪悠里"は、俺なんだけどなぁ。

ㅤ自嘲気味に俺は笑う。


ㅤ「答えなさい。」


ㅤ彼女は銃を押し付けてくる。

ㅤそれに対する俺の答えは……これだった。


ㅤ「……理由は、無い。」


ㅤ──理由は、君がこんな変わり果てた俺の姿を見たら、哀しむからさ。


ㅤ「……ただ、俺が殺した事は──間違いないだろう。」


ㅤ──だから俺は、過去の"俺"を、ある意味……殺したんだ。


ㅤ「……も……よくもっ……!ㅤ」


ㅤそれを聴いた彼女は……目を丸くし……その瞳から涙を流しながら、銃の引き金に力を込めていく。


ㅤ「……ごめんな。」


ㅤ──泣かせて、しまって。


ㅤそう思った時……、


ㅤ「Damm!ㅤ(クソッタレ!ㅤ)」


ㅤそんな声が響く。

ㅤ横目で声のした方を見ると、そこには……本田達が連れてきた、ジャックが……拳銃を構え、立っていた。


ㅤパァンッ!


ㅤそして──弾が発射される。

ㅤ彼女は驚いており、反応が遅れている。このまま行けば……心臓を……撃ち抜かれる……!


ㅤ「危ないッ!ㅤ」


ㅤ──ドンッ……ブチュッ……バタッ……。


ㅤそんな音が止むと……そこには、血まみれのまま床に座り込む彼女と……彼女に返り血を浴びせ、胸から血を流す俺が……居た。







10


ㅤ「……たった今、衝撃的なニュースが入ってきました!ㅤ」


ㅤ中日TV、と言う全国放送のテレビ局タスキを掛けたキャスター……たまたま平成会議場前で取材を行って居た記者は今、緊迫した状況をカメラに……その奥にいるスタジオや視聴者に向かい伝えていた。


ㅤ「現在、国際会議場が何者かに襲撃され、警備に当たっていた日本防衛軍及び警察と、激しい戦闘を繰り広げています!ㅤ」


ㅤドドドドドッ、と……辺りには激しい銃声や怒号が響き渡っている。


ㅤ「スタジオでは、何か情報が入ってきておりますでしょうか!?ㅤ」


ㅤそうキャスターか問いかけると、スタジオのアナウンサーからこんな回答があった。


ㅤ『現在の所、襲撃したグループはアメリカ軍である事が分かってます。それから、アメリカ合衆国大統領が緊急の記者会見を開いており、更に先程、日本防衛軍が行っていたとみられる非人道的な軍事生体兵器の存在が公表されました。』


ㅤと……そしてキャスターが見たのは、一緒に付いてきたADが一度スタジオに戻せ、という指示。


ㅤ「では、一度スタジオにお返しします!ㅤ」


ㅤキャスターはそう叫び、素早く撮影隊達と安全な所へ避難した。


──────────


ㅤ──その頃、アメリカ合衆国ホワイトハウス。


ㅤ「本日は、お集まり頂きありがとうございます。」


ㅤそう言って深々と頭を下げたのは、アメリカ合衆国大統領ジェイムズ・ケネディ。


ㅤ「大統領ー!ㅤ何故日本に軍事侵攻を!?ㅤ」


ㅤそう叫んだ一人の記者……それを起爆剤として大勢の報道関係者が騒ぎ出す。そしてそんな光景を見ながら、大統領は、


ㅤ「……質問は、必ずお答えします。なので……わたしの話を、聞いてください。」


ㅤと言い……完全に静かになると、話を始めた。


ㅤ「過去、アジア・先進国戦争……第参次世界大戦と称されるこの戦争が起こった当時、我が国を含む国際連合側の国々は、人間以外の動物を人に近い姿に改造し、戦わせようとする計画が進められていました。通称……B計画と言います。」


ㅤ一瞬、ざわめきが起こる。


ㅤ「……我が国を含む多くの国はあまりにも時間や費用がかかる、と言う事で実験段階で、断念しました。しかし……日本国では、人間を使い、成功させてしまったのです。」


ㅤそう言って彼は記者たちを見つめる、そして、


ㅤ「彼等は、兵器として使われたのち、証拠を消す為に殺されそうになり、逃げました。そして……私はそんな彼らのうち2人を保護し、話を聞きました。彼は言いました、『母国に帰りたい、もう一度人としての生活を取り戻したい。』……と。」


ㅤ誰も、何も言わなかった。


ㅤ「我々は、大きな罪を犯しました。しかし何故その被害者である彼等が逃げ続けなければならないのか?ㅤそれはおかしいのです、それを正すため、そんな事を隠していた事を謝罪する為……私は、彼等に協力する事を、決めました。」


ㅤそう言って大統領は、一度言葉を切る。そして言った。


ㅤ「事態が収束した後、私は辞任します。……B計画についても、本日自らの遺書と共に真実を公開したミスター中津と同様、全てを公開する予定です。」


ㅤそして……記者達がじっと見つめる中、ジェイムズ大統領は、


ㅤ「……わが国を含め全世界の人々、そしてかつての戦争で傷ついた全ての人間に、神のご加護があらん事を。」


ㅤと言い、……深々と、頭を下げた。




ㅤ──11:00、国際禁戦宣言会が開幕し、その10分後……アメリカ軍の軍隊が会場への侵攻を開始し、警官隊、及び常駐していた日本防衛軍との戦闘を開始した。

ㅤそしてその更に16分後頃、伊月達はある程度施設内を制圧、そして伊月グループの一人である西沢悠里は、日本防衛軍軍人である霧里凛との戦闘を開始。そして同時刻である11:26頃、米軍中尉クリストファー・モラレスは敵の弾丸を受け、戦死した。

ㅤそして11:38頃、吉永達のグループと日本側の高橋率いる獣人部隊が、交戦状態に突入した。

ㅤそして11:45頃、西沢悠里はジャック・コナーが撃った弾に霧里凛を守る為に被弾し、重傷を負った。

ㅤそして11:50頃、アメリカ合衆国大統領ジェイムズ・ケネディは演説を行った。


11


ㅤ「……。」


ㅤ高橋とNB01、本田と岸田……そして、吉永。


ㅤ彼等は、対峙していた。

ㅤ──お互い、全く動かない。


ㅤ「……高橋、なんでお前は……。それに、一緒にいる彼は……。」


ㅤ吉永は信じられない、と言う顔で高橋に問いかける。……当然だろう。


ㅤ──"獣人"は人間を使って当時は造られたのだ。吉永達にすれば……つまり、新たな犠牲者と言う考えに行き着くのだ。

ㅤそんな吉永を見た高橋は、ククク、と嘲笑う。そして……言った。


ㅤ「……僕は最初から、国家に尽くして居るんですよ……。力が手に入りますしねぇ……。それに、こいつは……貴方とは違う、普通の犬を使って作ったんです。すごいでしょう?ㅤ」


ㅤそう言って笑う高橋の目は、狂気に満ちている。


ㅤ「……高橋さん、一つ聞いていいですか?ㅤ」


ㅤ本田は、恐る恐る、と言った感じで言うと言葉を一度切り、尋ねた。


ㅤ「……最初からって……最初から、あんな風になって人を殺す事が、分かってたんですか……!?ㅤ」


ㅤすると高橋は言う。


ㅤ「ええ。あの生命を奪う爽快感は最高ですよ……あ、そうだ。稲葉……でしたっけ?ㅤ」


ㅤ高橋はそこまで言うと、笑い出す。


ㅤ「あいつ殺した時の隊長、面白かったですよねぇ。正に絶望ッ、って表情で……クククッ、今思い出してもあれ程面白い事は無いですよ。」


ㅤ……と。すると、その瞬間──。


ㅤ「このクソがァァァァッ!ㅤ」


ㅤ吉永は……撃った、怒りと憎しみに、顔を歪めて。








12ㅤ【復讐の終焉】


ㅤ「……なんで。」


ㅤ意味が──分からなかった。


ㅤ何故……庇ったの?

ㅤ嘘だと思った、彼を殺した相手が、自分を助ける筈が無いのだ。絶対に。でも今目の前で倒れている狐は……彼を殺したと自ら言った、仇の狐は……私を、助けた。


ㅤ──助けた……のだ。


ㅤ「なんで……助けてくれたのよ。」


ㅤそう言うと、狐はぼんやりと目を開き、私を見た。紅に染まった身体、そして私を見つめる目には……一切の悪意が無くて……いや。

ㅤ冷静に思い出せば、こいつは殺意も敵意も、一度も見せた事がなかった。


ㅤ「……め……な、……ん……。」


ㅤ何か……掠れて、途切れ途切れに狐は言う。私はこいつの近くに顔を寄せ、何故か……手当をしようとした。


ㅤ……その時だ。狐の首に、かつて見た物と同じ、チェーンが見えたのは。


ㅤ──まさか……そう思いながら、私は服の中に隠れていたチェーンを全て引っ張り出す、そして……見てしまった。


ㅤ──ずっと彼の形見として持っていたドッグタグの片割れが……そして、理解してしまった。狐の……正体を。


ㅤ「り……ん……、ま……も……れて……よか……た……。」


ㅤ──凛、守れて良かった。


ㅤこの狐は……変わり果ててしまったが、彼……西阪悠里だったのだ。


ㅤ「なんで……なんで……。」


ㅤ──どうして気がつけなかったのか。

ㅤもっと早く気がついていれば、彼はこんな怪我は負わなかったのかもしれない。

ㅤもっと早く気がついていれば、彼を助けられていたかもしれない。


ㅤあまりにも深い、後悔と懺悔の気持ち。


ㅤ「ごめっ……なさいっ……。」


ㅤ涙が……止まらない。彼が死んだと知らされて以来……始めて流れた、涙。


ㅤ「……凛、泣く……な……。」


ㅤ「だって……私、貴方に酷いことをっ……。」


ㅤ「……凛は、悪く……ない……。」


ㅤ掠れた声で彼は言い、震える手で私の頬を撫でる。そして……。


ㅤ「ごめん……な……、凛……。」


ㅤパタリ、その言葉を最期に、彼は眼を閉じ、手は落ちた。


ㅤ「……そんな。」


ㅤぎゅっ、と地面に落ちた彼の手を握り締める。……血に濡れた体温は少しずつ、失われていく。


ㅤ「……逝かないでッ!ㅤやっと……やっと……。」


ㅤ──逢えたのに……ッ。


ㅤ「And I tried to help him!ㅤ(彼を助けるぞ!ㅤ)」


ㅤ不意に、私を撃とうとしたあの外国人がそう叫び、彼の身体を抱えようとする。


ㅤ「You shourd help out if you go outside ! ...... Getting caught , but I .(外に行けば助けてくれる筈だ!ㅤ……まあ、捕まるがな。)」


ㅤそう言いながら彼を連れて行こうとする男、私はそれを手伝いながら彼の手を握り、言った。


ㅤ「……必ず、助けるから。」


ㅤ……と。










13


ㅤ「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……!ㅤ」


ㅤガキン、ガキンと、弾切れになったハンドガンは音を立てる。

ㅤ──しかし吉永は血走った目で高橋に向かい引き金を引き続ける。


ㅤ「やめろ!ㅤ」


ㅤ慌てて岸田は、吉永を止める。それに対し吉永はこう叫んだ。


ㅤ「こいつはあいつを殺した……!ㅤ許せない……!ㅤ」


ㅤ「落ち着け!ㅤお前がやるべき事は俺たちの事を世間に知らしめる事だろ!?ㅤ」


ㅤそう言って岸田は吉永を叩いた。そしてそれをニヤニヤと見つめている……高橋。

ㅤ吉永は叩かれた事で正気を取り戻したのか、唖然とした顔で、


ㅤ「あ、ああ……すまな……い。」


ㅤと言う。

ㅤ──そんな吉永を見つめた岸田は頷き、それからこう言った。


ㅤ「お前と本田は行け。……俺がここは、やる。」


ㅤ「なっ……俺が……!ㅤ」


ㅤ「その震えた手で、銃が撃てるか!?ㅤ冷静に!ㅤ……頼む、行ってくれ……。」


ㅤ残ろうとする吉永に向かい、岸田は叫ぶ。その剣幕に押されたのか、吉永は頷き、本田と走り出す。


ㅤ高橋達はそれを……通した。


ㅤ「3分で貴方を殺して、2人も殺しますよ。」


ㅤそう言って微笑む高橋、それに対し岸田は銃剣を構え、


ㅤ「……それはどうかな?ㅤ」


ㅤと言い、不敵な笑みを浮かべる。

ㅤ──NB01はサブマシンガンを構え、高橋は軍刀を抜き、構える。


ㅤ「ウガアアアアア!ㅤ」


ㅤ岸田がそう叫びながら斬りかかり……戦いが、始まった。




Chapter.10 end


後編・Chapter.11に続く

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