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優しい魔王と泥棒娘  作者: 伊川有子
2話・命を守るための選択
6/28

(1)

 薬のおかげか熱はすぐに下がり、翌日には町へ辿り着くことができた。三日月の痣の痛みは不思議となくなり今はもう何も感じない。

 前の町で稼いだお金で久しぶりの宿をとる。ベットに横たわれるなんてめちゃくちゃ贅沢だ。

 真昼間の時間帯、意味もなく寝転がっていると、にこにこしながらディーノが近づいてくる。

「イヴ、来たよ」

 噂の吸血鬼がもうやって来たらしい。まだ町について間もないんだけど仕事が早すぎやしませんか。

 慌てて起き上がり皺になった服を払って身なりを正す。短い髪も撫でつけるようにして整えれば、ギィと建付けの悪い音を立てて木の扉が開いた。

 入って来たのはおそらく男性。私が以前遭遇したヴェルデンモーテの女性と同じように、黒いフードでしっかりと全身を覆い尽くしている。吸血鬼は太陽の光に弱いからだ。

「この子がですか」

 男は入ってくるなりいきなり私を見てそう言った。もう“子”っていう歳ではないんだけど、不老の吸血鬼からすれば人間なんてみんな子供みたいなものなのかもしれない。

「見せていただけますか」

 抑揚の少ない話し方は冷たい印象を受ける。

「は、はい」

 袖を捲るだけでは痣を晒せないので、ボタンを外して上着を脱いだ。始終なんとも言えない顔をしていたディーノが少し気になったけれど、吸血鬼のお偉い方を待たせるわけにはいかない。上半身下着姿で左肩が見えるように身体を傾けると、男性はベットに座っている私の傍に膝を着いて三日月の痣に見入る。

 吸血鬼の容姿は私と同じくらいの年齢に見えた。整ってるけど肌が青白くて少し不健康そうだ。

「ああ、確かにヴェルデンモーテの呪印ですね。『魔王を殺さなければお前は大人になる前に死ぬ』でしたっけ」

「はい」

 呪いの経緯は既に話してあるらしく話が早い。

「陛下を殺そうとしたんだとか」

「・・・すみません」

「まあ、この方はちょっとした突然変異みたいなものなので、そう簡単に死にませんよ」

 その度胸には感服しますが、なんて褒められてしまった。怒られると思ったのに。

 突然ディーノがさっと間に割って入り、先ほど脱いだ服を拾って私に着せ始める。なんなんだと眉をしかめたけど、痣はちゃんと見せ終わったのでされるがままに服を着た。

 男性はそんなディーノを見て小さくため息を吐き私に向き直る。

「不運としか言いようがありませんね」

「クリス、お前はどうすればいいと思う」

 ディーノは真面目な顔で男性に尋ねた。偉そうな口調から、この人本当に魔王なんだなあと初めて実感する。

「おそらくヴェルデンモーテが言っていた言葉は誠でしょう。彼らは言葉の力を信じ、言霊を尊んでいる。

ですから呪いとは『魔王を殺さなければお前は大人になる前に死ぬ』という言葉をそのまま受け入れてよいのです」

 わかっちゃいたけど、知識人に面と向かってあなた死にますよと言われたらクルものがある。無表情で淡々とした態度は妙に説得力があった。

 ディーノは眉間の皺を隠そうともせず質問を続ける。

「イヴを生かすにはどうすれば?」

「文字通り魔王を殺せば呪印は消えると思いますが、陛下がどうやって死ねるのかは私も存じ上げません。あるとしたら簡単ではないでしょうね」

 ですよねー。首刎ねても胸刺しても死なないんだもの。

 この町に着いてからディーノが火に腕を突っ込んでみたんだけど、結局熱いだけで火傷することはなかった。完全に不老不死体質だ。

「まあ、死ぬ方法を探すにしても時間がありません。人間の成人年齢は20でしたね。貴女の年齢は」

「・・・17です」

「やはり時間が問題になるでしょう」

 残された寿命は最長であと3年。その3年間で一体何ができるんだろう。きっと長いようであっという間なんだろうな。

「何か他に方法はないんですか?」

「大人にならなければよろしいのでは」

「へ?」

 間抜けな声が漏れる。大人にならないってどういうこと。

 クリスと呼ばれていた男性は感情のない瞳で私を見る。

「そのまま時を止めてしまえばいい、陛下のように。不老体質です」

 ピコン、と私とディーノが同時に閃いた。そうだ、不老だ。吸血鬼や妖精種などは年をとらない。永遠に大人にならなければ、呪いが効果を発動する時は永遠に来ない。

 でも待てよ、と呟く。

「えと、じゃあ、私人間じゃなくなる・・・?」

「そうですね。手っ取り早く吸血鬼になれば解決します」

 あっさりと言い放ったクリスさん。

 ちょっと、いや、かなり抵抗があるけど、死ぬよりはマシなのか。でも待って待って、全然心の準備ができてない。いきなり人間じゃなくなるなんて、しかも太陽の光を避けて血を求め歩くなんて嫌だ。

 吸血鬼は吟遊詩人の歌でもよくあるように、世間では悪の根源として語られている。世界中の至る所で吸血鬼狩りは行われていて、人間にとって討伐の対象でしかない。

 いくら泥棒で世間に嫌われる身の私でも、存在そのものを忌み嫌われたくはなかった。

 ディーノは頭を抱えて呻く私の肩にそっと手を乗せ、クリスさんに尋ねる。

「人間のまま時を止める方法はないのか」

「一時的なら方法はあります」

「ほんと!?」

 あるなら先に言って!と文句言いたかったけど、怖いので口には出さずクリスさんの話に聞き入る。

「魔の者の体液を摂取すれば、一時的に不老ないし長寿の効果は得られます」

 ふーん・・・。


 え?


 えええええ?



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