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優しい魔王と泥棒娘  作者: 伊川有子
3話・城での生活
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(5)

 ヒースとリンファは城に一泊することになり、それぞれ用意された部屋へと去って行った。

 残されたのはディーノと私、そして机に向かって黙々と作業をこなしているクリスさんのみだ。

「イヴ」

「どうしたの?」

 ぎゅっと手を握られたので首を傾げると、ディーノは真剣な表情で私の顔を覗き込む。

「は、裸で吊るされるって何?どこで聞いたのそれ」

「ああ、それは昔娼館にいた時に・・・」

「娼館!!?」

 近くで大声を出されたので耳がキーンとする。私が身売りしてたと誤解されているようなので、文句を言う前に訂正した方がよさそうだ。

「いや、昔子供のころに人攫いに攫われて娼館に売り飛ばされたことがあったから。もちろん下働き。

隙を見て逃げたから短い間だったけど・・・」

 そこで見たものは子供心にとてもショックだった。生きるために皆身体を売っているというのに、結局彼女たちは病気を貰ったり年を取って売れなくなると死んでしまう。

 また男性の一方的な快楽のためにああも女性を傷つけられるのかと嫌悪もした。一生あんな行為するもんかと思ってたっけ。

「えっと、じゃあそこで変な知識を得たわけだ」

「変なの?」

「変っていうか、普通じゃない」

 きっぱりと言い切られてしまった。そうか、間違ってたのか。私のいた娼館はよっぽど特殊な部類だったんだろうか。

「とりあえず、これ読んでみて」

 ドサッと音がするくらいの大量の本を手渡されて瞠目する。本のタイトルは『貴方が私を呼んでいる』『この恋を知るまでに』『楽しい恋愛の始め方』などなど・・・。

 タイトルを読んだだけで気が遠くなりそうだ。一生経験することのないと思っている恋愛関連の本だなんて、私にはまともに読める気がしない。

 ディーノはにっこりと笑って私の頭を撫でる。

「上から順番に読んで。だんだん過激というか、性描写が多くなるから」

 下の方をちらりと見てみれば、口に出すのも憚られるほどあけすけなタイトルのものばかり。・・・なるほどね。

「勉強するなら普通にやり方だけ書いてあるもので十分だと思うけど」

 性行為に恋愛は必要ないはずだと訴えたかったが、すぐにディーノによって否定された。

「ダメ。感情と行為は切っても切れない関係だから。それにイヴは恋愛関連の一般常識が無さすぎる」

 それを言われるとぐうの音も出ない。私が知ってるのは盗み方やいかに兵士の目を逃れるかなど、生きていくのに必要だった知識のみ。

 仕方ない。読むか。

 こくんと頷けばディーノの顔が迫って来たので顔を上げた。ペロリと唇を舐められて身体を震わせると、ぐっと引き寄せられたので倒れ掛かるようにしてディーノの胸元に手をついた。

「本当は直接教えたかったんだけど・・・」

不満げな表情でそう言われてもなんと返事をしたらいいのかわからない。困って何も言わずにいると、ディーノは私の顔を見てふっと笑う。

「無知な子を手籠めにするみたいで気が引けて・・・」

「手籠め?」

「とにかく、一番最初は好きな人とが理想だって思うし」

 ディーノはじっと私の瞳を見つめながらそういう。そこまで凝視されると困るんだけど、最近彼はずっとこの調子だ。

 最初は好きな人と、その言葉なら私も耳に挟んだことがあった。やっぱり初めては誰でも怖いし、それならば信頼できる相手がいいのは私にも理解できる。

「俺を好きになってくれたら一番いいんだけど」

「ディーノのこと好きよ」

「・・・・・」

 押し黙ってしまった。しかも赤くなったと思ったらだんだん顔が青ざめていく。最終的には頭を抱えてしまうし、いったいどうしたんだろう。

 さすがにド直球に言うのはまずかっただろうか。私としてはこの流れのままさり気無くディーノに最初の相手をお願いしようと思ったのに。

「えっと、それはその本を全部読んでから、もう一回言って」

 ね?と囁かれて、私は小さくうんと頷いた。








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