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教室の窓にヤンデレロリコン先生がいるんだけどさ

今日はガチめに課題をしくじった。

先生の呼び出しもすっぽかして、いち早く確保した窓際の席にて数学と問題と格闘中。チェバだのメネラウスだの言われても訳分からん。でも幸いにも課題は大問を三つ忘れていただけなので、本気を出せば三十分で何とかなる。

しかーし、ここでわざと長いこと居座るのもありだ。何故ならヤンロリ先生の「補習」に行かない口実が出来るから……え……ちょ。

「どうした、児囃ぃ」

再来年で定年を迎えるという川口先生に声を掛けられる。今日の補習の監督だ。

「川口先生、その……いや、なんでも」

「そうかそうか、分からなかったら遠慮なく言えよ。目指すは『打倒北高』だからな」

「……」

私が普段「補習」に行く教室は、この学校の部活棟四階にある隅っこの教室だ。普段使う教室棟とは渡り廊下で繋がっていて、移動が若干面倒。

一方こちらは教室棟の四階、職員室から近く、部活棟のあの部屋からは一番遠い。そう、一番。距離も道のりも一番遠い。

でもさ、まず先生に「校舎内を歩く」って常識を当てはめた私が馬鹿だったんだな。

横目で窓の外を見やる。窓の下の方に、ほんの少しだけ成人男性にしては細めの指が窓に張り付いていて、時折チェーンソーの歯が見え隠れしている。


先生だ。窓の外に張り付いてやがる。これぞまさにリアル「ああ、窓に! 窓に!」だ。

教室には川口先生と私しかいない。杜山くんは心労が溜まったのか風邪で休んでしまった。こんな時に生贄の杜山くんを差し出せないなんて、本っ当に最悪だ。いや、バトろうと思えば出来るんだけどね、なにしろ私も成績が懸かってるもんでね!

机の上の問題に戻る。なるべく時間を稼ごう。必死に悩んでるフリ、悩んでるフリ。くっ、いつものように叩きのめせない状況が歯痒い! これだから現実は! 信じたいことばかりみぃんな嘘で、信じたくないことは全部ホント! クソが!

「川口せんせー!!」

「何だ、児囃」

「分かりませーん!! 人生が!!」

「はあぁ!?」

「現実なんてクソです! あんぱん買ってきてください!!」

「いや何でだよ! そんなの後で自分で……うっ! げほげほっ!」

「えっ、せ、せんせーっ!!」

川口先生が床に膝をついた。窓の外の視線を無視し、慌てて駆け寄る。

「せんせー、しっかり! 大丈夫ですか!?」

「うっ……じ、持病が……!」

背後で窓の開く音。どたりどたりと足音がする。流石の先生も見殺しには出来なかったらしい。そ、そんなことより早く助けを……!

「川口せんせー、持病って!? 薬は!?」

「うっ……」

「っ!? 先生! せんせーい!! 死なないでくださいって! 人生がクソだなんて言った私が悪かったんです! お願い、ですから……」

「うっ……うっ……嘘だよバーカ」


「「……え」」


私は聞いた。病気なんて嘘だと。そして背後にいたチェーンソー男と一緒に「え」ってハモった声を。

背後のヤンロリ先生が何事も無かったかのような足音で窓の外に戻って行った。


+++


改めて川口先生の「補習」に戻る。

視線を感じつつ、出来る限りの工作をした。問題が分からないのを装って川口先生に助けを乞い、わざと理解するのに苦労するフリをした。ヤンロリ先生の視線が痛い。時折チェーンソーのモーター音が聞こえる。そのたびに川口先生が「スズメバチか?」と窓の外を覗き込もうとしたので必死にごまかす。ヤンロリ先生は少なくともスズメバチよりは有害だ。

しかし、現実はかくも非情である。

「よーし、児囃ぃ。今日はもう俺も帰らなきゃいけないから、この辺にしとくぞー」

一瞬、川口先生の足を折るという選択肢ダイアログが脳内に浮かんだので焦った。

「あ、せんせー、ちょ、ちょっとぉ!」

先生は私を残し、教室から出ていった。

……あれ?


「ヤンロリ先生、どこ行ったんだ?」


気配を全く感じない。

先生がいなくなった! これで帰れる! よーし、今日は張り切って糾子においしいハンバーグを作ってやろう。最近スーパーのお惣菜ばっかりだったからな。おいしいもん食べさせて、早くヤンロリ先生の恋愛対象外に育てあげよう。そしてゆくゆくは一緒にヤンロリ先生を抹殺! うーん、楽しみですなぁ。

そう思って支度を終え、廊下に出る。


……。

「児囃さん、僕の補習には来ないんですか?」

とても爽やかなスマイルだ。ある程度変わってても女子生徒に人気が出るっていう教師と生徒の恋愛モノのセオリーは、現実にも通用しているらしい。まず先生に「人間である」って常識を当てはめた私が馬鹿だったんだな。移動早すぎだろ。

「ふんっ、やなこった! 今から私、帰って糾子にハンバーグ作るんですからね!」

「ならば僕が代わりに作りましょう。もちろんあなたのミンチで」

「殺す!」

私が構えると、先生はチェーンソーではなく薙刀を取り出す。どうやら加工は後でするつもりらしい。

ああ、今日も晩飯はスーパーのお惣菜になりそうだ。


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