ヤンデレヤエコン先生とツンデレシスコン女子高生
最終回。八重視点。
今日も補習だ。
いつもの教室へ入り、補習常連の杜山くん(とそれに引っ付いている白菊)に軽めのあいさつ。いつもの席に座ってノートを広げ、折りまくったせいでボロボロのシャープペンを筆箱から引っ張り出す。
あれから年も明けて、あっという間に二月三日だ。色々めんどくさい勉強をこなしながら、まあ変わらずやっている。グラウンドの外はオフシーズンだからか運動部の姿はなく、閑散としている。焼き芋屋もいない。
「八重さん、俺この問題分かんねーんすけど教えてもらっても」
「いーえ旦那様、白菊めがお教えしますの」
「うっぜぇ向こう行ってろ!」
杜山くんがちょっと怒ると、白菊はすぐしゅんとなる。優しいよね杜山くん、自分で怒鳴っときながら慰めてやんの。バカップルだなー。
……あ、この問題分かんない。
間違った所を消しゴムで消して、ふと右手を見る。
包帯は外れたけど、微かに残った古傷。チェーンソーの音が脳裏に蘇る。それと一緒に、あいつの声や言葉を思い出した。けれどあの日の記憶だけはどうしても無理だ。何かムカつく事言われたのは分かるけど、さ。
お腹すいた、焼き芋食べたい……って思って、あれどうしてちくわきゅうりが真っ先に浮かばないんだろう。ああ、とにかく、滅茶苦茶ムカつく。ここにいたら顔面殴り飛ばして膝十字固めだっけ? キメてやるのに。
「やっほー、ハロウィン君だよ☆」
「出たな十月三十日生まれ」
突如目の前に現れた奇天烈変態ハロウィン野郎の致命傷を速攻で抉る。
「酷いじゃんか~せっかくおいしいキャンディ持ってきたのに?」
「飴なんて腹に溜まらないじゃん、もっと気の利いたやつ用意しろよ」
「ありがとうっ☆」
「何がだ」
もうこいつ疲れる。
「そうそう、ボク、糾子ちゃん連れてきたよ?」
「は?」
「おねーちゃん調子どう?」
ハロウィン君の後ろからひょっこり現れた糾子は、やけに機嫌がよさそうだ。
「糾子! 知らないロリコンと知ってるロリコンとその他変態全般にはついていかないって約束したでしょ!?」
「えへへー」
「えへへーじゃないよもうっ」
「そんなことより、そろそろ来るよ。今日は気合入ってるみたい」
「気合? ……あー、節分だもんね」
次の瞬間には教室の扉が開き、火薬の臭いとともに乾いた豆の弾丸が耳を掠めた。
私は跳躍し、その弾丸を放った張本人――ヤンデレロリコン先生の腕を抑え込む。
「テメー糾子に当たったらどうしてくれるんだよ殺す!」
「あなたがいなければ発砲しませんでした、殺す」
私の知らないうちに、一回先生は入院した。
何でも私と本気でやりあって死にかけたらしい。詳しいことは教えてもらえなかったけど、年明けにやっと退院してここに帰ってこなきゃよかったのに消えろ!
「あら兄さん、お体の調子はいかがですの?」
「まあまあですね。でも今日は節分ですから『鬼は外』しなきゃなりません。さあ八重さん、今日こそ糾子ちゃんを僕に渡すのです」
「ざけんな!」
一発蹴り上げたのを軽く避けられ、二丁拳銃の大豆を浴びせられた。じ、地味に痛い! っていうか豆嫌い!!
「まあまあ二人とも……」
そう言いかけた杜山くんに、ハロウィン君がそっと手招き……二人して教室の外に出てったけど、大丈夫かな……流石に心配だ。杜山くんの背中に尋常じゃない哀愁が。
「おっと、よそ見はいけませんよ」
パァン、とまた発砲。顔面に直撃して、やっぱり地味に痛い。
「先生そんな武器で本当に私を殺すつもりですか?」
「おや? もっとハードな鬼退治をご所望ですか?」
取り出したのはチェーンソー。これぞまさに「鬼に金棒」ってやつだ。私も一歩飛び退いて、間合いを取る。
やっぱし、こうでなくちゃな。
色々こいつにはムカつくけど、何となくこれがしっくりくる。これが私の放課後だ。教室に集まって、糾子を守って、杜山くんに苦笑いされて、時々妙な出来事に遭遇しながら先生とこうやって修羅場する。
楽しい。
糾子が先生にそっと耳打ちする。小さな声だったけど、嬉しそうに「二人とも素直になればいいのに」と言っているのが聞こえた。
何言ってるのさ、私も先生も至って素直で正直だ。
そして午後五時を告げる広報の鐘を皮切りに、私の放課後が、始まる。
最後まで読んでいただきありがとうございました!




