凶暴シスコン女子高生は鎮まらない
いくつもの蝋燭が灯された、暗い部屋。
僕はチェーンソーを構え、八重さんは殴る体勢をとる。
……懐かしい。ここが、初めて彼女の声を聞いた場所。
「八重さん」
「……っふー……ぐるるるる……っふーッ」
「僕は、あなたが好きです」
「……っふーッ」
「独り善がりの物と分かってはいるのです、けれど」
「ぐるるるる……」
「そうする事しか出来なかったのです」
ぶつけたチェーンソーが彼女の右の拳とぶつかり、血飛沫と火花を散らす。
「ずっと、好きでした」
彼女右手の包帯が、紅く染まってゆく。
「あの日から」
ぱっと離し、今度は左。
「そして」
抉り取られているのは、きっと彼女の体だけではない。
「未来永劫」
壁まで追い詰め、刃で壁を穿つ。
「……怯えているのですか?」
「……っふーッ……ぐるるるる……」
「まあ、よしとしましょう」
ぽた、ぽたと床に血溜まり。
「……っふうううう!!」
腹に一発叩き込まれ、吹っ飛ぶ。
すかさず空中で無数の拳を喰らって、呑気にも僕は笑っていた。ああ、血潮が、混ざりあう。
そして、一際強い衝撃。
壁に叩きつけられた僕も、やっぱり笑っている。
「……ごぽっ」
意識がゆらゆら、不明瞭になっていく。
「うがあああぁぁああっ、はぁっ」
彼女に手をかけられて死ぬのも、悪くはないかもしれない。最後の最後まで意識を僕に集中させ、その後は消せない罪悪感を背負わせる事が。
……それこそエゴだ。
「少しは、ちゃんと話を聞いてくださいよ」
「……ぐるる」
「では、僕と契約をしましょう」
僕は壁に寄りかかったまま、そう持ちかけた。
「僕の死後、僕をホルマリン漬けにしなさい。糾子ちゃんは帰ってきますし、どうですか?」
「……」
「素敵だと思いませんか?」
彼女の荒い呼吸が止まったかと思うと、かすかな言葉が漏れ出した。
「……キモい」
僕に歩み寄り、頭を掴んでくる。
「……ぐるる……お前は……いつもそうだ」
ぐ、と耐えがたい圧力が脳を圧迫する。
遠くから、何かを叩く様な音が響いてくる。
「来ましたか」
「……何が、だ」
「あなたの、妹でしょうね」
一際大きな音が響き、天井に穴が開く。
「!」
そこから姿を現したのは、ツインテールの少女、ではなく。
「先生っとりあえず一旦治療しますから!!」
「兄さん、こっちへ!」
杜山さんと、その腕に縋り付く白菊。
「……ぐるる?」
こっちへ、と言われましても、頭を掴まれてて動けないんですけど?
というかむしろ。
「白菊、お前」
「紹介します、私の主人ですの」
「馬鹿ですか」
この寄生虫め。
「がうっ」
「きゃっ!?」
何を思ったのやら、八重さんは白菊に襲い掛かる。
「お前! 許さない!! ふがっ、糾子を、糾子を出せ!! ぐるるるる……!!」
「やめろよ八重さんっ」
杜山さんの制止にも聞く耳を持たず。
「っるせぇ! 殺す!!」
駄目だ、八重さんは完全に混乱している。きっと「術」を解かなければ、このまま暴れ続けるだろう。
「……白菊!! 死にたくなければ、僕に呪符を何処へ貼ったか教えなさい!」
「腹! 腹と背中ですの!」
僕は立ち上がる。そして血を拭い、チェーンソーを八重さんに向けた。
「来なさい、僕との勝負がついていないでしょう」
「……ぐるるるるるる!!」
決着は、僕がつけましょう。




