お久しぶり大根凶暴シスコン女子高生(タイトル決まらなかったのでテキトー)
やっつけ。
「ちわーす……あれ、八重さんはまだなんすか」
呑気な顔で教室に入ってきたのは杜山堂司。僕の隣にいる糾子ちゃんを見ると「よう」と片手をひらりとさせた。
「ま、そのうち来ますよね!」
「来ません」
「……え?」
次の瞬間、矢が窓に突き刺さった。
僕は矢を引き抜き、矢文を開く。
『屋上にて待つ』
それは紛れもなく、白菊の字だった。
「やはり、そういうことですか」
「え? ええっ!?」
「……全く、あなたも鬼なのだから、もう少し警戒するべきです。行きますよ、八重さんを助けに行きましょう」
僕と糾子ちゃんが教室を後にしようとすると、杜山さんは鞄を背負ったまま慌ててついてきた。
***
霜月の空に、夕闇が迫る。
屋上にいたのは、夕日を背にした白菊ただ一人。
「……兄さん」
「白菊」
僕を見る目は、底の無い沼のようで、昏く、冷たい。
黒髪を風になびかせ、白菊は口元を三日月のように歪ませる。ああ、本当に、僕と似ている。血の繋がりも無い、義理の妹でありながら、何故こうにも。
「おねーちゃんを返して」
糾子ちゃんが口を開くと、三日月はふと雲に隠れる。
「白菊は、兄さんと話がしたいのです。あなたは消えてくださいまし」
「いや! 返さないなら、あんたを八つ裂きにしてやる」
「物わかりの悪い娘ですこと」
白菊がセーラー服のスカートから隠し持っていたダガーナイフを手に取り、空を一閃。
「……~っい!?」
一番後ろにいた杜山さんの頬から、紅が飛び散った。
「今、白菊めには無駄な屍を増やすつもりもありませんの。けれど従わないのなら八重さんは帰ってきませんし、杜山家もついでに滅ぼします」
「つ、ついで!? そんな軽いノリで殺されてたまるか、ってか痛ぇよこれ!」
「……五月蠅いハエですこと」
白菊は僕に向き直る。
「さて兄さん、最後に問わせていただきます。兄さんは、白菊と結ばれることを、本当に拒否なさるのですね?」
「僕には、彼女しかいませんから」
「なら良かった」
+++
白菊が片手を上げると、空間が黒く渦巻く。そして、姿を現した……変わり果てた姿の彼女。
殺意に燃える瞳、赤く染まった肌、荒い息遣い、額の一本角。
「兄さんが負ければ、この娘は解放します」
「『負ければよい』。つまり死ねと?」
「白菊に逆らった罰ですの」
残酷で、理不尽。まるで幼いコドモだ。色恋に冷静さを欠くところも僕と同じ。
八重さんは僕の姿を捉えると、口の端を一瞬引きつらせた。目つきは鋭く、ああこれは初めて殺しあった時の。猫を被っておとなしく縛られていたのに、糾子ちゃんの名を出せばすぐ獣の本性を見せた。きっと彼女も、僕と似たことを言われているに違いない。
彼女は糾子ちゃんを選ぶだろう。ならば、僕は。
チェーンソーが呻りを上げる。と同時に八重さんの右の拳が目の前に迫った。
鈍い、痛み。金槌で叩かれたかのような衝撃だ。数段強化されていて、まともに戦ったら死ぬだろう。
……まともに戦わなければ、まだいける。
「杜山さんッ」
「な、なんすか!?」
「あなたもぼーっと突っ立ってないで戦いなさい! あなたなりの方法で!!」
「むむむ無理ですよそんな! 女の子と殴り合いするなんて……!」
「誰も殴るとは言ってません、早く! 糾子ちゃんもお願いします!」
「ほいさ!」
糾子ちゃんは目にも留まらぬ速さで白菊に飛びかかり……そのまま、屋上から突き落とした。
ブラックロリィタ糾子ちゃんなら、きっとうまくやってくれるでしょう。
あとは、白菊の仕掛けた術を、力づくで解除するのみ。




