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ヤンデレロリコン先生に助けを求めざるを得ないこの屈辱がお前に分かるか

またもやシリアス。

不意に左肩から何かを強くひっぺがされる感覚で、意識が覚醒した。

体は何かに縛られているようで、満足に動かせない。何だここ、ハロウィン君のハロウィンワールドに似た感じがするけど……墓場? 墓石に供えられているのは白い菊。

……白い菊?

「お目覚めかしら、八重さん」

「む、白菊! よくも……私の妹に手出しはさせないぞっ……!」

「はぁーあ、ここに来てまで妹・妹・妹……いい加減聞き飽きたんですの。ご心配なさらずとも、糾子ちゃんには危害を加えるつもりなどありません」

「マジか」

それなら安心。あとは力づくで家に帰るだけ。

私の心境の変化を察知したのか、白菊は三日月スマイルを浮かべる。

「……あら、随分と強気でいらっしゃって」

「もちろん。こちとら『鬼の末裔』なんでね」

「ふふふ……本当に知らないんですのね」

「何がだ! 言え!」

「……」

しばらくの沈黙を挟んで、白菊は言った。

「糾子ちゃんは、『鬼の末裔』じゃない」


+++


「どういう、ことだ」

「あなたの番で、すでに鬼の血は途絶えているんですの」

「……嘘だ! 私より糾子は馬鹿力だし、体力あるし、私とおんなじで治癒能力高いし、むしろ私より鬼に近いのにっ……私に、嘘をつくなぁっ!!」

「ちゃんと調べて言ったことですの。よくよく思い出してみては? 糾子ちゃんだけ『ナンバリング』されていない理由」

「……!」

私は八重(やえ)

お袋は七恵(ななえ)、ばーちゃんは六子(むつこ)、その前は五韻(ごいん)四竹(よつたけ)三弦(さんげん)二世にせ一重(ひとえ)

そして、糾子は九子(きゅうこ)。そう信じて疑わなかった、けど。

糾子の名前には、九の字が入っていない。

「八重さん、鬼であることの証明は、生まれたときの姿かたち。角が生えていれば、大抵は生まれてすぐに鬼封じのため刈り取られてしまうのです。あなたは何処で産み落とされたのですか?」

「……家って聞いてる」

「糾子ちゃんは?」

「……病院……あ」

「角は、見られると厄介なことになるでしょう? 杜山堂司もまた家で産み落とされ、角を刈り取られた……角が無ければ鬼は力が弱まり、より人間に近い姿に成長する。祖父と血縁がありながら」

「……」

ざぁっ、と頭の中に記憶の端々が流れる。

「じゃあ、どうして、糾子は……」

「種としての限界。二代に及び異種の血が混ざり、だいぶ薄まってしまったんですの。杜山家も、じきに鬼の血は途絶えるはず……」

「……糾子」

信じられない、と言っている自分と、最初から知っていた自分がいた。

七五三で糾子の髪を結ってやったとき、綺麗な形をした頭に驚いた。だって、私にはあった「肉の盛り上がり」が、糾子には無かったから。

あれは、鬼の角の痕。

「さあ、さぞかし糾子ちゃんが憎くなったことでしょう。けれど、今は関係ない話……」

「憎くは無い、ちょっと驚いてるだけ」

「あら? 鬼の血存続はどうでもいいのですか?」

「『生き残ることが全て』。うろ覚えだけど、お袋が死ぬ間際そう言ってた」

「……あなたはいいですね、白菊のように家に縛られず生きられて」

次の瞬間、あたり一面が青白い炎で覆いつくされた。鬼火だ。

「『生き残ることが全て』なら、こんなことはどうでしょう。その手で霜月兄さんを殺せば、糾子ちゃんの元に帰してあげましょう」

ず、と言の葉が心臓に冷たく入り込む。

「殺す? お前、先生が好きじゃなかったのか……?」

「もう、白菊めを愛してくれないのならば、いっそ殺してしまえばいいのです」

目にも留まらぬ速さで、白菊の手が私の腹に触れた。貼り付けられた、白い、札。

体の奥底で何かが目覚めるようにざわめき、やがて。


意識が、支配されてゆく。


「ふふ、ふふふふふ! 児囃八重、解放された力のまま、存分に暴れなさいっ」


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