凶暴シスコン女子高生と純白ロリィタ糾子ちゃん
シリアス回。
邪魔者は消えた。
僕はベッドですやすや眠り続ける糾子ちゃんに近付き、そのまま抱え上げた。起きる気配は無い。このまま自宅に持ち帰り、あとはホルマリン漬けにするのみ。
焦る必要は無い。起さないよう、静かな道を選んで帰ろう。やっと長年の呪縛から開放される。八重さんのことは忘れよう。杜山家諸共、滅ぼされてしまえばいいのだから……ああ。
「いいかげんにしろよ、ヤンデレロリコンクズ教師」
幼い声が鼓膜を震わせたかと思えば、次の瞬間僕は床にめり込んでいた。
「ほんっと最低! きゅーこ、怒るの通りこしてあきれた!!」
「……何に、です?」
糾子ちゃんは僕の顔をぐりぐりと素足で踏みつけながら、吐き捨てるように言った。
「あんた、とんでもないバカ」
「ああっ眼鏡が曲がってしまいます、もっとやってください」
「きっも! うわ鼻血出てるしきったな!!」
顔をしかめ、糾子ちゃんはティッシュで足の裏を拭く。
「お兄さん人にも自分にも『どんかん』すぎ、ってゆーか180度ずれてる!」
「もう角度を習ったんですか」
「そんなのどうでもいいでしょ! ……あのさ、今までお兄さんとメールでやりとりして、いろんなこときいたけど、話がそれるといっつもおねーちゃんのことばっか。ホントはきゅーこじゃなくておねーちゃんのことがすきなんでしょ?」
「……そんなはずがありません。あんな色気もロリっ気もへったくれもない女子高生」
「うそつき! どうしてそんなに年齢にこだわるの!? それとも……鼻血が出なかったらそれは『好き』じゃないの!?」
「……」
何故か分からないが、しばらく返答に窮した。そんな僕を糾子ちゃんは責め続ける。
「それに、おねーちゃんとケンカした日、おねーちゃんが帰って来る前に電話してきて『手当てして下さい』って頼んでくるでしょ? ふつう『こいがたき』にそんなことする?」
「……」
「それに、それに……」
糾子ちゃんの目が、かすかに潤む。
「それに、あんなにきゅーこのこと好きって言ってるのに、おねーちゃんと一緒にいる時の方が、きゅーこといる時なんかより、ずっと幸せそうなんだもん……!!」
「……分からないんですよ」
口から出た声が思ったより震えていて、自分でも驚いた。
「何が分かんないの?」
「今まで、理不尽から自分を守るために、自分を抑えるために、生きてきた気がする……だから、分からない……分からないんですよ、今更本当の気持ちなんて……何なんでしょうか、この、穏やかで、綺麗な、春の日だまりのような感情は……僕には、それが分からない……」
「……」
糾子ちゃんは、僕に背を向けた。
「……僕、行ってきますね。ちゃんと八重さんを連れて帰ってきます。色々考えるのはそれからにしようと思います」
「別に、そのまま先生の家に連れ帰ってもいいんだからね……ホルマリン漬けにしたらゆるさないけど」
そうとなったら時は一刻を争う。僕は割れた窓から飛び出す。
その間際、糾子ちゃんの「ばか」という小さな声が聞こえた気がした。




