ヤンデレロリコン先生と脳内ハッピーハロウィン君
私がいつも通り補習の教室に行くと、何故か扉が黒いカーテンとハロウィンカラーの飾りで覆われていた。ついでに「テイクフリー☆」と書かれた紙の貼られている籠が置かれていて、中には溢れんばかりのアメが入っていた。
……スマホのカレンダーを確認すると、今日はまだ十一月半ば。
二日前の夜に色々あった末聞いた、不吉すぎる知らせが頭をよぎる。
「……帰ろ」
十月マニアの相手なんてしてられるか。そう思って踵を返した。
……。
今、杜山くんの悲鳴が聞こえた気がする。ついでに誰かの笑い声も。先生じゃない。もっと若い青年の声。
「ああもう!」
杜山くんも鬼の末裔だったはずだけど、普段の非力さからして、放っておいては面倒なことになるだろう。
仕方なくカーテンを開き、思いきり教室の扉を開いた。
「出やがったな神在月家の刺客め! この私が成敗して……えっ?」
「ようこそボクのハロウィンワールドへ! ハッハー!」
そこにいたのは、縛られて流血している杜山くんと、もう一人。私と同じくらいの年頃の男だった。
人工的な色であろう紫の髪に、ジャックランタンを模した被り物。ポップでキュート(笑)な出で立ちの青年が返り血を浴びているだけでも、十分な刺激物だ。
しかし私が絶句してしまったのは、普段の教室であるはずのそこが、まるで……いやまさに、ホラー洋画に出てくるような墓場になってしまっていたからだった。
ふわふわ浮いている人魂のような物を、男は片手で掴んで握り潰す。
「キミもボクと一緒に遊ぶかい?」
「杜山くんを解放しろ。それからだ」
「……ぐ、こばやし……さん」
「えー? ボク、この子気に入ってたのに。まー、デザートは最後に食べるのが正統派だもんね。いいよ」
偉そうに言いやがって。
「っていうかー、ボク、どっちも美味しくイケちゃうタイプだしぃ? キミも綺麗なままでは帰さないよ。それじゃー……」
何処からともなく、死神の大鎌が現れる。その冷たい刃が、私に向けられた。
「トリック・オア・トリート?」
「……どっちもまとめてぶっ潰す!」
+++
最初の一撃をかわし、腹を殴る。思ったよりも効いていないらしく次の一撃が迫ってくる。体を転がして避けたところへ、今度は切っ先が飛んでくる。
「ハハッ、言ってなかったけどボクはハロウィン君! ハロウィン君って呼んでね?」
「それ二度もハロウィン君って言う必要無いだろ! って、ぎゃっ」
「ほらほら油断は禁物だよ? 制服が切れちゃったじゃーん」
出会ってすぐに決めつけるのはよくないけど、あえて断言しよう。
……こ、こいつ超うざい!
「キミのことは知ってるよ! 児囃八重、重度のシスコン女子高生で、自称鬼の末裔だよねぇ?」
「聞こえませーん実名を名乗らないハロウィン君の声は聞こえませーん」
バック宙で鎌を避けたところで、その力をバネにして腹部へ飛び込む。
「せいっ」
「ぐはぁっ! ……なんてね」
私が殴った腹部から、ぱらぱらと零れ落ちるお菓子。
「なんだこれハムスターかお前!」
「ボクを薄汚い観賞用ネズミと一緒にしないでくれる?」
「ひっど! 妹が学校で飼ってるのにその言い方無いだろっ」
さっき殴っても効果が薄かったのはこれのせいか。でも、そういうことなら全部引っ張り出せばいい。零れてきた部位からして……隠し場所は上着の裏。たまにスナイパーがやってる、ベストを開けば手榴弾がずらりってパターンだ!
ならば。
「……アレ? キミ、急に雰囲気変わって……ってギャーッ!? 何すんの変態!」
「オラオラ脱げやゴルァ!」
いっそ半裸にしてやる。
「このっ、大人しく私に脱がされろ!」
「きゃっ! でも、ボク……虐められるのも嫌いじゃないかも」
「残念だけど私そういう趣味無いんで! 手っ取り早く脱がされて一発KOされてくんない?」
墓標に追い詰めて上着を剥ぐと、ハロウィン君は大鎌を取り落とし、涙目になりながらも抵抗してくる。
「初めてだから優しくしてよ?」
「しねーし! この刺客め、私の学校生活を脅かしたからには容赦しないっ」
「きゃーっ……って、霜にい」
ハロウィン君の顔が凍りつく。
紙袋が床に落ちる音を聞いて振り返ると、すぐ後ろに先生が突っ立っていた。
「八重、さん」
「っ!?」
先生は私の胸ぐらを掴み、ハロウィン君から引き剥がした。首に手をかけられ、信じられないくらいの力で締め付けられる。
息が、出来ない。
「……ぐっ……」
「やめて霜にい! 本気でヤバいってその子!」
くらり、と意識が飛びかけた時、先生が手を離した。気道に酸素が流れ込み、むせる。いつの間に空間はいつもの教室に戻っていた。
「失礼、僕としたことが」
「げほっげほっ……てっめぇ……!」
立ち上がって先生に掴みかかる。でも足がふらついて、すぐに振り払われてしまった。
「……神馬」
「ひっ」
「十月三十日生まれのくせにハロウィン君を名乗るのは、そろそろやめなさい」
「うわーん! それここで言うこと無いじゃんかー!!」
「それと……」
先生は私の目を片手で塞ぎ、
「あのR指定モノになってる杜山さん。八重さんに幻覚効果をかけて見せなかっただけ許してあげます。早く何とかしなさい」
「はーい……美味しかったのに」
そう命令した。
「児囃さんは焼き芋あげるので帰ってください。今日の補習はおしまいです」
「……チッ」
R指定がエロなのかグロなのかが若干気になるけど、ここは大人しく従っておこう。糾子にまた旨いもん作らなきゃな。




