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例えヤンデレロリコン先生でも変態ロリコン教師は許さない

帰りのホームルーム。

閃光の如き授業スピードに定評のある担任の小野先生が、淡々と不審者情報を読み上げる。小学生を付け回す輩の話を、頬杖をついて聞き流していた。

窓の外はごみごみとした街だ。妹の糾子は羨ましがるが、正直私は山の暮らしが長すぎて、ここには馴染めない。何となく苛立って性に合わないのだ。

じゃあ何故ここを選んだかと言うのは、「妹に羨ましがられたい」。ただそれだけだった。

それが妙な変態教師に(妹が)目をつけられ、いつ(妹が)危険な目に遭わされてもおかしくないような状況にさらされてしまった。これは由々しき事態だ。私(の妹)の平穏を守るため、私は(例え妹が脳内で暴れ出しても)とりあえず平静を保ちつつ(妹のために)モンスター教師を殺す機会を(妹の事を考えながら)虎視耽々と狙っているのだ。


ツインテールの艶やかな髪。愛くるしい笑顔。幼く清らかな神聖なる存在。絶対に指一本触れさせない。


そんな私が中学の頃に裏で頂戴したあだ名は「妹護衛型殺戮いもうとごえいがたさつりくマシン:八重」である。略して児囃さんである。そうだ、最初っからまともなあだ名をくれる友達すらロクにいなかったのである。笑えよ。

ちなみにいつの間にかホームルームは終わっていた。


***


先生はノコギリの刃を磨いていた。

とてもご機嫌の様子だったが、私に気付くとすぐ懐にノコギリをしまい込み、

「ネタバレしてしまいましたね」

と暗黒の笑みを浮かべる。今日も相変わらずのようだ。

「ネタバレも何も、この後で私が先生をバラすんですから関係ありませんよ」

「それで上手い事を言ったつもりですか?」

「食ってかかるような態度じゃ、糾子に嫌われますよ」

「そうそう、糾子ちゃんからの連絡が来ないのですが」

「『きゅーこは先生の事きらい!』ですって」

「そんなはずがありません。居間に仕掛けた盗聴器にはそんな記録残ってませんでしたよ」

「ああ、あのこたつの裏のちっちゃい機械なら素手で潰しておきましたから」

「……まるで虫けらでも潰したかのような物言いですね」

「お前なんてゴキブリ以下だ」

もっと隠す場所無かったのか。まあ、何処に隠した所で妹護衛型殺戮マシン:八重の探知能力の前では等しく無意味だけれど。

「先生、今日は何の用? 天気もいいですし、糾子を掛けた戦いの続きでもしますか?」

「いいえ児囃さん、そんな事より大事な案件があるでしょうが」

先生はおもむろにスマホを取り出し、画面を私に突きつける。

「糾子ちゃんの学校付近にも、不審者が出たようです」

「……どうして先生が糾子の学校の配信メールとってるんですか」

最近は小中高校問わず、あちこちの学校で保護者への配信メールサービスが行われている。

糾子の通う小学校もそうで、確認すると私のスマホにも確かにメールが届いていた。

「ふっ、僕の方が早かったようですね」

「うるせえ死ね」

「とにかく、これは一大事ですね。すぐさま害虫駆除に参りましょう」


+++


夕焼けがあたりを紅く染める。

人気も無く車も通らないような道に、ランドセルを背負ったツインテールの少女が歩いていた。我が愛しの妹、糾子だ。何か嫌な事があったのか、肩を落としてとぼとぼと歩いている。

そんな様子を、影に隠れて見守る私と先生。

「……先生、何か後頭部が生ぬるいんですけど」

「おっと失礼、すぐにお拭きいたします」

この野郎、鼻血垂らしやがったな。

ふきふき、と頭のぬるぬるを拭き取られている最中に、私は道路を隔てた反対側の林にも誰かの人影を見つけた。いい歳した大人だ。あっ向こうも鼻血垂らしてる。あの顔、何処かで見覚えがあるような。


……糾子の学校の先生だ。


「……」

確か糾子の隣のクラスの教師だ。真面目そうな人だと思ってたのに。

って言うか被害に遭った小学生共は自分の学校の教師だって気付かないのな。

「児囃さん、どうしましたか」

「せんせー、あそこに変態がいまーす」

「……そうですね」

先生は私の頭を拭くのをやめ、懐からノコギリを。

私はバキバキと手の関節を鳴らした。

「警察に通報する?」

「いえ、僕たちで片付けましょう」

「だよね! 私もそれが一番だと思う!」

私と先生は、妙な所で気が合うようだ。


大きく跳躍して、まず最初に教師の背中へ飛びついた。

暴れる隙を与えずに背後から首に腕を回し、

「動くな」

と超ドスの聞いた声で脅す。しかしまあ、言う事を聞いてくれるなんて事は無く、私を急いで振り落とした教師は一目散に林の奥へ駆け出す。

そこで、待ち構えていた先生がにこやかに教師へ笑いかけた。

「こんにちは、先生」

「……っ!」

「どうかなさいましたか? こんな所にいらっしゃるだなんて……探し物なら手伝いましょうか」

先生が歩み寄ると、教師は目を見開き、後ずさりをする。

「僕の顔に何かついてますか?」

「っひいいいいいいいいい!!」

当然だ、先生はその右手に鮮やかな血のついたノコギリを持っているのだから。

また逃げ出そうとした教師。しかし、追いかけてきた私に退路を断たれ、教師は間抜けに「あ、あ、あ」

と声を上げながら膝をついた。

先生と私は手を繋ぎ、ちょうど輪を作って教師を取り囲む。そして、ゆっくり、ゆっくり、廻りだす。



「「かごめ、かごめ。籠の中の鳥は、いついつ出やる。夜明けの晩に、鶴と亀が滑った」」



後ろの正面は、先生。

振り上げられた刃が、紅い斜陽を反射して鋭く閃いた。


+++


寸止めの脅しを食らった教師は、その後泡を吹いて気を失った。

先生いわく面識のある人だったらしい。誠に残念です、とすがすがしい表情で語っていた。

ちなみにあのノコギリの血は先生の鼻血から再利用したクリーンな資源だ。考案は私。先生に「てっきり脳まで筋肉のサイボーグかと思ってました」と褒められたのでとりあえず殴っておいた。

「ただいま、おねーちゃん」

「おかえり糾子」

ランドセルを降ろした糾子は、私が鍋で煮ているカレーを見て不満げに「もう三日目だよぉ、他の物作って」と催促。その柔らかい膨れっ面が可愛いと内心ニヤけつつも糾子を叱る。

「仕方無いでしょ、うちには私と糾子しか住んでないんだから、減るのが遅いの」

「ぶー……あっ、そうだ! あの『お兄さん』に来て貰えばいいんだ!」

「『お兄さん』?」

「うん、最近よく本屋さんの近くで会うの。おねーちゃんの友達でしょ?」

「……」

「おねーちゃん?」

訂正、先生の鼻血はクリーンなんかじゃない。薄汚れたロリコン野郎の産業廃棄物だ。

「糾子、いい? その胡散臭い男には今後一切関わっちゃ駄目だからね」

「えー? 優しいお兄さんだよ? あっ、もしかして『しっと』してるんでしょ~」

「明日もカレー食べたい?」

「……ごめんなさあい……」


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