ヤンデレロリコン先生のことは忘れてシチューを食べようと思ってたのに
「おねーちゃん、今日はどうだったの?」
「ん? 何がさ」
晩飯の支度中。今日の夕飯はシチューだ。日中散々血を見たものだから、優しいホワイトは目の保養になる。我ながらいい出来だ。
「お兄さん、昨日のメールで『もうすぐたんじょうびです』って言ってたから」
「あー……うん」
言えない。顔面にコンビニのショートケーキぶつけてやっただなんて。おねーちゃんたるもの、野蛮であってはいけない。ただし敵には例外。
「ね、何かあげたの? ね、ね!」
「もー、そんなことしてないよ~」
「ちゅーは?」
「ぶぽっ」
危うくシチューが汚れるところだった。
「はァ!?」
「えー、じゃあまだなのかー」
「まだとかそういう問題じゃない! あの男は危険な……」
「?」
「……あんたは知らなくていいよ」
無理矢理に話題を変えようと、私は糾子に別の話を振ろうとした。
その瞬間、天井を突き破って何かが落下してきた。
私は慌ててシチューの鍋に蓋をした。煙が巻き上がり、木片がパラパラと降り注ぐ。その最中に見えた影は、私が確かに数日前見た物で。
「……ふふ……ここがあの女のハウスですのね」
「し、白菊さん!」
黒く滑らかな髪をかきあげ、ふぅ、と息をついていたのは白菊さんだった。
「あらあら、八重さん。ご機嫌よろしゅう」
「よろしくねーよ! 人んちのキッチンに風穴開けないでもらえますかぁ!?」
「おねーちゃん、この人だれ?」
「あー……」
「名を白菊と申します、以後お見知り置きを……まあ、今から白菊めがお命頂戴しますから、覚えなくとも結構ですが」
「お命、ちょーだい……しらぎくさん、おねーちゃんに何するつもり?」
糾子は私の前に立ち、真剣な面持ちで白菊を見据える。
「勿論、兄さんとの結婚を邪魔する女共を葬り去るまでですの」
白菊は右手のダガーナイフをくるりと回し、しかと握り直す。
「だめ! おねーちゃんにやっと春がくるのに!」
「ちょっと、糾子は下がってなさい! 白菊さん……私が相手します。別に白菊さんの恋路を邪魔するつもりは無いんですけど、あなたが納得してないみたいなので」
「『邪魔するつもりは無い』? あなや、自覚が無いのは悲劇ですのよ。存在が罪。この白菊、容赦はしませぬ」
……あー……めんどくさい。