ヤンデレロリコン先生の放課後ヘアサロンただし芝刈り機
髪を切ることにした。
今までは特に問題無かったけど、先生と殺し合いをする時に邪魔臭くてしょうがなくなった。高校入学から伸ばしていた髪を切るのは名残惜しい気もしたけど、これも糾子のため。
放課後、その事を伝えて補習を休むために補習教室へ向かうと、そこには丸刈りにされ無残にも床に転がった杜山くんの頭。その周囲には癖のある髪の束が散らばっていた。そして、その傍らには小型の芝刈り機(高い所を刈る細長いタイプ)を片手にほほ笑む先生。主犯はこいつに違いない。
「おや、児囃さん。普段より随分早いですね」
「今日は美容院に行く予定があるので補習休みます」
「……それはなりません」
「は?」
先生はミニチェーンソーを持って歩み寄ってくる。
「先生、何言ってんすか。もう予約入れてあるんで」
「それなら僕がキャンセルしておきました」
「ふざけんな……って過去形!?」
「ついでに糾子ちゃんも連れてきました」
「おねーちゃーん!」
「うわあああああ糾子おおおおおおお! 大丈夫? ケガしてない!?」
「えー? 平気だよ。お兄さんが『やえさんに彼氏が出来るようにかみのけ切るからついておいで』って言ってたからついてきたの」
「馬鹿! 知らないロリコンについて行っちゃ駄目って約束破るんじゃないの!」
「でも……知ってる人だし……」
「あーっ、もういい! 糾子、帰るよ」
無理矢理に糾子の手を引く。しかし次の瞬間には入り口の扉に数え切れない程のチェーンソーが突き刺さっていた。振り返れば、三日月スマイルの先生。
「さあ、おいでなさい八重ちゃん」
渋々、私は糾子の手を離した。
っていうか糾子が先生に何も突っ込まないのが不思議だ。
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「それではいきますよ」
耳元で激しいモーター音が騒ぐ。
「せんせー、それうるさいです。普通にハサミとか使ってください」
「え、何か言いましたか? モーター音でよく聞こえません」
約一メートル離れて立つ先生には声が届かない。もう一度言おうとしたところで刃が髪の毛に……うっ!? 何これ超絡まって引っ張られる……だと!? このままじゃ頭にケガを負いかねない、どころか最悪死ぬ! 糾子も椅子に座って笑いながらこっち見てるし、なんなのこれ!
必死に体を椅子へ押し付ける。そのうちモーター音は停止し、先生の冷たい指が刃を髪の毛から引き抜いて手櫛してきた。そして、鏡を差し出される。
「どうでしょう」
「……あんた天才ですか」
そこに映っていたのは、さっぱりしたショートへアの自分だった。切り揃え方から何から完璧だ。芝刈り機でやったのにどうしてこうなる。
「お気に召しましたか」
「……」
完璧、だけど気に食わない。
私が髪を結わないのは、うなじを狙われるのが嫌だからだ。前世は巨人だったのかもしれない。という訳で、私は肩に掛けていたタオルを捨て、その場にしゃがみ込んだ。
力を込める。
「おねーちゃんすごい! きゅーこだってがんばるもんっ」
「ははっ、あと何メートル伸ばせるかな?」
「……児囃さん、それ……」
先生は震える手で、増幅し続ける髪の毛の塊の中心、私と糾子を指差す。
「……んー、あれ? 俺、一体……」
目が覚めた杜山くんもまた、私たちを見て目を丸くした。その後で自らの頭を触り、ますます訳が分からないといった風にうろたえる。
「おーい、杜山くんもやってみたらー?」
「えっ……うーん……」
すると唐突に杜山くんの頭からもさもさした毛が生え始めた。
「す、すげぇ! 出来た、なんかよく分からないけど出来た!」
「という訳で先生! もう一回刈りなおしてくださーい! 今度はもとの長さでお願いしまーす」
「っの……!!」
先生の振り回すチェーンソーに、私は再び長くなった髪の毛で先生に襲い掛かる。
この後、この高校の七不思議として「部活棟の髪長女」として今日の事が語り継がれ、妹がいるだとかちくわきゅうりで召還できる、という噂が広まったというのは、ここでは特に語らないことにする。
次回から話を進めていこうかと。次回から。次回から頑張る。