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むかしむかしのヤンデレロリコン先生

「せんせー、先生はどうして教師になったんですか? 絶対向いてないと思うんですけど」

私の投げかけに、先生は少し考え込む。

「……公務員ですから職が安定すると思いまして」

「うっわつまんね」

「本当の理由が知りたいですか?」

先生は、斧を懐から取り出した。軽く振り回して机を一個叩き割る。

「おっと」

「それ、威力アピールのつもりですか?」

「いえ、事故です。そろそろ修理が多いと訝しがられてもおかしくないですね」

「じゃあ学校に武器持ってくるのやめたらどうです?」

「そんなこと出来ませんよ! 善良なる高校教師が自称『鬼の末裔』の前で無防備に歩いていたら、何をされるか分かったものではありません」

「自称って言うな。あと私が暴力振るうのも先生が武器持ってるからですよ。先生が糾子を諦めれば全て丸く収まる話です」

その時、教室に杜山くんが入ってきた。何やら絵本を大事そうに抱えている。

「あのー、こんちわ」

「杜山さん、その本は一体」

「これっすか?」

杜山くんは、抱えていた絵本を私たちに見せるようにして掲げた。浦島太郎だ。

「明日の保育実習で、保育園に行って朗読するんです! ちょっとお二人にも聞いてもらっていいっすか?」


+++


長い五分間だった。

ぼそぼそした抑楊の無い声で亀を助けたところまではなんとか起きていた。竜宮城に辿り着くのを待たずして、まず先生が陥落。私は宴のくだりでそのまま終わった。お経のような声が始終聞こえていた気もするけれど、あれも安眠効果があって実によろしい。

「あの……どうでした? 先生」

「クソですね」

「ううっ……! や、やっぱりですか」

しゅん、とうなだれる杜山くんから先生は絵本を奪う。

「ありきたりな上に眠すぎて何の印象も残りませんでした。ここは大きく内容を変えるべきです」

「え……?」

先生は教壇に上り、黒板に白いチョークで「浦島太郎」と書き殴った。

「さて、まず浦島太郎の原作についてですが、原作の恋愛要素を盛り込んで大長編にするべきです。オタク層を狙い、亀を助けたところで亀を小学生に変身させましょう」

「は?」

チョークで黒板に「変身」と書く先生。ちょこっと付け足した亀の絵が何気に可愛い。

「それから、濃密なエロシーンを……」

「おい待て」

私の投げた筆箱が先生の顔面に直撃した。

「なんです、児囃さん」

「小学生までは許すけど、濃密なエロって何だエロって! 小学生のエロって犯罪ですよねってか腐れロリコン教師死ね!」

「乱暴な言葉遣いはいけませんよ、それでは先に進みましょう」

「先生が盗撮した糾子の写真を校長に突きつけてもいいんですよ」

「……分かりました、エロは無しで行きましょう」

あ、この先生チョロQだ。

「お、俺、その……」

「どうした、杜山くん」

「さて、次にですね。ここは海中の宮殿という設定を大いに生かし、宮廷のドロドロした女の争いを」

懲りてなかった。

「お、俺! 思うんですけどっ」

「杜山さん、何ですか?」

「……子供向けだから、もうちょっと『浦島太郎争奪戦~どきっ水着の大運動会~』みたいなノリで」

「いいですね、採用しましょう」

「ちょっとそこの男二人、一度私の手によって蹂躙されよう大運動会に参加する?」

「俺だって男なんだよ! 女体が好きだしロリもたまんねぇんだよ!」

「僕は実に健全で素晴らしいと思います」

駄目だこいつら。もう放っておこう。


数分後に完成した話の大筋はこうだ。

昔々、浦島太郎が海岸でカニさんと戯れている小学生を愛の言葉で巧妙に騙し、竜宮城へ。

そこで浦島太郎は彼女の総勢十四人いる姉たちに見初められ、大運動会という名の殺し合いが始まる。

飛び散る鮮血、絶え行く命。戦いに巻き込まれないよう浦島太郎を守っていた小学生に、ついに一番上の巨乳なドS姉の刃が向けられる。

「知らなかったのか……? お姉ちゃんからは逃げられない!!」

「こんなの絶対おかしいよ!」

その時、なんか白い生き物が現れて、小学生と契約。

なんやかんやあって、浦島太郎は神を超える存在となった小学生からリボンを譲り受け、魔術の力で戦う運命を背負う。これが有史以来最初の魔法少女だという話。

「さあ、杜山さん! 思い切って朗読してみるのです」

「はいっ! むかしむかし、あるところに……」

……。

「タラバガニが……」

……。

「……我こそは……そして……」


「おしまい」

先生は目を覚ますと、頭を抱えていた。

幼稚園児は、実際朗読さえ上手なら浦島太郎でも十分喜ぶ。

彼の朗読が抱える、もっとも大きな欠点……それは、彼自身にあったのだ。

得意げな顔の杜山くんに、正直胸は痛むものの、仕方なく、婉曲に婉曲を重ね、私は告げた。

「杜山くん、朗読が死ぬ程下手」

「……ウィッス」


ところが翌日。

放課後、教室にやってきた杜山くんは凄く嬉しそうだった。

「杜山さん、朗読はどうでしたか」

「はい! とっても上手くいきましたよ」

特訓に特訓を重ねたのだろうか、と思ったが、

「お昼寝の前に読んであげたら、みんな熟睡ですよ! いつも寝ようとしない子もすぐ寝てくれて、先生から褒められちゃいました!」

まさかの。

「あ、でも話の内容は先生から不評だったみたいです」

「だろうな」



作者だけが面白いと思ってる。

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