表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/35

地味に美味しいヤンデレロリコン先生のクッキー

補習中、突然先生が手作りクッキーを突きつけてきた。食べてみるとこれが結構うまいんだわ。

香ばしい小麦粉の香り、しつこすぎない味のバランス。普通に売り物としても通用しそうだったので、若干殺意を覚えて全部叩き割った。

「児囃さんはどんな思考回路をお持ちなのですか」

「んー、妹護衛に特化した無差別殺戮型思考回路」

だってこんなの糾子に食べさせたら糾子がコロッと騙されてホルマリン漬けか剥製、もしくは煮物にされちゃうじゃん! 死ね!

「……せっかく僕が合間を縫って作ってきたのに」

「知りませんし」

しばらく言い合いを続けていると、補習常習犯の杜山くんもやってきた。

「ちわー、どうしたんすかその粉」

「杜山くん、ちょうどよかった。恋人に食べさせるために試作したクッキーです、お一ついかがです?」

さりげなく後続のクッキーを懐から取り出すあたり、ぬかりないというか何と言うか。そのクッキーを杜山くんが齧る。すると杜山くんは急に悶え始めた。

「う、うっ……!」

これはあれか、「う、うまいっ!!」って言うのに数コマ溜めるあれか。そう思っていると杜山くんが泡を吹いて倒れた。ガチの方で。

「おや失礼、ゴキブリ駆除用と間違えたようです」

「ひでぇなお前」

杜山くんの顔の前にしゃがみこんで頬をつねってみるも、反応が返って来ない。でもまあ杜山くんだし、きっと大丈夫か。放っておこう(天の声:よいこはまねしちゃだめだよ!)。

「っていうか先生、勝手に私の妹を恋人扱いしないでください。殺しますよ!」

「そんなこと言って、何故今まで僕を殺すことに成功していないんでしょうかねぇ」

「先生がゴキブリ並みの生命力を持ってるからです」

「新聞紙で叩かれた程度じゃ僕は死にませんよ」

「比喩です比喩」

私は机の上の課題プリントを片付けると、

「なんならここで決着つけちゃいます?」

と吹っかけた。明日は月末だしちょうどいい。清々しい気分で来月を迎えるためには、先生が邪魔だ。

「……よし、受けて立ちましょう」

先生は懐に手を突っ込む……が、しばらく手探りしてから顔をしかめた。

「無い」

「何がですか?」

「使えそうな武器をロッカーに忘れてきてしまったようです。今はこれしか」

はあ、と溜め息をついて取り出したのは……ええと、これなんだっけ。駐車場とかにいる交通整備のおじさんが振り回してるあれ……ライトセーバー。まさか宇宙人と戦う気か!

「困りましたねぇ、他の武器もあることにはあるのですが、棒状の武器縛りを破るのはちょっと……」

「そんな縛りあったのか」

「いや、なんとなくです」

先生はうつむいて、少しもじもじした。そして乙女のようにしおらしく、上目遣いで私に問う。

「武器、取ってきていいですか」

「させるかボケ!」

ごっ、と鈍い音を立てて私の拳が先生の腹に直撃した。先生の口からわずかに紅い液体が散る。

「ははっ、私の前に手ぶらでのこのこと現れたのが運の尽きでしたね!」

「……くっ……」

床に倒れ込んだ先生に見せ付けるようにして、指の関節をバキバキ鳴らす。

「ははははは! 死ねぇ!!」

無防備な先生に飛び掛ったその時。


「おろろろろろろろろろろろろろ」


白雪姫の原作って、蘇生方法が毒リンゴを吐き出すことらしいのさ。キスなんてするのは今のお子様向けに改変された話。現実じゃ、ありえない。まあ毒リンゴ丸々吐き出すってのも変な話だけど。

という訳で白雪姫もとい杜山くんが目覚めたので、私がとどめを刺すことは叶わなかった。


+++


「う、うっ……うまい!! 先生ってすげー、色々出来るんすね」

後始末を終え、先生の特製クッキーをむしゃむしゃ食べる杜山くん。完全に記憶が飛んでいるらしく、クッキーを食べることに抵抗を示す様子は無かった。

「僕もパティシエなんていいかなぁと思っていた時期があったんですよ、まあ家庭の事情でやむなく高校教師の道を選んだのですが」

「嘘だ! 私は騙されませんよ」

「児囃八重、嘘つく。高校教師、嘘つかない」

「殺す。元ネタ何ですか」

「さあ、分かりませんね」

「あーっ先生嘘ついた!」

クッキーをむしゃむしゃ食べる。悔しいけれど実にうまい。

杜山くんはクッキー片手に口を開く。

「そう言えば先生、どうしていきなりクッキーなんか作ったんすか?」

「先程言った通り、恋人に食べさせるための試作品ですよ。ほら、明日はハロウィンですから」

「私の妹を恋人扱いするなとあと何回殴ったら約束してくれますか先生」

「え、妹? あの糾子ちゃ……むぐっ」

怪訝な顔をした杜山くんの口を慌てて塞ぐ。先生は狙いを定めた獣のような目で杜山くんを見据えている。

「……まあ、いいでしょう」

先生がそう言うと同時に私は杜山くんを解放してやった。

「ともかく、明日は児囃さんの家に参ります。みなさんでパーティーでもしませんか」

「は!?」

「決定、僕も明日は色々持って行きますので、杜山さんも来てくださいね」

「勝手に話を進めんな死ね変態教師!」

私の抗議もむなしく、何故か私の家でハロウィンパーティーをする方向で話が進んでゆく。

クソっ、明日は絶対に先生を一歩も中に入れないようにしなければ。絶対にだ……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ