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花を捨てる〜転落の微笑  作者: ハヤテ
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第四話

まずはホームページの制作だ。公麿はそれについては自信があった。会社のホームページの管理や更新については、その全てを任されていた。肝心の営業の成績はからっきしであったが……



まず、ショップ名を公麿堂とした。



問題はこれからだった。ネットオークションというのは出品者と落札者の直接やり取りは固く禁じられている。



いつもは買い専門だったネットオークションの自分のページに、さりげなく『公麿堂』のURLを貼る。ホームページを訪ねてきた客には、そのままネットオークションからチケットを落札するように指示する。



さて、千円分の商品券は幾らに設定するべきか。



公麿は思いきって千五十円とした。ダントツの最安値を謳って数でこなす。買取り金額も高めの九百五十円。


すくなくとも元手がゼロで、月に数十万の儲けがあるはずだ。なんといっても最安値なのだ。同じことをしている奴は他にもいるだろうが、そっちの客もこちらに流れてくるはずだ。


『d社a社のケータイ払い枠現金化します。まずはメールください』



ホームページの仕掛けが済んだ公麿は、前日炊いた冷飯を茶漬けにして掻き込み、初冬の埃にまみれたワイシャツ姿のまま眠りについた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


朝の八時。窓の外は鈍い灰色。あくびをしながらパソコンを立ち上げた公麿は驚愕した。


未読のメールが百件以上入っていた。



オークションページはどうだ。



落札者が二十六人。一人で二万円以上の購入者は十一人しかいなかった。質問欄には、


『買取りはやっているのですか?』



というコメントが並んでいた。なんといっても公麿は個人出品者である。継続的な売買には、官公の許可が要ることは知っている。 オークションの規約に抵触する恐れもあった。



しかし彼は思いきって、



『是非ホームページを御覧ください』



と回答した。




メールのやり取りは煩雑を究めた。



何しろ一人の客と、何回ものやり取りが必要であった。



皆金に飢えている。すぐにでも金が欲しい奴等なのだ。百数十人の人と数回ずつのやり取りには骨が折れた。


しかしこの場合、客の方がこういうやり取りに慣れている訳で、


『受け取り通知は、発送通知いただいて何時間後ですか?』



等と、公麿の盲点を衝く質問をしてくる人もいて、彼はそのつどオークションサイトの規約を読み込んだ。



建前上は商品券を送ったことにしなければならない。相手は、というかお互いに金に飢えたもの同士だが、ここは慎重にいかなければならない。


落札者の一人一人にまた連絡したり、ホームページから来た客にはその旨の説明を連絡した。



中には千円券一枚落札の、もう殆どケータイ払いの枠が無い客などもいて、百円の儲けの為に複数回のメールのやり取りは、非常に面倒くさく感じられた。

パソコンに六時間掛かりきりでやっとすべての処理を終えた公麿。違法性のある金儲けの手段とはいえ、この小さなマネーゲームに罪悪感を覚えることは無かった。


面倒な仕事を乗りきった達成感さえ感じられた。



売り手よし買い手よし世間よし



世間?どうせ汚い世間だ。だから世間もこれでよしだ。


前に何かで読んだ近江商人の心得をふと思い出した公麿は口許(くちもと)を歪ませて苦笑いした。それから久しぶりに焼酎を飲んだ。立て続けに二杯あおって横になった。



頭の中には金のことしかなかった。




つづく

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