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花を捨てる〜転落の微笑  作者: ハヤテ
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第三話

幸せな生活の形は皆同じようなものだが、不幸な人生の形は人それぞれである。



公麿の不幸は、会社をクビになったことでも、金がないことでもない。彼の一番の不幸は、その不幸さの深因が自分自身にあるということに、彼自身気付いていないことであった。

幸いなことに麗子から嫌がらせのようにふんだくった三十万の金にはまだ手を付けてはいない。



米が二升ある。キャベツひと玉、卵ひとケース、味噌塩正油。


今日明日に飢えることはない。しかしこの三十万に間もなく手が付くのは夜が暗いことより確かだった。



むさ苦しい八畳ワンルームの万年布団の上で、公麿は体をもて余し、身悶えていた。



麗子と話すといつも苛立つ。馬鹿にされている感じがする。好きか嫌いかと聞かれれば、それは好きなのであろう。


しかし男として、この三十万をせめて十倍にでも増やして麗子に叩きつける事はできないものであろうか。



麗子は目を丸くして自分を見上げる。精神の波の高さが極めて安定しているあの女を驚かせてやる。



そうら見たことか。俺だって男だろ。やるときはやるんだ。そう言い切って自分は麗子の前から消える。それはもう綺麗さっぱり。



多分世の中は金だ。俺はこれから金を増やす。そして世の中にあるあらゆる快楽を享受してみせる。麗子より若い女をモノにしてやる。


今までの俺は眠っていた。全てはこれからだ。


特にすることがない公麿の脳裏に、暇人ならではの生温い考えがノロノロ浮かぶ。



これは公麿に限らず、暇をもて余した人間の浅はかさというのは、真っ当な生活人の常識を(けが)す。



たかが三十万の金をとりあえず減らさずに、自分の生活費を捻出し、あわよくばこの金を増やすにはどうしたらよいのか?



あれだけ痛い目にあってきた競馬か?それは駄目だ。この金が無くなったら自分は終わりだ。状況からして、決してそんなことは無いのだが、ただ一言、『働け』と言ってくれる人もない。






麗子という女は、こちらからアプローチしない限り電話すら寄越すような女ではなかった。その全く受け身なことも、公麿には不満に感じられた。


会社勤めをしていた頃は、あれほど面白く感じていたネットの生配信や動画が、全く面白く感じられなかった。


これからはいつでも見れるのだ。木製の机に置かれてあるデスクトップのマウスを、とりあえず動かし続ける公麿であった。



たまたまネットオークションを覗いていた公麿は、ふとあることに気付いた。



商品券が出品されていた。それ自体大したことではないのだが、千円の百貨店商品券が千三百円で売られていた。これはどういうことであろうか。 しかも入札数が三十二人もいるではないか。


公麿は(くま)無くその内容を読み漁った。


そして数分後、彼は全てを理解した。要は携帯電話のキャリア払い、つまり、後先考えない若者が、ツケで商品券を買う。そしてそれを換金する。恐らく千三百円で買った商品券を、チケット屋に九百四、五十円で売る。千円の金に利息が三百五十円。支払いは時期を見極めて買えば二ヶ月近くの猶予があるが、それでも法定利息の数倍払うことになるのだ。



公麿は決心した。これをやってみよう。やり方によっては本当に商品券など送る必要もない。買取りまでセットでやってしまえばよいのだ。



公麿は独りで悦に入った。後には大きく深い落とし穴があるとも知れずに。




つづく

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