君とあたし5
最初は文章が短いです。
徐ヶに長くなっていきます。
あたしは心臓が強く鳴るのを抑えることができなかった。
男子は、驚いたらしく、あたしを黙ったままで見つめている。
胸を押さえて、リチウムの冷たい床にへたり込んでしまう。今の季節はまだ、晩春で、肌寒い。
「…樋口、大丈夫か?」
とっさに、声をかけてきたのは宮原だった。
男子はそそくさと自分の席に、逃げるように戻って行った。クラスメイト達も遠巻きにざわざわと、騒ぎ出した。
「加奈!いきなり、へたり込んじゃって、どうしたの?」
そこへ美佐が走って、声をかけてきた。あたしに近づくと、そっと、肩に腕を回してきた。だが、宮原も近寄ってきたのだ。
「貸せよ。俺が運んでやる。佐藤だけで、樋口を保健室に連れて行ったって、時間がかかっちまう」
「…よけいなお世話。私だって、連れて行くことくらい、できるよ!」
むきになって、反論する美佐を無視して、宮原はあたしに訊いてきた。
「樋口、立てるか?」
あたしはただ、小さく肯くことしかできなかった。
すると、宮原はあたしの肩に腕を美佐と同じように回して、よっとかけ声を発しながら、立ち上がった。
その強い力で引っ張られるように、立ち上がる。
美佐はそっと、あたしから、離れた。
代わりに温かくて、力強い手があたしを支えながら、ゆっくりと歩き始めた。
見かけは、細身で顔立ちも幼い印象を受けるのに、意外と力があるらしかった。 クラスの皆は遠巻きにしながら、それを唖然と見つめている。
あたしは顔から、火が出そうなくらい、恥ずかしかった。
引き戸のあたりまで、行き、開ける。
廊下へ出ると、前方に中年の数学の担当の先生がいた。
「何だ、三組の宮原じゃないか。もう、授業が始まるから。教室へ入りなさい」
注意をされたけど、宮原は真面目な口調で説明をしてみせた。
「あの、うちのクラスの女子が体調が悪いと言っていて。本人は自力では行けないらしいので。それで、僕が一緒についてきたんです」
「体調が悪いのか。もしかして、宮原が抱えているその女子か?」
はいと宮原は答える。
「同じクラスの樋口加奈です。顔が赤かったので、熱があるかもしれません。保健室に連れていきます」「わかった。今から、三組の授業があるから、早めに行きなさい」
やっと、先生は解放してくれた。
その間にも、顔や手足が熱くなっていくのであった。