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6、未来の君とあたし1

夕食が終わって、あたしと和人はリビングに向かった。

テレビはつけずに父さんと母さんもしばらくしてから、やってきた。

静かな沈黙が下りる。

四人でただ、黙ったままでいた。

最初に発言したのは父さんだった。

「…宮原君。君にどうしても言っておきたいことがある。だから、話をしたいとはいったけど。その、同級生と喧嘩になって殴り合いになったというのは本当か?」

「はい、本当です。休学処分になったのも事実です」

和人は真面目な顔で答えた。

あたしはどうなることやらとヒヤヒヤものだった。

「だったら、宮原君。ご両親とも話し合ったのか?」

「…話し合いはしました。でも、父には最終的には叱られて。母にも「相手の挑発に乗っては駄目だ」と言われたし。バカだったなと反省はしています」

父さんはなるほどといいながら、腕を組んだ。

母さんも心配そうにしながら割り込んでくる。

「そうなの。宮原君、どうして同級生の子と喧嘩なんてことになってしまったのかしら。わたし、今一つわからないんだけど」

「ああ、母さんは知らないんだったな。簡単に説明をするよ」

和人の代わりに父さんはあたしが以前に話していたことをかいつまんで説明をした。

すると、母さんはひどく驚いた顔になる。

「そんなことがあったの。田中という子が可奈に手を出そうとして、宮原君はある時にそれを知って。そのことが原因で殴り合いの喧嘩になったのね」

「そうです。学校の校庭でやってしまったから、すぐに先生に見つかって。田中は処分をまぬがれたけど僕は一週間の休学処分になりました。まあ、後であいつを狩野先輩と一緒に締め上げておきましたけど」

「田中君を締め上げたね。じゃあ、もう決着はついたわけか」

父さんが尋ねると和人は頷いた。

母さんとあたしは互いに目を見合わせる。

父さんはふむと呻りながら、顎を撫でた。

「なるほど。母さんに話しておいてもよかったんだが。可奈と二人きりにすると喧嘩になる可能性があったからな。けど、宮原君はこれからもうちの娘とつき合うつもりなのか。それを聞かせてもらいたい」

真剣な顔で父さんは本題を切り出した。和人は表情を引き締めてあたしを見てくる。

小さく頷くとこういった。

「…可奈さんとはこれからもつき合うつもりです。その、僕は大学に通うつもりでいますが。結婚も考えています」

「…えっ。宮原君、もうそんなことも考えていたの?」

母さんが意外そうに声をあげた。

父さんも驚いた顔をしている。

「君、まだうちの娘とつき合って一ヶ月とちょっとしか経っていないだろう。もう、未来のことまで決めていたのか」

「…決めていました。両親と兄にも話はしてあります。可奈さんにはこれから、迷惑をかけないように気をつけますので。おつき合いをする事に許可をいただけないでしょうか?」

控えめながらもきっぱりとした物言いに父さんは目を見開いて、黙り込んでしまった。

しばらく、またリビングに沈黙がおりる。

あたしは一言も発さないまま、両手を握りしめていた。

「宮原君。可奈は一人娘だし。俺としてはあんまり早くに嫁に出したいとは思っていない。でも、そうだな。大学を卒業したら結婚を許そう。まあ、君が本気なのはわかったから。つき合いは続けてもいい」

ため息をつきながら、父さんは許可を出してくれた。

その表情は複雑そうなものだった。

「父さん、和人との関係は公認てことでいいの?」

おそるおそる尋ねてみると父さんは苦笑いしながら、頷いた。

「ああ。宮原君の真剣さは伝わってきたし。可奈が傷つく真似はしないと約束してくれたしな。ま、可奈も他の女の子には気をつけろよ」

「…何で?」

「宮原君は男である俺から見ても顔が良いし。性格も硬派だから、意外と狙っている女の子はいると思うぞ。横からかっさらわれないようにな」

的を射た忠告をされてヒヤリとしたあたしだった。


父さんや母さんとの話し合いを終えて和人は家に帰っていった。

あたしは外に出てそれを見送る。

去り際に見せた和人の表情は今までにないくらい、うれしそうにほころんでいた。

「じゃあ、可奈。また、明日迎えに来るから」

「うん。待ってるよ」

そう告げると和人は早足で去っていった。



あれから、さらに五年が経ち、あたしは短大を卒業してとある企業に就職した。そこで、毎日仕事に追われながら、過ごしている。

ちなみに、和人とのつき合いは未だに続いていた。

今年で彼は大学を卒業する。

地元の二流の大学らしい。

あたしは和人と大学二年生の時に初めて、一晩を過ごした。つまり、体の関係も成立はした。

それまでは高校生だと早いと和人が言って手を出してこなかったのだ。

つき合い始めて、四年目のクリスマスの夜だった。

そんなことを思い出していると近くのデスクにいた同僚で高校の同級生の里絵が話しかけてきた。

「…可奈。何、ほうけた顔してんの。仕事中だよ」

「いや、ちょっとね。昔のことを思い出してて」

「昔のね。もしや、あいつのことでも思い出してた?」

にやりと笑いながら、里絵はあたしの考えていたことを当ててみせた。

「…里絵は勘が良いね。その通りだよ。最近はあたしも残業が多くて会えてなかったから」

「そう。あたしも最近は涼君と会えてなくてね。可奈はいいね、遠距離じゃないから」

里絵はため息をつきながらまた、パソコンの画面に向かう。あたしも書類の作成に戻りながら、和人の顔を思い浮かべていた。

定時の時間になって仕事は終わった。

あたしはできあがった書類を既に部長に見せて、全部これでよいと言われている。

ロッカー室に行き、制服から私服に着替えた。

隣には里絵や他の同僚の女性社員が三人ほどいる。

あたしは着替えをすませると先に終えて待っていてくれた里絵に声をかけた。

「ごめん、待たせた?着替え、終わったよ」

制服や鞄を手に持ち、ロッカーに鍵をかけ直した。

「ううん、それほどじゃないよ。じゃあ、帰るとしますか」

里絵は立ち上がるとあたしに笑いかけてきた。

高校時代に背中の真ん中あたりまで伸ばしていた髪は肩にかかるくらいの長さに切られている。

仕事をするにあたって邪魔になるからとばっさりと切ったのだ。

今から、二年前になる。

あたしと里絵は偶然にも同じ短大だった。

美佐や狩野先輩は別の大学に行ってしまったから、バラバラになったけど。

何故か、里絵とは離ればなれにならずに会社も一緒になった。

現在では和人との仲や昔のことを話したり相談できる数少ない旧友になっている。

「…可奈。宮原とはこれから、どうするの?」

唐突に訊かれてあたしは戸惑った。

「どうするって言われても。高校の時に大学を卒業したら結婚しようとはいわれたけど」

「えっと、あたしが訊きたいのはね。昔のことじゃないの。今の可奈の気持ちだよ。宮原とは仲を続けるの気があるかどうかを訊きたいの」

核心をつくことを言われてあたしは歩いていた足を止めてしまう。

今まで別れようと二、三度は思ったことがある。

そのたびに自分に「まだ、別れるのは早い」と言い聞かせてきた。

そして、気がつけば、五年もの年月が経った。

あたしは目をつむった。

耳には人通りの喧騒や自動車のクラクション音などが入ってくる。

「…どうするかと言われると。答えは別れないだよ」

「そっか。だったら、宮原に直接いってやんなよ。お迎えが来てますよ、お嬢さん」

里絵がそう言ってきた。

「…可奈」

二週間ぶりに聞く懐かしい声があたしの耳に再び届いた。

閉じていた瞼を開けると後ろを振り向いた。

そこには高校の時よりも背が伸びて大人っぽくなった和人が佇んでいた。

いつも、見慣れていたはずの彼の姿が街灯の下に浮かび上がる。

「和人。どうして、ここに?」

「…その。お昼休みに里絵から電話があって。六時頃に鈴木商事のロビー前に来いと言われてさ。今日くらいはサービスしてやるって」

あたしが首を傾げていると里絵がおもしろそうに笑った。

「だって、可奈ときたらさ。今月の十日頃に宮原の大学の卒業式があったこと、知らないっていうんだもん。しかも、すぐに就職先も決まったのってのも聞いてなかったじゃん。これはいけないなと思ってね」

「それで、俺の口から直接言えって里絵が怒るもんだから。仕方ないから、迎えに来たんだ。後、デートも兼ねて」

そう言いながら、和人はあたしにゆっくりと歩み寄ってきた。

「可奈。今まで待たせて本当にごめん。自分が学生なのが情けなかったけど。これで対等な立場になれたよ」

そう言って、あたしに手を差し出してきた。

「…ううん。待たせたなんてことはないよ」

それだけ答えるのが精一杯で代わりに和人の手のひらの上に自分のそれを重ねた。

「可奈、時間が惜しいからいうけど。もしよければ、結婚してくれないかな?」

単刀直入に言われてあたしは驚きのあまり、目を見開いた。


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