別れの危機とあたし6
先輩と和人、美佐や里絵の五人でぞろぞろと歩いているといつの間にか、自分の家の近くまで来ていた。
あたしはそのまま、皆に別れを告げようとする。
「…じゃあ、皆。あたし、もう家が近いから。帰るね、バイバイ」
手を振って、家に行こうとした。
けど、がしりと肩を掴まれた。
「可奈、待って。俺の家さ、今日は両親共に仕事でいなくて。今からお邪魔していいかな?」
そう訊いてきたのは和人だった。
「…和人が?今から行ったら、まずくないかな」
あたしは考えあぐねてしまう。
今から和人がうちに行ったら、父さんと鉢合わせになる。
それだけは避けたかった。
「いいんじゃないの?宮原だけだったら、可奈のお母さんだって怒らないよ」
のんびりとした口調で言ってきたのは里絵だ。
美佐も笑いながら頷いている。
「可奈のお母さんは宮原のことを知っているじゃん。今から行っても問題はないと思う」
「…まあ、泊まるのは問題はあるが。ちょっと上がらせてもらうくらいだったらいいんじゃないか?」
先輩まで言ってくるのであたしは頭を抱えたくなった。
和人は皆が援護してくれるので表情はいかにもうれしそうだった。
「可奈、どうする?」
にっこり笑顔で訊いてきたのでよけいに困り果ててしまった。
あたしは仕方ないとため息をついた。
「わかった。少しの間いるんだったら、良いよ。けど、七時かそれくらいになったら帰ってね」
「…やった。可奈の家に遊びに行っていいんだな?」
「まあ、母さんには後でそれとなく言っとくから。父さんに見つからないように気をつけてはおいてね。あたしと母さんが怒られるから」
そう言いながら、あたしは歩き出した。
「じゃあ、バイバイ。あたしたちはこのまま帰るから」
里絵が手を振ってきたので同じようにして別れを告げる。
里絵たち三人はそのまま、行ってしまった。
あたしは和人を連れて家の門の前までやってくる。
そのまま、門を開けて玄関にたどり着くとドアをゆっくりと開いた。
「ただいま。母さん、帰ったよ!」
声をかけたら、リビングから母さんが出てきてくれた。
あたしの後ろには和人がいる。
「…あら、可奈!今日は帰ってくるの遅いじゃない。けど、後ろにいるのは…」
「あ、俺は宮原です。可奈さんに頼んでお邪魔させてもらおうかと思って」
「宮原君!まあまあ、そうだったの。良いわよ、上がって」
母さんは嬉しそうにしながら、こちらにやってきた。
あたしの心配は杞憂だったようである。
「じゃあ、お邪魔します」
和人はにこにこと笑いながら、上がり込んだのであった。
あたしと和人が中に入ると母さんはうれしそうに笑った。
「…宮原君、それにしたって久しぶりね。うちにこうやって来てくれるとは思わなかったわ」
「あの、この間のことでは可奈さんに迷惑をかけてしまって。申し訳ないと思っています」
「いいのよ。宮原君、同級生の子と喧嘩になった話は可奈から聞いてるの。だから、気にしないで」
母さんは小さく首を横に振りながら、苦笑いした。
「…そうですか。けど、いずれはおじさんにも訳は話しますから。それまでは待っていていただけませんか?」
「わかった。可奈と一緒に待っているわ。宮原君がいいと思った時にまた、来てちょうだい」
二人して話し合っているけどあたしは口を挟まなかった。
和人は真剣な表情で母さんを見ている。
「ありがとうございます。とりあえず、一週間後くらいにはまた来ます」
「そうね。父さんも心の準備は必要だろうから」
頷きあうと和人はあたしに向き直った。
「じゃあ、入ろうか。可奈の部屋に行こう」
手を差し出されてそっと触れてみた。
和人は力強く握り返してくる。
母さんは仲が良いのねと言いながら台所に戻っていった。
あたしは頷くと二階に一緒に上がった。
「…前みたいに手、熱くないね。やっぱり、発熱体質がましになったのかな?」
「わかんない。けど、もしかしたらそうかもね」
「うん。田中や美佐の事では守れなくてごめん。けど、美佐は味方になってくれたし。それは良かったと思おう」
あたしはまた頷いた。
和人はにっこりと笑う。
二人して部屋に入ると手を繋いだまま、ベッドに座った。
ドアは閉めておいたけど。
「…可奈。俺たち付き合ってから、一ヶ月が経つけど。エッチはしてないね」
「そうだね。けど、するにはまだ早いよ」
「わかってる。まあ、高校を卒業するまでは待つよ」
和人はふうとため息をついた。
あたしはふいに顔が熱くなる。
いきなり、とんでもない事を言われたから緊張しているらしい。
まあ、それもそうだろう。
体の関係はあたしには早すぎると思うからだ。
和人もうっすらと顔を赤くしている。
「…ま、まあ。そういうことは置いといて。あたし、着替えるから。廊下で待っていてくれるかな?」
「わかった。俺がいても邪魔になるしな」
あたしが服を着替えたいと言うと和人は頷いて立ち上がった。
ドアを開けて、鞄を持ったまま、廊下に出て行った。
ドアが閉まると慌ててクローゼットから着替えを取り出した。
薄い白地の長袖のシャツにグレーのズボンをベッドに置いた。
制服のリボンをはずし、上着を脱いだ。シャツを着て、ズボンも履いた。
スカートも脱ぐと、両方ともハンガーに掛けたりして、着替えは一通り終わる。あたしはドアを開けて背中を向けて立っている和人に声をかけた。
「和人、着替えは終わったから。もういいよ」
「終わったのか。じゃあ、部屋に入ってもいい?」
「うん。待たせてごめん」
「謝らなくていいよ。まだ、十分と経っていないから。せいぜい、五分経ったところだし」
和人はそう言うとあたしの部屋に再び、入ってきた。
あたしも続けて入るとドアを閉める。
「それにしたって、可奈の部屋はシンプルだな。クローゼットやベッド、勉強机とかはあるけど。カーテンの色とかは薄い水色だし。全体的に里絵の部屋とは違う」
「…そうなの?」
「ああ。里絵の部屋はカーテンとかベッドのシーツとかは水玉模様で全体的に可愛い感じだったかな。あいつ、見かけはさばさばしてるけど。意外と可愛いものに目がないんだ」
「里絵の部屋に入った事あるんだ。あたしはまだ、入らせてもらったことないのに」
「…あ、可奈。気にしなくていいから!里絵の部屋には狩野先輩と一緒に入った事があるだけなんだ」
ふうんと頷くと和人はあたしの頭を撫でてきた。
慰めようとしていることには気づいたけど。
なかなか、気分は晴れてくれない。
自分以外の異性の部屋の話をされるのは嫌だった。
いくら、それが親しい人であってもだ。和人は勘がよいけど、こういう所は鈍いなと思った。
あたしがどんよりと沈んでいたら、和人は心配そうにのぞき込んできた。
思わず、彼の首筋にすがりついていた。
両腕を回して抱きついたのであった。




