別れの危機とあたし5
そして、ポケットから財布を取り出した。
和人は自動販売機に財布から出した硬貨を入れる。
「…先輩、何にしますか?」
狩野先輩はしばし考えると答えた。
「そうだな。サイダーを頼む」
「サイダーですか。わかりました」
一番上の段の真ん中にあったサイダーのボタンを和人が押した。
すると、ガコンと音がしてサイダーのペットボトルを和人はかがみ込んで取り出した。
「ほら、先輩。サイダーですよ。これで機嫌を直してください」
「…わかったよ。あ、そうだ。里絵と美佐ちゃんもほしいものあったら、買いな。樋口さんもないか?」
最後にあたしにもきいてきたので頷いた。
「あります。あ、お金は自分で出しますから」
「そうしてくれ。さすがに宮原におごれとはいえないからな」
受け取ったサイダーの蓋を回して先輩は開けた。
ぷしっと音がした。先輩は勢いよくサイダーを飲んだ。
あたしや美佐、里絵も自分たちの分のジュースを買う。
ちなみに、あたしはレモンティーで美佐がミルクティー、里絵はカフェオレだった。
ジュースやサイダーを買わなかったので先輩と和人は驚いていた。
和人も先輩と同じサイダーを買うと二人してどちらが早く飲めるか競争を始めた。
「…よしっ。どちらが先にサイダーを飲めるか競争だ!」
「先輩、勘弁してくださいよ。俺、サイダーを選んだのは競争するためではないんで」
「そんなこと言ってないでつき合えよ。里絵に放っとかれて寂しいんだ。今、俺の気持ちがわかるのはお前だけだからな」
「勝手に決めないでください!いつ、わかるっていいました?!」
喧嘩を始めた二人に美佐と里絵は呆れたような表情をしていた。
「男子ってこういう時は子供だよね。涼君、キャラが普段と変わってるし」
里絵が言うと美佐も頷いた。
「あたしもそう思う。バカみたい」
「…二人ともなかなかひどい事言ってるよ。狩野先輩も和人にはそれだけ気を許してるって事だとあたしは思ってるんだけど」
「可奈は甘いよ、見方が。涼君が宮原の事を独り占めにしてるから、本当は寂しいんじゃないの?」
里絵に意外な事を言われて焦る。
「そんなことないよ。寂しいとは思ってないから」
「本当に?」
里絵がにやりと笑いながら訊いてくる。あたしはぶんぶんと首を横に振った。
「本当だよ!狩野先輩と和人、仲が良いなと思っただけ」
「わかった、わかった。そんなに焦らなくていいから。あたしが悪かった」
里絵は真面目な顔になって謝ってくる。
「わかってくれたんならいいよ。たく、変なこと言わないでよね」
「…可奈。里絵ちゃんとすごく仲良くなったんだね。うらやましい」
ぼそりと美佐が驚くべき言葉をつぶやいた。
あたしはえっと声をあげた。
「何でそう思うの?」
尋ねると美佐は口を尖らせながら言った。
「だってさ、あたしともケンカしたことはあんまりなかったのに。里絵ちゃんとは普通にしてるから。それでうらやましいと思ったの」
「…里絵はからかってくるからいつの間にか、こういう言い方が身についただけだよ。美佐がうらやましいというとは思わなかったけど」
二人してしみじみと語り合っていると、里絵が割り込んできた。
「美佐も可奈も何を話してんの?あたしも混ぜてよ」
「…里絵とあたしがうらやましいと美佐が言っててね。それを話してたの」
ふうんと里絵は言うとカフェオレの缶を捨てにゴミ箱に近づいた。
きちんと中に捨てるとすぐに戻ってきた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「そんなことないよ。でも、時間が遅いから、早めに帰らないとね」
「確かにもう、暗くなってきたからね。帰らないとお母さんに怒られちゃう」
里絵が謝ってきたのであたしが返事をすると美佐も答える。言われた通り、空を見上げると既に夕暮れ時特有の色から、夜の色に変わっていた。
「本当だ。早く帰らないと」
早足で歩き出したら、里絵と美佐も続く。
後ろから競争を終えた狩野先輩と和人もついてくる。
「待ってくれよ、三人とも!俺たちを置いてかないでくれ!」
狩野先輩が情けない声をあげながら、追いかけてきた。
「…涼君、もう競争は終わったの?」
「終わった。んで、宮原に負けた」
短く答えた先輩に里絵は呆れたようにため息をついた。
「自分から持ちかけといて負けるなんて。涼君もまぬけというかバカというか…」
「まぬけとか言うなよ。俺だって頑張ったんだからな。そもそも、早く飲むコツを知っていたんだから、ずるいといえる」
「涼君。そういうのを負け犬の遠吠えというんだよ。もう何をいっても無駄だね」
冷たくツッコミを入れる里絵は完全に呆れている。
あたしは美佐や和人と笑いを我慢していた。
意外と天然でまぬけな一面を持つ先輩になんだか、親近感がわいてきたのも一つの理由だけど。
里絵のツッコミが的確なのもあったのだった。




