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別れの危機とあたし3

「…美佐、久しぶりだね。あたしね、あんたのこと恨んではいないけど。和人のことでは怒っているんだよね」

笑いながら話すと美佐は青ざめた顔をこわばらせた。

その表情を見て、あたしは胃のあたりが重苦しくなった。

反撃をしようとは思ったけど、美佐との関係を壊したくはなかったのだ。

でも、恋に盲目となった彼女にはあたしの言い分なんて届くわけがない。

「…和人?あんた、まだ宮原と付き合ってたの。あたしの忠告通りに別れてたら、こんな悪さはしなかったのに」

悔しそうに美佐は言ってきた。

あたしを睨みつけて、憎々しげな表情をしてみせる。

「忠告?ふざけないでよね。宮原に告ったって話は聞いてるよ。それでフられたってことも。それが悔しかったから、可奈に悪さをしたんじゃないの」

あたしの代わりに里絵が言い返した。

美佐はそれを聞いて、口をつぐんだ。

「美佐。ここだと目立つから、屋上へ行こう。話し合いはそれからだよ」

あたしが言うと、里絵は美佐の腕を掴んだ。

そして、引きずるようにしながら、屋上へと向かった。

あたしが先頭を歩きながら、廊下を進むとまだ残っていたらしい生徒たちがこちらをちらちらと見てくる。

夕方に近い時刻なので窓ガラスからオレンジ色の日光が射し込む。

それには目もくれないであたしたちは屋上へ続く階段の近くまで来た。


美佐が逃げてしまわないように、二人で両腕をがっちりと掴んだ。

美佐はもう逃げられないとわかったのだろう。

されるがままになっている。

「…あたしと田中を引き離したのはこうするためだったんだね。可奈、あたしのこと怒ってるんだったら、ビンタでもすればいいのに」

「あんた、口は達者だね。しばくのはあたしがやるんだけど?」

里絵が怒りながらいった。

あたし以上に腹が立っているらしいから、ビンタの一つはしそうだ。

そう思いながら、一段ずつ上がっていく。

「…しばくのは鈴木さんがするわけね。可奈、あんたはあたしをしばかないんだ。わかった、文句は甘んじて聞くよ」

「そう。あたしね、田中に無理矢理、キスされたんだよ。それを命令したのは美佐なの?」

小声で尋ねると、美佐は動揺したらしく、目線を泳がせた。 「…あたし、そこまでしろとはいってない。ただ、別れるように脅せって命令しただけで」

「じゃあ、美佐が命令したわけじゃないのか。もし、それを和人が知ったら田中、ボコボコにされるかも」

そう呟いたら、そんなと美佐はまた顔を青ざめさせた。

「…あんたがやったのは人を傷つけることだからね。それはわかってんの?」

里絵がいうと、美佐は黙り込んでしまった。

屋上の出入り口であるドアをあたしが開けると、里絵は美佐を引きずるようにして先に入る。

屋上には人はおらず、静かだった。


里絵と美佐はオレンジ色の日光に照らされて髪が赤茶色に染まっている。

これから、ケンカをするのだということを忘れさせる光景に見入ってしまう。

だが、里絵がこちらを見てきたことで我に返った。

「可奈、とにかく美佐さんのことをどうにかしないと。美佐さん、あんたも恨みっこはなしだよ?」

「…わかってる。可奈があたしから離れることが許せなかったんだよ。だから、田中に持ちかけて、別れさせようとした」

あたしはあまりの意外さに驚きを隠せなかった。

だから、あたしと和人を別れさせようとしたのか。

「あんた、そんなことのために二人を別れさせようとしたわけ。まあ、仲は良いなとは思っていたけど。そんなの、ただの焼き餅じゃない」

「だって、以前はあたしを頼っていたのに。それを宮原が出しゃばってくるし。可奈が熱を出しやすいのはあいつのせいなのに」

歯を食いしばりながら、美佐は悔しそうにいう。

「美佐はそんな風に思っていたんだね。あたしの熱は大丈夫だよ。和人がその、触れてくれたりすれば、治るみたいだから」

あたしが恥ずかしさを我慢していうと、美佐は唖然とした顔になった。

「あいつが触れば治るって。そんな魔法じゃあるまいし。そんなこと現実にあるわけ?」

あたしは頷くしかなかった。

美佐はいきなり、ぽろぽろと涙を目からこぼした。

そして、泣き始めた。

静かに声も上げずに、泣き出したので里絵もあたしも慌てた。



美佐が泣きやむまでにはしばらく掛かった。

「…美佐、あたしたちのこと認めてくれる?」

あたしがおそるおそる問いかけると、美佐はハンカチで目元を拭きながら、小さく頷いてきた。

「田中があんたに無理矢理迫っていたってわかったからね。しかも、キスをするなんて。あたし、宮原や狩野先輩と一緒に田中を締め上げてくる」

「…どうして?」

あたしが訳が分からずに問いかけると、美佐はそっぽを向いてこう答えた。

「だって、無理矢理あんたに迫るだなんてさすがにやりすぎじゃない。あんたの友達としてそれは許せないと思ったから」

早口でいうと、美佐は屋上のドアに歩み寄る。

すると、里絵も後わ追いかける。

「待って。可奈にそんなことしたのだったら、あたしも田中を締め上げるよ」

里絵がにかっと笑いながら言ってきた。美佐は驚きながらもそうと頷いて、ドアを開ける。

「…わかった。あたしたち、気が合うみたいだね。行こっか」

「望むところよ。田中、今頃涼くんや宮原にボコボコにされてるだろうけど」

二人は互いにうなずきあうと屋上を出て行く。

あたしは慌てて、後を追った。

そして、狩野先輩に胸ぐらを掴まれて、ビビっている格好悪い田中を見つけたのはしばらくしてからであった。


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