ライバルとあたし3
翌朝、土曜日になって、和人がうちに来る日になった。
けど、和人は来なかった。
というか、来れなかった。
一向に来る気配がないので、母さんと父さんはどうしたのか、と怪しみ始める。あたしは、仕方なく、昨日、和人は風邪をひいて、来れないらしいと嘘をついた。
「…残念ね。宮原君とはゆっくりと話をしたかったのに」
惜しいわと言う母さんに父さんも少し、がっかりとした顔だった。
「ごめんね。来週の土曜日に来てくれるように、頼んでみるよ」
「そうね、わかったわ。宮原君、早く、風邪が治るといいわね」
母さんが答えると、父さんもこう言った。
「宮原君には、お大事にと伝えてくれ。そうか、会えるのを楽しみにしてたんだけどな」
あたしはごめんね、と謝った。
嘘をついてしまったことは絶対にいえない。
そんなことがばれたら、二人に何を言われるか、わかったものではないから。
「…そういえば、最近、美佐ちゃんを見かけないわね。可奈、何か、知らない?」
母さんの放った一言にあたしは、驚いて、冷や汗をかきそうになった。
「その、美佐とはケンカをしちゃって。最近は口をきいてないんだよね」
和人のことで友達解消にされたともいえず、あたしは簡潔に答えた。
内心で謝りながら、あたしは美佐とはケンカのせいで、仲違いしてしまったのだ、と言っておいた。母さんはそうなのと、ため息をついた。 「…美佐ちゃんと早めに仲直りしなさいよ。なんといっても、中学の時から、友達だったんだし」
心配そうに言われた。
「ごめん、早めには無理かも。美佐、すごく、怒ってたから」
「…美佐ちゃんは、意外と気が強い子だからな。一回、ケンカすると、向こうも意地を張ってしまうんだろう」
父さんは笑いながら、いってくる。
的を射た一言に、よく見てるなと思う。 「うん。父さんのいう通りだよ。確かに、美佐は意地っ張りなところがある」
「やっぱりな。だけど、可奈。普段だったら、美佐ちゃんから、突っかかってくることはないだろう?あの子は気は強いけど、むやみやたらに、ケンカを売るような真似はしないと思うんだ。何か、あったのか?」
父さんの問いかけに、あたしはぎくりとした。
やっぱり、隠し通せないか。
ため息をつきながら、本当のことを言おうとした。
けど、母さんが止めてきた。
「父さん、可奈にこれ以上は聞かない方がいいわ。宮原君が来れないから、落ち込んでいるみたいだしね」
「でも、宮原君、昨日までは元気だったからな。風邪をひいたというのも、変だと思ったんだよ」
あたしは泣きそうになりながらも、父さんにだけでも、打ち明けようと決めた。
あたしは、父さんと二人にしてほしいと母さんに言った。
何事かと驚かれたけど、父さんに話したいことがあるからというと、渋々、リビングを出て行ってくれた。
母さんがいなくなったら、父さんは笑っていた顔を真顔に戻した。
あたしは深呼吸をして、本題を切り出した。
「…父さん、これから、話すことは母さんや他の人には内緒にしておいてほしいんだ。ちょっと、大きな声では言いづらいから」
「わかった。もしかして、宮原君や美佐ちゃんにも関係する事なんだな?」
その質問に、あたしは頷いた。
そして、まず、和人から告白されたことや美佐が彼の態度に遊びなのかと怒っていたことを説明する。
次に、和人と付き合うようになったことに美佐が腹を立て、あたしと友人の関係を解消すると言ってきたことまでを話した。
「…そうか。美佐ちゃんがそんなことをな」
「うん。その後、美佐は和人の友達の田中って、男子をお金で釣って、あたしと和人を別れさせようとしたんだよ。けど、翌日、つまり、昨日だけど。美佐は休んでいたんだ。それで、どういうわけかはわからないけど。田中があたしにちょっかいをかけていたのを和人が知って…」
あたしは言葉に詰まった。
父さんは黙って、考え込んでいた。
その後、最後に、和人が怒って、田中を殴ってしまい、先生に生徒指導室に呼ばれたことを話した。 「…だから、休学処分になっちゃって。和人は来れなくなったんだよね。約束してたけど」
説明を終えると、父さんはふむと頷いてきた。
「だいたいのことはわかった。宮原君は田中君がおまえにちょっかいをかけてきたことに腹を立てて、殴ってしまったんだな。可奈、さぞかし、田中君に悪戯をされて、嫌だっただろう?」
気遣わしげにあたしを見てくる。
母さんに話しても、よかったけど。
父さんだったら、冷静に聞いてくれるだろと思った。
だから、相談してみた。
「…嫌だったよ。あたしが殴りたいくらい」
声が低くなってしまった。
「殴るのはよくないが。まあ、気持ちはわからなくもないがな」
父さんは苦笑いしながら、あたしにそう言った。
「えっと、父さん。こんなこと、話してごめん。でも、母さんには話しにくいから」
「いや、いいがな。父さんも宮原君の立場や気持ちはわかるから。田中君は宮原君が怒っても仕方ないようなことをしてしまった。だというのに、その宮原君が休学になってしまうとは。世の中というのは、無情なもんだ」
ため息をつきながら、父さんはやれやれと眉間を押さえる。あたしもそれには、頷いた。
その日の夜、ケータイが鳴って、画面を見てみると、和人からだった。
メールではなく、電話であたしは出ることにした。
ボタンを押して、返事をする。
「はい。もしもし」
『もしもし。俺だけど』
昨日、会ったのに、どうしたんだろうと思った。
『…今日は行けなくて、ごめん。せっかく、約束してたのに』
「それは仕方ないから、いいよ。怒ってないし」
和人のあまりの弱気な発言に、あたしは少し、冷たいかなと思いながら、いった。
けど、和人はふうとため息を電話の向こうでついたらしかった。
『…可奈の親御さん、俺が休学になったと知ったら、怒るだろうな。付き合うの、やめとけって、可奈がいわれるんじゃないかと心配しててさ』
「ああ、それだったら、大丈夫だよ。あたしから、父さんには説明しといた」
『えっ。可奈、それ、本当?』
うんと頷いた。
和人は驚いたらしく、黙り込んでしまった。
あたしも話をせず、返事を待った。
『…そうか。可奈から、訳を親父さんに話しといてくれたんだな』
ありがとうと言われて、あたしは笑いながらも、泣きそうにもなったのであった。




