ライバルとあたし1
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今日は屋上で和人と二人のはずが、里絵さんも一緒で三人でお弁当を食べることになった。
ちなみに、和人の分のお弁当があたしの母さん特製だと聞いた里絵さんは、お腹を抱えて、笑っていた。
「…あはは!彼女お手製のお弁当なら、わかるけど。そのお母さんの作ったやつを持たされるとはね。宮原、残念だったね」
「…うるさい。おかずとか詰めたの、可奈がやったらしいし。今はそれで、満足してるんだから、笑うな!」
むすっとした顔で言い返しても、よけいに里絵さんは笑う。 「くくっ。樋口さんはおかずを詰め込んだだけなのにさ。まあ、好きな子だから、我慢ができるんだよ」
「…あの、今度は自分で作ってみるから。和人、ごめんね。里絵さん、うちの母さんは好意で作ってくれただけだから。嫌がらせのつもりはないんだけどね」
だから、笑わないであげてねと言うと、里絵さんはごめんと謝ってきた。
その後、里絵さんのお弁当の中身を見せてもらったり、和人と仲良くなったきっかけを話してもらったりした。
実は、里絵さんと和人の二人は中学が一緒だったらしい。
中二の時に同じクラスになったことがあって、その時から、友人関係にあったとか。
里絵さんが昔は髪をショートにしていて、和人が男子と間違えて、声をかけてきたのがきっかけだったそうだ。
和人はそれを面白そうに、話して、聞かせてくれた。「…里絵ってさ、名前は女らしいのに。外見は男そのものだったからな。制服を着てなかったから、男子に間違えちまって。それで、里絵が怒ってきて、ケンカになったんだ」
口げんかになって、和人はかなり、言い返したらしい。
「…あたしに、『まぎわらしい格好すんな!おまえが男っぽくしているのが悪い!』って、言ってきたんだよね?あん時の台詞、未だに、忘れていないよ」
にっこり笑顔で言う里絵さんに、背筋が寒くなったのは、気のせいだと思いたい。
「あの、里絵さん。和人、本当にそんなことを言ってきたの?」
「うん。いってきたよ。そりゃもう、はっきりとね」頷かれて、あたしは絶句するしかなかった。
今は髪を背中の真ん中辺りまで伸ばして、制服もきちんと着ている里絵さんは、品行方正という言葉が似合いそうな雰囲気だ。
「…まあ、あたしが女らしさに目覚めたのは涼君の影響だね。宮原に指摘されたって、余計に意地張って、男らしさに磨きをかけていたと思うよ」
からからと笑いながら、里絵さんは言った。
あたしはつられて、笑っていた。
美佐とは違って、さばさばとして、あっけらかんな所もある彼女を気に入りつつあった。
お昼を終えて、教室にまで、戻る。
土曜日に和人があたしの家に挨拶にくると、聞いた里絵さんは、「二人とも、頑張りなよ」と、声をかけてくれた。
三人で教室に入ると、田中がにやりと笑いながら、和人に近づいてきた。
「…あれ、宮原。今日は鈴木さんとも一緒とはね。樋口の事、もう、あきたのか?」
嫌な事を言ってくる。
だが、里絵さんはあたしを背中に隠しながら、冷たいまなざしで田中を睨みつけた。
「…金でほいほいと買収されて、人の彼女に手を出す奴に言われたくないね。あたし、あんたのことは前から、気に入らなかったけど」
「こちらこそ、君ごときに言われたくないな。俺は宮原に用があるんだから、口を出さないでくれる?」
すると、里絵さんは田中に近づいて、手を振り上げてみせた。
そして、すぐ後に、ぱんっと乾いた音が響いた。
「あんたね、あの鈴木美佐に金を渡されて、樋口さんに手を出すようにし向けられたの、気がついてるんだよね?樋口さんに何をしたわけ?」
睨まれながら、問いつめられた田中だったが。
左の頬を赤く、腫れ上がらせながらも、田中は笑い出した。 「手を出したも何も、キスをしただけだよ。樋口には逃げられたけど」
「だったら、俺、怒っていいよな?」
後ろから、低い声がしたので、振り向くと、和人が怖い顔で田中を見ていた。
和人は田中につかつかと歩み寄った。
そして、五センチくらいは高い田中の胸ぐらをつかんだ。
「…あの日、可奈が変だとは思ってたけど。おまえの仕業だったんだな」低い声で言われても、田中は動じない。にやりと笑って、こういった。
「俺を殴ってもかまわないけど。でも、これだけ、人の目がある所でそんなことしたら、宮原が疑われるだけだぞ?」
挑発するようなことを口にされても、和人は胸ぐらをつかんでいる手の力を強める。
「…別に疑われたって、かまわない。ただ、おまえが可奈に手を出したのは紛れもない事実だ。俺を裏切って、何が楽しいんだか」
「裏切るね。俺は美佐を好きだったのに、気づかずに他の女子と付き合うことにしたおまえに言われたくないな。しかも、おまえは美佐のことをフったんだからな!」あまりの自己中な発言にあたしと里絵さんは、腹が立って、田中を睨みつけていた。
「じゃあ、訊くけどな。美佐はおまえが好きであることに気が付いていたのか?」
和人が静かに訊いてくると、田中はぐっと詰まってしまった。
「俺も告白はしたけど、ものの見事にふられたよ。だから、仲良くしているおまえらを見ていると、無性にムカついてさ。だから、樋口に手を出した」
すると、和人は田中の胸ぐらを放すと、腫れていないほうの頬に握り拳を突きつけた。
ばきっと、鈍い音がして、田中の口から切れたのか、少量の血が出ていた。
和人が田中をグーで殴ったのだと気づいたのはすぐ後だった。
「…ああ、本当に殴ってしまうとはね。宮原、そこまでにしておきなよ」
困ったなと言いながら、里絵さんが和人に近づいた。
無表情で突っ立ったままの和人を周りのクラスメイトたちが遠巻きに見つめている。
「和人、田中。あの、保健室に行ったほうがいいよ」
あたしも里絵さんの後を追いながら、声をかけた。
うつむいていた和人が緩やかな動作でこちらを振り返る。
「可奈、ごめん。俺以外の奴に無理矢理、キスされてたなんて、知らなかった。気づかなかったとはいえ、俺、本当にバカだ」
小さな声で言ってきたけど、あたしは首を横に振った。
「ううん、こっちこそ、言わなくてごめん。和人が心配してくれてたのに、説明しなかったあたしが悪い」
二人して、謝りあっていると、里絵さんの咳払いが聞こえてきて、慌てて、振り返った。
「二人とも、仲が良いのはいいんだけどね。ここ、教室だから」
「あ、ごめん。それよりも田中は保健室に行きなよ?」
すると、田中はため息をつきながら、顔をそむけた。
そして、一人で教室を出て行ってしまった。
和人や里絵さんもそれを見送ったのであった。




