トラブルとあたし3
今回はキスシーンが入ります。
あたし達は注目されながらも、玄関に急いだ。
その後を田中が追いかけてくる。
靴を上履きに変えて、教室を目指した。 「…二人とも、走るの早いな。置いてかれるかと思った」
息を切らせながら、ついてくるので、和人は舌打ちをした。 「おまえ、ついてくるなよ。はっきり言って、うざい。可奈と二人で来ようと思ってたのに」
「…それはないだろ、宮原!おまえとは小学校の時からのつき合いなのに。彼女できて、うらやましかったから、邪魔してやろうと思ってたのにな」
最後に、田中はぼそりとつぶやいた。
それを聞き逃さなかった和人は、ぎろと田中をにらんだ。
「うざいと言われても、俺は宮原の事、親友だと思ってる。だから、樋口はやめて、鈴木さんにした方がおまえの為だ」
「うるさい。おまえに命令されるつもりはない。えらそうに言うな」
和人は余計に、顔をしかめさせながら、低い声で言い返した。
その表情はキレる数秒前になっている。青筋が浮かんでいそうな怖い顔で、あたしはそっと、手を離して、自分の席に向かった。
この場合は、逃げるに限る。
本能的にそう、察知したからだった。
田中、あんまり、ふざけた事いっていると、和人が何しでかすか、わからないよ。
あたしは声をかけるのを我慢しながら、状況を静観することにした。
案の定、田中はまた、和人に鉄拳を食らわせられて、うずくまっていた。
頭を殴られたらしい。
田中は失礼な奴だけど、やられキャラ確定だと思ったのであった。
お昼になって、屋上でお弁当を広げて、食べる。
和人は母さん特製の大きめのお弁当を嬉しそうに、食べていた。
「…可奈のお母さんて、料理うまいのな。卵焼き、塩味だけど。これはこれでいける」
「そう?母さんに言ってあげたら、喜ぶよ」
「うちの母親のは卵焼き、砂糖入りだから、甘くってさ。俺、あんまり、好きじゃないんだ」
あたしはへえと言いながら、卵焼きを口に運ぶ。
ほんのりとしょっぱくて、いつものだ。 ウインナーやミニトマトなどが入っている。
デザートはオレンジで和人の方にもあって、入れ忘れなくてよかったとほっと、胸をなで下ろした。 「…可奈のお弁当もいつか、食べてみたいとは思うけど。それより、考え込んでどうした?」
あたしは我に返って、朝方の事を思い出した。
「あのね、言い忘れてたんだけど。今週の土曜日あたり、予定、あいてる?」
「…ああ、別にこれといった用事はないけど。それがどうかした?」
「ええと、今朝ね。父さんが和人に一回、挨拶したいと言ってて。もし、よかったら、今週の土曜日あたりに遊びに来れないかな?」
おずおずと切り出すと、和人は驚いて、目を見開いた。
和人はしばらく、考え込んで、あたしにこう答えた。
「…可奈のお父さんが俺に遊びに来いって、言ってくれるとはね。暗に、挨拶に来てほしいって、ところだろうか」独り言でそう、つぶやく。
あたしは残った分を胃に収めるために、黙って、ぱくついた。
和人も同じようにした。
そして、食べ終わる頃にあたしは尋ねてみた。
「…それで、どうするか、決めた?」
すると、和人は難しい顔をしながら、答えてくれた。
「わかった。つき合っているんだったら、挨拶はするべきだよな。お父さんの言うとおりだと、思う」
「そっか、よかった。父さんは反対だとは思っていないらしいから、顔を見せるだけでいいんじゃないかな?」
和人は微笑みながら、肯いてくれた。
あたしはお弁当箱を包み直すと、屋上と校舎を繋ぐ廊下に出る。
和人も後を追ってきた。
教室へ戻ろうとしたら、いきなり、後ろから、抱きつかれた。
それが彼だということに気づいて、あたしは落ち着いて、暴れることはしなかった。
見上げてみると、熱いまなざしを向けてくる和人の茶色い目があった。
頬にキスをされて、顔が熱くなるのが自分でもわかったのであった。
右頬から、左頬に唇が向かう。
柔らかで温かいので、くすぐったくなる。
和人は真剣な顔で、あたしを見下ろす。 「…やっぱり、可奈が可愛い。美佐のことはぴんとこなかったけど」
「和人だって、可愛いよ?顔立ちが女の子っぽいし」
だけど、気に入らなかったのか、和人は顔をしかめる。
「それは言わないでほしいな。女顔なの、けっこう、気にしてるんだ。以前、同性に迫られそうになった事、あるんだ」
あたしは唖然とした。
「…同性に迫られたって。未遂だったんだよね?」
おそるおそる尋ねてみると、和人は渋々、肯いてきた。
よほど、嫌なことだっらしい。
それもそうだろうなと、少し、同情した。
「だから、可奈にはそれを言われたくない。さすがに、女の子に指摘されるとヘコみそうだ」
ごめんと謝ると、抱きしめる力が強くなる。
人目がないので、和人はあたしを自分の方に向かわせた。
そして、額や目元にもついばむように、軽くキスをされる。体がじんわりと温かくなった。
目をつむると、唇同士が触れあう。
それにしばらく、身をゆだねていた。
軽いものから、深いものに変わる頃には、あたしはまた、膝から、力が抜けてしまい、和人に支えられないといけない状態になっていた。
お昼休みが終わり、現代文の授業になった。
今日は文法などが主題であった。
先生は若い女の先生で顔立ちは美人ときた。
年もまだ、二十五で独身だから、クラスの男子の中には片思いをしている奴もいるらしかった。
もてるのは、明らかだ。
おかげで、女子たちからは評判がよろしくない。
「…ということからして、この言葉を使って、文を作ってみようと思います。では、わかった人、手を挙げてみてください」すると、田中がすかさず、手を挙げた。 先生は微笑みながら、こう言った。
「はい、田中君」
「この有様はあり得ない、です」
だが、先生は苦笑いに表情を変えた。
「田中君、もうちょっと、長い文を作りましょうね。それでは、短すぎるから」
せっかく、答えたのに、はずれだったらしい。
クラスのみんながくすくすと笑っている。
居心地悪そうあたしは密かに、田中に同情したのであった。
六時限目が終わって、掃除もすませた。うちの学校では当番制ではなく、クラスのみんなで分担して、行う。
こういうところは小学校や中学校と変わらない。
あたしは教室担当だから、箒でリチウムの床を掃いた。
横では、女子三人組がおしゃべりしながら、掃除をしている。
「…今日から、暑くなるって。まだ、五月なのに。やんなっちゃうよね」
「本当だよ。早く、夏服にならないかな。冬服だと、最近、きつくてさ」
もう一人もそうだねと肯いた。
あたしはひたすら、掃くことに集中した。
ちなみに、美佐は廊下の担当のため、ここにはいない。
一人でいることが多く、あたしに絶対に話しかけてくることはなくなった。
無視されたままで、早五日が経つ。
あたしは手を止めると、ため息をついた。
開けた窓から、初夏らしい涼しい風が吹いてくる。
空は快晴で雲はあまりない。
「樋口さん。さぼってないで、手を動かしたら?」
後ろから、里絵さんから、注意をされた。
「ごめん。ちゃんとやるよ」
そういうと、里絵さんは苦笑いしながら、早めに終わらせた方がいいからねと返してきたのであった。




