親友とあたし5
可奈と美佐が友達を解消してしまいました。
そして、可奈は今回から、腹黒くなってきています。
夜になり、携帯がピロピロと鳴る。
メールが入ったというマークが画面に現れる。
あたしはボタンを押して、誰からかとチェックをした。
宮原からであった。 〈可奈へ
今日はいろいろ、大変だったな。
明日も屋上でお昼、一緒に食べよう。〉 絵文字などは使わず、シンプルな文体だった。
割と、派手なことは好まない彼らしかった。
あたしも早速、返事をする。
〈わかった。明日もお昼、一緒に食べようね。〉
短めにしておいたけど、あたしはため息をついた。
それでも、送信をする。
美佐にもメールを送りたいけど、やめておこうと思った。
嫌がらせかと疑われても、嫌だし。
あたしはまだ、湿った髪をぐしゃりとしながら、窓に向かう。
「美佐、ごめんね」
一人でそう言ってみる。
翌日になったら、また、学校だ。
気が重いけど、行くしかない。
ズル休みはしたくないしな。
後で、クラスメートに変な噂を立てられたくないのも本音だ。
とりあえず、熱は出なくなったから、それを喜ぶべきだ。
あたしは一人で自分をそう元気づけながら、時間割表を見たのであった。
あたしは翌日の朝方、珍しく、午前五時に起きた。
母さんに起こされなくても、自力で目を覚ましたのである。まだ、静かであるはずのキッチンには、既に、母さんがいて、朝食の準備をしていた。
毎日、母さんはあたしよりも早めに起きて、食事の準備やお弁当作り、洗濯などをこなしているのだ。
感謝するべきだなと思った。
「母さん、おはよう。お弁当を作りたいんだけど、いいかな?」声をかけてみると、母さんは驚いた表情で振り向いた。
右手には包丁を握っていて、あたしは怖いと思った。
「…可奈、驚くじゃないの。えらく、早めに起きたんだね」
「いやあ、その。たまにはお弁当作るのを手伝った方がいいかなと思ってさ。で、どれから、すればいいかな?」
仕方ないとため息をつきながら、母さんはウインナーやおかずはできあがっているから、盛りつけをと言ってきた。
いわれた通りに、父さんと自分の弁当箱に詰めていく。
卵焼きやミニトマトなど、意外とカラフルなおかずに、気分は明るくなる。
盛りつけをして、気づけば、五時半になっていた。
まだ、半分しか終わっていない。
顔や歯磨き、着替えはすませておいたけど。
急いで、仕上げると、次の指示を待った。
おかずを詰め終わり、しばらく、冷ますことにした。
母さんは手際よく、目玉焼きやお味噌汁を作っている。
割と、うちは朝食もしっかりと取るのだ。
最後に、野菜のお浸しができあがった。 お弁当もご飯を入れて、ふりかけをかけたら、できあがりである。
「…食器やお箸を並べてちょうだい。早めにしないと、あんたも学校、遅れちゃうよ」
「わかった」
短く、返事をすると、三人分のお茶碗などを用意した。
お箸も置いて、準備は完了だ。
あたしは父さんより先に、朝食にありつくことにした。
その後、鞄にお弁当を入れると、玄関に向かう。
いつも通り、靴を履いて、家を出たら、宮原はいなかった。当然だろう。
何せ、今は七時前だから、さすがに彼も来るはずがない。
一人で静かなアスファルトの道路を歩いた。
朝のすがすがしい空気を吸い込むと、気分まで、晴れやかになる。
あたしは忘れ物がないか、チェックもして、学校を目指した。
宮原が隣にいないので、寂しくもあったが、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
クラスメートの視線が冷たかろうとも、さぼりはよくないとも思ったのであった。
学校に着くと、グラウンドで運動部の生徒が朝練をやっているようだった。
下駄箱で靴をはきかえようとしていたら、後ろから、声をかけられる。
振り向いてみると、そこには里絵さんがいた。
「おはよう、樋口さん。今日は日直でもないのに、早いね」
感心しながら、言う里絵さんにあたしは戸惑う。
「いつも、これくらいの時間だよ?宮原と出くわさないように、していたから。習慣になっちゃって」
「そう。鈴木さんが来たら、注意しなよ。あたしも何だったら、教室にまで行こうか?」
あたしは不思議になって、里絵さんに問いかけていた。
「何で、そこまでしてくれるの?あたしが目障りだとか思わないの?」
すると、里絵さんはおかしそうに笑った。
「ああ、それはね。あたしは宮原が前から、好きな人が誰なのか、知ってたしさ。やっと、つき合う事になったんだから、協力してみようと思ったんだ」
里絵さんはそう答えた。
なるほどと思いながらも、あたしは里絵さんと二人で教室に向かう。
美佐と出くわしても、今度はちゃんと、挨拶くらいはしなきゃと決めた。
けれど、怖くはあった。
友達を無くす代わりに、彼氏を得たあたしは罰当たりかもしれない。
足が重たくなったのであった。
運良く、美佐はいなかった。
あたしは里絵さんに礼をいって、自分の席についた。
今日は体育がないので、体操着は持ってきていない。
そんな何でもないことを考えていたら、肩をぽんと叩かれた。
驚いて、振り向いたら、宮原があたしに笑いかけていた。
「おはよう!今日、迎えにいったら、おばさんがもう、学校行ったって言っててさ。走ってきたんだ」
「そう。お疲れさま」 あたしが素っ気なく言うと、宮原はあたしの顔をのぞき込んできた。
「どうしたんだ、そんな暗い顔して。また、鈴木になんか、いわれた?」
小さな声であたしに問いかけてくる。
「…別に、何もいわれてないよ。今日は里絵さんが一緒にいてくれたから。大丈夫だよ」
無理に笑って、答えた。
宮原は心配そうにしながらも、そうかと言って、自分の席に歩いていった。
あたしは今日や明日、これからもずっと、美佐に怯えながら、過ごさなければならないのかとため息わついた。
宮原と別れるまで、それは続くのだろうか。
いずれは決着をつけなければならない。あたしは漠然としながらも、密かにそう決めていた。
時間が午前八時頃になって、美佐や他のクラスメートも登校してくる。
美佐が教室に入ってきた時、偶然、目が合った。
けれど、あたしが声を出す前に美佐はすぐに、視線をそらしたのだ。
その素っ気ない態度に、やっぱり、だめだったと肩を落とす。
無視されたまま、時間は過ぎていった。
その日はお昼を屋上で食べて、宮原と話をした。
授業で出された課題やテストで出される問題、先生や他の同級生達のことなどをとりとめもなく、話していた。
「今日、田中がさ、可奈と美佐と二股かけてんのかって、言ってきて。違うって、否定はしておいたんだけど」
なかなか、聞き捨てならない事を耳に入れてしまった。
あたしは頬をひくつかせながらも、確認してみた。
「あたしと美佐が宮原に二股かけられてる?どういう風に考えたら、そうなるわけ。田中って、相当、バカだね」
切って捨ててみたけど、内心はパニック状態だった。
田中には、こんのアホと文句を言いたい。
もしかしたら、田中が美佐に変なことを吹き込んだから、機嫌を悪くさせたってことはないよね?
そうだったら、あいつ、ただじゃおかない。
絶対、後でしばく。 宮原と一緒にね。
あたしはその案に、密かに笑ってみせた。
お昼も終わり、教室に戻った。
あたしは宮原に、「田中には、二股と今度いったら、しばく」と伝えてほしいと頼んだ。
困った表情をされたけど、すごんでいったら、渋々、YESと答えてくれた。
それに安心しながら、あたしは自分の席に戻った。
クラスメートの女子達は美佐を遠巻きにして、見ている。
「…ねえ、あの鈴木、樋口さんのほっぺたを殴ったらしいよ。それのせいで、生徒指導室に連れてかれたって」
「え、もしかして。グーで殴ったの?」
「平手打ちじゃない?グーで殴ってたら、青あざができてるだろうし」
やけに、細かいところまで噂をしあっていて、あたしはうんざりした。
美佐はぼんやりとしながら、宙を見つめている。
その表情はお面のようで、堅く、心を閉ざしているようだった。
あたしは次の授業の準備をして、気を紛らわす。
宮原も心配そうにこちらを見ている。
ちなみに、田中はあたしの伝言を聞いたのか、目が合うと、気まずそうな表情ですぐにそらされた。 それにほくそ笑みながら、あたしはざまあみろとつぶやいた。
人に二股疑惑をふっかけようとするから、こんな目に遭うんだ。
少しは学習しろってんだ。
口に出して、言ってやりたくなったのであった。




