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親友とあたし1

「美佐、宮原!二人とも、落ち着いて!」

あたしが大きな声で、注意すると、美佐は胸ぐらをつかんでいた手をはずして、不満そうにしながら離れた。

宮原はしわのついてしまった襟元を直しながら、ため息をついている。

「…何で止めるの、可奈。元はといえば、こいつがあんたにちょっかい出したのが悪いんじゃない。しかも、告白までして。あんた、宮原にエロいことされそうになった自覚ないわけ?」

あたしはそれはと言いながら、黙るしかなかった。

宮原がやれやれと首を横に振る。

「…二人とも、俺のこと、信用してないね。いくら何でも、告白して、返事もまだなのに。そんな子に体を迫るわけないじゃんか」

「あんたがいったら、ただのセクハラにしか、聞こえないよ。可奈以外にも手を出してるくせに」

どうして、そんなこと知ってるのとこちらが聞きたい。

美佐は脇に置いていたお弁当を膝に戻すと、座り直して、食事を再開した。

あたしも同じようにする。

宮原は購買部で買ったらしい菓子パンにもう一度、ぱくつき始めた。

黙々と、お昼を食べ終えると、美佐は先に帰ると言って、屋上から、出て行ってしまった。


美佐が出て行ってしまうと、あたしも食べ終えたので、お弁当箱を包み直して、立ち上がった。

「じゃあ、宮原。あたし、教室に先に戻るね」

そう声をかけて、背中を向けた。

ふいに、歩きだそうとしたら、腕を強い力で掴まれる。

「待てよ。樋口、まだ、返事を聞いてない。俺とつき合うこと、考えてみてくれた?」

そういって、あたしはまた、抱きすくめられた。

宮原はあたしの額を片手で触れてくる。 「…あ、やっぱり、熱くなってる。俺の勘は当たってたな」

「どういうこと?!宮原、お昼休み、終わっちゃうよ」

すると、宮原はくっくっとおかしそうに笑い出した。

それと同時に体が震えるのがこちらにも伝わってくる。

「いや、実をいうとさ。樋口が俺を見て、熱を出すの考えてみたら、樋口が俺を過度に意識してるのが原因じゃないかと思ったんだ。で、俺が触ったり、刺激を与えて、樋口が満足できたら、熱が下がるんじゃないかと結論づけた、てわけ」

「…それって、あの」

「あー、それ以上は言わない方がいい。で、樋口、返事は?」

あたしはあたふたと慌てることしか、できなかった。


「…お断りって、いったらどうするの?」

小さな声で問いかけると、宮原はあたしの顔をのぞき込んできた。

額に触れていた手が頬に移動する。

指で線をなぞられた。

くすぐったくて、あたしは横に向いて、逃れようとした。

けれど、顎をふいに捕らえられて、上にくいっと動かされた。

「…それはなしって事で。つき合うの前提ね。俺はNOは受け入れないから」

茶色の瞳は日に透けていて、不覚にも、きれいだと思ってしまう。

口調はからかうようなのに、瞳と声は真剣である。

「YESしか、ないっていう事?あたしには逃げ場がないじゃん」

「逃げ場は与えないよ。俺の言うことをきいてくれたら、別れてもいいけど。それまでは、彼氏と彼女の関係だから」

見かけによらず強引であたしは、この場を逃げたくなった。美佐はいいよね、逃げることができたんだから。

不運さに泣けばいいのか、クラスでもてている男子の彼女になれたと喜べばいいのか…。

あたしは自分の不運さに、泣きたい方が先にきたのであった。


美佐に助けを求めたくたって、ここにはいない。あたしはお昼休みが終わるから、放してと訴えた。

「…じゃあ、返事はどうするわけ?」

責めるように見つめてきて、放してはくれなかった。

どころか、あたしをきつく抱きしめてきた。

「あたし、よりも。美佐にしなよ。あの子だったら、宮原とお似合いだし。あんたのこと、好きらしいし」

けれど、宮原は眉を寄せて、嫌そうに顔をしかめたらしかった。

「美佐って、渡辺の事?俺、あいにく、渡辺には興味がない。樋口は俺をほしいんだろ。だから、告白までしたのに…」

あたしはそれを聞いた途端、頭から、真っ逆様に水の中に飛び込まされたような心地になった。

「…な、ふざけないでよ。あたしは宮原をほしくて、あんな風になってたんじゃない!人の事、そんな風に言うだなんて、信じられない!!」

大声を出したら、目から、何かがあふれ出した。

ココロが熱くて、苦しい。

宮原はあたしのこと、妄想癖のひどいどうしようもない女として見てたなんて。そんなつもりないのに。

そう言いたいのに、言葉が出てこない。

「…とにかく、落ち着いて。その、樋口は俺のことほしかったとか、そういう事はなかったんだな?」

あたしを放した上で、宮原は指で拭おうとする。

あたしはそれを振り払った。

「いいよ。自分で拭ける。ハンカチくらいは持っているから!」

ポケットから、ハンカチを出して、目元を拭う。

それでも、涙は出続ける。

「悪かったよ。からかいすぎたか。もう、悪さはしないから」

あたしの頭に手を当てて、なで始めた。 それも振り払って、お弁当箱を抱えたまま、出口のドアへと向かう。

走りながら、ドアノブを回して、中に入った。

階段を駆け足で下りていく。

あたしは無我夢中で教室へと帰ってきた。



教室に戻ると、午前中に話しかけてきた鈴木さんがあたしに近寄ってきた。

「樋口さん、さっき、渡辺さんが怒りながら、帰ってきてたけど。何かあったの?」

ひそひそとあたしに、尋ねてきた。

「…さあ、あたしにもわからない。ただ、宮原がちょっかいをかけたとか言ったら、怒っちゃって」

「そう。渡辺さん、意外と、曲がったこととか嫌いそうだもんね」

ふうんと言いながら、鈴木さんは自分の席へと戻っていった。


お昼休みは後、十分 で終わりそうになっていた。

それを時計で確認すると、鞄から、ケータイを取り出した。 こちらの時計も見て、お弁当箱を鞄の中にしまい込んだ。

ケータイも中にしまう。

美佐は自分の席で、ぼうっとして、宙を眺めている。

次の授業の準備のために、教科書やノートなどを取り出した。

「…危ない。ぎりぎりセーフだな」後ろから、聞こえた声に振り向いた。

そこには、宮原が立っていた。

「もう、十分前だぞ。宮原、珍しいな。お前がぎりぎりで帰ってくるなんて」

からかうように、男子が話しかけてきていた。

確か、名前は田中とかいったっけ。

「田中、お前にだけは言われたくない。お前だって、時間守らなくて、先生に怒られたことあったじゃないか」

苦笑いしながら、答える宮原は至って、普通である。

あたしは朝から、今に至るまでの事を思い返してしまっていた。

今日はいろいろありすぎた。

早く、家に帰って、ゆっくりと休みたい。

あたしは心底、それだけを考えていた。 そして、古文の授業が始まるのであった。


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