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2…殺伐gamer-Part/β1

「しっかし、つまんねーなー」

 ヒエンが後頭部で手を組みながら唇を尖らせる。

「幽霊なんてちっとも出てこないぜよ」

「ほんとのりありー・ふぁしずむ、と見たよ~」

 ラミぃは珍しく無表情に、

「ゆーれいのれれい、は、私と達に常に敬意をはらいぶらっしんぐ、なんじゃないかなー」

「かもなー」

「テキトーに流すのは良くないにゃ」

 桐葉先輩のツッコミ。ヒエンはぶー、と唇をまた尖らせる。

「ったく、折角の肝試しだっつーのに、拍子抜けだぜ」

「ふふん、まぁまぁ」

 私が人差し指を立てると、ヒエンは「ん?」と目を丸くする。

 私は少し背筋を伸ばして、

「女子をエンジョイしてる結弦さんから見るとねぇ、リアル肝試しなんてこんなもんだよ」

「?」

「お化け屋敷とかだとさ、何か出てくるって分かってるじゃん? でも、ここはそれが分からないから、それだけで警戒心が生まれるんだよ」

「ふーん」

「それが怖さにつながるのさ」

 結弦さん、こう見えて知り合いは多い方なのだ。もちろん一緒に遊びに行ったりもするし、いろいろな話をしたりする。もっとも、高校に入ってからは星や桐也君達と一緒に遊ぶことが圧倒的に多かったりするけどね。

「でもよー」

 しかし、ヒエンはふとこう呟いた。


「出てこないんだったら、怖くもなんともないぜよ?」


「……まぁ、そういう人もいるだろうねぇ」

 私は少し嘆息した。


  ○


 私と桐葉先輩、ラミぃとヒエンは、玄関を入って左側に進み、現在は2階を歩いている。

 外観からは想像できないほど広い建物らしく、歩いていても誰かと鉢合わせになったり、遠くから声が響いてくるようなことも無い。なんだか不思議な空間だ。

 そんな中を、私達はゆったりゆったりと進む。

「早く終わらせるにゃ」

 桐葉先輩はひとりそう愚痴って、ずんずんと小さな体で先に進む。

「桐葉ー、あんまり急いでも体に毒ぜよ?」

「ぼでぃー、にぽいぞにんぐ、の毒消しえーてる、だよー」

 天使の助言にも耳を貸さずに、桐葉先輩は進む。

「やれやれ……」

 ヒエンの溜息とともに、私達も急ぎ足になる。

 幸い、桐葉先輩はそれほど早く歩いていなかったので、すぐに追いついた。

「先輩、怖くないんですか?」

 私が尋ねると、先輩は「ふふん」と少し得意げに、

「自慢じゃないけど、こういうのは慣れっこにゃ」

「え? 先輩、お化け屋敷とか苦手そうですけど……」

 心臓に負担がかかるとかで。

 しかし、桐葉先輩からはこんな答えが返ってきた。

「ずっと入院してたからにゃ。心霊現象なんて、日常茶飯事にゃ」

「……え?」

「病院には、そういうのがツキモノにゃ」

 例えば、と桐葉先輩は人差し指を立て、

「夜な夜な、廊下を裸足で歩く音が聞こえたり……」

「ほ、ほう」

「誰もいないはずの病室で、突然、子供の笑い声が聞こえたり……」

「ふ、ふぅん……」

「あとは……そう、看護婦さんの話にゃ。夜に見回りしてた時、ふと後ろを振り返ったら、巨大な人間の顔が浮かんでた、とかにゃ」

「えええ?」

 思わず私の声も上ずる。

 桐葉先輩はうんうん、と頷いて、

「話を聞く分にはみんな、そう反応するけど事実にゃ。実際、長い入院患者とか、4、5年勤めてる病院のスタッフにとっては、もはや当たり前の光景だったりするにゃ」

「そ、そんなもんなんですか……」

「まぁ……言われてみりゃ、そういうもんぜよ」

 ふとヒエンが話に加わる。

「なにせ、人がたくさん死ぬ場所だからなー。死んだ人はもちろん、その家族だったり恋人だったりの何かしらが残る……なんてことも、普通にあり得るぜよ」

「ほっほーう」

 ラミぃが神妙に頷く。もちろん何も考えていない。

 私はなんだか妙な気分だった。病院なんてごく身近にそんな不思議なことがあるなんて、興味半分、怖さ半分みたいな感じだ。

 結弦さんはそういう心霊現象とかに遭遇したことはない事もあって、なんだか羨ましくも感じる。

「まぁ、何事も平穏がいちばんにゃ」

 桐葉先輩はきっぱり、と言いきって、

「心霊現象とか、オカルトとか、そういうのとは無縁の生活を送っていきたいものにゃ」

「そうですかね~」

 私はしかし腕を組んで首を振る。

「折角一回きりの人生なんですよ? 突飛な事、楽しい事いっぱいのほうが面白いじゃないですか」

「それとこれとは別にゃ」

「まぁまぁ、ふたりともともー」

 ラミぃがふわり、と隣から話に割り込み、

「結局の大詰めこんくるーじょん、ひとによりけりぶるーどらごん、じゃないのかねぇ?」

「……?」

 首をかしげる桐葉先輩。

「たぶん、人それぞれってことです」

 私が付け加えると、桐葉先輩はなぜか眉をひそめて、

「どうして分かるのにゃ?」

「へ?」

 などと、今さらな事を聞いてくる。

「なんでこんな奇天烈言語を理解できるのにゃ?」

「なんでって言われても……」

「むぅー」

 ラミぃと一緒に、結弦さんも思わず首をかしげる。

「私と結弦んの、友情と絆のなせるすーぱーぷれいんぐ、なりにけりしだよー」

「んー。長い付き合いの賜物ですね」

「せいぜい1ヶ月くらいぜよ?」

 ヒエンは言うけれど、そこで引き下がる結弦さんじゃない。ちっちっちっ、と指を振り、

「人付き合いは時間じゃない、密度だよ。最も、ラミぃは人じゃないけどね」

 言いながらも、私は何度目かの感心に溜息をつく。

 ラミぃと出会って、まだ「せいぜい1ヶ月くらい」という点。なんだか全然そんな気がしない。昔からずっと傍に居る――まるで、妹みたいな。

 天使と出会ってからというもの、時間の密度はとても濃い。中学時代に初めて御琴先輩に会って以来も、ここまで凝縮された時間を過ごすことなんて少なかった。

「桐葉先輩も、そんな感じしませんか?」

 私はそんな感情を共有しようと話を振るも、

「そんな事ないにゃ」

 と、即答をもらう。

「えぇー……」

「私は常に忙しいのにゃ。ゆったりとした時間を過ごす時間なんて、そうそうある訳じゃないにゃ」

「おいおい桐葉ぁ」

 ヒエンがぐいっ、と顔を寄せる。顔には悪い事を考えていそうな、影のある笑み。

「あたしと過ごす時間は、そんなに不満か?」

「不満じゃないけど、そこまで充実もしないにゃ。要するに」

 すると、桐葉先輩は人差し指を立て、

「ヒエンは、私の生活に驚くほど馴染んでるってことにゃ」

「ふふん、当然ぜよ」

 ヒエンは大きな胸を張って、

「あたしは、桐葉の身体の一部みたいなもんだからなーっ」

「それは言いすぎかもしれないにゃ」

「ふふっ、仲良いですね」

 私は思わず笑ってしまった。まるで、歳の離れた姉妹を見てるみたい。

 桐葉先輩もヒエンも、本当に仲が良いんだなぁ。

「結弦ん結弦んーっ」

 微笑ましい気持ちでいると、ふとラミぃが袖をくいくい、と引っ張る。

「なんだい、ラミぃや?」

「あちらをぷりーず・るっきんなう、だよー」

「ん?」

 ラミぃは、廊下の奥も奥を指さしている。向こうは真っ暗で、私の目には何もできない。

「なんだ……?」

 ヒエンも目を凝らしている。しかし、何も見えなさそうに眉間にしわが寄っている。

「何なのにゃ?」

「むんーむー」

 ラミぃは唇を少しとがらせて、

「おそろしかるく、誰かがうぉーきんぐ・さむわん、なのだよー」

「……誰か、歩いてるってこと?」

 語幹から判断するに、そんな感じの事を言っているのだろう。

「御琴りんか誰かかにゃ?」

 桐葉先輩は呟いてから、いったん立ち止まった。

 それにならって、私とラミぃ、ヒエンも立ち止まる。

「どうした、桐葉?」

「肝試しなのに、合流しても面白くないにゃ。少しここで待つのが部難にゃ」

「ああ、そう言われればそうかもですね」

 桐葉先輩の顔は、少しにやにやとしている。

 私は長年の付き合いの勘から、なんとなく察する。こういう顔の桐葉先輩は、必ずなにかしら『よからぬこと』を考えている。

 根は真面目な人でも、こういう所は流石御琴先輩の友人だなぁって思う。

 きっと、御琴さんが通り過ぎるのを待って、後ろからおどかしてやろう、とか考えているのだろう。正直、こういうところは背と同様に子供っぽい。

「まぁ、いいんじゃないですか?」

 とりあえず私は返して、4人で立ち止まる。

 相変わらず、廊下の向こうの様子は見えない。しかし、なぜかラミぃには見えるようで、

「おーおー。むこうにきえにけり、だよー」

 と、報告。見えなくなった、と言うことだろう。

 私達は顔を見合わせる。

「じゃあ、どうやっておどかしてやりますか?」

「む。……結弦りんも私と同じこと考えてたのかにゃ」

「長い付き合いじゃないですか~。その程度、察せて当たり前ですよ」

 桐葉先輩はなんだか不機嫌そうな顔をしていたけど、次第に諦めたように笑い、

「まぁ、それもそうかもにゃ」

「そうですよ」

 お互いに絆を確かめ合う、夜の廃校。なんともシュールだ。これで夕日に照らされる屋上とかだったら、名シーン間違いなしだろうに……。

 ともあれ、

「じゃあ、行きますか」

「そうだにゃ」

「おーっ」

「おーっ」

 4人で、早速廊下の奥へ歩きだそうとする、その瞬間に、


 ごと。


「?」

 重たい物を置くような音が、すぐ後ろで聞こえた。

「何にゃ?」

 桐葉先輩にならって、私が後ろを振り向くと――


 すぐ目の前に、人体模型があった。


「おわあああああああああああああああああああ!?」

 とりあえず絶叫。

「……?」

 対して、桐葉先輩は全く動じておらず、訝しげに人体模型を睨んでいる。

 私は意味も無くテンションを上げながら、

「さっきまで、こんなの無かったですよ!?」

「……誰かのイタズラかにゃ」

「それにしては、人の気配はなかったぜよ……?」

 ヒエンも首をかしげている。

 ラミぃは人体模型を指さして「あっひゃひゃひゃひゃ!」と大爆笑。

「ん~?」

 桐葉先輩はひとり首をかしげている。

「不可解にゃ」

「まぁまぁ! 何にせよ」

 しかし、ウジウジと悩む水嶋の血ではない。

 私はガッツポーズをビシッと決め、


「怪奇現象ですよ!」


「……」

「めっちゃ面白いじゃないですか! この調子でどんどん行きましょう!」

「結弦りん……」

 桐葉先輩のさげすむような視線が刺さる。

 しかし、気にしない! 結弦さんは楽しいコトの為なら、なんでも犠牲に出来ちゃう女の子なのだ。

「ラミぃ、いっくよー!」

「おーいゃー!」

 私はラミぃを引きつれて、ずんずんと奥へ歩いてゆく。

 まだまだ、面白いことが起こりそうな予感がいっぱいだった。

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