1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part8
「片付けは僕がやっとくから、遅くならないうちに帰りなよ」
という吉瀬先生のお言葉に甘えて私達は帰路に就いていた。
ちなみに原河さんと桐葉さんは道が逆ということで、既に分かれ道となっている。
「ま、くれぐれも不審者なんかには気をつけるんだな」
と言い残した原河さんは、帰る時の後姿まで堂々としていた。
「なんていうか……16回目にして、一番疲れた誕生日だったような気がする」
私は今日のいろいろな出来事を思い返して、その言葉を代表して吐き出した。
「変な先輩に会って、屋上でご飯食べて、流れ星たくさん見て……」
しかも、よくよく考えたらあたりまえだけど、屋上の床と言うのはコンクリートだ。そこに椅子も座布団もなしでずっと座ってたんだから、そりゃ今歩いている足が痛いのも仕方ない。
「でも、いろいろ楽しかったでしょ?」
結弦がにこにことほほ笑みながら言った。
「意味はともかくとして……しばらく忘れられない誕生日になりそうじゃない?」
「ん……まあ」
「はぁ……やっぱり、星に紹介しておいて正解だったなあ」
いたずらをした子供が親にばれなくて怒られなくてよかった、みたいな表情で結弦がはあ、と息を吐く。
「ね、桐也君も面白かったでしょ?」
「まあ、面白かったな」
一方で私の隣を歩く桐也は、少し明るい口調でそう答えた。
「あの先輩方は、中学時代からの知り合いなんだっけか?」
「うん、最初は御琴先輩が中心だったんだけどね」
満天の星空を見上げながら、どこかはかなげに結弦が語る。
「次第に桐葉さん、私の姉さん……って人が何人か集まってきてね?」
「へぇ……」
「さすがに中学生だったから、今日みたいにみんなでご飯食べたりとかは出来なかったけどさ。御琴先輩はこう、人を惹き付ける何かを持ってるんだよね」
「まあ、何となく分かる気がするな」
「ずっと自信たっぷりでさ。どんな時もあんな風に堂々としてて、一度でいいからあんな人になりたい、って思ったよ」
「結弦だって、私から見れば十分自信たっぷりに見えるけどなあ」
何気なしに私が言うと、少しムスッとした表情になって、
「何それ。結弦さんをからかってるの? 悪い子だね」
「や、そんなんじゃないよ。純粋にそう見えただけ」
「ふん、リア充にそんなこと言われたって嬉しくないもん。√1点」
「要するに1点じゃん」
「うるさいなあ、いちいち細かいこと気にしてるから友達増えないんだよ」
「何よそれ。関係ないじゃん」
「……一概に否定できんな」
「ちょっと桐也、そこは幼馴染をかばおうよ。事実でも黙っておいてあげるっていう、優しさを行使しようよ」
「だって事実だしなあ」
「……もういいや」
うなだれる私。ここまで罵倒される誕生日は初めてだ。あんなに綺麗な流れ星も、この気分のままだったらきっと素直に見れないだろう。
「でも凄かったよなぁ、あの流れ星」
桐也が私の心中を察したようにそんな事をつぶやいた。
「何かあるんじゃないかって気にさせるよな」
「おろ、珍しいね。割とリアリストな桐也君がそんな事を言い出すなんて」
「だってなあ。あんなのTVでも、なかなか見られる量じゃないぜ? それが同じ誕生日の人間が5人そろってる時に降ってくるというのは、たとえ偶然でもそういう気にさせる」
「そりゃあね……帰ってたら空から白いシスターさんが降ってきてたり、するかもしれないけど」
「それはないだろうが……ま、もっと現実的な何かはあるだろうな」
そんな会話を勉強中に聞く音楽のように聞き流しながら、私はぼんやりと夜空を見上げてみる。
もうさっきみたいな流れ星は見えない。いつも通りの星空。何かが落っこちてくるわけでもなければ、何かが通り過ぎていくわけでもない。別にそんな偶然が重なったって、何かが変わるわけじゃない。
これが小さい頃なら、私だって期待の1つ2つしていた。でも今は、そんな事を考えなくても分かっている。
「変なことなんて、ない」。
それだけ分かってしまっているんだから、もう思考の必要はない。考えるだけ、無駄なのだ。
そこまで考えたところで、結弦がひょいっ、と顔をのぞかせる。
「どしたい、星や」
「あ、ううん。ちょっと考え事をね」
「ふーん……」
本当に何も考えてなさそうな平坦な声でふーん、と言った結弦は、
「じゃ、私、こっちだから。また明日ねー」
と、横合いの道へ入って行った。
「あ、じゃあね」
「また明日なー」
私と桐也はそれぞれ挨拶を返しながら結弦を見送り、それから歩きだした。
「なんていうかさ」
2人で並んで歩いていると、不意に桐也が呟いた。
「変わったよな、星」
「へ?」
「つまんない人間になったな、ってこと」
「またその話? あんまり言われると傷つくんだよ?」
私がため息をつくと、桐也もふう、とため息をついて続けた。
「今の星さ、なんかいつも怒ってるみたいに見える」
「怒ってる? 私が?」
「なんか、昔みたいなはきはきした性格が抜けたよな。いろんなこと自分の中で溜めこんでるみたいに見えるぜ」
少しだけ心配するような色を含ませて、桐也は言った。私はそれがなんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。
「変な桐也。どうかしちゃったんじゃない?」
「うわ、お前の言うとおりに優しさを向けてやったのに、しかもお前にだけは『変』って言われたくなかった」
「だって、そんなの今に始まったことじゃないし……私はいつも通りだよ? 心配しなくても大丈夫だから」
なんだか明るい気分になりながら宣言するようにそう言うと、桐也は一瞬だけびっくりしたような表情を見せた後、
「なら良いけどな」
と言って、私の頭をくしゃくしゃと優しくなででくれた。最後にぽんぽん、と軽く頭を叩いて、
「心強い先輩方もいることだし、何かあったら相談しろよ? 家族なんだからな」
と言って、優しく笑いかけてくれた。
その笑顔を見て、私も、不思議と穏やかな気分になれた。
「じゃ、俺もこっちだから。また明日な」
「うん、また明日」
手を振り合って、私達は分かれた。といっても、もう私の家の前だ。
私の家は7階建てマンションの4階にある。今はそのマンションの正門に立っている状態だ。ここから大きな駐車場を通り過ぎて、玄関のホールまで歩くことになる。距離は30メートルくらい。
「はあ……今日は宿題もあまり多くないし、早めに寝よっかな……」
1人になった途端に大きなあくびが出た。どうやら私は思っている以上に疲れているみたいだ。当たり前か。
「うう~、眠いよう……」
そんな事を思いながら、私はずるずると引きずられるように歩く。駐車場には車が少ない。駅からやや遠いという立地条件も重なってか、住んでいる人は意外と多くないらしい。まだ夜の8時くらいだろうか。仕事が終わっていない人も少ないのだろう……と考えていると。
「ん?」
1つ、車の間に、何かの影が見えた。
「……人、かなぁ?」