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2…殺伐gamer-Part2

「と、言う訳で」

 午後8時。

 周囲に何もない闇夜、旅館の前で、御琴さんの大音声が黒い空にこだまする。


「第一回・リアルゴーストバスターズを開始する!」


『いええええええええええええい!』

「……いえーい」

 やる気のある大多数、やる気のない少数。

 当然、私は後者の人間だ。いざ行こうと思っても、やっぱりここまでやる気は出せない。

 すると、集団の前で音頭を取る御琴さんに「おい!」と叫ばれる。

「何を腑抜けているか、そこの凡人ども! もっとやる気を出せ!」

「無理やり連れ出しておいてその言いぐさはないにゃ!」

 桐葉さんが小さな体で反論する。

「そもそも、今日の私はすこぶる気分がよくないのにゃ! 休ませていただきたいにゃ!」

「ふん、そうして寝てばかりだから身長が伸びんのだ。学習しろ」

「き~っ!」

 一段と悔しそうに桐葉さんは奥歯を噛みしめ、

「絶壁の御琴りんに言われたくはないにゃ!」

「っ……!」

 一瞬、御琴さんはたじろぐ。

 結弦や青嵐さんは「うわぁ……言っちゃった」「流石はきっちゃんね……容赦ないわ」と、2人を交互に見まわしている。

「……」

 私もなんだかいたたまれない気持ちになりながら押し黙っていると、

「ふ、ふん。そ、それがどうした……っ!」

「お、おお……! 立ち上がった!」

 御琴さんはよろよろ、と体勢を立て直し、桐葉さんにビシィ! と指を向ける。

「総合スペックで上回るのは私だ! 貴様などに発育を語られる筋合いはないわ!」

「ぐ、ぐぅ……!」

「御琴よぅ……お前、夜中になにを叫んでるんだ……」

 氷室兄さんが御琴さんに不思議な視線を向ける。

 すると、御琴さんは「ふん」と鼻を鳴らし、

「分かっていないな、氷室よ。こういうのは隠してはいかん。堂々と語りあってこそ、女は磨かれるのだ」

「TPOって言葉があってだな……」

「ふん、無学なお前に何が分かる」

「うぅ……お前、痛いところを突くな」

 苦笑する兄さんに、ヒバリが「まぁまぁ」と励ましを送る。

「氷室さんは料理が出来れば十分っすよ。腐っても鯛っす」

「腐ってないわ」

 相変わらずの突っ込み。ベテラン芸人顔負けだ。

「ところで氷室さん、TPOってなんすか?」

「へ?」

 ヒバリの問いに、兄さんは「ん~……」と頭をかきかき。

「まぁ、状況に応じた行動をしろってことだな」

「ほう」

 納得したようにヒバリは頷く。

「……姉さん、TPOってそういう意味だったの?」

「ええ、time place occasion」

「……???」

「ふっふふー。結弦んにはむずかしべりー・でぃふぃかると、すぎたのかもしれないかもにょろ」

「う、うるさいなぁ! 英語はたまたま苦手なだけで……!」

 ……。

「バカ姉妹が……」

 私の隣に陣取っているトゥルーが、頭痛をこらえるがごとくこめかみを押さえている。

「どうしてこう、まともな奴が集まらん……」

「まぁ、仕方ない気もするぜよ……」

 ヒエンも、興奮する桐葉さんを一生懸命になだめながら呟く。

「何せ、あの御琴が先導してんだからな……」

「ああ……それはあるかもね」

「……はぁ」

 深いため息をつくトゥルー。彼女はなかなかに常識人なようだ。人じゃないけど。

 そんな私の横には、やる気が溢れる小さな天使が1人。

「星、星ー! たのしみだなー!」

「……うん」

「ぶー。なんだよー、もっとやる気出したっていいじゃねーか! スパッと行こうぜ、スパッと!」

 エルトは今日も元気そうでなによりだ。

 どうやら、よほど『幽霊』という単語に興味があるらしい。それは、ここにいる大半がそうなんだけど……もちろん、私は違う。

 いや、正直――ちょっと、興味はある。

 これで本当に幽霊に会えるのなら、それはそれでなんだか面白そうかもしれない。ただ、それが原因でトラブルに巻き込まれるようなら、それは全くの不本意、非現実。

「ああ……それは、あたしも最も危惧すべき事態だ」

 トゥルーが眉をひそめながらそう言った。

「面倒そうな予感がしてならねぇ……」

「あら、いいじゃないの」

 青嵐さんがトゥルーにやんわりと言う。

「トゥルーだって、見てみたいでしょう? 幽霊とか」

「はぁ?」

 トゥルーは更に目をすがめ、

「もううんざりだっつの。見たいわけあるか」

「あら、そうなの……?」

 がっかりと青嵐さんが悲しそうな表情をする。

「姉さん、トゥルーをそんな子に育てた覚えはないけれど……」

「育てられてねぇ」

 しっかりと突っ込みを入れるトゥルー。いいコンビだ。

 私がのほほん、とそんな事を考えていると、私の隣にいつの間にかいた桐也が話しかける。

「ホント、妹そっくりだよな」

「え、そうかなぁ……」

 活発な結弦と、おっとりした青嵐さん。お世辞にも、似ているとは思えない。

 しかし、ここでも私は少数派な様で。

「ああー、分かる気がするぜーっ」

 と、エルトを皮切りにみんなが同意する。

「なんつーか、雰囲気がソックリだよなー」

「あ、わかる。ボクもそう思うな」

「ふぅん……そんなもんなのかな」

 なんとなく人の雰囲気を察するのが苦手な私。こういうことには、結構疎い。

 とりあえず、2人をもう一度よく見てみる。

「いやー、ラミぃ、楽しみだねぇ!」

「たのしみー!」

「そうだよねぇ、結弦さんも楽しみ! リアルゴーストバスターズだぁ!」

「いえー!」

 ……。

「ふふ、ゆうちゃんたらあんなに喜んじゃって。トゥルーも見習いなさい」

「誰が」

「もう、そうやってつっけんどんだからいけないのよ? 女の子らしくしなさいな」

「誰が」

 ……。

「……そう、かなぁ……」

 見れば見るほど、首をかしげることになる年頃。

「まぁ、いつかわかると思うよ」

 アリィが何か含みある笑顔で私にそう言った。

 私は特に言い返すこともできずに、

「アリィに言われちゃ、敵わないなぁ」

「えへへ。ボク、こういうのけっこう好きなんだ」

 アリィはくすぐったそうな笑顔を向けて、

「なんとなく、ね。ボク、人のきもちが分かるんだ」

「?」

「どーいうことだー?」

 エルトが尋ねると、「うーん……」とアリィは困り顔。

「ボクが『ⅤⅠ(恋人達)』だから……かな?」

「ふぅん……」

 天使と言うのは、そういうものなのだろうか。私はまたひとつ、意味も無く納得する。

 となると……。

「?」

 私はエルトを見る。

 確か彼女は、『ⅤⅡ(戦車)』と言っていた気がする。

 なにかそれっぽいことが出来たりするのだろうか。

「さぁー……」

 エルトにそれを問うても、ただただ首をかしげるばかり。

「ウチもよくわかんねー」

「適当だなぁ……」

「だってなー」

 不機嫌な表情をするエルトに代わってか、桐也が代弁する。

「星だって、自分で自分が分からない事もあるだろ? そういうことだよ」

「んー……」

 確かに、自分の事を全部言えと言われたら無理かもしれない。

 かくある私も、毎日体重計に乗っている訳でもなければ、毎日自分の身体状態を事細かに把握している訳でもない。

「そういう……もんなのかな」

「多分な」

 適当そうに桐也は言った。

「まぁ、そういうことは後でも考えられるだろ。今はとりあえず楽しもうぜ、リアルゴーストバスターズ」

「……うーん」

 それを言われると、途端に不安になる。


「さて!」

 ようやく、といった風情で御琴さんが再び叫ぶ。

「そろそろ行くか。者ども、私についてこい!」

『おー!』

「……おー」


  ○


「細かいことにこだわったら負けってこともあるさ」

「そうかもね」

 御琴さんの先導で、エルトと散歩した道を歩く私達。昼間に歩いた時とは大分印象が違って、夜の闇に塗りつぶされた道は、それだけでなんとなく恐怖心を煽る。

 その道中で、兄さんが私に苦笑しながら言った。

「ともかく、幽霊だぜ幽霊。ワクワクしないか?」

「いや、別に……」

「楽しまなきゃ損っすよ、従妹さん」

 ヒバリが赤いハチマキを夜風になびかせながら笑う。

「なんでも楽しめたら勝ちっす。四面楚歌ってやつっすよ」

「もう後がないくらい負けてるじゃねーか」

 兄さんに突っ込まれながらも、私は「ふむ」と納得していた。

 ヒバリの言うことは、なんだか妙に鋭い。ひとつひとつが私の心のピンポイントな所をグサグサと突いてくる。

「ヒバリの言うとおりだぜーっ、星」

 隣でエルトも頷く。

「面白いじゃねーか!」

「さっきからそればっかりだなぁ……ああ、もう」

 うだうだ言ってても始まらないのはわかってるけど、どうしても溜息をついてしまう。

 そして、そんな自分が無性にむなしく感じる。

「思春期っすねぇ」

「天使に思春期を語られるとは」

 ヒバリに反論すると、「失礼っすね」とむくれ顔になってヒバリも言い返す。

「自分だって女子っすよ? その辺の男よりは、同じ女子である従妹さんの気持ちは分かるつもりっす」

「ほ、ほぅ」

「はは、これがあるからヒバリには敵わねぇな」

 兄さんが笑う。

「俺は全然そういうの分からんからなぁ、こう、人の気を察するのが苦手っつーか」

「それは私もだよ、兄さん」

 こと他人の考えることは私には分からない。

「ただし桐也を除く」

「俺も御琴を除く」

 私達は、どうやらどうあがいても駄目人間から脱却することはできないようだった。

「もっと交友関係を広げないといけないね、兄さん」

「そうだな、星」

 はぁ。

「2人とも、大変だなー」

 エルトがのんきに呟く。

「ウチだったらそんな細かいこと気にしないぜっ」

「自分もっすねぇ」

 ヒバリはしみじみと頷いて、


「友人は、多いより、良い方がいいっす」


『……』

 その、何気ない言葉に。

 私と兄さんは、お互いに顔を見合わせた。

「やっぱり、友達って言うのは、たくさんいるよりも、唯一無二……っていうか。そういう、信頼できるパートナーみたいな人が良いっすよね。自分は、そう思うっす」

「ああー、なるほど」

 エルトが納得したように頷く。

「ウチも、それは分かる気がするぜーっ。星と桐也を見てるとさ」

「え。そうかな」

 そっと私は少し先を歩く桐也を見る。桐也はこちらに気配を向けている様子はない。

 エルトは続ける。

「なんか、2人で一緒にいる、って感じがする。それで満足って言うかなーっ」

「ん。まぁ、間違いではないけどね」

「ウチも、星と一緒にいられれば、それで良いけどなっ」

 照れるようにエルトは笑う。

「はいはい、ありがとね」

 私も笑顔を返す。

「お前ら、仲良いよな」

「ホントっすねー」

「ん」

 兄さんとヒバリの言葉に、私は軽く頷く。

「なんとかね。うまくやってるよ。ね、エルト」

「おう!」

 エルトも元気に頷いて、

「星と一緒だと、ウチは凄ぇ楽しいぜーっ!」

「そうかそうか」

 兄さんが笑う。

「こりゃ、桐也くんもうかうかしてられないかもな」

「ないから」

 すぐ否定できる自分がいた。


  ○


 しばらく歩くと――

「あ……」

 見覚えのある場所に辿り着いた。


 そこは、エルトと一緒に来た、分かれ道だ。


「んを」

 エルトも気付いたように立ち止まる。

 右手は真っ直ぐな一本道。左手はゆるやかに蛇行した上り。

「ここは……」

「ん?」

 先頭を歩く御琴さんと、傍らのイロウが振り返る。

「どうかしたか、三条よ」

「いえ……別に」

「そうか」

「……?」

 イロウだけが不思議そうに首をかしげている。もちろん、氷の様な無表情でだ。

「では、進むぞ」

 御琴さんは仕切り直すようにそう言って、再び歩き出した。


 歩いてゆくのは――左手の道。

 エルトと通ったのとは逆方向だった。


「……臭ぇな」

「へ?」

 ぽつり、と呟いたのはトゥルーだ。

 隣を歩く青嵐さんが、くんくん、と鼻をならす。

「別に、妙なにおいはしないわよぉ……?」

「そうじゃねぇよ」

 トゥルーはまるで腐った食べ物を目の当たりにしたように眉をひそめて、

「匂いのほうじゃねぇ。……嫌な気配がする」

「うわぁ」

 思わず声が漏れる。

 まさか、本当に悪霊とやらがいるのだろうか……?

「んもぅ」

 そんな不安は、青嵐さんの声でかき消される。

「トゥルーったら、ダメじゃない。そんな物騒な事を言っちゃあ」

「でもよ……」

「ほら、せーちゃん、びっくりしてるでしょ?」

「せ、せーちゃんって……」

 まぁ、私の名前短いし、他に呼び方は無いんだけど。

 青嵐さんは私を振り返って、

「せーちゃん、気にする事ないわ? きっと大丈夫よ」

「はぁ」

「なにかあっても、隣の赤い天使ちゃんに任せておけば安心よ? 天使って、この上なく信頼できるボディーガードですもの」

 にこにこと笑う青嵐さん。

 この人もこの人で、読めない人だ。流石は結弦のお姉さん……いや、御琴さんの友人、というべきか。

 マイペースの塊の様で、本当の事を言っているのかも怪しい気がする。口には出さないけれど。

「そうだぜーっ、星!」

 と、エルトが隣で声高らかに私を指さし、

「ウチに任せておけば、万事安心だかんな! へへーんっ」

「……うん」

 頷くも――不安はぬぐい去れない。

「嫌な事が起きなきゃいいけど……」

星と青嵐の絡みも増やしたいなぁ。

この2人、意外と相性がよさそうです。


次回から、肝試し本番!

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