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1…休日player-Part/δ

「う~……」

 布団を敷いて横になる私に、

「大丈夫か~?」

 と、ヒエンが覗き込むように声をかける。

「ちょ、ちょっとムキになりすぎたにゃ~……」

「……だから言ったのによー……」

 ヒエンは頭を抱えている。

 そ、そんな反応は無いにゃ! そもそも青嵐りんが私にちょっかい出してくるからいけないのにゃ!

「っつう……」

 キリキリと痛む頭を、白い枕にうずめる。

「遊びに来てまで体調崩すなんて、ついてないにゃ~……」


  ○


 ついさっきまでのこの部屋。


「きっちゃぁ~ん」

「……」

 ひらりとドアを開けて入って来た青嵐りん。浴衣の裾がちょっとだけはだけて、大きな胸が少しだけ覗いている。

「少し分けて欲しいにゃ」

 この暑さに少なからず夏バテ気味の私は、だるい体を動かすのも億劫にそう言った。

 すると、青嵐りんは「ん?」と少し考えてから、事情を察したように笑顔になり、

「そこにいるヒエンちゃんから分けてもらえばいいじゃない」

「ん?」

 テーブルに座ってカップアイスを食べていたヒエンは、急に話を振られて目を丸くする。

「どうしたって?」

「ん~、きっちゃんがね、胸をもっと大きくしたいんですって」

「う~……」

 そりゃ、小さい頃から摂取してる栄養が足りてないから、成長が遅いのは必然なんだけどにゃ。

「でも実際、大きくてもあんまりいい事ないぜよ?」

「そうねぇ」

 と、そこは大きいからこその贅沢な悩みを共有する2人。羨ましくも妬ましいにゃ。

 ところで、と私は話を変える。

「青嵐りん、何しに来たのにゃ」

「ん? 何しに、って訳じゃないけどぉ……暇つぶし?」

「すぐ帰るにゃ。私は今、とっても疲れているのにゃ」

 座布団に横になり、私はんーっ、と水平に背伸びをする。

 8月の昼は、いつも私にとっては嫌な時間帯にゃ。黙っているだけでも体力を消耗するし、こまめに水分補給しないと、あっという間に体調を崩してしまう。

 これがちょっと前までだったら、環境の整っている家か病院で生活しているところにゃ。

「大変ねぇ」

「全くにゃ。健康に天然に、悠々自適と暮らしている青嵐りんとは大違いなのにゃ」

 体調にいちいち気を配らないと、まともに生活もできない。困った性分にゃ。

「でもいいじゃない。きっちゃんはそのサイズのほうがぜぇったい可愛いわよ~」

 と、青嵐りんは私の背後にすささ、と移動し、むぎゅっと長い腕で抱きついてくる。

 ヒエンはアイスを口に運びながら「何やってんだよ……」と困り笑い。

「青嵐、あんまり桐葉にくっつくなよー。桐葉はあたしのもんだからな」

「何言ってるのよ。きっちゃんは、みんなのお人形さんよ」

「誰が人形にゃ」

「ん~、この赤いリボンとかお洒落じゃない。お人形さんそのものよ」

 そう言って、青嵐りんは、私の頭のリボンをちょいちょいと引っ張る。

「あんまり触らないでほしいにゃ」

 青嵐りんを引き剥がすと、「んもぅ」と不満げな顔。

「いいじゃない別にぃ」

「良くないにゃ!」

 大声で反論。

「これは、私の何より大事な宝物なのにゃ! あんまり触ってほしくないのにゃ!」

「そうなの……?」

「あ~もぅ!」

 おっとりおっとりな青嵐りんに、いい加減イライラしてくる。

「中学時代にも何度も何度も何度も何度も話したにゃ! その度に『そうなの……?』って返してるにゃ! 天然もほどほどにするにゃ!」

「そんな事ないわよぉ」

「あるのにゃーっ!」


  ○


「あんなに全力で叫んでたら、そりゃ頭に血も昇るぜよ」

 やれやれ、とヒエンが肩をすくめる。私は自然に喉から「う~」と唸ってしまう。

「青嵐りんには苦労させられてばっかりにゃ……っつ」

 喋るたびに、ズキズキと頭痛が響く。

 この暑さも相まって、体力が凄い勢いで減っていくのが分かるにゃ。

「う~……」

 布団に顔をうずめる私に、ヒエンがポニーテールを揺らしながら、

「桐葉は体質の割に神経質すぎるぜよ。もっとさくっと行けばいいのにさ」

「神経質じゃなくて、几帳面といって欲しいにゃ」

「どっちも同じだろ」

 鼻で笑うようにアイスを一口。

「昴の事もそうだけど、いろいろ気を使いすぎぜよ。それじゃあ、体もすぐ壊して当然だ」

「うう~……」

 私は必死で枕に顔をうずめる。

 確かに、その点は私も自覚しているし、他人に何度も言われてきた事にゃ。

 まぁ、多分――ずっと病院で暮らしてきたのが影響してるのかもにゃ。病院って患者の出入り以外には、なかなか変化がないから、そういうごく限られた空間では少しの差異にも目ざとく気付くようになってしまうのにゃ。

 たとえば、壁のシミとか、カーテンのシミとか、布団のシミとか。

「仕方ないのにゃ」

「ならまぁ、そこまでとやかく言わないけどよ」

 ヒエンは尚も呆れ顔で、

「那由他も言ってたけど、あんまり気を揉むなって。のびのびと生きるのが一番ぜよ」

「私はヒエンみたいに、夜中にベンチで寝たりしないにゃ」

「う……」

 言いながら、そう言えばそんな事もあったにゃあ、と自分で思い出す。

 あれから1ヶ月も経ってないとは、人生とは意外と長いにゃ。

「ともあれ、私はヒエンみたいにズボラな人生を送るつもりはないにゃ」

「ズボラって……」

 ヒエンは少なからずショックを受けたようにひくひくと頬を痙攣される。

「あたしはズボラじゃねーよ。きちんとした生活を送れるだけのスキルは持ち合わせてるつもりぜよ」

「嘘にゃ」

「嘘じゃねーって」

 言いながら、ヒエンはアイスのカップをひょい、とゴミ箱に投げる。

 ブーメランを投げるように放たれたそれは、回転しながらUFOよろしくゴミ箱目がけて飛んでいき、しかし直前でくい、と向きを変えて落ちる。

「ああー、惜しいなー」

 にこにこと子供のように笑う女子大生。

「そういうところがズボラなのにゃ」

 呆れながら枕に呟くと、ヒエンは立ち上がるのも億劫に、

「しゃーねーなー」

 と、右手を空にかざす。


 ぽんっ、という光とともに現れたのは、1本の鞭。


 金属質な光沢を放つグリップと、黄緑色に淡く発光する縄。

 そして、先端に取り付けられた、鋭い返しのある鏃の様な大きな銀の刃。

『女帝』たるヒエンには、ある意味ぴったりかもしれないけどにゃ。

「ほいっ」

 そんな物騒な得物と正反対な軽い掛け声とともに、ヒエンは鞭を軽く振るう。

 先端の刃がかんっ、とアイスのカップの側面に切りこみ、そのままそれを持ちあげて器用にゴミ箱へとダイブさせられる。

「そういうところがズボラなのにゃ」

 今度はヒエンに向かって言った。

 ヒエンは「あ?」と、手元の鞭を虚空に消しながら、

「バカだなー、桐葉。これは生活の中での知恵ってやつぜよ」

「そんなセコい事に物騒な武器を使うのは、知恵でもなんでもないにゃ」

「んだよー」

 ぶーっ、と唇を尖らせるヒエンから視線をそらし、私はふたたび枕に顔をうずめる。

「んー……」

 ふと手元の携帯で時間を見ると、午前12時ちょっと前。そろそろお昼時にゃ。

「今日のご飯、なんだろうなー」

 ヒエンがわくわくと上半身を揺らす。

 私もそんなヒエンの呟きに倣い、今日のご飯を想像する。

「そうめんとかそばとか、そういうのが良いにゃ」

「ああー、いいなー。確かに今日、暑いもんなー」

 にこにこと微笑みながら、ヒエンは少しずつ妄想を広げていく。

「こーいうのはさ、夏の日とかに海の家とかで……竹のかごに入れた麺に氷を乗っけてさ。水着の上に軽くカーディガンとか羽織って、砂浜を眺めながらガラスのコップに入ったつゆに麺を入れて……」

「……」

 ……ちなみに私はあんまり冷たいものを食べちゃいけない、と言われている。食べちゃいけない訳じゃないけど、たくさん食べるのは良くないらしいにゃ。

 温かいおうどんでも食べるのが私にはお似合いなのかもにゃ。

「それでさ、風でなびいた髪とかが誰かにかかったりして、それで『ああ、ごめんなさい!』的なノリになって――」

「考えるなら黙って考えるにゃ!」

 あんまりしつこいのでそう怒鳴ると、ヒエンは「なんだよー」と唇を尖らせる。

「いいじゃねーかー。こういうのは女子の特権ぜよ?」

「それは嘘にゃ」

「……はぁ」

 全くこれだから桐葉は、とヒエンは肩を竦める。

「桐葉はもう少し『女の子らしい』気持ちを持った方が良いと思うぜよ」

「はぁ?」

 ヒエンはジト目でこちらを見ながら、

「いつもいつも自分の身体に気ぃ使ってばっかで、桐葉はなんだかんだで『女としての』自分を捨ててるぜよ」

「う……そ、それは」

 一概に否定できない。確かに私は服も買ったりはあんまりしないし、恋の話に花を咲かせることも無い。的射りんとかは生徒会でよく話してくれるけど、あまり興味が持てないにゃ。

「そーいうことぜよ、桐葉に足りないのは」

「……男っ気が足りないってことかにゃ?」

「んー……そうじゃねぇんだよなー」

 腕組みしながらヒエンは唸る。

 しばらくそうしているうちに「そう!」とひらめいたように表情を明るくする。

「桐葉はこう、夢を見るってことがないんだよ」

「夢……」

 ……。

 ……。

「……第一志望は医科大だけどにゃ」

「そういう夢じゃねーって。……桐葉はさ、もっと現実から目を離して、何か夢を持つのが良いと思うぜよ」

「あ……」

 図星を突かれても、ここまですっきりする突かれ方は経験が無かった。

 ヒエンはそんな私を見て、更に続ける。

「生徒会でも、普段の生活でも……自分の事にばっかり気を遣って、なにか物足りない感じがするぜよ。もっと楽しい事を考えたり、少しくらいはっちゃけたりして。そうでもしないと、人生をつまらないまま終えることになる」


 そこでヒエンは少しだけ悟ったような、辛そうな笑顔になる。


「そんなの、嫌だろ?」

 念を押すようにヒエンは私に言った。

「だからあたしは、出来るだけ楽しいことを考えて生きてるつもりぜよ。甘い物もたくさん食べたいし、いろんなとこに行きたいし」

「……」

 私はすんなりと、その言葉に聞き入っていた。

 確かに、と思う。

 今まで、そこまで何かがしたいと思った事はそんなに無い。

 生徒会の仕事も楽しいし、御琴りん達と遊ぶのも楽しいにゃ。

 でも、それはあくまで『自分の住んでる世界』の話なのかもにゃ。

「そういうこと」

 ヒエンは微笑んで、

「もっと広く見ようぜ、世界をさ」

 そう言って両手を大きく広げる。


天使(あたし)は、その為にいるんだからな」


「……うん」

 頼もしいヒエンの言葉に、私も笑顔で頷いた。


「そう言えば、体、大丈夫か?」

「ん。ヒエンのおかげで、治ったにゃ」

「そか? じゃあ、飯食おうぜ、飯!」

桐葉の話です。書いていくうちにどんどん真面目なキャラになっていくなぁ。


まぁ、元が真面目だからそうなんでしょうけどね。

あとは青嵐が近くにいるから不機嫌なのかな(


次は……うーん(笑)

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