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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part7

 あっという間に時間は過ぎ、気が付いたら1時間以上も経っていた。

 私達は行事の時に使う青いビニールシートに円形に座って、どこから持ってきたのか白いポットから熱湯を頂戴しつつカップ麺を口に運んでいた。

 カップ麺はラーメンだけじゃなく、中華そばや春雨なんかもあった。私はとりあえず無難に醤油味のラーメンを2つほど食べて、その時点でおなかの悲鳴に答えてあげることにした。1人暮らしが長いと、意外と胃袋は小さくなっているらしい。

 そんな中で原河さんは7つ目のカップ麺(シーフード味)を啜りながら、私に何気なしに問いかける。

「もう食わないのか? こんなに余ってるんだ、貰うだけ貰っておけ」

「もう入らないですよ……」

 私は呻くように答えた。おなかの中の小麦粉たちが内臓を満たしている。正直、苦しい。

「もったいないやつだ」

 原河さんはしょうがない奴だな、とでも言いたげにそう言って、

「さ、次はこれな。吉瀬、湯を注いでおけ」

「はいはい。……それにしても、よく食べるね。どこにそんなに入るのかな?」

 生徒の言うままに8つ目のカップ麺(とんこつ味)にお湯を注ぎながら、吉瀬先生が尋ねる。

 確かに私も気になっていた。少し見ただけでわかるけれど、原河さんはとっても線が細い。かといって華奢と言うわけでもなく、全体的にバランスが良い。簡単に言うと「美人」だった。

 ちなみに隣から春雨を啜りつつの結弦の指摘によると、中学時代からこんな感じで、これくらいの量を毎日食べているらしい。

「ふええ……」

「食った分は、体と頭に回しているからな。余分な脂肪に回すだけの栄養はないのだ」

「いいなあ、先輩は」

 一度啜った春雨を口の中で50回くらい噛んでいる結弦がつぶやく。

「私もそんな風になりたーい。食べても太らないような」

「いちいち、わずかな体重の変化で一喜一憂するような小さい女ではないからな、私は」

「うっらやっましーいー」

 嫌味を言うような調子で結弦がわざと間延びした言葉を発する。

 そう言えば、私もしばらく体重計とか乗ってないような気がする。特に気にしていないということの表れだろうか。そういう一瞬の油断が命取りなんだよ、とは我が親友(女の子の方)談。

「ま、御琴りんは太りにくいからにゃー」

 桐葉さんが不意にそんな事を妙にニヤニヤしながら言う。原河さんは自信たっぷり、という感じで、

「そういうことだ」

「うん、太りにくいにゃ。縦に成長していくタイプだからにゃー」

 確かに。身長も高いしなあ、若干うらやましい。どうしたらあんなに綺麗になれるかな……?

「そういうことだ。あんまり高くても駄目だが、その点、私は普通に高い、というところだからな」

「ほんと~に、『縦に』伸びてるにゃー」

「……まあな」

 縦に、を強調して話す。さらに続ける。

「しかも、太りにくいしにゃ。『脂肪がつきにくい』からかにゃー?」

「……まあ、な」

「いや~、ほんと~に『痩せてる』にゃー。うらやましいにゃ~」

「……」

 わなわなと無言で震えている原河さん。何があったんだろう?

「ね、桐也さんや。どういうこと?」

 私は幼馴染に尋ねると、桐也は「マジで聞いてんの?」みたいな瞳をことらに向けて、

「俺でもわかるぜ。少しは感ずけよ」

 と、私にささやいた。

「……?」

「星や。君にはわからないかね?」

 と、反対側から結弦の小さな小さな声。

「女の子には、少なからずコンプレックスってあるもんじゃない?」

「……コンプレックス? 私は特にないけど」

「爆発しろっ」

 とだけ言い捨てて、そのあとはやけ食いじゃあというテンションでずるずるずる~っと春雨を啜り続けた。なんなんだ。

 そんな感じでなんだかよくわからない乗りのまま、夕食会の時間は過ぎてゆく。


  ○


「お。見ろよ星」

「なに?」

 更に何十分か時間が進んだ頃。桐也が不意にそんな事を言い出した。

 桐也はただ上を見て、私にも見てみろと言わんばかりにそれを眺めている。

 私もそれにならって空を見上げると、


 真っ黒な空一面に、(ほし)がたくさん瞬いていた。


「わぁ……」

 思わず声が漏れる。それくらい、綺麗な空だった。

 私はこんな名前もあって、昔から天体観測は好きだったりする。その時は小高い丘なんかから見上げたものだけど、今みたいに学校の屋上から見上げる夜空と言うのもなかなかおつなものだった。

 なんせ、視界を遮るものが何一つない。丘なんかには木の葉っぱで見づらい、ということもあった。今は違う。何もない、まさに四角く切り取られたようだった。

 ちなみに天の川はまだ見えない。実際に見られるのは8月あたりに入ってからだったりする。

「ふう……」

 とため息をつくような声がした。見ると、原河さんが同じように夜空を見上げていた。

「いい空だな」

「そんなバルキリーのパイロットみたいに言われても……でも、綺麗だなぁ」

 何かよくわからない前置詞をつけながら、結弦もそう声を漏らす。

「綺麗だね」

「ほんとにゃー……」

 見上げながら、吉瀬先生と桐葉さんの声が聞こえる。

 どうやらみんなでこの光景に見入ってしまっているようだ。

「素敵な、誕生日だね」

 結弦がポツリと、しかし感慨深い様子でつぶやく。それに呼応するように原河さんが、

「全くだな」

「何か、素敵なことが起こりそうですよね」

「そうだな。空から人間やUFOが落ちてきたりするかもしれん」

「ちょ……勘弁してくださいよ」

 私が突っ込むと、原河さんはやや不機嫌そうに私から視線をそらした。

 はあ、なんだか色々と変な先輩だなあ。結弦はどうしてこんな人と友達なんだろう、と思って呆れ気味に空を見上げると、


 つーっ、と。一筋の光が、夜空を横切った。


「「「「「「あ」」」」」」

 6人全員で「あ」と発音する。まあ、無理もないだろう。

 流れ星。

 この辺じゃあ、滅多に見られるものじゃない。相当、珍しい物を見たことになる。

「ね、ね。見たかい?」

 結弦は興奮気味に訪ねる。こちらがうん、とうなずくと、

「はあーぁー。お願いしておけばよかったなー。流れるなら流れるって教えてくれればいいのにー」

 無茶なことを言いながら、結弦がカップ麺の容器に残ったスープを飲み干そうと手に取ると、

「おい結弦。次はお願い、出来そうだぞ」

 桐也が楽しそうに、どこか上の空みたいな調子で言った。

 は? と結弦が見上げるのに続いて私も空を仰ぐと


 ひゅっ、ひゅっ、と。幾条もの流れ星が、夜空に流れていた。


 わあ、と桐葉さんの感心したような声。

 そんな言葉のうちに、流れ星は際限なく夜空を流れ続け、黒い部分を少なくしていく。

 あえてキザっちい言い方をするなら、夜空が私達の誕生日を祝ってくれているみたいだった。

「……」

 無言、無音。だれも、何もしゃべろうともしない。

 それだけ、目の前の光景は圧巻だった。なんせ、真っ黒な夜空を白い光の筋が塗りつぶしているのだ。いや、もう線ではないだろう。線が集まって新たな線となり、線と線が交差して記号のような軌跡を生み出したり。

「すごぉい……」

 結弦の驚嘆の声。私も心中で全く同じことをつぶやいた、

 すごい。

 こんな身近で、こんな美しい物を見れるんだから、私達はそれだけで幸せ者だ。

 やがて光の線は1本、また1本と光を無くしてゆき……10秒と経たないうちに、元の真っ暗な夜空だった。

「……」

 いまだの無言。おそらくみんなあっけにとられているんだろうな、と私は適当に考えてみた。

 沈黙。

 なんだか場の空気が重い。あれ、何この空気? 今立ち上がっただけで「空気嫁」とか言われそうなこの時。

 そんな中……1人の人が立ちあがった。すらっと高い背、長い黒髪に、細い足。

 原河さんはうーん、と大きく背伸びしながら。

 空気を変えます、と言わんばかりに短く言った。


「疲れた。片付けして、帰るぞー」


 こうして第1回夕食会は、何とも妙なテンションのまま終了した。

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