3…一禍団欒?-Part/α7-1
「温泉?」
「ああ、あったって言ってたっけ」
私と桐也が合いの手のように言うと、結弦が「そう!」と元気よく言う。
「ほんっとにね、いいところだよ! 今までのストレス全部洗い流してくれるみたい」
「ふぅん……」
何気なく返事をする。
エルトが立ちあがりながら、
「なー星。おんせん、って何だー?」
「う~ん……大きなお風呂?」
「ふーん」
なんだ、というふうにエルトは何気なく返事をする。
そりゃ、私の説明もアレかもしれないけどさ。温泉なんて行った事も無いから説明のしようがないってもんで。
「行けば分かるよ、エルトも」
「その道ごーいんぐ、だよぉー!」
結弦とラミラミが元気よく言う。
ラミラミはともかく、結弦も本当に元気な様子。これはマジもんかもしれない。
かくいう私も、さっき言ったように温泉には行ったことが無い。なので、少し楽しみでもある。
「でしょ!?」
結弦が凄い形相で迫ってくるので、気圧されるように「う、うん」と返事。
「じゃ、早速行こー!」
「おー!」
という訳で。
私、結弦、エルト、ラミラミ、アリィの5人で温泉に向かうことに。
「ごめんねぇ、桐也くん。一緒に入ってあげてもいいんだけどさぁ?」
「うっせ。俺は犯罪者になりたくないわ」
「ぶー。つれない」
○
入口で別れて、桐也は1人で男湯に、5人で女湯に。
脱衣所で女子5人、うち天使3人というメンバーは、それぞれ自分のポジションに脱いだ上着を入れる。丁寧な事に、部屋に持ち帰るためのくすんだ青い色の浴衣までカゴに1つずつ入っている。
「そう言えば、青嵐さんは?」
私は隣でごそごそと上着をカゴに乱暴に入れる結弦に尋ねる。
結弦は困り笑いしながら、
「奥の遊戯コーナー行っちゃった。遊んでるんじゃない?」
「そっか」
特に興味も無い話題だったので適当に切りあげる。
「そういう星はさ、桐也くんと一緒にお風呂入ったことあるの?」
「んー……どうだろ。ちょっと待って、思い出してみる」
スカートを脱ぎながらふと思い返してみる。
あるかもしれないけど、それにしたって結構昔のことだろう。それに私に覚えがないのだから、多分無いのだろう。
「多分、無いと思う」
そう言って結弦の方を見て、
「……」
「ん?」
と、思わず一瞬固まってしまった。
「星ー。早く入ろーぜー」
そういう元気なエルト達の声で我に返る。
「なになに?」
「う、うん……詳しくは中で、ね?」
「?」
怪しむような結弦の表情が痛い。
温泉の中身は、温泉というにふさわしいような露天風呂だった。
もうもうと立ちこめる湯気で視界は白く染まっている。その白い湯気に、綺麗な夕日がぼやけるように輝いているのが一層綺麗だった。
半透明の色をしたお湯に浸かると、ちょっと熱い感じがまた何とも心地いい。結弦の言っていた通り、ストレスが全部抜けて行くような感じだ。これに加えて他に人がいないのがさらに良い。貸し切りでこんな広いお風呂を使えるのだから、解放感あふれるとはこのことだ。
「いやー、熱ぃけど、気持ちいいなー!」
髪を半分以上お湯に浸からせたエルトが笑顔で言った。
「はぁ~、疲れがくどぅんと・ふらい、だねぇ……ぶくぶく」
「あぅ~……」
ラミラミとアリィも、それぞれ温泉のお湯に魅せられているようだった。アリィはちょっとのぼせたようになっているけど。
ちなみに2人とも髪をおろし、お湯に浸けている。
何でもこの温泉、疲労回復とか腰痛、肩こりの解消といった良くある効能に加えて、『髪が綺麗になる』という迷信めいた効能があるらしい。はたして温泉の効能が人外に効くのかは別として、御琴さんの綺麗な黒髪を見るに、きっと効能は本物なのだろう。
今さらだけど、髪を伸ばしておかなかったのがちょっぴり悔やまれる。
「あっはは、でも浸けるとさらに効果的ってだけで、直に浸けなくても効果はあるらしいよ?」
隣で結弦が笑いながら言う。
「……そっか」
「で、結弦さんに何を言いたいんだい?」
ずいっ、と結弦は私に詰め寄る。
私は「い、いや」と前置きして、
「結弦、胸大きいなー……って」
「胸?」
結弦は自分の胸を見る。
そう、結弦は服の上から見るにはちょっと信じられないほど、抜群のスタイルをしていた。流石に驚いてしまった。
「別に妬ましいとかじゃなくてさ。ちょっと驚いちゃって」
「あっははー。まぁ、私結構着痩せするからねー」
豪快に結弦は笑う。ちょっとのぼせてるのかな。
私はふーん、と感心しながら、
「ちなみにどれくらいなの?」
「サイズ? 85くらいかな」
「うぇ……」
私で80。結構な大きさかもしれない。
「凄いね……」
「ふふん、触ってみるかい?」
「遠慮しとく」
自信満々に言う結弦に言い放つと、「ぶー」と何故かつまらなそうに唇を尖らせる。
「つれないなぁ」
と、嫌な笑い方をして自分の胸を抑える。結構柔らかそう。
……。
「肩こらない?」
「あー、凝る凝る。最初の頃は大変だったなぁ。今は大分慣れたけど」
「へぇ」
「でも、星だって良いじゃない。背も高いし、大きさもそこそこでさ」
「そ、そうかな?」
「そうそう。結弦さんみたいな身長もたいして高くないのに大きいよりさ。そっちのがずっと羨ましいよー、ほんと」
あっはは、と呆れるように笑う結弦。
正直、今まで自分のスタイルを褒められたことなんてないから、結構照れる。
「ありがと……でも、結弦も十分だよ」
「えへへー、そう?」
結弦も同じように照れるように笑う。
そして、ふと3人の天使たちに視線をやる。
「そういやぁ、ラミぃ達は胸とか成長するのかい?」
「ほぇ?」
意表を突かれたようにラミラミが声を上げる。
隣ではエルトが「むー……」と薄めの胸の前で腕を組んで悩むポーズ。
すると、さらに隣でアリィが、
「たぶん、する」
「そうなの?」
私が尋ねると、「うん」とアリィが頷く。
「天使でも、スタイルいいひとはいいから」
「ヒエンとかかー?」
エルトがはっ、と気付いたように言うと、アリィも頷く。
「そっかー。言われてみりゃ、そうだよなー」
「でも、ボクはそんなに大きくなりたいとはおもわないかな」
「そう?」
結弦が尋ねると、アリィは「えへへ」と苦笑しながら、
「ほら、ボクってまだ小さいから……アンバランスになりたくないっていうか」
「えー。でもロリっ娘巨乳って結構なハイスペックだよ?」
「ろり……そ、そんな子供じゃないもんっ」
珍しくアリィがムキになる。結弦はけらけらと笑いながら「ごめんごめん」と謝っている。
アリィは「む~……」とむくれながら、ひょいとこちらに視線を向ける。
「……」
そして、こちらをじっと見つめるのだ。
「な、なに?」
あわてて尋ねると、ふとアリィの姿がひゅむっ、と消えた。
一瞬遅れてバシャン! と背後から音がして、私の両肩に柔らかい物が載せられる感触。
「……ボク、こっちがいい」
「おお!?」
私が振りかえると、そこには私の両肩に手を乗せたアリィがいた。
……そう言えば瞬間移動できたっけ、この娘。
対して結弦はショックを受けるようにうなだれて、
「うう、結弦さんが女の子に嫌われるなんて……ぶくぶくぶく」
お湯に口をつけて泡を吹く。
「あっははー、結弦ん、可愛いねぇ。それっ!」
「ちょっ……ごぼごぼ! 待って、し、死ぬごぼぼぼぼぼぼ」
ラミラミに頭を押さえられて、お湯に沈められる結弦。
「おおー、面白そうだな! ウチもやるぜー!」
エルトも乗じてお湯に潜り、ぶくぶくやっている。
「……どうでもいいけど、死なない程度にね?」
「あはは……」
背後で力なく笑ってくれるアリィの存在が、とても心強い。
お風呂の話は書いてて妄想が止まりません。
このまま百合っぽい絡みに持って行きたかったんですが、流れ的にタイミングがつかめず……。
それに、ぼっちの桐也もかわいそう。まぁ書いてるのは私ですが。
次もお風呂の話にしようかな(ニヤニヤ