3…一禍団欒?-Part/α3
「人の中心……」
「御琴先輩の周り、いつも人が集まってきてさ。知らない人がいても、すぐに知り合い同士になって、その人の知り合いが……って、どんどん繋がっていくでしょ?」
結弦が言うと、私達は御琴さんを見た。
御琴さん、青嵐さん、氷室兄さん。そしてそれぞれの守護天使、イロウ、トゥルー、ヒバリ。
6人はすっかり打ち解けて昔の事に今の事、楽しそうに会話しているけれど――
「……確かに、御琴は2人の共通の知り合いって事だよなー」
エルトの言葉に、結弦は「うん」と笑顔で頷く。
「桐葉先輩と姉さんもそうだったんだ。2人とも、御琴先輩を通じて知り合ったんだよ」
「ふうん……」
結弦が自分のことのように話すので、私はちょっと面白かった。
御琴さんとは、やっぱり凄い人なのかもしれない。
○
それからまた少しして、残りのメンバーがやって来た。
「こんちはー」
「どーもにゃー」
簡単に挨拶しながら、桐也と桐葉さんが並んで歩いてくる。何だか珍しい組み合わせだな、と思った。もちろん、アリィとヒエンも一緒だ。
……そう言えば「桐也」と「桐葉」って、名前似てるなぁ。
「おう、桐葉。遅かったじゃないか」
御琴さんが言うと、桐葉さんは「あはは」と照れたように言いながら歩み寄る。
「いやー、済まないにゃ。昨夜ちょっと夜更かしをして……うげっ!」
すると、突然歩みを止め、表情を引きつらせながら「うう……」とあとじさる。
結弦と御琴さんは『ああー……』といった表情で、その他は『?』という表情。
桐葉さんの視線の先を見ると、
「あら、きっちゃんじゃない。久しぶりね」
「せ、青嵐りん……どうしてここに?」
ひくひく、頬を痙攣させながら言う。青嵐さんは「もう……」と頬にきれいな手をあてて、貴婦人みたいに溜息をつく。なんていうか色っぽい。
「きっちゃん、それが同窓生への再会の挨拶かしら? 私はとても傷つくわ」
「知らんにゃ!」
シュバッ、と「え~……なんぜよこれ?」と首をかしげているヒエンの背後に身を隠し、桐葉さんは背中から様子をうかがう。
「御琴りん、どういう事にゃ! どうして青嵐りんがいるのにゃ!?」
「結弦が連れてきたんだ」
「ちょっ――」
なんで!? と言いたげに結弦が目を見開く。
結弦は「いやいやいや!」と首をぶんぶん振って、じとっと睨んでいる桐葉さんに言う。
「ち、違いますよ! 姉さんが勝手についてきたんですって!」
「あらぁ……ゆうちゃん、今朝言ってたじゃない?『早くしないと遅れるよー?』って」
「こらあああああああああ!」
うぎゃーっと姉に食ってかかる妹。青嵐さんは「うふふ」と楽しそうに笑っている。
「……なぁ青嵐。お前、どうしてそうなんだろうなぁ……」
「さぁ? 私は正直に生きているだけよ?」
「……」
結弦がぎゃんぎゃん言っている横で、トゥルーが頭痛をこらえるようにこめかみを押さえている。
「結弦り~ん? 覚悟はいいかにゃ~?」
「良くないですうううううううう!」
「こら、ゆうちゃん? 公共の場で騒がないの」
「誰のせいだと思ってるの!? 全部姉さんのせいだよ!? いい加減自分の中の悪意に気付こうよ!」
「あっひゃひゃひゃ! 結弦ん、かわいいよー! いぇー!」
……。
すると、くいくい、と袖を引っ張る感覚が。振りかえると、桐也が少し遠い目をしながらこちらに視線で訴えかける。
「面倒だからちょい離れとこうな」
「そだね」
ちょちょい、と4人で移動。
少し離れると、兄さんと御琴さんが歩み寄ってきた。兄さんが口を開く。
「しかし、星の友達は賑やかだな」
「……そだね」
仕方なく頷くと、兄さんは「ところで」と視線を移す。
「ひょっとして、桐也くん?」
「あ、はい。お久しぶりです」
簡単に頭を下げる桐也。
「久しぶり。星がお世話になってるね」
「全くです」
「おいこら。生活的に世話になってるのはそっちでしょ」
「そうだけど?」
「きー!」
しれっと悪びれなく答える桐也。いつもの事なので、本気で怒ったりはしないけどね。
ちなみに今のやり取りで分かると思うけど、兄さんと桐也は知り合い同士。小さい頃にたまに兄さんが遊びに来た時とかは、桐也とも会っているからだ。
人間同士の会話に花を咲かせていると、桐也の隣でアリィが兄さんに尋ねる。
「だれ?」
「ああ、俺? 神原氷室。星の従兄だよ」
「いとこ?」
少しポカンとした後、アリィは桐也を見上げて尋ねる。
「ねぇ桐也。いとこって誰?」
「自分の親の兄妹の子供」
「なるほど」
分かるんだ。確かに他に説明のしようがないけど、今の説明で一発で分かるとは。
アリィはちょちょっと前に出て、兄さんとヒバリに頭を下げる。
「アリィです。桐也の守護天使です」
「よろしくな、アリィ」
「よろしくっすー」
背の小さいアリィは、あいさつに「ちょこん」とか擬音がつきそうだ。
私がそう思っていると、御琴さんが挑戦的に笑う。
「して、榊よ。お前に連れはいないのか?」
「いますよここに。な、アリィ」
「うん」
アリィが楽しそうに笑う。御琴さんは「仲が良いな」と笑う。
「だがそうでなくてだな。三条は氷室を、結弦は青嵐をそれぞれ呼んだのだが――お前にはそう言った部外者の連れはいないのか、とな」
「……ああ、ついていきたいとは言ってたんですがね」
桐也が思い出したように言う。
「ちょっと都合が悪い、とか。『お嬢によろしく』と言っていました」
「ん? もしやそれは槍介ではないか?」
「ああ、そうですよ」
桐也が頷くと、今度は兄さんが「え?」と目を丸くする。
「御琴も桐也くんも、槍介の知り合い?」
「ああ、まぁ。私は家柄の付き合いでな」
「俺はまぁ、ちょっとした知り合いです」
「へぇ~。面白いもんだな」
兄さんは意外そうに言いながらも、表情は楽しそう。にやにや、という笑い方だ。
「氷室こそ、あいつとは知り合いか?」
「ああ。東京の方で、中学の頃の同級生だったんだよ。高校は違うけどな」
「ああ……そう言えば、あの輩は東京にいたんだったな」
御琴さんが目を細めてあごに手をあてる仕草。
「それにしても来宮のは相変わらずだな。いい加減に『お嬢』という呼び方をやめてほしいものだ」
「俺に言われても」
そっぽを向きながら桐也が答える。
すると、エルトが「んー」と顔をしかめて言った。
「ウチ、さっきから話についていけねぇんだけど」
「大丈夫、私もだから」
「ううー、気になるぜー」
うずうず、とエルトがもどかしそうに頭を掻く。
それを見て、御琴さんが「ははは」と楽しそうに笑う。
「まぁ、お前はついてこれないような込み入った話だからな。知らなくても無理はない」
「だったらよー、なおさらウチらにも分かるような話にしろよなーっ。お前らもそう思うだろー?」
エルトの言葉は、他の天使3人に向けられる。
「まぁ……自分はあまり気にしないっすけどね」
「私も」
「ボクもかな」
「こ、こいつらぁ~! ウチだけ頭おかしい奴みてぇじゃんかよー!」
むきーっとエルトが憤慨している。今日も元気そうで。
御琴さんは落ち着いた調子で続ける。
「ま、詳しく聞きたいなら後で教えてやろう」
そして、そう言えばここは駅だったなぁと思いながら御琴さんが振りかえった方向を見る。
そこには駅のシンボルのように天井からぶら下がっている、電光掲示板があった。
「そろそろ電車が来るぞ。話は電車の中でも、私の家でも出来るさ」
ちなみにこの話の間、結弦・青嵐さん・桐葉さんはずっと騒ぎっぱなしだったみたい。
「……なんなんですかね、あれ」
「ああ……まぁ、いろいろあるんだがな」
私が尋ねると、御琴さんは呆れたように言う。
「端的に言うと、桐葉は青嵐が苦手なんだよ」
「ほう」
「そういう訳で、桐葉が過剰に反応しているという事だな――まぁ、そろそろ落ち着くだろうから、そう気を立てるまでもないだろう」
「そ、そうですか……」
ずっと駅で立ち話してましたねぇ。賑やかです。
というわけで、次回からは早速原河家での話に入ります。
総勢14名……多いなぁ。
そろそろFBも更新しないと。