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2…一日二秋?-Part/γ3

 私の心の叫びに、昴りんはあっけらかん、と言う声で、

『今は家ですよ? ちょうど買い物から帰って来たんです』

「……」

 すぅー、はぁー。

「今日は、生徒会の、日なんだけど、にゃ?」

『えー、そうなんですか?』

 半笑いで答える昴りん。

『すいません、すっかり忘れてました』

「いいから早く来るといいにゃ!」

 ぶつん。私は半ばやけくそ気味に電話を切った。

「全く困ったもんにゃ」

「あはは……」

 横でヒエンが困ったように笑っている。

「なぁ桐葉よう。熱心なのはいいけど、あんまり頭に血を上げると体に毒ぜよ」

「百も承知にゃ。それに、万が一そうなったときのためにヒエンがいるんじゃないかにゃ?」

「まぁ……そうだけどよ……」

 そう。顔を引きつらせながらそう答えるこの女子大生には、何故か具合が悪くなったときなんかにそれを一瞬で治してくれる不思議な力があるにゃ。

 初めて出会った時に始まって、その力に助けられた事は何度かあるにゃ。私がヒエンに感謝している、数少ない部分でもあるにゃ。

 ヒエンはふと心配そうな表情をして、

「いざという時は、あたしが何とかするけどよ……あんまり無理するなよ? って話ぜよ」

「むぅ……」

 ヒエンの言うことは正しい。少なくとも今までの私の人生では、無理をしていい結果に転んだ事はあまりないにゃ。無理して勉強したのは、いい結果に転んだけどにゃ。

 私は改めて自分を大切にしよう、そう肝に銘じた。


  ○


「ヒエンー、何買うにゃ?」

「冷たいのだったら何でも任せるぜよ」

 私は自販機の前に立って、少し考え込んでいた。……届かない、とかじゃないにゃ? 私だって高校生として、平均とは行かなくても最低限の身長はあるのにゃ。

 では何に悩んでいるかというと、単純に何を買うか。

「むぅ……とりあえずヒエンといっしょのやつにするかにゃ」

 少し悩んだ後、私はそう決めてヒエンと私、2人分のお茶を買った。

「おぅ、さんきゅー」

「私の懐も無限大じゃないから、ホントに感謝して欲しいにゃ」

「んだよー。感謝してるぜよ?」

 私は自販機の前のベンチにヒエンと並んで腰かけて、ぼーっと自販機を眺めていた。自販機の一番下の段には、缶コーヒーがずらっと並んでいる。

「……」

 ちょっと複雑な気分になりながら、私はお茶を飲んだ。

 実は私は缶コーヒーに対してドクターストップを貰っているにゃ。ちなみにドクターとは私のお母さんにゃ。

 ご存じのとおり、私は昔から栄養たっぷりの病院食で育って来たので、胃の中がまだ弱いらしいにゃ。それでも日常生活には支障はないけど、胃に負担のかかるような飲食は禁止されているにゃ。

 ちなみにコーヒーが胃を傷つけるんじゃなくて、コーヒーの中の砂糖が傷つけてるのにゃ。知ってたかにゃ?

「ふーん……苦労してんだな」

 ヒエンはそんな私の苦労話を聞いて、ストレートな感想を述べた。

「まぁ、正直何度も死にかけてるから、こうして元気なだけで私は満足にゃ」

「世知辛ぇなー」

 ぷはぁ。わざとらしくヒエンはお茶を口から離し、

「もっと人生楽しめよ。桐葉は生きてるんだからよぅ」

「楽しんでるにゃ? 私は喜怒哀楽、きちんとそろってるしにゃ」

「そうかぁ?」

「もちろんにゃ」

 まぁ、こうなったのは御琴りんのおかげだけどにゃ。こうして元気なのは、御琴りんのおかげ。

「ヒエンも一度、御琴りんときちんと話をしてみるといいにゃ」

「んー……いいかもな。確かにちょっと気になるし」

「気になる?」

 意味ありげな言葉。ヒエンは視線を斜め上に向けたまま、

「御琴……なぁ。なんかこう……天使の勘? そんな物が働くぜよ」

「???」

 人間には分からない事らしい。でも、ヒエンが何か御琴りんに対して気になる事があるのは事実みたいにゃ。

「それはきっと、恋だにゃ!」

「ねーよ!」

 思いっきり叫ばれた。冗談だったのに……つまらんやつにゃ。


  ○


「おや」

「ん?」

 自販機から生徒会室への帰り道、私は背の高い白衣の人・吉瀬先生と、後ろにひょこひょこと危なっかしくついてくる天使・クライにばったりと遭遇したにゃ。

「お久しぶりですにゃ」

「久しぶり。今日は……生徒会のお仕事かい?」

「まぁ、そうですにゃ」

 私達が話している横で、天使同士も挨拶し合っている。

「よー、クライ。久しぶりぜよ」

「は、はぁ……お久しぶりです」

 クライは胸の前に白い本を何冊か抱きしめるように持っていた。眼鏡っ子だし、薄幸な美少女、というイメージにゃ。

 先生はそんなクライの様子を見て穏やかに笑うと、

「そうそう、明日からどこかに小旅行に行くんだって?」

「小旅行……ま、まぁ、そうとも言えるかもにゃ」

 ちょっと遠出だし、少しの間泊まるんだし、それは間違った表現ではない。

「へっへー。クライ、お前たちは来ないのかよ?」

「あ、えと……」

 ヒエンがフランクに尋ねると、クライは「どうしましょう?」みたいな表情で先生を見上げる。吉瀬先生はそれを見て、うん、と頷く。

 それを確認して、クライはこちらを真っ直ぐ見て話す。

「明日から、ちょっと遠出するんです」

「遠出? お前らも旅行すんのか?」

「そんなところ」

 先生がやんわりと答える。

「そろそろお盆だしね。実家に帰ろうかと思って」

「実家?」

「そう。結構遠くにあるんだけど、だからってクライを1人で留守番させる訳にもいかないし。折角だから連れて行こうと思ってね」

「へぇ」

 ヒエンがそうなのか、と感慨深げに頷く。クライは顔を赤くしてうつむきながら、

「その……私は、海吏くんの守護天使ですから。出来るだけ一緒にいたいなって……」

「何さ、いつも部屋にこもってる癖に」

 からかうように先生が言う。クライは「ち、違いますよ!」とムキになる。

「そ、それはこれに熱中してるからで、海吏くんをほったらかしてる訳じゃ……あうう」

「はいはい、分かってるよ」

 先生がそういうと、クライの抱きかかえていた本を取り、私に手渡す。

「?」

 私は手にとってパラパラとめくってみる。背後からヒエンが覗き込むような気配。

「なんだこれ?」

「……パズル本かにゃ?」

 はい、とクライの返事。

「よく買ってもらうんです」

「白鳥さんは優等生だしね。理数系強いし、やってみるかい?」

「ほっほ~う……」

 人間、チャレンジ精神が大事。私の場合、体が弱いからチャレンジの方向性はだいたいこういう頭脳労働系に落ち着くにゃ。

 すると、遠くから「おーい、かいちょー」という女の子の声がする。

 振りかえると、廊下の向こう側から背の少し高い女の子が手を振っているのが見える。的射りんかにゃ?

「そろそろ後半の作業入りたいんですけどぉー!」

「今行くにゃー!」

 大きく返事をする。その後先生を振り返って、

「えと、仕事があるので……借りてもいいですかにゃ? これ」

「お構いなく」

 クライがそう頷くので、私は「ありがとにゃ」と短く返して走る。

「じゃあ、頑張ってね」

「き、気をつけてくださいね」

 先生とクライがそれぞれ声をかける。走っている私の代わりに、ヒエンが大きく返事をする。

「おーぅ! そっちも頑張れよー!」

「何を頑張らせるつもりにゃ……?」

「にはは。こういうのは雰囲気が大事なんぜよ」


 それからみんなで、ちまちました作業にいそしみ。

 全部終わるころには、もう夕方になっていた。


  ○


「そういえば」

 玄関で晴真くんがふと漏らす。

「結局、来ませんでしたね。秋雨さん」

「まぁ、いつもの事だし」

「そうだよねぇ。今さら来なくても別に、って感じ」

 那由他くんと的射りんがそれぞれに返事をする。

「すっかり要らない奴扱いだな、昴」

 ヒエンがししし、とかみ殺すように笑う。私は呆れかえって溜息をついた。

「……今度見つけたら、厳しく言っておくにゃ」

「お疲れ様だな会長サマ」

 那由他くんが嫌味ったらしく言う。

「何にゃ?」

「昴が来ないのはもうお決まりじゃんか。いちいち目くじら立てんなって。体に毒だぜ」

「いや、まぁ……。……まぁ」

「俺達も見つけたらそれなりに注意はするさ。だからあんまし気にすんなよ」

 クラスメイトの励まし。私は素直に嬉しいと感じたにゃ。

「……はぁ」

 と、曖昧に頷くと、那由他くんは少し安心したように笑った。

「ゆたくん、帰るよー」

「へーへー。じゃな、白鳥」

「お疲れ様です、会長」

「お疲れにゃー」

「じゃーなー」

 私達はそう適当に挨拶を済まして、お開きになった。


  ○


「……」

 夜11時。私は部屋で、電気スタンドだけの机の上で本とにらめっこしていた。ベッドではヒエンが既に眠りについている。この女子大生は、性格の割に寝相は結構いいにゃ。

 私は頭につけたリボンを取り、ぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。

「何にゃ、この問題……」

 それはクライの抱えていた、パズル本の最初のページの問題にゃ。

 俗に言う「ナンプレ」。私だって何度もやったことのある、パズルの王道にゃ。

 なのに、

「え~……これ、絶対問題に不備あるにゃ~……」

 何個か数字を書きいれたところで完全にストップ。私はこうして悩みに悩んでいるという事にゃ。

 そしてページの隅っこに『クライ 3:12』という謎の数字。解いた時間にしては非常識な早さ。天使だから、別に非人間的な何かをしても道理だけどにゃ……。

「ええい! でも、ここで負けるわけにはいかないにゃ!」

「うるせーっ!」

「……。……ごめんなさいにゃ」

 ヒエンが半目開きでこちらを睨むので、思わず謝る。

「ったく、人が折角寝てんのに……」

「ヒエン、人じゃないにゃ」

「あ?」


 結局、その日の内には解き切れなかったにゃ。残念。

 ……ま、明日は環境の違うところで夜更かしできるし、きっと出来るにゃ。

関係ないですけど、「ファイ・ブレイン」面白いですよね。

桐葉とクライに、共通の何かを作るのに大きなヒントを得られました。

個人的にアナ推し。


さて、次回からいよいよ新章です!

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