1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part5
「みんな七夕生まれなんだ?」
1人話題から外れた吉瀬先生が不思議そうにつぶやく。
私たち5人はそれぞれにお互いを見まわし、「え、誕生日一緒?」みたいな空気を醸し出していた。
「なるほど、道理で結弦が引っ張ってくるわけだ」
と、原河さんがどこか納得した表情でうなずいた。
「へへん、私だって役に立つでしょ先輩?」
「アホかメルヘンヲタが」
ひいっ!? と鋭い声にばっさり切られた結弦がびっくりしたような声を上げる。
「で、でも先輩は面白い物持って来いって……」
「そうかそうか。同じ誕生日の人間が5人いることが、そんなに面白いか? 私は面白くない」
「うぇ~……」
「もっとこう、バーンと面白い物を持ってこい。宇宙人でも天使でもなんでもいい」
ばーん、の時に大きく手を広げる。……腕、長いなあ。
「そんなの、実際に見つけるの無理ですよ~」
「やれやれ、使えない後輩だな。姉とは大違いだ」
「む」
挑発するような原河さんの言葉に、ムッとしたように結弦が言葉を返す。
「姉さんと私は違うんです」
「ああ違うな。完成度の点で特にな」
「ぐ……」
どうでもいいが、私たちは完全に蚊帳の外だった。ちら、と桐也の方を見ると、大して興味もなさそうにボーっとそんな様子を眺めていた。
私もいちいち話に入る気にはならなかったため、しばらく傍観者を決め込むことに。姉さん、という単語が気になったけど、あんまり追及するのも面倒なのでスルー。……ふと、桐也がこちらを一瞥したような気がした。何か変なのかな? と少し不安になった。
そんな事を考えているうちに、ふと桐葉さんがやれやれといった感じで結弦と原河さんのやいのやいのに口をはさむ。
「ほらほら2人とも、新人さんが困ってるのにゃ。もっとフレンドリーに接するのにゃー」
ぱんぱん、と小さい手を叩いて場を平らにする桐葉さんは、見た目とは違ってとても大人っぽく見えた。まだ会ってか1時間もたっていないけど、原河さんと桐葉さんと中身を入れ替えたらとてもぴったりな気がするのに、とは私も感じた。
「む、桐葉の言うことにも一理くらいはあるな」
結弦との言い争いを中断した原河さんは、何やら真剣に考え込んでいる様子。なんでそんな事に真剣になるんだろう、なんていう突っ込みは身の危険を感じたので心の中だけで済ませることにした。三条星、今日で16歳。大人になったなあ、と痛感。
「しかしなあ。そこの後輩2名と合わせる話など、なかなか思いつかん」
「そういえば……会ったばかりだもんね。いきなり話せっても無理だよね」
結弦が失敗したかな、という風に困り顔でつぶやく。
私はこういう時に頼りになる幼馴染に話してみることに。
「桐也、何か言ってあげたら?」
「は?」
何言ってんのお前、という風に怪訝そうな表情で桐也はこちらへ向き直る。
「ほら、桐也っていろいろ器用だからさ」
「だからって見知らぬ人間といきなり話なんかできるかよ」
「そこをなんとか」
「5000円で受けてやってもいいが?」
「今すぐに帰っていいと思うよ。また明日」
「冗談冗談。こっちも世話になってる身なんだし、高望みはしないって」
そう言って笑う桐也。こういう姿だけ見れば、普通の男の子だろう。だからと言って普通になって欲しい、とは望まない。もうこのひんまがった根性は直らないというのは長年一緒にいる私が一番よく分かっているからだ。
……と、原河さんがふとこちらを見ているのに気付いた。悲しそうな困ったような、複雑な表情だ。
「えっと……何か?」
不安になって私が尋ねると、
「ああ、いや」と曖昧に返事をした。
「ただ、仲が良いな、と思ってな。付き合ってるのか?」
「「断じて違います」」
発する言葉からタイミングまで全く一緒。この辺は本当に仲がいいなあとはお互いに自覚している。
原河さんは面白そうに笑った後、
「三条、決めるなら早めに決めろよ。人と言うのはいつパタッと会えなくなるか分からんからな」
「はぁ」
「そっちの方もな。名は何と言ったかな」
「榊っす」
「ああ、榊な。忘れなかったら覚えておく。お前も、せいぜい友人を無くすような真似はするなよ」
「?」
珍しく、不思議そうな表情で首をかしげる桐也。私も同じような心境だった。さっきから何を言っているんだろうか、この人は。何か大事なことなのかな。
「はいはーい、また話が変な方向にシフトしてるのにゃん」
再びぱんぱん、と小さな手を叩いて桐葉さんが場を収める。
「一応、皆さん打ち解けたみたいでよろしいにゃ」
「はぁ」
半分ため息みたいな私の声。これは打ち解けているというのだろうか。
「というわけで。結弦りんが言うとおり、私も同じ誕生日が5人もいるというのは、運命的だと思うにゃ」
そんなこと言ってたっけ? とか思った。あと「りん」とか「にゃ」って何だろう。キャラ付け?
「なんか、みんなでパーッと誕生日を祝いたくないかにゃ? 後輩諸君」
そんな言葉を並べてえっへん、とふんぞり返る桐葉さん。
「ぱーっとたんじょうびをいわう……ねえ」
私は少し納得する。一人暮らしが長かったせいか、誕生日ってたいてい1人……いたとして桐也と一緒だったような気がする。確かにこんな大人数で誕生日を祝えるんだったら、結構楽しいかもしれない。
「でも、具体的にどんなふうに?」
「う、うーん……」
結弦の指摘に、一転してしなしなと小さい体をさらに小さくしていく桐葉さんは、なんだか小動物チックだった。
「いっそ6人で飯でも食いに行くか?」
とは原河さんの談。
「あ、だったら星に作ってもらえば良いですよ。上手ですし」
「6人分も作るの? 勘弁してよ」
料理って意外と重労働なんだから。
「それに、この部屋じゃあ、少し窮屈じゃないですか?」
「調理室を使えばいいだろう」
「え、でも特に理由もなしに……」
「? なんだお前、バカ正直に許可を取るつもりなのか? 無断使用すればいいだろうが」
「よく教師の眼前でそんなこと言えますね……」
吉瀬先生はどこから引っ張り出してきたのか、将棋の駒を床に並べてドミノをしていた。暇な中学生か。
「それに、こっちには強い味方がいるからな。そうだろ生徒会長」
「ふっふーん」
そんな感じで思わせぶりに桐葉さんが息を吐く。
大して私は正直な感想を述べる。
「生徒会長……だったんだ」
「そうにゃ。まだ2年生だけど、周りから推薦されてにゃ」
確かこの学校では、生徒会がほとんどの行事を実行しているということだった。小さな要望もフレンドリーに聞いてくれるらしく、そこそこの権力を学校から預かっているらしい。そこ生徒会の長は、とっても偉い人だ。
「というわけで私にかかれば、だいたいの要望はかなえられるにゃー」
「そう……なんですか」
「む、不満かにゃ星りん」
じゃあどう返事すればいいんでしょうか。あと「りん」ってなんですか。
「それより、材料ってどうするんだ?」
桐也の疑問。
「うーん、今から調達する時間も費用もないし……」
「まあ、飯なら何でもいいだろ。カップ麺だカップ麺」
「うっわー、寂しい誕生日ー」
「何を言う三条。結局は食いものだろうが。感謝の心は平等にな」
「そうですねー」
生返事を返していると、ふと吉瀬先生が慎重な手でドミノを並べながら、
「カップ麺なら宿直の夜食用に余ってるから、それを食べるといいよ」
「おお、用意が良いな」
原河さんは礼儀という言葉を知らないんだろうか。中学の時の敬語の勉強とか、高校の面接とか、どうしたんだろうか。
「ああ、それと場所についてなんだけど」
吉瀬先生は続けてそんな事を言った。原河さんは訝るように、
「場所?」
「そう、場所。みんなで調理室でカップ麺すすってても、質素でしょ? 場所を考えるだけで、大分雰囲気が違うと思うんだ」
「なるほど……」
納得したように原河さんがうなずき、胸の前で腕を組む。
「して、どこが良いというのだ? 吉瀬」
その言葉に反応するように、先生は将棋の駒を倒した。ぱたたたたたたたたたたたたたたっ、とリズムよく全ての駒が倒れ切った時、先生はその「場所」を口にした。
「屋上」
「屋上?」
「そ、屋上。あんまり進んで入るところでもないでしょ? こういう特別な日なんだし、僕が監督してるから。今晩はちょうど雲もないみたいだし、夜空がきれいだと思うよ?」
こうして、第一回・みんなで夕食会の予定が決定した。