2…一日二秋?-Part/γ2
「で、ダメ会長。今日の議題は?」
「だからダメは余計にゃ!……はぁ。まぁ言うけどにゃ」
私は会議録を1枚めくり、議題を1つずつ喋っていった。
○
野球部からの要望。
「合宿や機材など、やりくりしていくのは厳しい……まぁ、言うなれば部費を上げてほしいってことにゃ」
私はホワイトボードに『野球部 部費』と書きながら言った。……本当はこれ、書記の役割なんだけどにゃ。
「会計の的射りん。予算の余裕はどうかにゃー?」
「んー。あるっちゃあるんですけどね」
ペンをクルクルと指先で回しながら、的射りんは渋り顔。
「何か問題があるのかにゃ?」
「いやー。ぶっちゃけ、テニス部の方に回して欲しいんですよねー!」
「なるほど。野球部の方には……3万くらいなら渡していいんじゃねぇかな」
「わぁあー! ゆたくん、帳簿かえしてよぉ~。謝るからぁ~」
那由他くんはバタバタとはしゃぐ的射りんを片手で器用に抑え込みながら、私に的射りんから奪い取った帳簿を渡してくる。
「どうだダメ会長」
「……。……でも、これじゃギリギリにゃ。もし他の部から要望が来てる時に、野球部だけひいきはできないにゃ」
「おお、会長さん! テニス部に部費の分配を――痛い痛い! こめかみぃ~痛い~!」
バタバタ、がたんがたん。
「うっせーなー。やかましいにも程があるぜよ」
「おお、ヒエンがまともに見えるにゃ。たまにはいい事を言うにゃ」
「たまにはって何だ。あたしはいつだってまともで、いつだってごく普通だぜ?」
おかしな事を言うにゃ。こんなぐーたら大学生が、まともで普通な訳ないにゃ。
「とにかく、この件はいったん保留でいいんじゃないですか?」
「うむ、晴真くんの言うとおりにゃ。この議題はいったん飛ばして、次のに行くにゃ」
「ぬぅあ~! 今ミキっていったよ、ミキって! ゆたくんひどいよ!」
「じゃあ黙れよ……ッ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
……。
○
テニス部からの要望。
「自分でも要望書出してたのかにゃ!?」
「いや~……ホラ、私は生徒会役員である前に一生徒ですし」
てへへ、と頭をポリポリ掻く的射りん。
くぅ……確かにそう言われてしまうとそこまでにゃ。私達はあくまで生徒のための会。それを、生徒を差別するような真似は、間違ってもできないのにゃ。
この学校は基本的に自由だけど、だからこそ私達がビシッとしないといけないにゃ。
「そ、それで晴真くん……経費の余裕はどうかにゃ?」
「んー……10万円程度あるので、野球、テニスときて……あと1つくらいはいけるかと」
「おおおおおおおおおおお!」
的射りんが喜びにうちふるえている。ちょっとインチキ臭いけど、それもこれも生徒の要望。
「無視できないにゃ……」
「ふふぅ、うちのテニス部を舐めちゃいかんのです事よ」
何故か偉そうにふんぞりかえる的射りん。隣に座っていた那由他くんが呆れている。
「お前、ホントに手段選ばねぇな……」
「ふふん、うちの弱小テニス部を強くするにはこうするしかないんだよ。今年は有望な新入部員もいなかったし」
「かくいう真城さんも新入部員だよね」
晴真くんの冷静なツッコミ。的射りんは「ん~」と表情を微妙に苦くして、
「私は入学する前から、先輩にテニス部の事聞いててさ。結局、テニス部は弱い訳よ」
「確かに、白桜の運動部はどこも目立った成果上げてないにゃー」
我が校には部活動もたくさんあるけれど、どこかの大会で優勝したとかは聞いたことがない。
「……んぁれ」
すると、ヒエンが寝起きのような声を上げた。本当に寝ているような、上半身を机に置いた姿勢で、
「そういや、星がテニスやってたとか言ってたよーな気がするぜよー」
「……ああー、夏休み入る前だったかにゃ?」
そんな事を言っていた気がする。……いや、言ってたのは桐也くんだったかにゃ?
「星って、1組の三条さんの事? あの金髪の」
的射りんの言葉に、ヒエンが「おー」と声だけで頷く。すると的射りんは「へーぇ」とウキウキ、といった様子で笑顔になる。
「あの子、テニス経験者だったんだー」
「もし良かったら、今度話してみるといいにゃ。後で紹介するにゃ」
「本当ですか!? うわーい、流石は頼れる会長!」
そう言って「いえーい!」と大げさに喜び始める的射りん。
「……じゃあ、テニス部の予算は見送りでいいですか?」
「晴真くん、それで頼むにゃ」
「はい」
○
合宿の許可について。
「これは……陸上部だな。中央競技場の近くで合宿がしたいから、費用と許可をとってほしいとよ」
「うーん。予算はともかくとして、合宿の許可を生徒会に求めるもんかにゃ?」
那由他くんから差し出された要望書を見て、私は首をかしげる。それに対して晴真くんが答えた。
「でも、この学校って生徒会が結構大きな位置を占めてるんじゃないですか? 誰に許可とっていいか分からないから、とりあえず生徒会に相談してみた……って事じゃないですかね」
「おおー、なるほどにゃ」
「流石だねぇ、黒坂君。昴とは大違いだ」
的射りんの言葉に、晴真くんは「いやいや」と照れたように首を振る。
「僕は中学の時から生徒会役員だったからさ。慣れてるだけ」
「へーぇ」
的射りんが息を吐くのを見ながら、私は再び要望書に目を通す。
「ところで那由他くん。他に部活動に関する要望とかあるかにゃー?」
「いや。それで最後」
「んー。予算には余裕があるみたいだし、これはよしとするにゃ」
私は要望書に『許可』と書き込んだ。
○
「んー。後は校内の風紀とか、掲示物の破損とか、そういう小さな要望ばっかりですね」
的射りんがパラパラと要望書をめくり呟き、私は答えた。
「じゃあ、今から実行できそうな――掲示物の修理とか、汚れをとるとか、そういう要望を抜き出しておいてほしいにゃ。少し休憩取った後、現地に乗り込んで解決するにゃ」
3人に告げた後、私はいったん生徒会室を出た。
「およ? 会長さん、どこへ?」
「飲み物を買うついでに、1つ用事を済ませるにゃ。ヒエン、ついてくるにゃ」
「うーい」
けだるそうにヒエンは椅子から浮かびあがり、それを見て私は生徒会室をヒエンと一緒に出た。
自販機の設置されている場所へと歩きながら、私は携帯電話を取り出す。
「で? 済ませなきゃいけない用事って?」
「ん。ちょっとにゃ」
電話の発信ボタンをプッシュ。
通話口を耳にあて約20秒。ブツッ、と音がして、電話の向こうから声が聞こえてきた。
『はいもしもし、会長?』
「す・ば・る・り~ん?」
『何ですか?』
「何ですか? はこっちの台詞にゃ! 今どこにゃ!」
おっとりとした昴りんの台詞に、私は思わず叫んだ。誰もいない校舎に、その声はよ~く反響したにゃ。