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2…一日二秋?-Part/γ1

「……で、今日も行方不明なのかにゃ?」

 私が呆れながら尋ねると、彼は会議録から目をそらさないまま、

「まぁ……いつもの事じゃねぇか。いちいち気にしてられっかよ」

「責任問題にかかわるのにゃ! 昴りんには、もうちょっと生徒会役員としての自覚を持ってほしいのにゃ!」

「おい桐葉……落ち着けって」

 背後からヒエンがなだめるように語りかけてくる。私はぎゅん! と振りかえって、

「ヒエン……人間には、怒っていい一線が遺伝子上に設定されているにゃ! 私は今、それを行使しているだけなのにゃ!」

「そりゃ、あたしも昴のサボリの多さはどうかと思うけどよ……」

「なら口出ししない事にゃ」

 私は鞄を机に投げるように置き、いつもの椅子に座りこむ。

「なぁ白鳥。秋雨はああいう奴なんだし、いちいち気にすんなって」

「いや! ここで引いたら生徒会長としての威信を失うにゃ! 那由他くんこそ、副会長として何か言ってやるといいのにゃ!」

「……」

「無視するんじゃないにゃー!」

 再び会議録に目を通し始めた彼は、楠木那由他(くすのきなゆた)。我らが白桜学園生徒会・副会長の2年生にゃ。こうしてつっけんどんなところもあるけど、やる時はやってくれる有能な男にゃ。

 7月31日。明日から御琴りんの家にお泊まり会! ということで、その間にやるべき仕事を今日の内に片付けておこうと思ったのににゃ~……。

「昴りんはどうしていつもサボるのにゃ……」

「だーかーらー」

 隣では我が守護天使、ダメな女子大生ことヒエンがふわふわと浮かびながら溜息をつく。

「あいつのはしょーがねーだろ? もう他の奴だってとっくに諦めてるぜよ」

「諦めたら人生はそこまでにゃ!」

「そりゃそーだけどよ……使いどころが違うだろ……」

「気にすんなヒエン。白鳥のこーいうところも、秋雨の放浪癖と一緒さ」

 隣で那由他くんが何やら失礼な事を言っている。

「昴りんと一緒にしないでほしいにゃ」

「で、今日の会議内容は何だっけか?」

「あー、えっとまずは運動部の遠征について――話をそらさないでほしいにゃー!」

 しれっとした態度でありつつ、間に刃をはさんでくる。

 こういうメンバーがいる事も、生徒会の愉快なところにゃ。


  ○


 白桜学園生徒会の愉快なところはもう1つ。


 それは、全員、天使が見えるという事にゃ。


 だけど、守護天使を持っているのは、生徒会5人のうちで私だけ。他の4人に関しては、理由は分からないけど見えるし話せる、といった具合。

 さっき那由他くんがヒエンと普通に話せていたのも、そういう理由があってこそにゃ。

「那由他よー。何か飲みもんくれ、飲みもん」

 そしてそのヒエンは、椅子に座ってぐでーっと机に上半身を預けながらそんな事を言っていた。

「ヒエン、だらしないのにゃ。しゃきっとするにゃ」

「うるせーなー。いいじゃんかよー、暑いんだし」

 ぶーぶー。ヒエンは子供じみた拗ね方をしながら私を睨む。

「那由他くん、なんとか言ってやるにゃ」

「自分でやれ、ヒエン」

「ちぇー」

 ゆさゆさゆさゆさ。膝を貧乏ゆすりしながらヒエンは再び私を睨み、

「ケチー。そんなんだから桐葉はあたしみたいに成長できねーんだぜよ」

「ヒエンみたいなダメ人間になるくらいなら、身長も胸も諦めるにゃ。人間は外見じゃないのにゃ」

 私も席に着きながらヒエンにそう言い返す。

 御琴りんに言われてから、この言葉は私の座右の銘にゃ。……お互いにコンプレックスを抱える者として、現実逃避と思われるかもしれないけど、そう思うなら思えばいいにゃ。

 無理なダイエットが体を壊すのと一緒。無理に身長を伸ばそうとしたり、無理に胸を大きくしようとしたってそう上手くはいかないのにゃ。

 まぁ、胸だけは御琴りんに勝ってるから個人的にはちょっと優越感を覚えるにゃ。3センチの差は大きいのにゃ。

「まぁ、人間は外見じゃないって言ってもよー。あたしは天使だから、特に関係ないよな」

「人間みたいなもんにゃ」

 言い争っていると、ぱたむ、と那由他くんが議事録を閉じて、

「まぁ、秋雨はしょうがないとして……他の連中は何やってんだろな」

「補習かにゃ? それとも法事とか」

 ちなみに昴りんにはどちらも当てはまらない。成績はいい方だし、昴りんは1人暮らしのはずだから法事ってことも無いはずにゃ。

 まぁ、今に始まった事ではなく――昴りんは入学してから放浪癖があって、生徒会の活動はさぼりがちにゃ。それでも事務的な仕事はきちんとこなしてくる手前、いないから困るという事は正直あんまりないにゃ。

 けど――

「やっぱりサボリはいけないにゃーっ!」

「にゃーにゃーうるさいぞ、白鳥」

「そーだぜー、桐葉。長たるもの、どんな時もどっしりと構えて動じないものぜよ」

「むぅ~……」

 真っ向からの正論。確かに言うとおりだけど……うう~。

 どう言い返してやろうか、と考えていると、バァン! と扉が開かれ、

「こーんにっちわー!」

 と、元気よく叫んで入ってくる女の子。

「遅いにゃ」

「すいませーん。ミーティングが長引いちゃって」

 てへへ、と笑う彼女の名前は、真城的射(ましろまとい)。見た目も中身も元気いっぱいのスポーツ少女で、生徒会の会計とテニス部の1年部長を掛け持ちしている頑張りやさんにゃ。茶髪のポニーテールがトレードマーク。

「ってありゃ……まーた昴はさぼりですか?」

「その通りにゃ」

 ちぇー、と的射りんは唇を尖らせて、自分の席に着く。

「せっかく面白い話があったのになぁ。ねぇ、ヒエンも聞きたいでしょ?」

「ん?」

 はっきりと開いた目でヒエンに話しかける的射りんは、「そうそう、これあげる~」と、鞄からペットボトルのお茶を取り出す。すかさず、「おおーっ!」と食いつくダメ天使。

「やっぱ気が利くなぁ、的射は。那由他とは大違いだ」

「むっ。ゆたくん、またヒエンにいぢわるしたの?」

「イヂワルなんかしてねーよ」

「あーっ! そーやってすぐしれっとしてさー。つまんないの」

 ふんっ、とあらぬ方向を向く的射りん。那由他くんと的射りんはいわゆる幼馴染という関係で、結構長い付き合いらしいにゃ。

 想像がつかない人は、分かりやすく桐也くんと星りんの関係を思い浮かべるにゃ。

 分かるかにゃ? あの2人がもうちょっと人並みに明るくなったのが、この2人という訳にゃ。

 ヒエンはお茶をんくんくとキャラにも似合わないちびちびした飲み方をしながら、

「まぁまぁ。2人ともちょっと落ち着くといいぜよ」

 ふぅ、と息をつきながらそう言うと、的射りんはヒエンに泣きつきながら

「ヒエン~、ゆたくんがいぢめるんだよ~。なんとかしてよ~」

「だからイヂメてねぇって……ああ、疲れる」

 しかしヒエンは気にも留めない様子で「ふふん」という感じで笑うと、

「2人とも仲が良いなー」

『いや、別に……』

 2人の声はきちんとハモっていた。

 仲が良い2人というのは、なかなか自分たちでは気付けないのもにゃ。


  ○


 コンコン、と丁寧にドアをノックして「失礼しまーす」と、今度は男子生徒が入ってきた。

「遅いにゃ。遅刻にゃ」

「すいません、ちょっと先生の雑用を手伝ってて送れました」

 かしこまってそう話すのは、黒坂晴真(くろさかはるま)。的射りんと同じ1年生で、こっちも副会長にゃ。真っ黒い髪の毛と眼鏡が良く似合う、ちょっと背の低い子にゃ。

 ……まぁ、私も人の事言えないけどにゃ! 晴真くんの場合は、男子の平均と比べて、という意味にゃ!

「あれ、また秋雨さんはいないんですか?」

 目を少し細めながら彼は言った。

「そだよー。また昴はサボリ」

「ふーん」

 クラスメイトの的射りんが言うと、簡単に返事をして彼は席に着いた。

「まぁ、いつも4人だから変わんないよね」

「こらこら。ヒエンがいるじゃない」

 的射りんが言うと、ヒエンは「やっほー」と小さく手を振る。

 晴真くんはさも不思議な事を聞いたように、

「だって、ヒエンは人じゃないし」

「人間みたいなものにゃ。『(にん)』と数えてあげるにゃ」

「はいはい」

 溜息をつきながら、彼は肩をすくめた。

 私はそれを見て立ち上がり、ホワイトボードをばむばむ、と手でたたく。


「では、今日の会議を始めるにゃー」


『よろしくお願いしまーす』

 みんなの返事で、生徒会は始まる。


「ところで、今日の議題何だったかにゃ」

「ほらよ、ダメ会長。議事録で自分で確かめろ」

「……ダメは余計にゃ」

生徒会は5人です。

まぁ……あの有名な生徒会とは関係ないんですよ?

どうしても桐葉のキャラを考える上では、ああいう背格好になってしまう訳で……。


エルトといいヒエンといい桐葉といい、この作品のキャラは危ないのが多いですね^^;

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